ALSのフルプレっ娘こと、リーテンの登場回です。最初に原作を読んだ時、女性のタンクプレイヤーという事で結構お気に入りのキャラです。
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彼女《リーテン》が、シヴァタと共にカウントダウン・パーティーを企画したALSプレイヤーだ。自己紹介を終え、古びた木製の椅子に腰掛けるリーテンの隣にシヴァタが座り、その正面にライト達が腰掛ける。
「えーと、リーテンさんは何時からALSに?」
「12月22日です」
キリトの質問に対して、リーテンはすぐに返答した。
「って事は、第4層が開通した次の日か。志願で? それとも…」
「スカウトされたんです、これの所為で…」
続け様の質問に、リーテンは装備する鎧に手を宛てがった。ライトは彼女が装備する鎧について考える。それはかなりのレア物で、下層のモンスターからドロップする確率は低い筈だ。
NPCショップでも売っていないとなれば、後は作成かもしれないが、βの話によると、全身分作るには大量の鉱石が必要な上に、鉱石が掘れる山にしか出ない。途方もない時間が必要だと考えていると、リーテンが口を開いた。
「この鎧はプレイヤーメイドなんです」
「マジすか…って事は、鉄鉱石を何千何百個も掘ったんですよね? 一体何日掛かったんです?」
「そもそも、良くそんな数を集められたっ…ましたね?」
リーテンの言葉に仰天する少年達だが、彼女はおどおどした様子で言った。
「キリトさん、ライトさん、私に敬語使わなくて良いですよ。攻略組の大先輩ですし」
「俺からも頼む。俺とあんた達はタメ口なんだから、リッちゃ……リーテン相手にデスマス言われると、変な感じだしな」
ゲームの世界なのだから、別に先輩後輩もないだろうと思ったが、シヴァタにまでそう言われれば、別にタメ口で良いかと、ライトは内心で結論付けた。
「なら、そうさせてもらう。それで、キリトがさっき言った事だが…」
本題へと話を戻そうとしたライトの声を遮り、リーテンが重い口調で話し始めた。
「あの、これはシバにしか言っていない事なので、ここだけの話にして欲しいのですが…」
「勿論よ、最初からそういう約束だもの!」
「アスナの言う通り、約束は絶対に守るよ!」
念を押す程に、彼女が話す内容は深刻だと予想できる。それを理解しているからこそ、アスナとユウキが即座に答えた。2人に続き、キリトとライトも首を縦に振った。それを見たリーテンは、頷き返して話を始める。
「私がはじまりの街を出たのは、1ヶ月ぐらい前でした。シバやアスナさん達と比べると、随分と遅いスタートですが、誰かクリアするのを待ってるんじゃなく、自分も攻略組に加わりたいと思ったんです!それで、私は開始直後に《重金属装備》スキルを取っていて、装備を揃えるのに時間が掛かって…」
殊勝な心意気だと、ライトは思った。《ゲームオーバーが現実の死》に直結するSAOで、そんな風に考えられるプレイヤーは、自分も含めて殆ど居ないと思っていたからだ。すると、話を聞いていたアスナが、リーテンに質問を投げかける。
「じゃあ、最初からタンク志願だったの?」
「はい、VRMMOは初めてですが、それ以外のゲームでも壁をやってたので。はじまりの街周辺でイノシシとか狩って、何とか《カッパー・メイル》を入手できたんですが、今度は私を入れてくれるパーティーが無くて、女のタンクなんて信用できないって相手にされませんでした」
そこまで話すと、アスナとユウキが揃って憤慨したような口調で言った。
「戦闘能力には何の関係もないのにね」
「女だからって理由でそんな事言うなんて、許せないよ」
これが現実世界ならまだしも、ゲームの世界なら話が違う。男だろうが女だろうが、レベルの数値が上がれば強くなる事に変わりはない。アスナとユウキの存在が、それを証明しているからだ。すると、リーテンが眩しそうに眼を細めて続けた。
「私も、そう言い返せれば良かったんですが……こうなったら、タンクソロで最前線まで行ってやるって意地になっちゃって、鉱石を掘りながらレベル上げをして…」
「1人で千個以上も掘った?」
キリトが先回りして答えると、リーテンは暗い表情を浮かべて俯いた。その反応に違和感を覚えたライトは、目を細めた。シヴァタが隣に座る彼女を気遣う中、リーテンは顔を上げて話を再開させた。
「キリトさんが言った通り、私1人で鉄鉱石を千個以上も掘りました……でも、全然人に自慢できるような話じゃないんです」
「それは、どういう意味なの?」
アスナが相手を落ち着かせる優しい口調で語りかける。鉄鉱石を何千個も掘ったのが事実なら、大した根性を持っているなと誰もが思う筈で、自慢できない意味が分からない。
「2層のマロメの村の近くでレベル上げをしている時、小さな谷の奥で、岩肌に鉄の鉱脈を見つけたので、ツルハシで何時もみたいに掘り始めたんです。普通なら、7〜8個も掘れば終わりですけど、そこはいくら掘って枯れなくて……最初は当たりかなって喜んだんですけど、100個を超えた当たりから気付きました。」
そこまで聞いたライトは、リーテンの話で欠けていたピースが全て嵌った感覚を覚え、囁くように口を開いた。
「「無限湧きバグ」」
途端、キリトが全く同じタイミングで呟いた。その言葉にリーテンは小さく頷いたが、アスナとユウキは軽く首を傾けた為、キリトが手短に説明する。
「モンスターやアイテムが出現し続けるバグの事だ。SAOで聞くのは初めてだけど、起きる時は起きるからな」
「へえぇ……つまり、鉄鉱石を同じ場所で掘りまくれるって事よね? そんな宝くじ一等大当たりみたいな事もあるのねぇ」
「いちいち別の場所に移動しなくて済むし、すっごい便利だよ、それ!」
この2人はやはり、ネットゲームに関しては本当の初心者だと、ライトは思い知らされた。見れば、他の3人も揃って苦笑いを浮かべている。そんな中、リーテンの隣に座るシヴァタが口を開いた。
「そう単純な話じゃないんだ、アスナさん、ユウキさん。バグを利用するのは《グリッチ》って言って、1人用のゲームならまだしも、MMOでは運営側にバレたらそのデータを処理されたり、BANされたりもする」
「じゃあ、リーテンさんは鉱石を諦めた……訳じゃないんだよね? だって、今も装備してるんだから」
ユウキが静かな口調でリーテンに訊ねると、彼女は小さく頷いた。
「はい……私は、ツルハシを止められませんでした。鉄鉱石が無限に湧くなら、アイアンどころかスチール装備まで作れる。その考えで頭がいっぱいになって…」
「無理ないよ。俺だってそんな状況なら絶対に掘りまくってる!」
キリトがそう答えると、アスナが彼に冷ややかな視線を送った。一方、リーテンの横に座るシヴァタもまた「俺も掘るぞ!」と言い返した。そんなやり取りを尻目に、ライトには気になる事があった。
「その無限湧きバグだが、今もその状態が続いてるのか?」
その問いに、リーテンは小さく首を横に振って説明を再開した。
「いいえ、30分ぐらい掘り続けた時、突然岩肌のテクスチャが崩れたんです。それはすぐに直ったんですが、鉱石は1つも取れませんでした」
つまり、発生していたバグが直ったという事だが、ライトは納得して良いものか悩んだ。ゲームシステムの異常を修正できるのは運営側だけだが、それは既に機能を停止しているだろう。何故なら、この世界のGM権限を持っているのは、茅場 晶彦ただ1人だからだ。
「それにしても、1人で良く千個以上も鉱石を運べたな。結構大変だっただろうに…」
タンク職はSTRの数値が高い為、ストレージの許容量がかなり多い。だが、それでも1人で運ぶのは無理だ。何回かに分けて、ストレージに収納し運んだと考えたが、リーテンは首を横に振った。
「いえ、私1人で運んだ訳じゃないんです」
「…なら、一体どうやって?」
彼女がキリトの言葉を否定した事にライトは違和感を覚え、大量の鉱石を運搬した手段を問いかける。
「ええと…運搬手段もですが、私には鉱石を使って良いのかという迷いもありました。バグの発生は明らかですし、グリッチで手にした装備を使用して良いのかとか、それが運営側にバレたらって言う恐怖もあって……それで、第1層で知り合った、装備のメンテを頼んでる友達に相談してみようと思ったんです」
「メンテ?……その友達さんは、鍛冶屋なのか?」
キリトは何故か恐る恐る訊ねた。彼女の口から《鍛冶屋》という言葉が出た時、一瞬ネズハを想像してしまったと思われる。ライトも同じように、彼の顔を思い浮かべたからだ。
「えぇ。鍛冶屋って言っても、武器と防具の作成スキルを修行してるだけで…その子も女子なんで、仲良くなってメンテや作成を頼むようになったんです」
この世界では何も、剣で戦う事しか出来ない訳ではない。武器作成でプレイヤーを支援する方法もあり、その存在は決して無視できない。NPCよりもプレイヤーの方が、作成や強化の成功率は高める事が出来るからだ。それを理解しているライトは、彼女の続きを待つ。
「フレンド・メッセージで鉱石の事を相談したら、すぐに返事が返ってきて……その時は一刀両断って感じで言ってくれたんです」
曰くーーー
『迷ってる場合じゃないでしょ。この世界で1番大事な事は生き残る事、次にゲームをクリアする事なんだから、バグでも何でも利用して強くなりなさいよ。もしBANされるとしても、それはここから出られるって事だから、怖がる必要なんて無いでしょ?』
ーーーと書かれていたらしい。
「私、全くその通りだなって思って。鉱石運びもその子に手伝って貰って、他に人に気付かれずに、全部スチール・インゴットに出来たんです!」
「じゃあ、その鎧は友達の鍛冶屋さんが作ったんだね?」
どこか誇らしげに語るリーテンに、ユウキが鎧を見ながら確認を取る。
「はい! 熟練度がギリギリだから、NPCに頼んだ方が良いって言ったんですが、私がどうしてもって頼んで……何度も失敗してはインゴットに戻して、またカンカン叩いて、一晩かけてきっちり作ってくれたんです!」
「へえぇ……良い友達で、良い鍛冶屋だな?」
キリトが感心しながら言うと、リーテンは明瞭な笑みを浮かべた。その顔を見れば、キリトが考えたPK集団の罠とは考えにくかった。
そこからは、ギルドに入った経緯とシヴァタとの出会いだった。全身アーマーを纏ったプレイヤーをALSがスカウトし、その内容も友人に相談したリーテンは、友人の後押しもあり、ALSに入団する事を決めた。そして、4層攻略中に熊の森でシヴァタと出会い、色々あって今の関係になったようだ。
お互いにライバル意識もある為、人目を忍んで逢瀬を重ねるうち、2人は両ギルドの融和を考えるようになり、今夜行われ《カウントダウン・パーティー》を企画した。
「本題に入ろう。シヴァタ、お前はALS側で起きている問題の細部を、彼女から聞かされているのか?」
ライトがそう訊ねると、シヴァタはリーテンに体ごと向き直って話しかけた。
「それだよ、リッちゃん。昨日、問題が起きたから何とかするって、メッセもらった切りだろ? 俺、心配で…」
「…ごめんね、シバ」
「問題が起きたなら相談してくれよ。俺は確かにDKBのメンバーだけど、それ以前に同じSAOプレイヤーじゃないか? それに気付かせてくれたのは、リッちゃんなのに!」
シヴァタがリーテンの肩に手を置いて説得するが、リーテンは途端に暗い表情で俯いた。抜け駆け作戦は全メンバーに厳しい箝口令が敷かれている筈だ。それを話すという事は、自分が所属するギルドを裏切る事を意味する。ALSのメンバーとして、それは躊躇いを覚える筈だ。4人はアイコンタクトで頷くと、代表してキリトが言った。
「リーテンさんが言えないなら、俺から説明する。シヴァタ、落ち着いて聞いてくれ……ALSはパーティーをすっぽかして、第5層のフロアボスを倒すつもりなんだ!」
キリトの発言にシヴァタだけでなく、リーテンも目を見開いて驚いた様子で立ち上がり、その反動で椅子が大きな音を立てて倒れた。
「き、キリトさん、どうしてその事を!?」
「悪いが、情報源は言えない。でも、内部の漏洩でも、情報屋から買った訳でもないよ」
「……そう、ですか…いえ、良いんです。あなた方4人なら、情報収集能力もトップレベルでしょうから」
「…そ、それは買いかぶり過ぎだよ」
思わず、ライト達は顔を見合わせて苦笑を浮かべた。すると、キリトはウインドウを開いて操作しながら再び語りかける。
「俺とライトは攻略組のはぐれ者だし、何時も好き勝手にやってるだけだから、2大ギルドにどうこう言える立場じゃないのは分かってる。でも、俺達4人もこれ以上、2つのギルドに反目して欲しくないんだ」
操作を終えると、彼はストレージからライム水をオブジェクト化して、2人に差し出す。
「こいつの言う通りだ。DKBとALSが攻略において必要不可欠なのは明白。もし抜け駆け作戦を見逃せば、ALSは壊滅するかもしれないし、成功したとしてもDKBとの亀裂は免れない」
キリトに続いてライトも長々と語った後に、ストレージから普通の水を出した。アスナとユウキの分も用意して、全員が乾いた喉を潤す。飲み終えると、話を聞いたシヴァタが呻くように言った。
「…しかし、どうしてそんな事に? ALSだけでボス戦に挑む事がどんなに無謀か…キバオウさんだって理解している筈だ!」
その答えを知るのは、この場で唯一のALSメンバー、リーテンだけだ。5人の視線がリーテンに向くと、彼女は意を決したように頷いた。
「キリトさん達がそこまでご存知なら、私が知っている事をお話しします」
リーテンが語った内容は以下のようなものだった。
平等性を重視するALSは基本的に、メンバー全員で会議に出席する決まりがある。だが、5層のボス攻略会議に出席したのは、古参メンバーの数十人だけだった。その理由がとても深刻な内容だった事から、リーテンは会議に出れなかった。
そこから先の話は、彼女が所属する班の班長から聞かされたものだった。その情報は、第5層のフロアボスが落とす超重要で、尚且つ今後のSAOの未来を左右する程のレアアイテムらしい。
それを聞いた幹部達の何人かは、DKBとの共同管理という案を出したのだが、そのアイテムは共同管理が不可能な性能を持っているようで、それならALSが先に手に入れようと意見が出て、リーダーのキバオウは作戦を承認せざるを得なくなった。
話を聞き終えたライトが真っ先に考えたのは、その超重要なレアアイテムの事だった。2大ギルドで共同管理が不可能なアイテムなど、限られている筈だ。MMORPGはリソースの奪い合いだが、それは言わば、どんなプレイヤーでも扱えるという事だ。そんな事を考えていると、シヴァタが体ごと向き直り、リーテンにレアアイテムの詳細を訊ねた。
「リッちゃん、そのレアアイテムって、一体何なんだ?」
「ごめん、シバ。そこまでは分からないの。班長もこれ以上は極秘だって言って頭を下げたから、新入りの私には何も言えなくて。こうなったら、キバオウさんに直接直訴するしかないって思って時に、シバからメッセが届いたの」
「…そうだったのか」
リーテンが語った内容を聞き終えたDKB幹部は、正面に座るキリトとライトを視界に捉えた。
「βテスターだったあんた達なら知ってるだろう? 第5層のボスからドロップするアイテムって、何なんだ?」
真顔で訊ねるシヴァタだが、ライトはその質問に答えられない。何故なら、彼はβテストを経験していない初心者だからだ。ライトはゆっくりと首を横に振って、シヴァタに答えた。
「悪いが、オレは第5層ボス攻略戦には参加していない」
自分がβテスターを庇う為に、そのフリをしている事は言えない。だから彼は、必然的にそう答えるしかなかった。その一方で、キリトは腕を組みながら思案する。
「う〜〜ん…俺はボス戦には参加したけど、目玉アイテムは確か両手剣だったような……どれもスペックとしては高いけど、ギルド間のバランスを崩すようなアイテムがあった…」
そこで彼の言葉が止まった。全員がキリトの注目すると、彼は何か引っかかっている様子だった。そこから暫くして、小さな声量が呟かれた。
「…フラッグ」
「フラッグ? 旗がどうかしたの?」
アスナがそう言った瞬間、キリトは完全に思い出したように目を見開き、椅子から少し腰を浮かせて低く呻いた。
「あ…ああぁっ……確かに、あれはヤバイ!!」
「思い出したのか、キリト?」
「どうしたんだ、キリト?! フラッグって、何かのフラグの事か?」
ライトとシヴァタがキリトに問いかけると、彼は冷静に説明を再開させた。
「フラグじゃなくて、そのまんま旗の事だ」
「旗? 何でそれがレアアイテムなんだ?」
「ただの旗じゃない、ギルドフラッグだ。それを突き立てると、半径20か30m以内に立つギルドメンバー全員に、全ステータス上昇のバフがかかるんだ」
キリトが語った驚愕の性能に、シヴァタは驚きの余り目を丸くして、掠れた声で呟くしかなかった。
「……なん、だと?」
原作や映画でも、シヴァタとリーテンの仲睦まじいシーンが沢山あって、微笑ましい限りです。
そして、フロアボス戦が近付いてきました。オリジナル要素をぶっこみたいと考えております!
加えて次回、ライトが新しく手にした剣の詳細が暴かれます。どうして彼が、新たな剣をストレージにしまったままなのか?…と