SAO another story   作:シニアリー

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長い期間が空いてしまいました。

忙しくて中々書けませんでしたが、漸く投稿できました。集まった12人のメンバーが、ALSよりも先にボス部屋へと向かいます。そして、伝説の剣が真価を発揮します。


遅くなりましたが、ソードアート・オンライン ラストリコレクションの発売、おめでとうございます。原作では叶わなかった展開があって、とても面白そうです!

個人的には、ユウキのPVが投稿されて、最後の女神が降臨して全員が揃った時に鳥肌が立ちました。


急造パーティー

 

 

天にも届く1本の塔がそびえ立ち、その周りの地上には複雑に入り組んだ迷路が見える。その光景を近くの崖から見詰める12人の人影があった。

 

 

ネズハとの話し合いを終えたライトとキリトは、急いで待ち合わせの場所へと戻った。そこには既に、9人のプレイヤー達が集まっていた。アスナとユウキ、アルゴが上手く事情を説明した為、エギル達アニキ軍団、シヴァタとリーテンも協力してくれたのだ。

 

「アルゴ先生、あの迷路の地図って?」

 

前方に立つキリトが、タワーの地上に広がる迷路を指差して、後方に控えるアルゴに声を掛けた。すると、彼女はニヤッと笑って答える。

 

「もちろんあるヨ。とれたてぴちぴちの情報だから、5,000コルだナ」

「えぇっ!? お金取るの!?」

 

驚いた反応をするキリトに対して、アルゴは心外そうに続ける。

 

「クロー使いのアルゴちゃんはタダでボス戦を手伝うけど、情報屋のアルゴ様はお安くないんだゾ?」

 

アルゴの返答を聞き、キリトが途端に苦い表情を浮かべて歯軋りを起こした。そんな中、ボス戦よりも情報にコルを要求するとは、ライトは商売人として侮れないと感じた。

 

「ニャハハハ! 心配すんなヨ、ちょっと揶揄っただけサ」

 

適当な冗談を笑いながら言うと、片目を瞑ってウインクした。

 

「一応マッピングしたけど、そんなもん必要ないのサ」

「どういう意味だ?」

 

第6層に続く迷宮区タワー内に入るには、地上に広がる迷路を抜けるしか方法が無いように思える。ライトが目を細めて問いかけると、アルゴは不敵な笑みを浮かべた。

 

「着けば分かるヨ」

 

それだけ告げると、アルゴは全員に背を向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルゴの案内で、11人は迷宮区タワーの南東を目指していた。移動中に何度かMobと遭遇したが、5層の適正レベルを超えている彼らに、苦戦らしい苦戦はなかった。しかし、パーティー間での連携が取れるか分からない為、それらを確認しながら進んだ。

 

「おつかれサマー、フィールドの移動はここまでだヨー」

 

アルゴが案内した場所には、高さ20mの垂直に伸びた壁が建ち、辺りは灰色の荒野が広がる所だった。夕日が既に傾き始め、荒野一面と壁を照らしている。

 

そんな時、ライトは周囲に警戒していた。モンスターが湧出するのもだが、誰かが追跡していないかを確認していた。ALSの抜け駆け作戦を扇動したのは、間違いなくPK集団だが、その作戦をキリト達に知られた今、黙って見過ごすとは考えられない。奇襲に備える為、周囲に警戒を払っていると、キリトが情報屋に訊ねた。

 

「えーっと、どこから入るんだ?」

 

ライム水を飲んで休憩しているアルゴは、またも不敵に笑ってマントの内側から何かを取り出した。それは巨大な光る鍵だった。

 

「おおぉっ!!ボスクエで手に入れたのか!?」

「そーゆーコト」

 

アルゴは頷くと、クルクルと器用に回しながら石壁に歩み寄った。そして、何かを探る素振りを見せ、とある隙間に鍵を差し込んで、ガチャリと回した。すると、目前の石壁が音を立てて震え、幾つかのブロックが石壁の奥に引っ込んだ。

 

「……何だ、これは?」

「何って、決まってるだロ?」

 

ライトが小さく呟いたのも無理なかった。それは、まるでハシゴのように互い違いに引っ込んでいた。情報屋は右手のブロックに手を掛けると、そこからスタスタと登り始める。

 

「おいおい、まさかそこを登るのか!?」

 

アニキ軍団のリーダー、エギルが慌てて声を上げた。すると、壁を登っていたアルゴが、躊躇いなく片手を離して、上からニヤッと笑った。

 

「オヤ、フロントランナーで1番のタフガイさんは、高いトコが苦手なのカ?」

「そうじゃねーが、落ちたらタダじゃ済まねぇだろ?」

 

命綱なしで、ブロックが凹んだだけのハシゴを登るのは、どうしても躊躇ってしまう筈だ。落下ダメージは打ち所によっては、最悪HPが全損しかねない。命綱の代わりになるものは無いかと、ライトがストレージを開こうとしたが、アルゴが一足先に動いた。

 

「しょーがないナ、特別サービスだヨ」

 

そう言うと、ストレージから巨大な何かを幾つも取り出して、地面に落とした。それは、殆どのプレイヤーが持ち合わせていない大きなクッションだった。真下に積み重ねたクッションに、アルゴは背中から落下した。ライトは一応、彼女のHPを確認したが、落下ダメージは見られなかった。

 

「先頭はキー坊かラー坊に譲ってやるヨ、オイラは最後にクッションを回収するからナ」

「え…えっとー…」

 

キリトの目がライトに向けられる。その顔は、どっちが先に行くかという顔をしていた。ライトはハシゴを見やると、歩いて近付いた。

 

「オレが先導する。何も無ければ、そのまま登ってこい」

 

クッションの上に乗ると、壁に作られたハシゴに手を掛ける。そのまま足も置き、壁を登っていく。思ったより安定しており、地上にクッションが置かれている為、死亡する可能性はゼロに等しい。だが、壁に何かトラップが仕掛けられている可能性もある。

 

 

そのまま慎重に登り進めて辿り着き、細い通路に着地すると、下で待っている11人に呼びかける。

 

「大したことはない。落ち着いて登って来るんだ!」

「了解、次は俺が行く!」

 

叫び返したキリトが、ライトと同じ調子で登り始める。それを皮切り、全員が登り始めた。しかし、アルゴのクッションがあると言っても、完全に不安を払拭できず、12人全員が登り終えるのに時間が掛かった。そして、北へと向き直ると、巨大な迷路が見える。

 

「良い景色じゃ、この迷路を素通り出来るのはラッキーじゃなあぁ!」

 

アニキ軍団の一員、両手剣使いのウルフギャングが呟いた。半径500m以上もある迷路を攻略せずに済むのは、大幅な時間短縮が出来る。すると、DKBのシヴァタがリーテンに声を掛ける。

 

「なぁ、リッちゃん。ALSは本当に単独で夜に攻略するつもりなのか?」

「うん、内の班長はそう言ってた。何でも、βテスターから謎解きギミックの攻略法は得てるから、1時間で突破できるって」

 

リーテンの言葉に、ライト達4人は顔を見合わせた。キリトとアスナの話から考えると、情報源は《モルテ》だと思われる。そして、それをALSに渡したのが、潜入しているPK集団のスパイだ。

 

正直、今すぐにリーテンに話を聞きたいが、そんな暇はない。時間短縮できたとは言え、余裕がある訳ではない。万全の体制で臨み、彼らが到着するまでにボスを倒す。

 

「サンキューな、アルゴ」

「何言ってんだヨ、本番はこれからだゾ?」

「…そうだな」

 

キリトの礼に、アルゴは皮肉な笑みを浮かべて言った。それに頷くと、彼は一同に呼びかけて移動を開始した。

 

 

 

 

 

一行はその後、迷宮区タワーと石壁の接合部にある小部屋で休憩を取っていた。キリト曰く、第5層の最高難易度がこの先に広がっている為、完璧に準備を整える必要がある。

 

「みなさん、良かったらどうぞ!」

 

アスナがそう言って、ストレージから巨大なロールケーキを出した。マナナレナの名物スイーツだが、キリト達以外の全員が初めて見たらしく、アスナとユウキが配るロールケーキに目を見張る。

 

 

そんな時、ライトはストレージを開いて、アイテム欄に目を通していた。ポーションの類は全て、彼のストレージに有り余る程ある。《防御力低下》に備える為、少しでも回復薬は十分すぎる量が必要だ。すると、すぐ横からユウキの声が届いた。

 

「ライト、はい!」

「…悪いな」

 

ライトが紙皿に乗ったケーキを受け取ると、ユウキも隣に腰掛ける。少し離れた場所には、キリトとアスナが隣り合って座っていた。だが、キリトの表情がどこか曇っているように見える。恐らく、この後のボス戦に緊張しているのだろう。

 

たった12人だけのボス戦はリスクが計り知れないが、このまま放って置けばPK集団の思う壺だ。それだけは、何としも防ぐ必要がある。そして、出し惜しみも絶対にしない。その想いと共に、ライトは自身の右手に視線を走らせた。《クイックチェンジ》で何時でも使える伝説の大剣《ソード・オブ・カイザー》が、ボス戦には必要不可欠だ。

 

しかし、使用する上でのリスクも踏まえると、乱用は絶対に出来ない。《防御力低下》は、どのプレイヤーにとっても致命的な弱点だ。更に今回のボスは間違いなく、βと違っている筈だ。何が起こるか想像できない以上、気を休めない。加えて、この事態を引き起こした元凶、PK集団の存在がライトの心に巣食っていた。

 

 

ーーーこの危険な作戦さえもが、奴らによって動かされた結果なのかーーー

 

 

ここまで緻密な計算をした上で、奴らはALSにギルドフラッグの情報を流し、ライト達が先に動くと踏んだ。そんな嫌な考えが浮かんだが、ライトは首を振って否定した。

 

「(考えすぎだ。オレ達がここまで危険な行動を起こす事を予想できても、オレには切り札がある)」

 

ライトはまだ、他のプレイヤー達の前で《ソード・オブ・カイザー》を戦闘時に使用していない。それ故、PK集団の妨害があっても、切り抜けるのは可能な筈だ。しかし、彼の脳裏に奴らの薄気味悪い笑みが過る。無意識に歯を食い縛り、険しい表情となるライトだったが、不意に横から暖かな声が聞こえた。

 

「ライト!」

「っ…」

 

隣を見ると、見ているだけで安心するような、穏やかな微笑みを浮かべるユウキが居た。その真っ直ぐな瞳と共に、彼女が小さく囁いた。

 

「大丈夫、ボク達なら出来るよ。みんなで生き残って、新年を迎えよう?」

 

その目に宿る強い光を見ていると、脳裏に浮かんだ薄気味悪い笑みが自然と消えていく。そして、何の根拠もないが、ユウキの言う通りだと思った。

 

「…あぁ、そうだな」

 

ライトがそう答えると、彼女は笑顔で頷いた。パーティーを組んで彼女の笑顔を何度も目にするが、どうしても見入ってしまう。彼女が見せる沢山の表情が、どこか心地いい。だからこそ、この笑顔を奪おうとしたローテム達が許せなかったのかもしれない。すると、ユウキが不思議そうな顔で声を掛けた。

 

「どうかした?」

「っ…いや、何でもない!」

 

ついつい見惚れてしまったのか、慌てて視線を外してロールケーキを食べ進める。勝利の前祝いと思いながら食べ終えて前を向くと、何故かニヤニヤしているアルゴと目があった。軽く睨みを効かせた時、キリトの声が耳に届いた。

 

「それじゃみんな、編成を考えたから聞いてくれ!」

 

その言葉に、ライトとユウキが立ち上がって彼に近付く。他のメンバーも集まったのを確認して、パーティー編成の説明を開始した。

 

「A隊が、ライト、ユウキ、シヴァタ、ローバッカ、ナイジャン、リーテン。B隊が、俺、アスナ、エギル、ウルフギャング、ネズハ、アルゴ。これで行こうと思うんだけど、どうかな?」

 

彼の説明を聞いた途端、その編成にざわつく空気が生まれた。すると、盾持ち片手剣使いのシヴァタが口を開いた。

 

「…つまり、A隊にタンク、B隊にアタッカーを集めた訳か?」

「あぁ、そうだ」

「均等に割り振らなかったのは何故だ、セオリーと違うだろう?」

「盾持ちがシヴァタとリーテンだけだから、タンクが足りないんだ。2人を分けると、POTローテが間に合わない可能性が高い。なら、タンクを集めてタゲを集中させた方が、HPの管理がしやすいと思った。勿論、負担はかなり掛かるけど…」

 

すると、シヴァタはそこには触れず、また別の問題を指摘した。

 

「それは良いが、タンクを固めたら広範囲の同時攻撃に対処できないぞ?」

「あくまでβの話だけど、第5層ボスは広範囲攻撃は無しで、両手両足のパンチとストンプだけ。それに左右別々だから、ヘイト管理がしっかり出来れば、防御し続ける事は出来ると思う……それに、勝算もある」

 

そこで、キリトの視線がライトに移った。そんな彼の様子に、事情を知っている3人以外の全員が訝しく思った。実はまだ、ライトが持つ切り札を話していない。彼らにはただ、勝算があると教えてるだけだ。

 

「キリト、迷宮区に移動する前にもそう言ってたよな? それって何なんだ?」

 

エギルが眉を寄せて問いかけた。他のメンバーも怪しむ中、ライトがキリトの隣に立った。それを確認して、再びキリトが説明を始めた。

 

「この作戦の切り札は、ライトが握ってる!」

「「「「「「「っ!?」」」」」」」

 

その言葉に、アスナ、ユウキ、アルゴ以外の全員が驚愕の表情と共に、ライトに視線を向ける。そんな中、当人はウインドウを開いて、スキルmodに移動し、《クイックチェンジ》をタップした。同時に、背中に装備していた剣が消えて、右手に《ソード・オブ・カイザー》が出現した。

 

初めて見る7人は、その刀身の長さと幅の広さに少し驚いた。しかし、全員がユウキ達同様に、その剣がどうしたのかと思う中、ライトのHPバーに3つのアイコンが灯った。

 

「こ、これって!?」

「何だこれはっ!?」

 

リーテンとシヴァタが、思わず声を上げて愕然とした。アニキ軍団は勿論、ネズハも目を見開いている。7人全員の視線が一気に注がれる中、ライトが緋色の瞳を細めて呟いた。

 

「…これが、オレの切り札だ」

 

ライトはステータスウインドウを開くと、3つのアイコンをタップして、全員に見えるように可視化する。そのウインドウを覗き見る全員が、性能の恐ろしさに目を見張る。そんな彼らに、ライトが話しかける。

 

「この剣の事を黙っていて済まなかった。だが、ボス戦に出し惜しみはしない。犠牲者も絶対に出さない……改めて頼む、オレに力を貸してくれ。オレ1人じゃ勝てないんだ!」

 

ライトは頭を下げて、全員に懇願した。これまで、誰かに頼ろうなどと思っていなかった。この世界で剣を振るい、自分の力で生きていこうと考えていたが、それは出来ない。戦闘にせよ情報にせよ、誰かしらの助けが必要となる事を、ライトはキリト、ユウキ、アスナから教えられた。すると、彼の右肩に誰かが手を置いた。

 

「今更だろ、相棒? 協力するに決まってるさ!」

「ライトは本当に危ない事するからさ!」

「私達が居る事を忘れないでよね!」

「まっ、ここまで来ちまってるしナ」

 

キリト、ユウキ、アスナ、アルゴの順に口を開く。それに続き、今度はアニキ軍団、ネズハ、シヴァタとリーテンが話しかけた。

 

「何言ってんだよ、ライト。俺達も協力するに決まってるぜ、なあぁ!?」

「「「おう!!」」」

「勿論、僕もお手伝いします!」

「今更降りるなんて言う訳ないだろう!?」

「私達全員でボスを倒しましょう!!」

 

彼らの返答に、ライトは少し安心した顔を浮かべると、ゆっくりと頷いた。

 

「たった2パーティーでのボス戦だが、勝算は十分にある。ライトが言ったように、犠牲者を出すつもりもない。シヴァタとリーテンが企画したカウントダウン・パーティーの為、そして、2023年を希望の年にする為に、力を合わせよう!」

『おう!!』

 

いよいよ、キリトをレイドリーダーとした急造パーティー12名が、第5層迷宮区へと足を踏み入れた。全員が2大ギルドの融和を目的とした、カウントダウン・パーティーを成功させる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

岩の塊が幾つも接合して、人の形となった2mを超える体躯の小型ゴーレムが、右腕を振り上げようとしていた。刹那、凄まじい速さで間合いを詰める影が現れた。

 

「はあぁっ!!」

 

右手に持つ大剣の刀身が光を帯びた直後、一閃の光となって振るわれた。片手直剣単発ソードスキル《バーチカル》が、小型ゴーレムを斬り裂き、5割以上も残っていたHPを全損させた。無数のポリゴンとなって吹き飛んだゴーレムに目もくれず、ライトは伝説の剣《ソード・オブ・カイザー》の攻撃力に驚愕していた。

 

「…単発ソードスキルだけでこの威力」

 

これまで使ってきた《アニール・ブレード》や《エルブン・エンピレオ・ブレード》よりも遥かに攻撃力が高い。弱点の額の紋章に直撃していても、単発攻撃で全損は出来なかった。更に、ステータスも大幅に向上されている。ソードスキルを使わずに、4〜5mはあるゴーレムとの間合いを一気に詰めた。

 

しかし、調子に乗ってはいけない。攻撃力とステータスが上昇しているなら、間違いなく防御力も低下している筈だ。だからこそ、今まで以上に自分のHP管理に集中する必要がある。だが、それに意識を囚われて、戦闘が疎かになっても本末転倒だ。

 

「…強すぎだろ、マジで」

 

そんな事を考えるライトの後ろで、キリトが引き気味の声音を出した。明らかに強くなっている彼の姿に、改めて大剣の性能を恐ろしく思い、その他の10人も同じ反応をしていた。攻撃力は間違いなく12人の中で最強な上に、お陰でタンク隊のシヴァタとリーテンの負担も少ない。

 

ここまでの戦闘は危なげなかった。アタッカーが集うB隊も、エギルやウルフギャングの両手武器が十分な攻撃力を発揮し、敵をノックバックしてキリトとアスナが畳み掛ける。このパターンを繰り返して進み続けるが、少し苦戦したのがA、B隊との連携だった。

 

A隊が防御とデバフに専念し、B隊が左右と後方から攻め立てるが、過剰な攻撃の所為でボスのヘイトがB隊に移ってしまう時がある。しかし、そうなった時は、ライトが切り札の大剣でヘイトを自分に向けさせる。圧倒的な攻撃力でHPを奪うだけでなく、ノックバックも発生させる。更に、《スキル硬直時間半減》という効果もある為、殆ど連続でソードスキル発動が可能なのだ。

 

それ故、ボスが攻撃に転ずる前に硬直が解かれ、更なる追撃が可能となる。お互いが上手く連携を取りながら、薄暗い通路を進み続けると、ユウキが周囲に警戒を促した。

 

「ねぇ…何だか、ボス部屋っぽくなってきたよ!」

 

全員が周囲に視線を送ると、左右の壁には古代文字が刻み込まれ、床と天井は光沢を放つ黒大理石に変わっていた。迷宮区タワーに入ってから既に、3時間が経ったのを考えるに、この先にボス部屋がある可能性が高い。

 

「やっとか。迷宮区を一気に突破するのも楽じゃねーな」

「10層の迷宮区に比べれば、大した事ない方だぜ? βの時は3日かけてもボス部屋すら辿り着けなかったからな」

 

その話を聞く限り、正式版の10層がどうなっているのかと、ライトは思わず考えてしまった。少なくとも、難易度は必ずアップしている筈だ。今まで以上に、この大剣が必要になるのは確実だ。そう思っていると、前方からシヴァタの声が届いた。

 

「おい、あれを見ろ!」

 

前方を見やると、今までの大扉ではなく、大階段が目に入った。その時点で、嫌な予感がして堪らないが、この先にボス部屋があるのは間違いない。大階段の手前で立ち止まった集団の先頭に、キリトとライトが進み出る。

 

「横に隙間は無いな」

 

左右の壁と大階段には、確かに隙間も何もない。この先にボスが待ち構えている筈だが、キリトは不審な様子で顎に手を掛けた。

 

「…登った先に通路と階段があるのか、それともボス部屋なのか」

「βの時は違ったんか?」

 

A隊の両手斧使い、ローバッカがキリトに訊ねる。

 

「あぁ。前は普通に扉があって、そこを開けたらボスの部屋だった。でも、迷宮区の構造自体も変わってたから、階段の変更にも大して意味はないと思う」

 

ライトは大階段の出口を見詰めるが、光がないので見えない。あの階段の上に何かある以上、不用意に近付くのは危険だが、偵察が必要なのも確かだ。ライトはキリトと顔を見合わせると、同時に頷いた。

 

「それじゃ、最初にボス部屋だった時を考えて、俺達が偵察してくる」

「待った、ここはオレっちに任せてくれ」

 

キリトの言葉に待ったを掛け、アルゴが2人の前に出た。そして、彼女は1段目に足を掛けて口を開いた。

 

「この階段が気になるんダ。もしかしたら、床からせり上がって入り口を塞ぐ罠かもしれなイ。そうなっても、オイラなら完全に閉まる前に抜け出せル」

 

確かに、アルゴのスピードはこの中で最速の分類に入る。しかし、彼女はあくまで情報屋であって、戦闘職ではない。それを考えると、1人で行かせるのは躊躇われる。そして、キリトも同じ事を考えていた。

 

「なら、3人で行こう!」

「エ〜〜?」

「これは譲れないぞ、俺もスピード型だし、階段が動き出しても脱出できる」

 

これには、ライトも頷いていた。偵察の役割は常に危険が付き纏う為、軽装のアルゴ1人だけに行かせる事は出来ない。それに同行すれば、彼女に何かあった時に対処できる。

 

「ちぇっ、しょーがないナ」

 

不満そうだが、アルゴはしぶしぶ承諾した。階段には残りの9人に見張りを頼み、階段を登ろうとした時、唐突に声を掛けられた。

 

「キリト君」「ライト」

「「っ…」」

 

振り返れば、何時の間にか前に出たアスナとユウキが立っていた。2人の顔を見れば、とても不安そうな顔をしている。

 

「「気をつけて(ね)」」

「大丈夫、すぐに戻る」

「様子を見てくるだけだ」

 

2人はそう答えると、暗闇に続く階段に足を掛けた。そのまま登り続けるが、灯りが見える様子はなく、階段を登るにつれて嫌な感覚が増すのだ。空気が張り詰め、だんだんと重たく感じる。思わず周囲に目配せするが、何かが起こる気配はない。

 

「ライト、アルゴ」

「分かってる」

「アァ」

 

残り5段まで来た時、先程と空気がガラリと変わった。間違いなくボス部屋だと確信した3人は、慎重に歩を進める。

 

3人が大階段を登り終えた直後、ぶぅん、という振動音が耳に届いた。同時に、少し離れた場所に青白い光が目に飛び込んだ。そして、その光で周囲を確認すると、かなり広かった。

 

「あれ?……6層に上がる階段がない」

「ボスが湧く気配もないヨ」

 

これまでのボス戦は、扉を開けた瞬間にボスが出現して戦闘が始まった。しかし、何時まで経っても、それが起こる気配がない。ライトは床、壁、天井に張り巡らされた細いラインに触れてみるが、結果は変わらずだ。

 

「まさか、ALSがもう倒しちゃった、とか?」

「そりゃないだロ、あいつらがまだマナナレナの村に居たのは確認済みだヨ。多分、もっと移動しないとボスが出ないんだヨ……キー坊とラー坊は階段で待ってナ」

 

彼女はそう言い残し、更に奥へ進んだ。その前方に、広大な部屋を照らす光源が見えた。正方形の青白く光るラインが拡大と縮小を繰り返し、不吉な空気を感じさせる。明らかに罠だと思うが、このまま待っても時間が過ぎるだけだ。アルゴは慎重に近付くと、一呼吸置いてから拡大と縮小を続ける正方形に足を踏み入れた。

 

刹那、青白いラインから光が放たれ、凄まじい振動がボス部屋を揺らした。直後、アルゴの足元に青いラインのサークルが出現した。

 

「「アルゴ!?」」

 

2人が呼びかけた瞬間、彼女は後方にジャンプしようとした。しかし、凄まじい振動に足を取られ、サークル内で転倒してしまった。その時、部屋の床から5本の太い柱が伸び上がった。その形状を確認した瞬間、ライトが思わず声を上げた。

 

「手だとっ!?」

 

床から出現した柱は、何と巨大な手だった。ライトは一目散に飛び出し、アルゴを救出しようとする。キリトも後に続き、ボス部屋に突入する。

 

「来るナッ!!」

 

空中まで持ち上げられたアルゴが、聞いた事もない鋭い声を発した。同時に、巨大な5本の指が彼女を握りしめ、拳の隙間から小さな破砕音が届き、青いポリゴンが目に入った。その瞬間、2人の間に動揺が走る。

 

 

ーーーまさか、アルゴのHPが0になったのか!?ーーー

 

 

ライトは一瞬、そう考えてしまった。だが、パーティーを組んでいない彼でも、簡略版でアルゴのHPバーは確認できる。視線を移すと、僅かに減少しただけだ。しかし、あの拳に閉じ込めらている以上、恐らくHPは減り続ける。そう判断したライトは、倒れるように勢い良く前進した。

 

「おおぉぉっ!!」

 

単発ソードスキル《スラント》を発動させ、その腕に向かって深く斬撃を叩き込んだ。

 

 

グゴゴォォォォ!!!!!

 

 

ソードスキルで斬撃を与えた直後、上空からボス部屋全体を震わせる程の喚き声が響いた。そして、握った拳が開かれたと同時に、掌から跳び下りるアルゴが見えた。

 

「いやー、びっくりしたナー」

「それはこっちの台詞だ!」

「お前ら、構えろ。まだ何か仕掛けてる来るかもしれない!」

 

ライトの警戒に、キリトは背中の剣を引き抜き、アルゴは両手のクローを構える。現れた巨大な手は、ゆっくり床に戻っていくが、油断は出来ない。ライトが全方位に警戒していると、足元に違和感を覚え、素早く視線を走らせた。目をやると、足が青いラインを踏んでおり、直後にターゲットサークルが出現した。

 

「兎に角、階段の方に戻って「下がれっ!!」っ!?」

「っ!?」

 

キリトの言葉を遮り、ライトが声を張り上げた。2人はすぐに反応し、ライトと共にバックステップで距離を取った。刹那、再び漆黒の腕が床から出現した。その手は同じように、拳を握りしめたが、全員が回避に成功した。だが、安心するのは早かった。

 

「キー坊、下!」

「「っ!?」」

 

アルゴの喚き声に、キリトが下を向くと、彼の足元にもサークルが形成されていた。キリトはバク転で後退すると、そこから2本目の腕が聳立した。

 

「2本もあるのか!?」

「腕が2本もあるのは普通だと思うゾ?」

 

2本も出現した腕に驚くキリトだが、アルゴは冷静な口調で続ける。

 

「よく見ろヨ、親指の位置が左右で反対ダ!」

 

彼女の言う通りで、そびえ立つ2本の手の親指が左右で逆の位置にある。つまり、あれらは右と左の腕という事だ。下から巨人が腕を出している光景が脳裏に浮かんだ

 

 

ーーーその時

 

「っ!?」

 

ライトは再び、強烈な違和感に襲われた。床に張り巡らされたラインだが、それは天井にもあった筈だ。腕から視線を外して天井を見やると、やはりサークルが作られていた。

 

「キリト!」

「あぁ!」

「っ…ヌワァッ!?」

 

ライトは天井のサークルに気付いていないアルゴを抱えると、鋭い声でキリトに呼びかけた。アルゴはいきなり抱えられた事に、思わず変な声が出てしまった。そのすぐ後ろから、腕と同じ巨大な足が床を踏みつけた。足を中心に発生したショックウェーブが、周囲に広がっていく。

 

「ら、ラー坊、何すんダ、降ろせヨ!」

「暴れるな、アルゴ。まだ攻撃は終わってない!」

「来るぞ!」

 

俗に言う、《お姫さま抱っこ》をされたアルゴは、ライトの腕の中で暴れようとするが、次の攻撃に備えようと止まる事はなかった。そして、キリトの叫び声で再び巨足が襲撃してきた。地を蹴って巨足から距離を取ると、拡散するショックウェーブをジャンプで避ける。

 

2本の腕と脚が広大な広間に出現したが、壁際まで退避に成功した。ライトは何かに気付いた様子で足元を見ると、納得した顔を浮かべた。

 

「キリト、動くな!」

「へぇっ?」

「顔だけ動かして、足元を見ろ!」

 

動こうとするキリトに鋭い声を掛け、足元に意識を向けさせる。ボス部屋の床に立つ2人の足は、張り巡らされた青いラインをギリギリ避けていた。しかし、キリトはまだ状況が理解できていない様子だ。

 

「オレとお前の足がギリギリ、青いラインを踏んでないだろ? 多分、これを踏んだ奴の足元にターゲットサークルが出るんだ」

 

ライトはそう説明すると、キリトもアルゴも納得した顔になった。青いラインを踏まないように、慎重に下りたアルゴが、ライトに問いかける。

 

「よく気付いたナ、ラー坊」

「2回目に腕が出た時、何時の間にか青いラインを踏んでたからな。その時に気付いた」

 

足元に違和感を感じて見ると、青いラインを踏んでいた。直後、ターゲットサークルが出て巨拳が現れた。冷静に状況を分析していた為、この部屋のギミックに気付けた。すると、2本の腕と脚が動き出したと思えば、それぞれ床と天井に戻った。

 

「ラインが踏まれないと、元に戻るみたいだな」

「あぁ。とりあえず、階段の所まで戻ろう!」

 

キリトの言葉に頷いて、3人がゆっくりと移動を開始した

 

 

ーーーその時

 

「おい、大丈夫か!?」

「「「っ!!?」」」

 

階段の方から、シヴァタの声と共に複数の足音が響いた。足元から視線を移すと、階段で待機していた9人が広間に入ってきた。床と天井にそれぞれ、2つのターゲットサークルが出現する。

 

「何だ、ボスはまだ出てないのか?」

「回避!!回避だあぁぁぁ!!!」

 

キリトの絶叫が響いた3秒後、レイドメンバーは見事な反応速度で、大きく跳び退いた。だが、9人が密集した状態で自由に跳び退いた為、A隊のシヴァタとローバッカが衝突し、その場に倒れてしまったのだ。そして、真下から腕が伸び上がり、2人を掴んで持ち上げた。

 

「うああぁぁ!!?」

「うおおおぉぉ!!?」

 




原作や漫画では、ハフナーとオコタンが参加しましたが、そうすると人数を超えてしまう上に、オリ主の見せ場がなくなってしまうので、映画と似たような構成に致しました。

次回は、いよいよ本格的にボス戦が始動します。勿論、簡単に倒されるのは面白くないので、原作よりも強化しております。

それとは別に、ライトとユウキの距離感がかなり縮んできました。まだくっつきませんが、この章で更にグッと近付く事になります。
  1. 目次
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