SAO another story   作:シニアリー

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遂に火蓋が切られたフロアボス戦、災厄の虚像が立ちはだかる壁を跳ね除け、全員が生還する為に死力を尽くします。

1話で纏めようかなと思ったのですが、思ったより話が長いなと感じたので2話に分けました。




虚ろなる像

 

 

A隊メンバーのシヴァタとローバッカがボスの腕に掴まり、パーティーを組むライトの視界の端で、HPバーが減少し始めた。減少速度はアルゴより遅いが、シヴァタはレイドの中で貴重なタンクだ。彼の防具が破壊されれば、事前に立てた作戦が成り立たない。

 

見れば、もう1人のタンク役のリーテンと、アニキ軍団の仲間が助け出そうとしている。しかし、密集した状態でソードスキルを発動させれば、仲間に当たってしまう恐れがある。そう思っていると、隣からキリトの声が聞こえた。

 

「アスナ、ボスの腕にパラレル!」

 

その声で、既に剣を抜いていたアスナが動き出し、2人を閉じ込める腕にソードスキル《パラレル・スティング》を放った。黒々とした腕に撃ち込まれた高速の2連突きにより、シヴァタとローバッカは解放された。

 

ボスの掌から落ちるシヴァタをリーテンが、ローバッカをエギルが受け止めた事で、HP減少は最小限で抑えられた。しかし、出現した2本の腕と脚が床や天井に戻ろうとしている。次の攻撃が来る前に、安全な場所に退避し、ボスについて説明する必要がある。

 

「もう退避は無理ダ!」

 

だが、アルゴの言葉通り、ボスが次の攻撃を仕掛けようとターゲットサークルが出現しつつ、階段の方にも青いラインが密集していた。キリトは頷くと、全員に呼びかける。

 

「みんな、最寄りの壁際まで走れ!!」

 

その指示を受け、全員が一斉に走り出した。ターゲットサークルから腕や脚が出現し、虚空を握り締めたり、床を激しく踏みつける中、キリトが再び叫んだ。

 

「壁まで行ったら、床のラインを踏まないように止まるんだ!」

 

途端、全員が足元に目を向けるが、ラインの動きが変則的で回避が出来ない。だが、その動きが徐々に減速し始め、漸く視認できるまでになった。

 

「ここだ! ラインを避けて止まれ!」

 

動きが完全に停止したタイミングで、各々がラインを避けて止まる。ライトも立ち止まると、床と天井に視線を走らせ、ターゲットサークルの出現を確認する。そして、どちらも出ていない事に一先ず安心した

 

 

ーーーその時

 

 

「あっわわわっ…」

「っ!?」

 

小さな細い声が聞こえた。すぐに見渡すと、B隊のネズハが片足立ちで両手をフラフラさせていた。その理由が、遠近感が分からない《FNC》だと、すぐに分かった。

 

ライトは移動して助けようとしたが、それより速くキリトが動き、倒れそうになった彼をギリギリで支えた。だが、その《支え方》が問題だった。まるで社交ダンスのような、背中に腕を回して支える形になったのだ。その絵図らにアスナとユウキが恥ずかしそうに顔を赤らめ、他の7人は引き気味の顔を浮かべた。

 

「「っ!??////」」

 

そして、当事者達の2人も思わず顔を赤くした。恥ずかしくなったキリトは、ネズハを誘導する為に声を掛けようとした。すると、ボス部屋に小さな忍笑いが生まれた。

 

「くっふふふ」

『っ?』

 

全員が聞こえた方に目をやると、左手で軽く口を押さえて肩を震わせているライトが見えた。

 

「…くふふ…ごめん。キリト、ネズハ…くはははっ!」

 

2人に軽く謝ったライトだが、キリトとネズハの体勢が余程おかしかったのか、堪え切れず笑い出した。そんな彼に、アニキ軍団やネズハ、シヴァタは呆気に取られた。

 

小柄な背丈に少し長い茶髪と緋色の瞳、そして女の子と勘違いする程の童顔をしている彼が、滅多に見せない笑顔を前に、同性の男性達や4人の女性達までもが『可愛い』と思ってしまった。そんな中、キリトは頭を振って意識を切り替え、未だに笑い続けるライトに言う。

 

「おい、ライト。何時まで笑ってんだよ!?」

「……悪い!」

 

緊張感のない空気だが、ここはボス部屋なのだ。それを認識したライトは小さく息を吐くと、気を引き締めて表情を戻した。そして、キリトもネズハをアシストしながら、ラインを踏まないように立たせた。

 

どうにか全員が、ラインを避けて壁際まで退避できた。ラインの動きも静止している為、これでボスに対して説明できる。ライトは偵察で得た情報を全員に伝える為、声を上げて話す。

 

「聞いてくれ、今のが第5層フロアボスだ。床に張り巡らされた青いラインを踏むと、ターゲットサークルが床か天井に作られ、床からは腕が、天井からは脚が出てくる! 腕は掴み攻撃、脚は踏みつけ攻撃で、そこから衝撃波が発生する。転倒しないように注意してくれ!」

「…って事は、このままラインを跨いで止まってると、腕も脚も攻撃して来ねーって事か?」

 

ライトの説明をすぐに呑み込み、エギルが野太い声で訊き返す。偵察での状況を頭の中で再生させ、ライトは小さく頷いてから続きを説明する。

 

「そうだ、偵察時もラインを踏まなかったら、腕も脚も攻撃してこなかった。今の所、攻撃は2本の腕の掴み攻撃、2本の脚の踏みつけ攻撃だ」

「それと、掴まれた場合はHPと防具の耐久度にダメージを受けるけど、2連撃クラスのソードスキルを与えれば、掴まれた奴を解放できる!」

 

アルゴが掴まれた際、ライトは単発ソードスキルで解放できたが、それは彼の剣が圧倒的な攻撃力を備えている為だと考え、少なくとも2連撃は必要だと推測した上で、アスナに指示をしたのだ。そして、見事にそれは的中し、全員に伝える事に成功した。

 

脚の攻撃に関して詳細には分からないが、少なくとも腕以上の攻撃力を誇る事は間違いない。

 

「脚の方のダメージはまだ分からないけど、腕よりはかなりデカイと思う。踏まれないように注意してくれ!」

 

キリトの推測に、ライトとアルゴを除いた全員がしっかり頷く。そして、続きを説明する為、キリトが顎に手を当てて考え込むと、顔を上げた。

 

「えーっと、以上だ!!」

 

すると、ボス部屋が静かな空気に包まれた。そんな時、ライトは停止しているラインに目をやった。不規則に動いていた先程とは違い、今はピクリとも動かない。この状態が何時まで続くのかと考えていると、3m離れた所から、ユウキの声が届いた。

 

「じゃあ、このままラインを踏まなかったら、ボク達もボスに攻撃できないって事だよね?」

 

彼女の質問に、キリトとライトの視線が交差する。偵察時はアルゴがラインを踏んだ為、ボスが攻撃を始めて、ラインも動き出した。それを考慮すると、ラインを踏まなければ大丈夫だと考えられる。しかし、ライトはどこか違和感を覚えた。

 

 

ーーーこれじゃあ、プレイヤー達がボス攻撃のタイミングを操作できるーーー

 

 

キリトの話では、第5層は区切りのフロアな為、強力なボスが設置されている。確かに攻撃力は高いが、それは当たらなければ意味がない。この時間を使って作戦会議も出来ると思われる。戦場でこんな緩んだ空気で大丈夫かと、ライトが四方に警戒していると、キリトが答える。

 

「そう…だと思う。不幸中の幸いというか、フルレイドだったら、こうやって全員がラインを踏まないで止まるのは出来なかった」

 

 

ゴン、ゴゴン!!

 

 

キリトがそう言った途端、ボス部屋の天井から大きな音が発生し、巨大な《顔》が出現した。漆黒の眼窩から赤い光輪が浮かび、額に複雑な紋章が顕現した。すると、全員が見上げるボスの顔の上部に、6本のHPバーが現れた。それと同時に、第5層フロアボスの固有名が視界に刻まれた。

 

 

 

【Fuscus the Vacant Colossus】

 

 

 

「…βと……名前も全然違う」

 

キリトの掠れ声が、微かに耳に届いた。つまり、上から見下ろすボスは、姿形までβと変化しているという事だ。

 

その時、額の青き紋章が唐突に赤に変わった。それに連動して、フロアボスの巨大な口が開かれた。嫌な予感を覚えたライトは、両手で大剣を構えて防御の姿勢を取るも、それは意味を成さなかった。

 

ボス部屋だけでなく、迷宮区全体を震わせる咆哮が轟き、全員がよろめく。ラインを踏んだ者は居なかったが、安心するのは早かった。刹那、全員のHPバーの下に、防御力低下のデバフアイコンが灯った。

 

「っ!?」

 

アイコンが灯ったと同時に、ライトが目を見開いた。何故なら、彼のHPが僅かに減少したからだ。その要因は、切り札の《ソード・オブ・カイザー》と、ボスの咆哮による《二重の防御力低下》デバフが重なった為だと考えられる。急いで腰のポーチからポーションを取り出し、栓を外して一気に飲み干す。

 

「ライト!?」

「大丈夫だ、それよりラインを警戒しろ!!」

 

パーティーを組むユウキがHP減少に気付き、思わず声を掛ける。攻撃を受けていないのに、突然HPが減ったら驚くに決まっている。恐らく、A隊メンバーだけでなくB隊も気付いている筈だが、ライトは自分の事よりラインの動きを警戒しろと叫んだ。すると、その叫び声に反応したのか、静止していたラインが再び動き出した。

 

「ラインの動きをしっかり見て避けるんだ! もし踏んだら、床と天井をすぐに見て、サークルが出たら回避! ネズハは壁際まで下がって、ラインの動きが止まったら攻撃してみてくれ!」

「は、はい!」

 

ネズハは頷くと、すぐに最寄りの壁へと走った。動き出したラインが徐々に減速していき、漸く視認できるまでに落ちた。そして、再びキリトの指示が渡った。

 

「ライト、俺がわざとラインを踏むから、お前のその大剣でぶちまかしてくれ!!」

「ふっ…任せろ!!」

 

ライトは不敵な笑みを見せて答えた。それに頷くと、キリトは床のラインを注視した。移動速度が徐々に落ち、もう少しで停止しようとするタイミングで、張り裂けんばかりの声を上げた。

 

「行くぞおぉ!!」

 

キリトがわざとラインを踏んだ瞬間、張り巡らされたラインが反応し、彼の足元にターゲットサークルが出た。キリトがバックステップした直後、巨大な腕が床から現れ、虚空を掴む。そして、その腕に向かってキリトとライトが剣を振りかぶる。

 

「「はあぁぁ!!」」

 

2連撃ソードスキル《バーチカル・アーク》と単発ソードスキル《バーチカル》が、漆黒の腕を斬り裂き、鮮血のような真っ赤なライトエフェクトが発生する。

 

 

グガアアァァァ!!?

 

 

その攻撃だけで、天井のボスは激しく悶え苦しむような声を上げた。そして、1番上の段のHPが一気に5割まで低下した。巨大な腕が身動ぎしながら姿を消すと、再びラインが移動を始めた。ライトは素早く、自分のHPバーに目を向けると、軽く舌打ちをした。

 

「ちっ!」

 

《防御力低下》が重なった事により、直接的な攻撃を受けていないにも関わらず、HPが僅かに減少してしまい、ボスの咆哮によるデバフアイコンもまだ消えない。アイコンが灯った状態で、更に咆哮を受ければ、今度はどれほど減少するのか分からない。

 

その時、天井から顔を出すボスが動き始めた。それを察知したライトが顔を向けると、ボスが巨大な口を開けようとしていた。また咆哮が来ると予想し、思わず大剣で防御の姿勢を取る。だが、ボスの咆哮が放たれる直前、銀色の光線が煌めいた。

 

「っ!?」

 

それは、ネズハが所有する投擲武器《チャクラム》だった。ボスの顔に命中した事で、咆哮は回避できた。当人のネズハに目を向けると、グッと頷いた。ライトも不敵な笑みを浮かべて頷くと、ラインの停止と同時に、今度は天井にターゲットサークルが見えた。

 

それは丁度、ライトが立つ場所にだった。そして、天井から巨大な脚が出現し、彼を踏み潰そうと迫る。だが、飛躍的に向上されたステータスを発揮し、すぐにバックステップで躱すと、再び攻撃を仕掛けようと試みる。

 

「ライト、スイッチ!」

 

しかし、その声と同時に、彼のすぐ脇を抜けて猛スピードで迫る人影が映った。同じA隊所属のユウキが、《リュナイト・ソード》を構えて走り出した。剣を中段に構える彼女は、ボスの脚に向けて2連撃ソードスキル《スネーク・バイト》を放った。

 

「…相変わらずの速さだな」

 

彼女のソードスキルの速さを前に、ライトはボソッと呟いた。このパーティーの中に収まらず、全攻略組の中で最も速いと思ってしまう。同じスピード型のアスナ、アルゴと同等がそれ以上だと思うが、今はボス戦に集中する必要がある。ダメージを受け、天井にある歪んだ顔に目を向けると、シヴァタとエギルの声が聞こえた。

 

「要領は分かった、俺達も攻撃してみる!」

「こっちもやるぜ!」

 

ライトは周囲に視線を走らせると、それぞれ3人ずつに別れて、ボスに攻撃を開始した。

 

「みんな、任せた! アスナ、アルゴ、さっきみたいに俺がラインを踏むから、2人もソードスキルの準備。ライトはユウキと頼む!」

「了解!」

「おいサ!」

「分かった!」

「任して!」

 

そこから、12人のプレイヤーによる反撃が始まった。動く青いラインを停止と同時に踏み、ターゲットサークルが出現した瞬間に跳び退く。そして、現れた腕と脚にソードスキルを叩き込む。天井からの咆哮は、壁際に待機しているネズハが妨害してくれる為、気にする必要がない。

 

そして、ライトが持つ大剣の威力が凄まじかった。単発ソードスキルだけで、相手のHPを4割以上も削り取る力は、規格外の強さだ。更に、《スタン耐性上昇》の効果も加わり、脚のストンプから発生するショックウェーブを受けても、スタン状態になる事はない。

 

しかし、防御力低下によって、動きは阻害されなくても、HPが少なからず減少してしまう。それに気を配り、戦闘を続行していると、数十分も掛からず4段目に突入した。今までと同様、ボスの攻撃パターンに変化が起きる筈だと考えたが、その予想は裏切られた。だが、逆にそれが不吉だと、ライトが感じた

 

 

ーーーその時

 

 

「キリトさん、壁が!?」

 

ネズハの戸惑いの声が聞こえた。そして、周囲の壁に視線を走らせると、黒地の壁に青いラインが走り出した。床からと天井から伸びたラインが接合し、パターン変化を知らせる。

 

「A隊、B隊から順に退避するんだ!」

 

キリトの掛け声と共に、A隊のメンバーが続々と階段へ退避していく。このまま部屋から出れば、ボスのHPが回復し始めるが、生き返るチャンスが無い状況で深追いは禁物だ。今まで通り、出入り口となる階段は顕在な為、12人全員が脱出可能だ。

 

ライトは周囲の状況に気を配り、パターン変化を見極める為、キリトと共にボス部屋に残るつもりだった。勿論、危険と判断すれば、即座に階段から脱出を試みる。この世界で重要な事は、引き時を見定める事だ。A隊全員が階段に近付くのを横目で確認した途端

 

「キリト君、上!」

 

アスナが叫び声を上げ、天井を指差した。ライトも思わず目を向けると、先程まで天井に姿を見せていたボスの顔が消えていた。刹那、ライトの背筋に悪寒が走った。そして、素早く周囲に視線を走らせた。

 

「シバ、だめっ!!」

 

刹那、リーテンの悲鳴がライトの耳を貫いた。振り向くと、彼の目に衝撃的な光景が飛び込んだ。下に降りる為の階段が、ボスの顔に変わっていたのだ。そして、タンクのシヴァタが腰辺りを咥えられていた。リーテンと共に引っ張り出そうとするローバッカが、振り向きざまに叫んだ。

 

「階段が口になりおったい!!」

 




強力な攻撃力を発揮して、大ダメージを与えるオリ主。しかし、その代償の《防御力低下》に苦しめられます。不用意にデバフ攻撃を喰らう事さえ注意を払う必要があるので、戦闘での消耗はかなり激しいです。

特に、広範囲攻撃を仕掛ける相手となれば、それ相応の技量がなければまず勝てません。
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