SAO another story   作:シニアリー

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ダラダラと投稿を先送りにしてしまいました。

今後も、ゆっくりなペースで進めていこうと思います。では、どうぞ!




お風呂場で

 

ユウキとアスナは驚いていた。見渡す限り広がる《お風呂場》の光景を目にすれば、お風呂好きの彼女達がそうなるのも無理ない。

 

日時は、2022年12月31日、土曜日の午前10時。2人はアインクラッド第5層の北部にある村《シヤーヤ》に来ていた。実はこの場所は、HPの安全が保障されない圏外だが、パーティーメンバーしか入れない《インスタンス・マップ》な為、武装を全解除してお風呂に入っても問題ない。

 

「はふゅるほひーー」

「ほにゃらーー」

 

温かいお湯に浸かり、両手両足を伸ばす少女達からリラックスした声が溢れる。10人のプレイヤーが一気に入っても余裕がある浴槽は、4層のヨフェル城で入ったお風呂を彷彿させる。すると、隣からアスナの声が聞こえた。

 

「フォレストエルフの村も、お風呂が大きいのかしら?」

「そーでもないらしいナ!」

 

答えたのは、ユウキではなかった。声がした場所を向くと、脱力しながらお湯にプカプカと浮かぶ、情報屋《鼠》のアルゴが見えた。

 

「森エルフ側はフロは狭いけど、メシが凄いらしーゾ!」

「…でも、黒エルフのご飯だって、すっごい美味しいと思うけど?」

 

これまで食べてきた、黒エルフ達が作る食事の味を思い出すユウキだが、アルゴはニヒヒと笑って答えた。

 

「それが、どこの三ツ星レストランだヨって言うくらいの豪華メシが出てくるらしーゾ。まぁでも、このフロを体験しちまうと、オレっちも黒エルフ側がいーナ……パーティーに入れてくれて、サンキューな。アーちゃん、ユーちゃん!」

 

この《シヤーヤ》村は、《エルフ戦争》クエストを黒エルフ側で進めているプレイヤーしか入れない。アルゴは現在、ユウキ達のパーティーに入っている為、この場所へ来れている。

 

「うんうん…私達も、アルゴさんにちゃんとお礼がしたかったら!」

「ありがとう、アルゴ。地下墓地のボスの攻撃パターンを割り出してくれて、すごく助かったよ!」

「いやいやナニナニ、大したこっちゃないヨ。オレっちこそ悪かったナ、みんなに心配させちまっテ。しかも、オレっちを探しに来た所為で、2人して危険な目に遭ったんダロ?」

 

アルゴの指摘に、2人は大きく動揺する。それと同時に、ユウキの頭に2日前の出来事が蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

2日前の夜、ライトのお陰で窮地を脱したユウキはその後、彼と共に地下3階へ降りた。道中で何があったのかを説明した彼女は、ライトからアスナの方にはキリトが向かったと伝えられた。暫く探索し続けていると、キリトと一緒に居るアスナと合流できた。

 

アスナが無事だと分かった時、ユウキは泣きながら彼女に抱き付いた。アスナもまた、ユウキが無事である事に安堵し、涙を流して抱き締めた。暫くして落ち着いた2人は、少年達と一緒にアルゴの捜索を始めた。

 

時間にして1時間も経たず、4人はアルゴを見つけられた。メッセージが届かなかった理由は、彼女はトラブルに巻き込まれた訳でなく、フィールドボスの部屋の前でキャンプしていたのだ。何故そんな事をしているかというと、ボスの名前や外見がβ時代と全く違っていたからだ。

 

最初はボス部屋の位置を確認して、攻略本を発行しようと考えていたが、それなら今すぐに確認しておこうと思い、ボスの攻略法を知る為に、パズルを解く必要があった。しかし、中々解く事が出来ず、殆ど意地で取り組み続けたのだ。

 

そのお陰もあって、フィールドボス戦は殆ど支障なくクリアできた。それは喜ばしいが、ユウキはアルゴから野営していた理由。そして、フィールボス戦での2大ギルドの様子を見て、胸に大きな蟠りを感じた。

 

 

ーーー攻略集団の殆どが、アルゴの情報に頼りすぎている、とーーー

 

 

この世界を生き抜く上で重要なのは、情報を集める事だ。しかし、アルゴはたった1人でボスの攻撃パターン、部屋の位置などを集めている。それがどんなに危険かは計り知れない。

 

「ねぇ、アルゴさん!」

「ん? なんだイ?」

 

アスナの口調が真剣だった為、アルゴは浮くのを止めて顔を向ける。

 

「ボスを倒せたのはアルゴさんのお陰だし、すごく感謝してる。でも、初見のボス相手に1人で偵察するのは危険すぎると思うの!」

 

アスナもまた、ユウキと同様の考えを抱いていた。

 

「アルゴさんの攻略本は、私達だけじゃなく、後から《はじまりの街》を出たミドルプレイヤーにも助かってる。でも、もしアルゴさんに何かあったら、攻略そのものが止まってしまう……ううん、もっと単純に、アルゴさんが無茶してるんじゃないかって心配で!」

 

アルゴを心配する気持ちは、ユウキも同じだ。最初の街に留まっていた頃、食料の買い出しにフィールドで狩りをしていて、その時からの付き合いなのだ。ユウキにとっても、大切な《友達》と呼べる存在だ。

 

「そうだよ、アルゴ。ボク達はアルゴのお陰でここまで来れてる。でも、それが当然だなんて絶対に思っちゃいけないんだ! だから…」

「ありがと、アーちゃん、ユーちゃん」

 

アルゴは真っ直ぐな瞳を、アスナとユウキに向けて感謝した。そして、何時もよりゆっくりなペースで話し出す。

 

「オイラのことを心配してくれるのはとっても嬉しいヨ。流石に、一昨日の泊まり込みはやりすぎたかもって思ったけど…オイラには、体を張って情報を集め続ける責任があるんダ」

 

彼女が口にした《責任》という言葉が気になり、ユウキは体ごと向き直って訊ねた。

 

「…それは、情報屋として?」

「いーや…元βテスターとして、ダヨ!」

「「っ!?」」

 

情報屋アルゴもまた、キリトと同じβテスターだ。その責任として、数多くのプレイヤーが安全に、効率良く攻略を進める為に、彼女は危険な情報集めを行っていると、ユウキは思った。

 

しかし、だからと言って、1人で行う必要があるのか。その疑念を代弁するように、アスナが俯いて口を開いた。

 

「そうだとしても、1人で危険な役目を背負わなきゃいけない事にはならないわ。βテスターのキリト君、そして、そのβテスターを庇ってるライト君だって、フロアボス攻略戦の時はレイドに参加してるんだから……せめて、偵察のサポートとかを出して貰ったら…」

「そのコーリャクシューダンって呼び方、ちょっとまだるこっしいよナ。例えば、《フロントランナー》の方がカッコイイと思うんだけどナー」

 

アルゴがニシシと笑って前を向くと、目の前に漂うバナナっぽい果実に気付いた。彼女をそれを指で軽くつついて問いかける。

 

「アーちゃんとユーちゃんそうやって心配してくれるのは、オイラが非戦闘型ビルドだからダロ?」

「え…えぇ、まあ」

「そう…かな…」

 

咄嗟にそう問われた2人は、少し躊躇いながらも頷いた。アルゴのスキル構成は、情報集めに必要な《隠蔽》《索敵》《聴き耳》辺りのスキルを上げている筈だ。フィールドでの彼女は基本的に革装備で、武装はクローだが、攻略組と同等の攻撃力があるとは思えない。更に言えば、ステータスもAGI一極型の為、HPの量も少ない。

 

すると、それを察したのか、アルゴは浴槽に漂うハーブを掴み、2人に投げ渡した。対して、彼女はバナナ風フルーツを握り、立ち上がって口を開いた。

 

「ちょっとやってみよーカ、アーちゃん、ユーちゃん」

「…へぇ?」

「やるって、何を?」

 

プールサイドへと上がった彼女の言葉の意図が分からず、ユウキは首を傾げ、アスナが何をするのか訊ねた。すると、アルゴはきっぱりと宣言した。

 

「そりゃモチロン、デュエル!」

 

つまり、彼女はバナナとハーブの束を使って、模擬デュエルをしようと言うのだ。すると、アスナが途端に頬を赤く染め、片手で胸を隠して呟いた。

 

「…あ、あの……水着、着て良い?」

 

それを聞いた情報屋はきょとんとした顔になると、無言で自分の体を見下ろして不満げな声音で言った。

 

「あのナー、オイラがこのミニマルボディーをさらしてんのに、そのプロポーションのアーちゃんが恥ずかしがるってどーゆーことダ!」

「そ、そーゆう問題じゃないです!」

「でも、アスナのスタイルが綺麗なのは本当だよね」

「ユウキ、揶揄わないの!」

 

悪ノリしたユウキがそう言うと、アスナは更に顔を赤くしてユウキを叱り付けた。すると、アルゴから思わね反撃が飛ばされた。

 

「そーゆーユーちゃんだって、オイラから言わせれば、中々のプロポーションだけどナ!」

「へえっ!?」

 

ニシシと笑いながらアルゴは、ユウキの体を凝視して言った。突然の事に、ユウキも思わず腕で体を隠した。その反応に、アルゴは『ニャハハハ』と笑い声を上げた。

 

「まぁ、アーちゃんが水着を着たいなら、それで良いけどサ」

「それで、アルゴさんにも着て欲しいんだけど…」

「え? オイラ、水着なんて持ってないゾ!」

「じゃあ、今作るから!」

 

アスナはそう言うと、裁縫スキルでアルゴの水着を作り上げた。そして、アスナから最初に受ける事になり、ユウキは邪魔にならないように浴槽の端に移った。アスナは白のワンピースタイプの水着、アルゴは黄色のタンキニを着て、お互いに対峙する。

 

ユウキが離れた場所から2人の様子を眺める中、アスナはハーブの束を何回か振って感触を確かめ、アルゴも緑色のバナナを指の間に挟み、クローのように持っている。すると、アスナがアルゴに問いかけた。

 

「えーと、どういうルールなのかな?」

「最初にべしっとやった方の勝ちでどうダ?」

「り、了解」

 

少し曖昧なルールに苦笑するアスナだが、表情を元に戻すと、左足を引いて軽くスタンスを取る。アルゴの方はというと、両手をダラリと下げて棒立ちのままだ。

 

「ほんじゃ、いつでもどーゾ」

 

観客側のユウキにも、アルゴの姿勢や雰囲気からやる気が見えない。それはアスナも同じで少し戸惑っていたが、改めて右手に持つハーブの束を構え直す。

 

「じゃあ…行きます!」

 

刹那、アスナが途轍もない速さでアルゴへ迫った。並のプレイヤーでは反応できるか分からない程の素早さを見せた彼女だったが、その直後

 

 

しゅばっ!

 

 

「「っ!?」」

 

という音と共に、ユウキの目にはアルゴの姿が一瞬ブレたような気がしたのだ。そして、アスナが咄嗟に体を右に傾けた途端、黄色い残像が左脇を掠め、ぴしっという音を響かせた。

 

「くっ!」

 

アスナは歯噛みをしながら、空中で体を反転させる。そのまま濡れた床を利用して、スライディングでアルゴと距離を取り、再びハーブの束を構えて対峙する。アルゴの方は左手を腰に当て、右手でバナナをクルクル回していた。

 

「いやあ、流石だナ、アーちゃん。最初の1発で決めるつもりだったけど、『べしっ』じゃなくて『ぴしっ』だったからナー」

「…じゃあ、チャンバラ続行ね」

 

すると、両者は不敵な笑みを浮かべた。それを見ていたユウキはアルゴのスピードに驚いていたが、それよりもこのチャンバラがどうなるか、内心で少しワクワクしていた。アスナは一体どうやって、アルゴのスピードを攻略するのかと。

 

ユウキが無言の対峙を続ける両者を見ていると、アスナがジリジリと浴槽の方に近付いている事に気付いた。そして、左足の爪先が浴槽の角に触れるが、アスナは更に移動し、足裏が完全に浴槽の上に浮いている状態となった。だが、そんな事をすれば、右足1本で自身のアバターを支える必要がある。更に、攻め込まれれば、速すぎる全ての攻撃を捌くなど不可能に近い。

 

いや、そんな事はアスナも分かっている筈だ。分かっていながら実行しているという事は、恐らく《何か》を狙っているのだ。すると、天井に溜まった水滴が集まり、大きな塊となって落下した。途端、アルゴが再び水煙を上げて、アスナに接近する。対して、アスナはハーブの束で迎撃を試みるが、アルゴはその先端を掻い潜って懐に入る

 

 

 

 

ーーー瞬間

 

 

 

「んナっ!?」

 

突然、アルゴの姿勢が傾いた。同時に、ユウキはアスナの《狙い》に気付いた。敢えて自分がお湯が溜まっている浴槽の水面に足を置く事で、《そこがまだ床である》と誤認させたのだ。決定的な隙を見せたアルゴに、アスナはハーブの束を突き下ろす。

 

「(決まっ…へっ!?)」

 

浴槽の奥から見ていたユウキは、アスナの勝利で終わると思った。だが、目前の予想外の光景に、彼女の思考は停止した。アスナのハーブ束が当たる直前、アルゴは体を傾けて避けると、何と水面を走っていたのだ。盛大な水しぶきを上げていたが、4歩目で限界が来たのか、顔から水に突っ込んだ。少ししてから、ぷかりと浮かんでくると、途端に可笑しげに笑い出した。

 

「ニャハハハハ!」

「「…あははははは!!」」

 

その笑いに釣られて、アスナとユウキも大きく笑い出した。暫くして笑い終えると、アルゴは立ち上がって普通に水中を歩きながら話しかける。

 

「いやー、楽しかったナ。アーちゃんとは『ぴしっ』が1回ずつだから、チャンバラは引き分けで良いかナ?」

「え…えぇ、勿論!」

 

そう答えたアスナは、アルゴに探るような口調で声を掛けた。

 

「あの……さっきの水面を走ってたのって、何かのスキルなの?」

「いやァ……ンー、本当なら情報料を貰うところだけど、まあ良いカ。スキルって訳じゃなく、修行の成果って言った方が正しいカ。4層の川で、オイラ《フローター・サンダル》を使ったロ?」

 

その問いに、2人が同時に頷くと、アルゴは再び説明を再開した。

 

「アレ、なかなか楽しくてサ。あちこち走りまくってたんだけど、うっかり装備し忘れたまま水に踏み出した時があったんダ。当然沈んだけど、その時、1歩だけ水面を歩けてサ……ほら、子供の頃、プールとかで《右足が沈む前に左足を出せば水面を歩ける説》をやらなかったカ?」

「…ボク、やった事あるかも」

 

思い当たる節がある声音で、ユウキが小さく呟いた。ニシシと軽く笑ったアルゴは続きを話す。

 

「あれ、この世界でなら出来るかもと思ってナ。それから、川とかフロとか練習しまくって、どうにか4歩まで歩けるようになったってワケ。所謂、システム外スキルってやつだナ」

 

一通りの話を聞いたアスナは、何をどう言えば良いのか戸惑っている様子だが、とりあえずな様子で口を開いた。

 

「それ、私やユウキにも出来るのかしら?」

 

それは、ユウキ自身も気になっていた。仮想空間で出来るのなら、アルゴだけでなく全プレイヤーが出来そうな芸当だと思えるが、アルゴは首を縦に振らず、迷ってから口を開いた。

 

「う〜〜ン、勿論オイラにも出来たんだから、システム的には出来るだろーケド…実際にはオイラぐらい軽量小型で、AGI全振りでないと難しいかもナ。」

 

端的に言えば、そのプレイヤーの設定ビルド次第で出来るという事だと、ユウキは結論づけた。

 

「さて、次はユーちゃん、やってみようカ?」

「…うん、お願い!」

 

ユウキは頷くと立ち上がって、ヨフェル城のお風呂でアスナが作った薄紫色のワンピースタイプの水着を着用する。そして、アスナからハーブ束を受け取って浴槽から上がると、構えを取って対峙する。その時、彼女の脳裏に昨日の記憶が掠める。

 

あの時、ユウキは躊躇なく剣を振るってきたローテム達に恐怖を抱いた。《自分を殺す》つもりで襲いかかってきた事に臆してしまったのは事実だが、それと同時に、『このままではいけない』とも思ったのだ。アスナと共に《目指す目標》に追い付く為、強くなろうと約束した。

 

 

ーーーそれに、守られるだけの存在で居たくない!ーーー

 

 

地下墓地でライトに助けられてから、ユウキは内心でそう決意した。その為には最低限、自分自身も対人戦を行える必要がある。アルゴからの提案を受けた時、僅かに心の内を何かが掠めたが、アスナとのチャンバラを見ても恐怖を覚える事はなく、寧ろワクワクしていたぐらいだ。

 

「ルールはアスナの時と同じで良いよね?」

「モチロン。最初に『べしっ』ってやった方が勝ちってコトで」

 

一応の確認に、ユウキはアルゴに問いかけた。ルールを変える必要はないので、アルゴも頷いた。それを聞いた彼女は右手の得物を持ち上げる。視界に映るのはバナナクローを持つアルゴの姿と、周りの浴槽だけだ。先程のアスナが使った罠を仕掛ける戦法はもう通用しないだろう。

 

「(迷ってても仕方ない。こんな機会、滅多にないんだから!)」

 

ユウキは内心で呟くと、軽く息を吐いて構え直した。そして、右足で床を蹴ってアスナを上回る程のスピードで迫った。先程のカウンターも考えながら、アルゴがどちらに移動して反撃に出るか、或いは正面から迎え撃つか。

 

どこから来ても対処できるように注意していると、途端にアルゴが動き出した。彼女は上体を低く維持し、ユウキの懐に入り込もうとした。

 

「っ!?」

 

ギリギリ反応できるかのスピードだが、ユウキは迫ってきたバナナクローを受け止める。しかし、アルゴはそこで止まらず、左手のクローで攻撃をしてきた。ユウキは急いでハーブ束を戻して防御に成功すると、今度は鋭い突きを放った。

 

「ウオッ!?」

 

右手のクローで防ぎ、再び攻撃を仕掛ける。両手にクローを持つアルゴが手数は多いが、ユウキも負けておらず避けたり防いだりを繰り返す。暫く続いた攻防はアルゴの後方ステップで区切りとなり、両者の間には3m程の距離が生まれる。

 

「いヤァー、スゴイな、ユーちゃん。オイラの攻撃をここまで防ぐなんて、ビックリだヨー!」

「アルゴの方だって、ボクの攻撃避けてるじゃん!」

 

互いに軽口を叩き、両者は不敵な笑みを浮かべる。何時でも対処できるように構えていると、風邪で飛んできた小さな葉が2人の間に飛翔し、それが水面に落ちた瞬間、両者が動き出した。ハーブの束とバナナクローがお互いの攻撃を防ぎ、反撃を繰り出す。

 

「はあっ!」

「クゥッ!?」

 

踏み込みと共に放ったユウキの攻撃が、アルゴの右手にあるバナナクローを弾いて手放させた。だが、すぐに体勢を立て直し、残る左手のクローでユウキの突き出された右手を掠める。

 

避けては反撃を繰り返す2人の顔は、楽しそうに笑っている。そして、ユウキが鋭い踏み込みで左からの上段を振るうのに対し、アルゴは下からの振り上げで迎え撃った。

 

「「やあぁぁ!!」」

 

再び、バナナとハーブの束がぶつかり合った

 

 

 

 

ーーーその時

 

 

 

シャラアァァン!!

 

 

「…あれ?」

「…アリャ?」

 

両者の得物が、幾つものポリゴンとなって四散した。ユウキやアルゴだけでなく、アスナも何が起こったのか理解できなかった。しかし、あれだけ激しい攻撃を繰り出したのだから、耐久値が減少して当然だ。

 

「「…あははははは!!」」

「ニャハハハハハハ!!」

 

余りにも意外な終わり方に可笑しさが込み上げ、3人は愉快そうに笑い声を上げた。

 

「いヤー、楽しかったナ。ユーちゃんも、チャンバラは引き分けだナ?」

「みたいだね。ありがとう、アルゴ!」

「いやいや、こちらこソ!」

 

一通り笑い終えたアルゴはウインドウを開いて、黄色の水着を除装すると、お湯に浸かっているアスナにトレード窓を送った。

 

「水着ありがと、アーちゃん。返すヨ」

「ううん…水面を走れた情報代わりに、貰っておいて!」

「そーかイ? じゃ、ありがたク」

 

そう言うと、彼女はトレード窓を消してストレージに水着を仕舞った。それに習い、ユウキもストレージに収納した。そして、汗をかいた体を流そうとお湯に浸かる。

 

「お疲れ様、ユウキ。アルゴさんも」

「ありがとう。アスナもお疲れ様!」

「ありがとナ!」

 

お湯に浸かるアスナが労いの言葉を掛け、2人も返事をする。そんな中、ユウキは先程のチャンバラを振り返っていた。戦闘時に忌避感は覚えず、寧ろ楽しかったと思っていた。確かに、正式なデュエルではないが、《アルゴと手合わせ》をしたのは事実だ。同時に、ふと疑問に思ったユウキは声を掛けた。

 

「ねぇ、アルゴはデュエルの経験って多いの?」

「そーでもないナー。特に正式サービスになってからは、サッパリだヨ」

「その割には、凄く慣れてる感じがしたけど?」

 

同じ疑問を抱いたアスナが、そう問いかけると、彼女は意外そうな声で応じた。

 

「そーかイ? 即興であんな仕掛けが出来るアーちゃんや、オイラの攻撃をあそこまで防ぐユーちゃんの方が慣れてると思うけどナー」

「あ、あれはその、夢中でとっさに!」

「アルゴの攻撃がすっごく速かったから、思わず…」

「文句言ってるわけじゃないサ。ユーちゃんの芸当は流石に真似できないけど、アーちゃんのはとっても上手い手だったから、オイラも使わせてもらって大丈夫カ?」

「え、えぇ。どーぞどーぞ!」

「ニシシ、あんがト。んじゃ、情報量を払わないとナ」

 

アルゴはそう言ってニカっと笑ったが、表情を戻して予想だにしない問いかけをしてきた。

 

「アーちゃんとユーちゃんは、デュエルが怖いのか?」

「「っ!?」」

 

胸中に残る微かな蟠りを見抜かれた事に、ユウキもアスナも思わず舌を巻いた。

 

「…うん。この層に来てから、キリト君にデュエルを頼んだんだけど、剣を交える事も出来なかった」

 

アスナはその時の事を思い出すように語ると、両手で体を抱き、肩までお湯に浸かって続きを話し始めた。

 

「キリト君が怖かった訳じゃないの。彼は真剣だったけど、決して威嚇的じゃなかった。デュエルも初撃決着モードだったのに、このまま続けるのは絶対に嫌だって思っちゃって…」

 

その想いは、隣に座るユウキも同じく抱いた。お互いが本物の剣を持って対峙する事は、自分が思っていた以上に容易でなかった。例えそれが仮想世界だとしても、自分の命が懸かった状況で、互いに斬り合うのはどうしても拒否感が出る。

 

「ボクも、ライトと剣を向け合った時、急に体が震え上がったんだ……ボクは、本物の剣を持って人に向ける事がどういう意味なのか分かってなかった。でも、ライトは違った。ライトは人に剣を向ける事に、強い覚悟を持ってるんだと思う。だから、あそこまで真剣だった」

 

心の中で強い覚悟を決めて戦う。だからあの時の彼は、普段よりも目付きが鋭く、纏う雰囲気も全く違ったと思ったのだ。そして、人が苦しむ様子を面白がり、何の覚悟も持たずに剣を振るっているPK集団が許せなかった。そう考えていると、アルゴが口を開いた。

 

「なるほどナー。その気持ちは分からないでもないけど、さっきのチャンバラごっこと、本物のデュエルはやっぱり違うヨ。初撃決着モードでも、HPが減るのは変わらないしナ」

 

アルゴの言葉は最もで、アスナとユウキもそれは分かっており、首を縦に振った。すると、アスナが体ごと向き直って声を掛ける。

 

「ちょっと話を戻すけど、アルゴさんがソロで偵察できるのは、さっき見せてくれたとんでもない素早さがあるからよね? どんな攻撃も避けられる自信があるから、危険なダンジョンも偵察できる……私達に伝えたかったのは、そういう事なんでしょ?」

「そー言われると、自惚れ感ばりばりだけどナ」

 

そう言われたアルゴは、苦笑を浮かべて肩を竦めた。

 

「まぁ確かに、いざって時はダッシュで逃げれば何とかなるって思ってる部分もあるヨ。これからは、足許にもちゃんと気を付けるしナ」

 

すると、今度はアスナが苦笑する番だった。最初のデュエルのように、足許の注意が疎かになれば、ダンジョン内では危険だ。そう考えて、ユウキは真剣な口調で言った。

 

「だけど、AGI一極型はHPも少ないし、頑丈な防具も着られない。何かの拍子にモンスターの攻撃を喰らったり、トラップに引っ掛かったりしたらって思わないの?」

「思うサ、もちろん」

 

今までの口調とは異なる、透き通った声で囁く情報屋は話を続ける。

 

「オイラもHPが減るのは怖いサ。今のSAOは蘇生できないから、生き残る事を考えたら、大ギルドに入ってタンクをやるべきだろうナ。いや、いっそ《はじまりの街》から出なければ、それが利口かもしれなイ…でも、オイラが今やってるコトは、それよりちょっと優先度が高いんダ」

 

彼女が情報屋を続ける事が、他の事よりも優先度が高いのは何故かと気になり、ユウキは訊ねてみた。

 

「…それは、元βテスターとして?」

「それもあるけど、それだけじゃないヨ」

 

そう答えると、彼女はニヤッと笑ってウインクした。

 

「悪いケド、これ以上は別料金だナ。でも、最高のフロに誘ってくれたお礼に、もう1つだけタダで情報をやるヨ」

「「??」」

「さっきアーちゃんは、オイラが独りで偵察する必要はない、同じβテスターのキー坊や、そのβテスターを庇ってるラー坊だって攻略集団に参加してるんだカラ、って言ったロ?」

 

アスナは無言で頷き、話の続きに耳を傾け、隣のユウキもアルゴの言葉を待つ。

 

「でもな、キー坊とラー坊が完全なソロやコンビプレイをやってないのは、危険が減るからじゃないと思うゾ!」

「…じゃあ、何?」

「決まってるだロ!」

 

そう答えた彼女は、アスナとユウキに両手の人差し指を向けた。

 

「アーちゃんとユーちゃんが居るから、サ!」

 

 




チャンバラごっこ回は終了です。

現実世界では実現不可能な《水面を走れる理論》ですが、作者自身も仮想世界に行けるならやってみたいかもです。

さて、次回はPK集団の企みを暴く為、4人は行動を開始します。では、また次回!

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