全く書く気が起きなかった為、ずっと放置していました。今回から第6層《黄金律のカノン》へ突入します。
黒ポンチョの男達に襲撃されたライトは、対策の為に3人と話し合います。
今後の対策
2023年1月1日を迎え、ALSとDKBの親睦を深める会の《カウントダウン・パーティー》が無事に終了し、《カルルイン》は嘘のような静けさを取り戻した。
全ての花火が打ち終わり、古代遺跡のテラスで眺めていたライト達は、その足で転移門へ向かい、昨日に解放されたばかりの第6層に登った。印象としては、遺跡がテーマだった5層とは異なり、街の隅々がきちんと整えられた、清潔感ある街並みだった。
既に午前0時を回っている街並みは人気を感じさせず、それとなく辺りを見渡してしまう。街灯が少ない通りを歩くライトは、周囲の警戒を怠らずに歩いていた。それこそ、フィールドを移動する時以上だ。
古代遺跡の城内を移動中、遂に姿を現したローテム達のボス《黒ポンチョの男達》に待ち伏せを受け、一戦を交えるも取り逃がした。奴らの詳細な戦闘能力は掴めなかったが、それ以上に巧みな《話術》が厄介だと分かった。奴らの手に掛かれば、相手を《操り人形》にする事など造作もない筈だ。
「ライト、どうしたんだ?」
周囲の警戒を続ける彼に、前を歩くキリトが声を掛けた。安全な《圏内》を移動しているのに、周りに注意を払う彼の姿は、端から見れば不自然だ。
「さっきからずっと周りを気にしてるぞ。何があったんだよ?」
キリトの後ろに目をやれば、ユウキとアスナもライトの行動を不審がっていた。古城での襲撃をまだ話していない彼だが、秘密にするつもりはない。と言うより、奴らの標的にはキリト達も含まれている筈な為、秘密にしたままの方が危険だ。
「……ここだと話が少し長くなる。宿で話そう」
その提案に、3人は間を置いて頷いた。人通りが少ないとは言え、外ではゆっくり話せない。4人は再び歩き出し、薄暗い街を進み続けると、街を見渡す少女達が話し出した。
「それにしても、5層の《カルルイン》と全然違うね?」
「清潔感はあるけど、なんだか落ち着かないわ……ねぇ、キリト君。これ何なの?」
後ろを振り向いて、アスナは足元を指差した。街の地面には、建物と同じ素材のタイルが並び、そこにはアラビア数字が刻まれていた。
「ああぁ……ほら、ここのラインが太くなってるだろ。これと同じ奴は他にもあって、9×9の81マスに区切られてるんだ。みんな、こういうのを見た事ないか?」
「ナンバープレイス、だな?」
数字を1から大きい順にマスに並べる遊びだと納得したが、それは街の地面全体に続いていると思われる。転移門広場に飽き足らず、ずっと見えるのだ。
「ねぇ、これって幾つあるの?」
どこか苦い表情を作り、ユウキが訊ねる。
「βと変わってないなら、81マスのセットが縦横27個ずつで、転移門で欠けてるから、合計で728個」
「「ななひゃく…」」
愕然となる数字だった。それ程のナンバープレイスを解こうと思ったら、一体何十時間かかるのか想像できない。いや、それを考える事すら苦に思える。
「βの時は、攻略よりもナンプレを優先した奴らが居てさ。そいつらはみんな《ナンプラー》って呼ばれてたよ」
「5層の《ヒロワー》に続いてかよ」
「ナンプラー達はこれを解こうと躍起になって、奥の手のプログラムに解かせたんだ。現実世界に戻ってを何度も繰り返して、テスト終了の1時間前にクリアしたんだ。ほら、81マスの中で1つだけ、タイルの色が濃いだろ?」
目をやれば、確かに1つのマスだけ色が濃いタイルが見られる。
「そこに入る数字が何かのキーなんだ。戦いの果てに、ナンプラー達は728個のキーナンバーを手にして……」
そこで言葉を区切り、アスナとユウキは少しの興味と共に続きを待った。ライトも、その結末が気になった為、耳を傾けた。
「おしまい」
「「へっ?」」
「その数字をどうするのか、誰も分からなかったんだ。テストが終了するまでの1時間、ここにはパンツ1枚で踊り狂うナンプラー達の姿があったとさ」
昔話の語り部の如く、話を終わらせたキリトだった。
その後、3人はキリトの案内で宿に入った。
扉を開けて中に入り、カウンターに立つNPCに声を掛ける。シングルベッドが2つある部屋を取り、2階へ上がった。そして、1番右側の部屋とその手前に、アスナとユウキ、キリトとライトが宿泊する形となった。
扉には広場と同じナンバープレイスが設置され、それを解かないと入れない仕組みらしい。キリトのアドバイスで楽々と解き、女性陣の部屋で話を行う事になった。
シングルベットが2つとソファーセットに、ライティングデスクが置かれていた。4人は向かい合うようにベッドに座り、ライトが口を開くのを待っている。彼はひと息つくと、話し始めた。
「……今から約3時間前、オレは古城で、ローテム達を率いるボス《黒ポンチョの男達》に襲撃を受けた」
「「「っ!!?」」」
彼の第一声に、3人の目が驚愕に染まった。《アインクラッド》で暗躍するPK集団の親玉が、遂に動き出したとなれば、驚くに決まっている。
「だ、大丈夫だったの、ライト!? 怪我とか!!」
「落ち着け。無事だったから、今ここに居るんだ。奴らは2人組で襲撃してきた。戦闘能力までは分からんが、オレの《索敵》をも欺く《隠蔽》を取得している」
「なっ!?」
その言葉に、キリトは酷く愕然とした。現状、彼の索敵はライトに勝るとも劣らないレベルだ。つまり、襲撃を受ければ、ライト同様に《索敵》スキルでは見つけられない。
「本格的に動き出したって事か!」
「そうだ。今後奴らは、オレ達を排除する為に凡ゆる手段を使ってくる筈だ。こっちも手を打たないとな!」
「手を打つって言っても、具体的にどうするの?」
今後の為の対策を考えるにしても、具体的な内容は何なのかと、アスナが問いかけた。俯く彼の様子に、キリトは凡そ察しがついている様子だ。
「PvP…《対人戦》の訓練をする!」
3人の、主に少女達の表情がほんの少しだけ硬くなった。第5層に登ったその日に、それぞれ少年達とデュエルをする事になったが、彼女達は剣を交える事さえ出来なかった。しかし、奴らに対して僅かでも隙を見せれば、あっという間に殺られてしまう。
「あぁ、俺も同意見だ。奴らに対抗するには、それが1番手っ取り早い!」
キリトはβ時代に対人戦を経験しており、ライトも3層で経験している。しかし、少女達はお風呂でアルゴと《チャンバラごっこ》をしただけで、本当の意味で剣を向け合った訳ではない。
ユウキに至っては、ローテム達に殺されかけている。その時に感じた《恐怖》が、今も彼女の心に巣食っているのなら、厳しいかもしれない。
「アスナ、ユウキ、PvPが嫌いなのは分かる。けど、もうそんな事を言ってられる状況じゃなくなった。だから……覚悟を決めてほしい!」
「奴らは本気で、オレ達を殺しにかかってくる。防戦一方のままじゃ、殺られるのはオレ達だ」
厳しい事を言っているかもしれないが、彼らの言い分は的を得ていた。このまま問題を先延ばしにすれば、取り返しのつかない事態に発展する。
だが、少女達もそれは分かっていた様子で、互いに小さく頷き合い、決意を秘めた瞳と共に少年達に向き直った。
「分かってるわ。私達も、このままじゃ駄目だって思ってたし、何時までも駄々をこねる訳にはいかない!」
「うん。ウジウジしてる暇があるんなら、真っ先に動くべきだよね……その為にも、もう怖がってなんていられない!」
彼女達の瞳には、初めてPvPを体験した時の《恐怖》は映っていなかった。そして、その返答を聞き、少年達は頼もしさから笑みを零した。やはり、どんな困難も弱音を吐かずに、真っ直ぐ突き進む心が、彼女達の強さなのだろう。
自分達の配慮は杞憂だったと思い、ライトは小さく息を吐いた。アスナは兎も角、地下墓地でローテムに殺されかけたユウキが少し心配だったが、アルゴとの《チャンバラ》で、何かに気付けたのかもしれない。すると、今度は横からキリトが声を掛けてきた。
「後は…ライト、お前の新しい剣を手に入れないとな?」
「…そうだな」
第5層ボス戦で使用した《ソード・オブ・カイザー》は、圧倒的な攻撃力と機動力を手に出来る代償として、使用者の《防御力》を奪う。そんな武器を簡単に使わせる訳にいかない為、新しい剣が必要となる。しかし、今も背中に装備されている《エルブン・エンピレオ・ブレード》で、第6層を攻略するのは難しい。
「店売りの剣はどんな感じだ?」
「う〜ん、この層は特にめぼしい物は無かった、かな。あったとしても、ドロップアイテムか報酬アイテムの方がレアだからな。」
NPCのお店で買える武器の性能は普通で、レア物は値段が高い。比べて、モンスターからドロップされるアイテムか、クエスト達成での報酬アイテムは危険な分、魅力的な武器が多い。ハイリスク・ハイリターンという奴だ。
「でも、この《スタキオン》と次の街の《スリバス》には、報酬が片手剣のクエストは無かった筈だ」
「…そうか」
キリトの言葉に、ライトは残念そうな様子を見せた。しかし、すぐに切り替えて、他に手に入れる方法を考える。主街区と次の街にも無いなら、下層に降りてクエストを探す案もあれば、背中にある剣を素材にして、新しい剣を造る手もある。その考えを3人が思い付かない筈がなく、ユウキが問いかけた。
「じゃあさ、3層の鍛治師さんに《武器作成》を頼んで、その剣を新しくするのは?」
名案と言った様子で話す彼女の横で、アスナも同じ表情をしていた。だが、ライトは目を瞑ると、首を横に振った。
「…それも考えたけど、気が進まないんだ。頼めば造ってくれる筈だけど、感覚的な部分でしっくり来ない」
ライトはそう言って、装備する《エルブン・エンピレオ・ブレード》の柄に手を添える。ライトの手に馴染まない訳ではないが、大した手応えも感じない。それに比べて、《ソード・オブ・カイザー》は確かな頼もしさを感じる。数値的な違いもあるが、握った時の感触に明確な差があるのだ。
「それなら、やめた方が良いわね。キズメルも言ってたけど、あの人は『不心得な注文』じゃ、なまくらしか出来ないみたいだから、しっかりとした覚悟が必要ね!」
不心得な注文には、自分の明確な意思も含まれると、アスナは思っているようだ。少しでも迷いがあるなら、それは剣に現れる。ゲームの世界なのに、そう思えて仕方がない。
「兎に角、他の方法を探してみる。最悪見つからなかったら、アルゴに情報を求める」
クエストの情報が見つからなかった場合、アインクラッドで最も優秀な情報屋《鼠》に頼るのが、最終手段と判断したようだ。3人も彼の決断に頷き、続きの話はまた明日にする事となった。
翌朝、起床アラーム音で目が覚めたライトは装備を整えて、キリトと一緒に部屋から出た。そして、同じく隣の部屋から出た少女達と鉢合わせ、一先ず朝食にしようと、1階のレストランへと階段を降りた。入り口を通ると、NPCの店員が『おはようございます、いらっしゃいませ!』と笑顔で愛想よく挨拶をする。
ライト達は軽く会釈すると、奥まったテーブルの椅子に腰掛ける。適当に注文を済ませてゆっくりしていると、5分も掛からずにモーニングセットが届いた。ナイフとフォークで口に運ぼうとすると、不意にアスナが呟く。
「ねぇ、気になったんだけど、どうしてスタキオンってこんなパズル尽くしなの?」
「あー……それは、この層のテーマが《パズル》だからさ!」
向かいに座るキリトがナイフの手を止めて言った瞬間、アスナとユウキの目が点になった。
「…それって、この層全体がパズルになってるの!?」
「イエス。ダンジョンはパズルギミックが満載で、βの時は好き嫌いのプレイヤーがハッキリしてたよ!」
「面倒くさっ!」
テーブルに頬杖をつき、ライトが小さく呟いた。窓から見える主街区の景色を呆然と眺め、その先に立ちはだかるフィールドのパズルギミックを想像していると、正面からユウキが声を掛けた。
「ライトはさ、パズルは好きじゃないの?」
「嫌いな訳じゃないが、別に好きでもない。ユウキは?」
「ボクも普通かな。閃くのちょっと時間が掛かるし、姉ちゃんやアスナの方が速いから!」
「そう言えばユウキ、『助けて〜!!』って言って、私達に抱きついて来たっけ?」
「あ、アスナ! その話は止めてよ!」
クスクスと笑うアスナと、恥ずかしそうに肩身を狭くするユウキの姿は、本当に仲が良い姉妹だ。それは良い事だが、パズルギミックが搭載されたフィールドを攻略すると思うと、少し憂鬱だ。
不得意な訳ではないが、大して得意でもない。今までの層よりも攻略に時間が掛かるかもしれない。そう考えると、ため息を吐きたくなるのだ。加えて、更に面倒な事が予想される。すると、アスナがその考えを察したように代弁した。
「だけど、フロアのテーマがパズルなら、当然ボスもそうなんでしょ?」
「ご名答。見た目は手足が生えたルービックキューブみたいな奴で、攻撃すると回転して、全面が揃うと装甲が崩れるんだけど、みんなが闇雲に攻撃するから、全く揃わなかったよ!」
βの記憶を探りながら話すキリトに、フォークの手を止めたアスナが渋面を作って口を開いた。
「それ、キバオウさんとリンドさんが戦闘の指揮で揉める未来しか想像できないんだけど? どうせフロアボスも、βから変更されてるだろうし」
その推測は、3人も否定する事なく頷いた。それは、今までに行われた《戦い》が物語っている。この層だけ変更点は無いと言われても、到底信じられない。苦戦は免れない筈だが、1つだけ方法がある。しかし、現段階でそれは行使できない。
「あの旗が使えれば、まだマシかもしれないけどな。」
「それは同感!」
ライトの呟きに、キリトが秒で頷いた。キリトのストレージにある《フラッグ・オブ・ヴァラー》が使えれば、今後に待ち構えるフロアボスも、苦戦せずに倒せる可能性がある。旗が2本あればすぐに譲渡できるが、生憎と1本しかない。
「どっちかに譲れば、もう片方が崩壊するのは決定だ。攻略組の戦力が半減するのは、絶対に避ける必要がある。でも、ストレージで腐らせておくのも勿体無い。なにせ、4種類もバフが掛かるんだからな!」
「4種類も!?」
ユウキが思わず、声のボリュームを上げて言う。彼女は慌てて口を塞ぐが、幸い他のプレイヤーは居なかった。ライトが持つ大剣でも、3種類のバフが付与されるのに、それ以上と聞けば驚くのも無理はない。
「具体的にどんなバフが掛かるの?」
「攻撃力上昇、防御力上昇、CT短縮、全デバフ耐性上昇」
「「うわあぁ…」」
少女達の顔が引きつり、思わず唸り声が漏れる。ライトも内心で、そのずば抜けた性能に感嘆していた。何より大剣と違って、フラッグには《デメリット》が1つもない為、扱いやすさが長けている。
「数値的にはライトの剣と違って微々たる差だと思うけど、対象の人物と時間が無制限。しかも、もっとヤバイのが、ギルドフラッグが武器扱いで、強化試行上限数が設定されてるんだ」
「因みに何回だ?」
「…10回」
まさかの数字に、少女達の表情が固まった気がした。すると、ユウキが恐る恐る口を開いた。
「って事は、強化したら武器の性能だけじゃなくて…」
「バフの効力も上がるんだろうな……本当に恐ろしいよ」
そこで話を区切ると、キリトは更に残っている料理を食べ始める。これだけ強力な性能を持っているにも関わらず、よくキバオウは条件に従ったと思える。いや、これ程の性能を誇っているから、素直に従ったのだろう。最終的な2大ギルドの目的は一致している為、アイテム1つで関係を悪化させたくない筈だ。
「兎に角、ギルドフラッグを有効活用する方法を考えないとね。リンドさんが何か、建設的な意見を出してくれると良いけど…」
「そうだね!」
今日の午後12時30分に、彼らはDKBリーダーのリンドと交渉する予定となっている。シヴァタからのメッセージでは、同伴する中にはサブリーダーのハフナーも居るのだとか。ALSとは違い、少数で交渉を予定している辺り、無理やり奪うのは考えにくい。そもそも圏内で行う為、それすら難しい。
すると、皿に残るパンくずを口に放り込んで食べ終えたキリトが、今後の予定を提案してきた。
「この後の予定だけど、スタキオンを回って受けられるクエストを全部受けるか、昨日言った対人戦の訓練をするかだけど……どっちが良い?」
すると、少女達は迷う素振りも見せず、即座に答えた。
「訓練が良いな。後回しにして、後悔したくないから」
「ボクも同じだよ。昨日、覚悟は決めたから」
まだ心のどこかで躊躇している部分がある筈だが、彼女達の瞳からそんな様は感じられない。
「なら、人目につかない場所でやろう。盗み見でもされたら、逆効果かもしれないしな?」
「…どこか宛てがあるのか?」
「まあな!」
キリトは3人を前に、ニヤッと笑った。
次回、3層に降りた4人が無愛想な鍛冶師と、とある会話をします。