SAO another story   作:シニアリー

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今回で、フロアボス戦は最終局面を迎えます。

立ちはだかる強大な敵を退け、攻略パーティーは無事にカウントダウン・パーティーを開催できるのか?




本当の戦い

 

 

ローバッカの言葉に、ライトは衝撃を受けた。確かに天井にあった筈の顔が、今は外に続く階段に移動している。しかし、驚いている暇は1秒もない。ボスの口に挟まれたシヴァタを一刻も早く救出する必要がある。彼が纏う重装防具も、赤いエフェクトを発して軋むような音を立てている。

 

ライトは彼を助け出す為、大剣を構えて地面を蹴ろうとする。攻撃力がこの中で最も高い自分なら、通常攻撃でも何回か与えれば救出できる筈だと考えた

 

 

 

 

ーーーその時

 

 

「っ…これはっ!?」

「何だっ!?」

 

突然、ボス部屋に張り巡らされたラインの光が一気に強まった。途端、メンバー全員に動揺が走る。恐らく、パターン変化はまだ終わっていなかった。

 

「うそっ!?」

「ラインが増えた!!?」

 

アスナとユウキが思わず叫んだ。眩い光を発したラインから、新たに別のラインが出現し、床を移動する隙間が減ってしまった。これでは、シヴァタを助けに行こうにも、思うように動けない。だが、ライトはまだ何か違和感を感じていた。それは言葉では説明できない何かが、警告を発している。

 

そして、それは的中していた。再び、キリトを含めた何人かが、攻撃を引きつけようと床のラインを踏んだ直後、目を疑うような光景が飛び込んだ。

 

「なんじゃいこりゃあぁっ!?」

「床のサークルが《3つ》だト!?」

 

ウルフギャングとアルゴの叫び声に、全員の視線が床へ注がれる。確かに先程まで、床のサークルは最大で2つまでしか出なかった。だが、攻撃を引きつけようと、ラインを踏んだキリトとライト、ユウキの足元にサークルが出現したのだ。

 

直後、床から3本目の腕が出現し、それらを避けるユウキの口から、最悪の可能性が説明される。

 

「もしかして、2層の時と同じように、ボスがもう1体出るって事?」

「そんな!? もしそうなら、私達だけじゃ倒せない!!」

 

ユウキの推測が正しいのなら、この人数では太刀打ち出来ない。例え、ライトが伝説の大剣を駆使しても、HPの総量に絶対的な差がある。最悪なタイミングで攻撃の手が増えた事に、ライトは無意識に歯を噛み締めた。

 

「こんな時に……くそっ!?」

 

シヴァタが命の危険に晒されている今、キリトが助けに行けない状況に悪態をつく。こうしている間にも、彼の鎧は刻一刻と損傷し続けている。そして、完全に破壊されれば、致命傷となるのは確実だ。

 

「ちっきしょ、またかよ!?」

 

口に挟まれたシヴァタが、呻き声と共に毒づく。彼を助けようと、リーテンとローバッカがこじ開けようとするが、意味を成さない。その反対側では、エギルが額の紋章に両手斧を振りかざす。ソードスキルは威力が強い分、ダメージ範囲も広い為、通常攻撃を与えているが、効果は薄く口が開く気配はない。 

 

「一体何なんだ……顔が移動したり、腕や脚が生えたり増えたり、このボスはどうなってる!?」

 

今まで倒してきたフロアボスとは、比較にならないほど戦いにくい。上下からの攻撃に、天井に張り付いていた顔が移動するなど想像も出来ない。すると、アスナの掠れた声がフロア全体に届いた。

 

「そういう事だったのね。ヴェイカントは《虚ろな》、コロッサスは《巨像》…中身が虚ろな巨像。この部屋自体が、第5層フロアボスなんだわ!!」

 

その言葉に全員が信じられず、大きく目を見開く。そして、ライトも思わず部屋全体を見渡した。この部屋に入った時、今までのボス戦では感じなかった種類の悪寒の要因が分かった。

 

「…いくら魔法のゴーレムだからって、こんなの無茶苦茶だ」

 

近くで、キリトの焦燥を感じさせる呻き声が聞こえ、直後にシヴァタの絶望に染められた声が重なった。

 

「駄目だ、外れない!」

「シバ、今助けるから!!」

「諦めるな!!」

 

リーテンとナイジャンが必死に激励するが、どれだけ攻撃しても口が開かない。彼のHPはまだ減っていないが、鎧が破壊されるのも時間の問題だ。

 

「エギル、ソードスキルで額の紋章を攻撃するんだ!」

 

ボスの額に斧を振り下ろし続ける巨漢に、キリトが鋭い声で指示を出す。ソードスキルの影響でダメージが入る可能性もあるが、なりふり構っていられない。しかし、エギルは首を左右に振るだけだった。

 

「ダメだ……こいつ紋章がねえぇ!!」

『っ!!?』

 

その言葉を理解した瞬間、全員が信じられないとばかりに驚愕の表情を浮かべた。天井に現れた時には、確かに額に赤き紋章があった筈だ。それが、今は跡形も無く消えている。つまり、シヴァタを助ける手段が1つも無いという事だ。最悪の事態に、レイドリーダーのキリトが項垂れる。

 

その顔は青ざめ、絶望の淵に立たされたような顔だ。この作戦を決行する前に、彼はライトと誓った。1人の犠牲者も出さず、全員で生き延びると。己の心に強く誓った筈なのに、何の解決策も思い浮かばない。視界が狭まり、足の感覚が遠ざかり、右手に持つ剣が重く感じる。

 

 

 

 

ーーーここまでなのか?ーーー

 

 

 

 

誰も死なせないと心に決めた筈なのに、自分はここまで無力だったのか。ただ、シヴァタの鎧が破壊されるのを見ている事しか出来ないのか。そんな彼の視界に、同じく青ざめたアスナの顔が映る。誰もが動く事も出来ず、声を発する事さえ出来ない。動くのはただ、床と天井に張り巡らされた青いライン。聞こえるのは、金属が軋む不快音だけ。

 

このまま何も出来ず、全員で生き残るという希望が踏み躙られようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めるなあああぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ!!?』

 

ボス部屋のみならず、迷宮区タワーをも震わせる程の咆哮が轟いた。その声に意識が覚醒した全員が、一斉に声の発生源へと視線を送る。

 

「エギル、ウルフギャング、ローバッカ、ナイジャン、リーテン、お前達はボスの顔の上に乗って、シヴァタのHPが削れるのを防げ! キリト、ユウキ、アスナ、アルゴ、ネズハ、ラインを踏んで攻撃を引きつけるぞ! その際に、ボスの腕や脚、あるいは床、壁、天井、どこでも良い。血眼になって紋章を探せ!この部屋自体がフロアボスだって言うなら、必ずどこかにある!このパーティーは絶対誰1人死なせん、行くぞおぉぉぉ!!!」

 

再び叫んだライトが大剣の効果で向上された機動力を活かし、ラインを踏んで注意を引きつける。その姿に心打たれ、キリトは己を奮い立たせるかの如く、落としかけた《ソード・オブ・イヴェンタイド》を握り直した。

 

「おおぉ!!」

「任して!」

「了解!」

「分かっタ!」

「やってみます!」

 

キリトに続き、ユウキとアスナ、アルゴ、ネズハが応答して動き出した。ラインの動きは徐々に低下し、完全に停止すると、6人がそれぞれラインを踏んで腕と脚を出す。だが、天井からの脚は2本のままだが、床からの腕は4本に増えている。ライトの推測通りなら、この4本の腕と2本の脚のどこかに紋章がある。

 

攻撃の注意を引きつける為、6人がそれぞれの場所でラインを踏むが、ライトを襲った床からの右腕に紋章は無かった。キリトには左腕、アルゴには右腕、ユウキには左腕、アスナには右脚、ネズハには左脚が現れたが、誰も声を上げない。しかし、必ずこの部屋のどこかにある筈だ。

 

額から離れる事があっても、体から離れるとは考えにくい。紋章は言わば、ゴーレムを動かすコアのような物の筈だ。それが体から離れれば、そもそもが成り立たない。

 

「あ、ありましたあぁぁ!!」

 

その絶叫が木霊した瞬間、ライトは素早く視線を周囲に走らせ、天井から出現した左脚を指差すネズハを捉えた。そこから、彼の指先を辿ると、確かに額にあった筈の赤き紋章が見えた。だが、ネズハはそれを探すのに意識を囚われ、ストンプ攻撃のショックウェーブを避け損なった。

 

「うわあぁぁっ!?」

 

幸い、HPはそこまで減少しなかったが、軽い《スタン》状態となり、動きが取れないようだ。ネズハを仕留め損なった左脚は、そのまま天井に戻ろうとするが、漸く見つけた弱点を黙って見逃す訳がない。

 

「待ちやがれえぇぇ!!!」

「逃がすかあぁぁぁ!!!」

 

2人の少年が剣を担ぎ、戻ろうとする左脚へ迫る。しかし、ライトとの距離は少なくとも6〜7mはあり、それより近いキリトでも4〜5mは離れている。だが、大剣の効果で機動力が大幅に向上した今なら、届く筈だと思った。

 

 

「頭を下げろ、キー坊!」

 

 

その声が聞こえたコンマ1秒後、途轍もないスピードで移動する影が現れ、それがキリトの肩を踏み台にして高く跳躍した。《鼠》の異名を持つ情報屋が全振りのAGIを駆使して、ボスの左脚の裏側にある赤き紋章を前に、両腕に装着するクローを構える。

 

「当たれエェェェ!!!」

 

叫び声と共に発動した、クロー系突進ソードスキル《アキュート・ヴォールド》が見事に命中し、紋章に3本線が刻まれた。すると、後方から重低音の悲鳴が轟いた。振り向けば、シヴァタを咥えていたボスの口が開き、彼を空中に吐き出した。

 

フスクスの顔が床に沈むと、下に続く階段が見えた。これで、脱出経路は確保できた。次にシヴァタに目をやると、防具が完全に破壊されたもののHPは減っていない。どうやら、ギリギリで間に合ったらしい。

 

ライトは肩を下ろすが、すぐに周囲を警戒する。案の定、フスクスが天井に出現し、上から見下ろすのが滑稽のようだ。口の両端を曲げて、異様な笑い声を上げる。その姿に、ライトはボスを睨みつけて口を開いた。

 

「まだ終わってないぞ。変化したパターンを参考に、戦闘を続行して様子を見る! シヴァタ、お前は階段を降りて、HP回復を優先させろ!」

 

床からの腕が4本に増え、天井の顔が移動する事も分かった。攻撃パターンも少しは把握できた今、ここで退却する時ではない判断した。だが、防具を破壊されたシヴァタに戦闘を続行させる訳にはいかない。

 

「悪いが、その命令は拒否する。ボスを倒すまで、ここから出る訳にはいかない!」

「お前!」

 

頼もしいが、今の彼ではタンクの役目を果たせるとは思えない。すると、シヴァタはウインドウを開いて、アイテム欄を操作する。そして、光の粒子と共に、新たな鎧が彼の体に纏って現れた。

 

「予備くらいある。まだまだ戦えるさ!」

「……頼んだ!」

 

 

 

そこから、12人の攻略部隊の反撃が始まった。床からの4本の腕、天井からの2本の脚の攻撃は、完全にタイミングを把握している為、それぞれの得物でダメージを与える。しかし、顔の移動に意識を囚われ、攻撃を受けるメンバーも何人か出てしまった。だが、他のメンバーがすぐに壁際まで退避させるなど、抜群の連携を見せる。

 

そして、遂にHPバーが残り1段となった。ここから、最後のパターン変化が襲い来ると判断して、キリトがレイドメンバーに呼びかける。

 

「パターン変わるぞ、POTが足りない奴は言ってくれ!」

「少し危ない!」

「ワシもじゃあ!」

 

タンクのシヴァタとアタッカーのウルフギャングが声を上げた為、2人に6本のポーションが入った袋を手渡す。すると、床を走るラインが発光を始め、一斉に壁を伝って天井の顔に集まる。全員が剣を構えて警戒態勢を取ると、フスクスの赤き両目が光を増した。

 

そして、その顔を中心に大穴が天井に広がった。暗闇に包まれるそこから、フスクスの顔が徐々に突き出している。更に、暗闇の所為で見えなかった巨大な腕と胴体、脚が姿を現した。

 

「た、退避!!」

 

キリトが指示する前に、全員が距離を取ろうと後退する。天井から本来の姿を見せたフスクスが、ゆっくりと地面に着地した。途端、全方位に向けて大きな衝撃が広がったが、脚を取られて転倒する者は出なかった。

 

「腕が4本になったのは、そういう事か」

 

右手に持つ大剣を構え、ライトが独りごちる。彼らの前に立ちはだかる巨像は、正しく厄災だ。漆黒の胴体を支える巨大な柱の如き脚に、肩と脇腹から生える4本の腕を持った、異形のゴーレムが顕現したのだ。βの情報は持っていたが、この変更点があるのは把握していなかった。

 

「おい、どうする? ボスの攻撃がパンチとストンプだとしても、4本も腕があるんじゃ防ぎ切れないぞ!!」

 

タンクのシヴァタが叫び上げる。腕が4本に増えたなら、攻撃が単発で終わるとは思えない。最低でも、2連撃のパンチが襲い来る筈だ。1撃目がシヴァタとリーテンで防げても、連発で来たら耐えられる保証はない。タゲ取りを担うにしても、それが機能しなければ、いずれ両隊の連携が崩れる。

 

ライトは歩行を続けるボスを視界に捉え、思考を巡らせていた。攻撃パターンはパンチとストンプで間違いないが、連続で攻撃を仕掛けてくるなら、正直かなり厳しい。だが、策が無い訳ではない。

 

「落ち着け、まずはパターン確認からだ……事前の作戦通り、A隊がタンク、B隊がアタッカーを担う。シヴァタ、リーテン、もし攻撃が連発だった場合、1撃目はどうにか防いでくれ。2撃目からは、オレが引き受ける!」

 

ライトの言葉に、全員が驚いて目を剥いた。そんな中、レイドリーダーのキリトが声を掛けた。

 

「どうする気だ、ライト?」

「軽装のオレが真正面から受け止めようものなら、ミンチになるのは確定だ……止めるのが無理なら、受け流すしかないだろ? まあ最悪、避けるなりするさ」

 

《ソード・オブ・カイザー》の圧倒的な攻撃力、底上げされた筋力値と俊敏性を駆使して、真正面からソードスキルで迎え撃ったとしても、ノックバックを受けるのはライトだ。タンクの2人でも、受け止められるとは考えられない。だが、攻撃の軌道を逸らす事は出来る筈だ。

 

「B隊の指揮と、ヘイト管理を頼むぞ!」

「分かった。みんな、ラスト1本だ。全力で削るぞ!!」

『おう!!!』

 

その掛け声と同時に、B隊は左右に別れて何時でもスイッチが出来る準備を整える。A隊はボスの正面に陣取り、1番前にシヴァタとリーテンが立ち、その後ろでライトが大剣を構える。その他のA隊メンバーは、更に後ろで同じくスイッチのタイミングを待つ。

 

ズシン、ズシンと床を踏みつけて接近するボスが、左肩から伸びる腕を後ろに振りかぶった。その標的は、1番近くに立つタンク隊の2人だった。同時に、シヴァタとリーテンは盾を構え、果敢に待ち受ける。漆黒の巨拳が2つの盾と衝突し、轟音を立てて火花を散らした。

 

流石に受け止める事は出来ず、並び立つ2人は後方のライトを通り越して、押し戻された。そして予想通り、ボスの攻撃は終わらなかった。フスクスは左脚を踏み出し、今度は脇腹から生える右拳を振りかぶった。刹那、ライトが目にも止まらない速さで踏み込み、巨像との間合いを詰める。

 

「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

ズガアアアアァァァァァン!!!!!

 

 

右拳が振るわれ、直撃する数秒前に、ライトは攻撃が当たらない場所に移動し、水平斬撃技の《ホリゾンタル》を与え、攻撃の軌道を逸らしてHPを大幅に削った。そして、フスクスの動きが一瞬だけ停止した隙を見逃さず、ライトが吠える。

 

「スイッチ!!」

 

途端、後方で待機していたA隊所属のユウキが一気に接近し、2連撃ソードスキル《バーチカル・アーク》を発動させる。恐るべき速さで振るわれた斬撃が、赤きラインとなって巨大な腕に刻まれた。それにより、巨像のHPが減少する。それが合図となり、左右に分かれたB隊が大きな脚に攻撃を始める。

 

左脚にはキリトとアスナが、右脚にはエギルとウルフギャングがソードスキルでダメージを与える。フスクスは同時攻撃により、上体を仰け反らせて吼える。過剰に攻撃し過ぎると、ヘイトがB隊に移ってしまう事があるが、幸いタゲはA隊に向いたままだった。

 

フスクスのHPから、ライトは自分のに視線を移した。大剣を使用する上でのリスク《防御力低下》は確かに危険だが、当たらなければ問題ない。連続のパンチも1撃目をタンクの2人が防ぎ、2撃目はライトが軌道を逸らす。その隙に、残るA隊と左右のB隊がダメージを与えるの繰り返しだ。

 

しかし、ダメージ無しで巨像の拳を受け流すのは難しく、適宜ポーションを口に含み、擬似的タンクを担う。攻撃の軌道を逸らす芸当は、簡単に出来るものではない。攻撃が襲い来る軌道とタイミングを見切って、ソードスキルを発動させる必要がある。更に、パンチに加えて両脚のストンプ、デバフボイスも厄介だ。

 

デバフボイスはネズハが妨害し、両脚のストンプは素早く下がって回避する。そうして、漸く奴のHPがイエローにまで落ちたが、同時に攻撃も激しさを増す。

 

「来るぞ!」

 

ライトが合図を送る。フスクスが右拳を振り上げた途端、タンクの2人が盾を構えて迎え撃つ。1撃目を後退しながらも防ぎ、2撃目を前に出たライトがソードスキルで受け流す。しかし、奴の攻撃はそこで止まらなかった。

 

「何っ!!?」

 

何と、脇腹から生える右拳を握りしめ、3撃目のパンチを仕掛けてきた。しかし、大剣の効果《スキル硬直時間半減》ですぐに動き出す事が出来た。そして、正面から襲いかかる拳の下に潜り込み、ソードスキル《バーチカル》の斬り上げを放った。

 

「うおおぉぉぉぉ!!!!」

 

その斬撃は攻撃の軌道を上に逸らし、同時にフスクスのHPも削り取った。だが、ノーダメージで抑えるのは難しく、少し減ってしまった。ライトは自分のHPを確認しようと、素早く目配せする。

 

「っ!!?」

 

その時、彼の体を強烈な悪寒が駆け巡った。視線を戻してボスを見上げると、奴が上から赤き瞳で見下ろしていた。瞬間、2つの瞳が濃い紫に変化して閃光が走った。そして、ライトが同時に地を蹴った。

 

 

 

ドガアァァァァン!!!!

 

 

 

フスクスの両目から紫色のレーザーが発射され、ライトが先程まで立っていた場所に命中し、爆発が起きたのだ。広範囲に渡る攻撃を前に、ライトは逃げ遅れてしまった。

 

「ライトぉぉ!!?」

 

ユウキの悲鳴が生まれ、メンバー達にも動揺が走る。レーザーが直撃した場所から煙が立ち込める中、空中から1つの影が飛び出した。それは放物線を描いて落下していき、地面に激突してゴロゴロと転がった。

 

「…くっ……がぁっ…」

 

レーザーの爆発に巻き込まれたライトが、思わず呻き声を漏らした。どうにか起き上がろうとするが、それは不可能だった。何故なら、右足の膝から先が失われていたからだ。HP管理に気を取られ、注意が疎かになった事と、比較的ボスの近くに立っていたのが要因だ。

 

足が《欠損部位》状態になれば動けず、3分が経たない限り治りはしない。だが、フロアボスが回復を待ってくれる筈もなく、倒れているライトに接近する。

 

「シヴァタ、リーテン、ボスのタゲを取ってくれ! ライトに近付かせるな! ローバッカ、ライトを安全な場所に運んでくれ!!」

 

しかし、キリトがすぐに指示を出し、それに反応してタンクの2人がライトの前で盾を構えた。それにより、ボスのヘイトが移る。その間に、ローバッカがライトを担いで壁際まで運んだ。

 

「ほれ、もう大丈夫ったい!」

「ライト、早くこれを!!」

 

すると、一目散に駆け寄って来たユウキが、腰のポーチからポーションを取り出し、栓を外して渡す。ライトはそれを受け取り、一気に飲み干す。それにより、HPが徐々にだが回復していく。しかし、右足の欠損部位はまだ治らない。

 

「オレは平気だ。ユウキ、ローバッカ、奴のレーザー攻撃は両目が紫に変わった時だ! 早く全員に伝えてくれ!」

 

自分が重傷を負って手にした情報を、すぐに共有させようと2人に手短に伝えた。

 

「で、でも!」

「今はボスを倒す方が先決だ。頼む!」

「……分かった!」

「おう!」

 

ユウキとローバッカは頷くと、戦線に戻った。

 

 

ライトは動けない状態にもどかしさを覚え、ギリっと歯を噛みしめる。8割弱もあったHPが、レーザーの爆発に巻き込まれただけで、一気に4割弱まで削られたのだ。本来なら直撃していない為、最低でも5割は残っている筈だ。つまり、大剣のデメリット《防御力低下》が、ここまで恐ろしいという事だ。

 

「…クソッ」

 

ライトは悪態をつき、戦線に目をやる。イエローゾーンになったボスのHPを削ろうと、メンバー達が勇猛果敢に挑んでいる。だが、4本の腕から繰り出す連続パンチが激しさを増し、どうにか対処している状況だ。

 

1撃目はタンクの2人が後退しながら防ぎ、そこからの2撃目と3撃目は回避主体か、筋力値の高いプレイヤーが攻撃を対処する形に変わったが、手数が増えた事で中々攻め込めない。加えて、両目からのレーザー攻撃が侮れない上に、圧倒的攻撃力を誇っていたライトが一時的に戦線を離れた事で、HP減少幅が少なくなった。本来の姿に戻った事で、ボスの耐久値が上昇したのだ。

 

「レーザー攻撃だ、ネズハ!!」

「はい!」

 

更に、両目からのレーザーが着弾した場所から、広範囲に渡っての爆発が起きる。レーザーを直撃こそ避けているものの、爆発の余波までは避けきれず、何人かのHPがイエローまで削られる。しかし、ライトから伝えれた攻撃のタイミング情報でネズハが防ぎ、戦闘不能になった者はライトを除いて居ない。だが、全員がダメージを蓄積させているにも関わらず、やはり減少幅が少ない。

 

「はあぁぁっ!! アスナ、ユウキ、スイッチ!」

「やあああぁぁぁ!!!」

「はあああぁぁぁぁ!!!」

 

ボスの猛攻を退けつつ、キリトがソードスキル《スネーク・バイト》を叩き込んだ瞬間、入れ替わりにアスナとユウキが各々のソードスキル《ダイアゴナル・スティング》《ホリゾンタル・アーク》を放った。アニキ軍団、アルゴ、ネズハも果敢にボスのHPを削るも、攻撃の激しさは治らない。キリトの指示で一旦、全員がボスから距離を取った。

 

「全員、一旦後退する!」

 

彼に従い、メンバー全員が脱出経路に近い階段付近に退避する。フスクスのHPは最早、レッドゾーン寸前だ。ここまで来て退避する事は出来ないが、圧倒的な攻撃力を誇っていたライトが離脱しただけで、ここまで苦しい状況になるとは思わなかった。フロアボスが逃がさないとばかりに、巨脚を動かして接近する。

 

 

 

だが、その状況も後方から生まれた足音によって掻き消される事となる。ボスに注意を払いながら後ろに目をやると、《欠損部位》状態から回復したライトが大剣を持って立ち上がっていた。

 

「悪い、遅くなった」

「気にすんな……いけるか?」

「当然。奴はもう虫の息だ、一気に片をつける」

「そうだな。みんな、後もうちょっとだ…決めるぞおぉ!!」

『おおぉっ!!』

 

キリトの一声に反応したのか、フロアボスの両眼が紫色に発光した。刹那、全員が二手に別れ、その数秒後にレーザーが放たれて爆発が起こった。すると、フスクスは左方向に逃げたプレイヤー達を狙い定め、再びレーザーを浴びせようとした。

 

 

「「うおおおぉぉっ!!!」」

 

 

 

ズガアアアァァァン!!!

 

 

 

「グアアアアァァァァ!!!!??」

 

 

だが、右方向に退避したエギルとローバッカがソードスキルを発動させて、巨像のレーザー攻撃を中断させた。その攻撃で遂に、フスクスのHPがレッドゾーンに突入した。

 

瞬間、ライトがマジック効果の恩恵で底上げされたAGIを発揮し、巨像との距離を詰める。その動きに気付いた奴は、拳を振りかぶってパンチを放つ。だが、ライトはジャンプで避けると、フスクスの腕を高速で移動し始めた。

 

そして、足に力を込めて飛び上がり、剣を振りかぶって顔に接近していく。だが、巨像はさせるまいと両眼を紫色に変化させてレーザーを放とうとした。空中では身動きが上手く取れず、至近距離からでは格好の的だ。その眼光が勝ち誇ったかのように、光の収束が起こった

 

 

 

ーーーその瞬間

 

 

「はあああぁぁぁぁ!!!??」

 

 

ライトが咆哮と共に、大剣をその眼光に向かって投げたのだ。ライトはネズハと違って《投擲》スキルを取得していない為、システムアシストは働かない。しかし、剣では届かない距離を一瞬で縮めるには、この方法しか思いつかなかった。投擲された大剣は回転しながら一直線に巨像の左眼へ迫り、命中した。

 

 

「ガアアアアァァァァァァ!!!??」

 

 

一か八かの賭けだったが、どうにか成功したようだ。まさかの攻撃に不意を突かれ、巨像は悶え苦しむ。そして、ライトはその決定的な隙を逃さず、声を張り上げた。

 

「キリト、最後はお前が決めろぉぉ!!!」

「おう! 任せとけぇ!!」

 

叫び返したキリトは、猛然と地を駆けた。彼が装備する片手直剣《ソード・オブ・イヴェンタイド》は、ライトの大剣には劣るが、それでもAGI+7と中々に高いマジック効果を持っている。底上げされた素早さを駆使し、助走をつけて湾曲する壁に飛び移る。

 

そして、そのまま走り続けて一気にジャンプした。跳躍した先には、左眼を潰されたフスクスの顔があり、キリトは剣を左脇に構えた。途端、その刀身に光が立ち上がる。

 

「これで……終わりだああぁぁぁ!!!!」

 

 

「ヴォアアアアァァァァァァ!!!??」

 

 

片手直剣4連撃ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》が、額に位置する紋章を斬り刻んだ。4回の斬撃を受け、紋章は光の粒子となって消滅し、赤く光る両目が点滅を始める。同時に、身体中のラインも激しく光り輝き、第5層ボス《フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス》は、無数のポリゴンとなって爆散した。

 

大量の光の粒子が収まっても、誰も声を発しない。すると、ボス部屋のデータが変換されたのか、どんどん様変わりし、床のタイルが迷宮区と同じブロックとなり、天井からゆっくりと何かが降りてきた。それは、石造りの螺旋階段だった。

 

「……終わった」

 

不意に囁かれたその言葉に、急造パーティーから特大の歓声が上がった。

 

『やったああぁぁぁぁ!!!!』

 

フロアボスが倒され、誰も欠ける事なく作戦が成功した。地面に着地したライトは、漸く終わったと安堵の息を吐き、肩の荷を降ろして片膝をついた。すると、そんな彼の視界に白い手が映り込んだ。

 

「お疲れ、ライト!」

 

そこには、満面の笑みで手を差し伸べる黒紫髪の少女、ユウキの姿があった。その笑顔で、ライトは本当にフロアボス討伐が成功したのだと、改めて実感したのだった。

 

「……あぁ」

 

そして、彼はその手を取り、立ち上がった。

 

 

 

2022年12月31日土曜日、午後17時46分、キリトとライトによって立てられた作戦は、急造パーティー12人の手により、1人の犠牲者も出す事なく討伐に成功し、幕を閉じたのだった。

 

 




大剣のリスクに苦しめられるも、どうにか仲間の協力のお陰で倒す事が出来たオリ主でした。原作では、リーテンがシヴァタを助けようと口の中に入りましたが、オリ主の見せ場を作りたかったので変更しました。


次回で、《冥き夕闇のスケルツォ》もラストとなります。そして、遂に奴らがオリ主の前に姿を顕現させます。

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