しかし、そこでは思わぬ敵との遭遇が待ち構えていた。
昼食を食べ終えて会計を支払うと、ライトとユウキは道具屋を訪れ、回復用と解毒用ポーションの補給を済ませ、《ガポスの村》から出発した。数m先にそそり立つ、北側フロアを隔てる山脈に沿って進むと、フィールドボスが待ち構えていた1本道が見えた。
僅かに靄が掛かって視界が霞むが、それでもモンスターとの戦闘は問題なし、接近しても《索敵》スキルで探知が可能な為、油断しなければ大丈夫だ。
「ライト、鍛冶屋さんが言ってた洞窟ってさ、迷宮区タワーの少し離れた場所にあるんだよね?」
「そうだ。地下2階まであるみたいだがら、少し時間が掛かるかもしれない。こんな事なら、この層の攻略時に調べておけば良かったな」
2大ギルドが迷宮区タワーの攻略に勤しんでいた中、ライト達は《エルフクエスト》を進めて、フロアボス戦に必須の情報を集めていた為、目的地の洞窟があるのは知っていたが、細部までは調べていない。
その為、洞窟の構造がどうな風なのか分からない。目的の鉱石は最奥地の為、手に入れるには時間が掛かると予想される。そんな事を考えながら、ライトはユウキと共に進み続け、漸く山脈に挟まれた道を抜けた。
「ここのフィールドボスでも、キバオウさんとリンドさんが指揮で揉めてたよね? その所為で、ちょっと危なくなった場面もあったし」
「そうだったな。でも、ユウキとアスナが新しい剣で、存分に暴れまくってくれたお陰で、乗り切れたしな!」
「ちょっ、暴れまくったって何さ!?」
「いや、実際そうだっただろ?」
彼の一言に、ユウキは声を上げて反論する。膨れっ面を浮かべる彼女だが、ライトは頭上に疑問符を浮かべる。フィールドボス戦を思い返しても、少女達の恐ろしい猛攻撃を前に、逆にモンスターが可哀想に思えた程だ。
しかし、そんな事を言ってしまうと、ユウキからレーザーの様な睨みを受けるだけでは済まないので、黙っておくのが賢明だ。ライトはそう考え、前方に広がる樹海に目をやった。
右手に見えるのは、次層に続く迷宮区タワーで、洞窟は左手の森の奥にポッカリと口を開けている筈だ。霧は晴れ、視界を遮るのは巨大樹の森だけだ。2人は進路を左手に進もうと、再び樹海に足を踏み入れた。
「…ここが目的の洞窟か」
山脈を越えてから30分以上も歩き続け、2人は漸く洞窟に辿り着いた。視界左端の時刻を確認すると、13時15分と表示されていた。手早く済ませて、キリト達と合流しようと思い、ライトは前を見る。
入り口が思った以上に狭く、天然系ダンジョンな為、明りを灯す松明が必要だ。ウインドウを開いて、アイテム欄から松明を取り出し、2人は暗闇に続く入り口へ踏み込んだ。
《エルフ戦争キャンペーン・クエスト》で討伐した《ネフィラ女王》が住処としていた天然系ダンジョンのように、松明が無いと前に進めない程に視界が悪い。今のところはモンスターが湧く気配はないが、警戒しながら移動を続けると、後ろに続くユウキが声を掛けた。
「以外に狭いね。もうちょっと広いって思ってたよ」
「そうだな。まっ、このダンジョンは鉱石以外にも、宝箱があったり、経験値効率が良いって話みたいだ」
「お宝!! ホント!?」
《宝》というワードに食いつくユウキを見たライトの脳裏に、第5層で遺物拾いに夢中になっていた彼女の姿がフラッシュバックした。楽しそうに探す姿は、見ていて微笑ましいが、ライトは少し微妙な顔で言った。
「けど、もう開けられてると思うぞ。サービスのメンテがされてたら、話は違うだろうけど」
「上げて落とすって酷いよ!!」
そんな会話をしながら、2人は奥へと進み続けた。
迷宮区タワーがある北側フロアは、モンスターのレベルが高く設定されており、この洞窟も例外ではない。湧出したモンスターとの戦闘でも、攻略に多少の時間が掛かった。しかし、やはり適正レベルを大きく上回る彼らの猛攻に、耐えられる筈もなかった。
その後も、何度か遭遇したモンスターを倒し、複数の通路を行き来した。だが、その先は行き止まりが多く、宝箱が置かれていた痕跡が残っているだけだ。淡い期待を裏切られ、肩を落としてため息を吐くユウキを、ライトが励ましながら進んだ。
洞窟での戦闘は比較的、視界が薄暗いので地上より注意が必要な上に、地面が凸凹で足元にも警戒を忘れてはいけない。こんな時は、魔法で周囲を照らして戦いやすくしたいが、言っても詮無い事だ。そうして探索を続け、漸く地下2階に続く階段を見つけた。
「やっと見つけた。行き止まりが多い上に、宝箱も空っぽなんて最悪だよ!」
「仕方ないだろう、そういう構造なんだ。さっさと鉱石を持って帰って、キリト達と合流しよう!」
「うん!」
ユウキが力強く頷くと、ライトが先頭に立って階段を降り始めた。洞窟内で反響する足音を聞きながら、1段ずつ足を進めていく。そして、30段ほど降りると、地下1階とは打って変わり、広大な空間が待ち構えていた。水が落ちる音しか聞こえない静かな場所を、2人は警戒しながら進んだ。
そこから更に、2人は1時間以上も掛けて、地下2階の最奥地で取れる鉱石を求めて、探索を続けた。地下1階に湧出したモンスターよりも強力に設定されているのか、攻撃力も防御力も侮れなかった。加えて、足元にも注意が必要だ。
足を取られないよう上手く立ち回り、ライトが前衛で攻撃を弾き、スイッチで入れ替わると、ユウキがソードスキルでトドメを刺す。更に、ライトは遠距離からでも《投剣》スキルを使い、ヘイトを自分に向けさせる。そして、注意が逸れたタイミングで、ユウキが不意を突く。
しかし、投擲武器のナイフには制限があり、ネズハが持つチャクラムのように戻ってこない。数に限りがある以上、使うタイミングは考える必要がある。その為、基本的には剣での戦闘で、投擲は不意打ち時に使用する。その流れで戦闘を進め、グングンと奥へ突き進むと、前方に光る何かが見えた。
「ライト、あれ見て!」
「あぁ。もしかしたら、お目当の鉱石かもしれない!」
2人は光の正体が何なのか突き止める為、ゆっくりと近付いてみる。そこには、淡いブルーの光を帯びた鉱石が複数、岩の壁に存在していた。まるで鉱石自体が発光しているのか、周囲を淡い青が包んでいるように見える。美しい光景に思わず見入ってしまうが、なるべく早く採掘して持ち帰る予定なのだ。
「綺麗な鉱石……ねぇ、これってお店で売ったりも出来るのかな?」
「まぁ、トレード出来る店ならある筈だ。例えば、生産職のNPCかプレイヤーにコンタクトして、違う素材やアイテムと交換したりとかな。生産職のプレイヤーにとっても儲け話だから、持ちつ持たれつみたいな関係だな」
「そう言えば、リーテンさんも知り合いの鍛冶屋さんに鎧を造ってもらったって言ってたね。機会があったら、会ってみたいなぁ」
そんな話し合いをしながら、2人は更に奥へ進む。鍛治師が言うには、『質の良い鉱石は、もっと奥に眠っている』との事だ。右手の壁から薄っすらと輝く淡い青色の光を受け、ライトを奥に足を踏み入れる。すると、より一層に光り輝く巨大な鉱石が見えた。
「鍛冶屋さんが言ってた鉱石って、多分これだよね?」
「間違いないな。さて、やるか!」
ライトはそう言うと、ウインドウを操作する。そして、アイテム欄を開くと、数ある中から1つを選んでタップした。すると、彼の左手に全長90cmのツルハシが出現した。洞窟に向けて出発する際、鍛治師から必要だと言われた為、貸してくれたのだ。
「鍛冶屋さんも、ツルハシとか持ってるんだね?」
「自分で素材集めをする時に使ってるのかもな。まぁ、貸してくれたのはだいぶ助かった」
「あの人、見た目が無愛想なだけで、実はとっても優しい人なんだね?」
「…そうだな」
出発する時に、彼が『これを持っていけ』と言ってくれた事を思い出しながら、ライトは作業を進めた。ツルハシで岩と鉱石の接着面に目掛けて振り下ろすと、そこから亀裂が走り、叩くたびに広がっていく。鉱石を傷つけないように何度も振り下ろし、10回目で岩から剥がれた。
「取れた!」
「必要な数は1個で良いのかな?」
「…一応、もう2〜3個は取っておこう。何かに使えるかもしれないしな」
ユウキにそう答えると、ライトは剥がれた鉱石をストレージに仕舞い、次を入手しようと再び振り下ろす。カツン、カツン、と洞窟内に響く音を聞きながら、鉱石を何個か剥がす。
そうして、次で最後にしようと決め、近くに見える鉱石に近付こうとした
ーーーその時
コツ、コツ、コツ
「「っ!?」」
小刻みな足音が届き、サッと辺りを見渡す。音の発生源を探ると、どうやら自分達が通ってきた方向とは反対の、更に奥から響いていた。しかも、1つではなく複数の足音がどんどん近付いている。その数秒後、洞窟の奥からヌウッと、4つの人影が姿を見せた。
「おい、鉱石はもう十分集めた……何者だ貴様ら!?」
洞窟の奥から現れた正体に、ライトとユウキは目を見開いた。2人の前に現れたのは、下に垂れた長い耳が特徴の《フォールン・エルフ》だった。中央に立つ重装装備のエルフが腰にある片手剣を抜刀し、叫び声を上げる。それに続いて、3人もそれぞれの得物を引き抜く。
「何で、フォールン・エルフがここにいるの!?」
「知らん!」
ライトとユウキも、それぞれの得物に手を掛けて、引き抜くと同時に構えを取る。そして、中央に立つリーダーらしきエルフに視線を送ると、奴の頭上に少し薄い赤色のカーソルが表示された。
【Darren:Fallen Elven Platoon Leader】
直訳して、フォールンエルフの小隊長と呼ぶのだろう。他の3人に視界をフォーカスすると、それぞれのカーソルは小隊長より薄いピンク色だった。すると、その小隊長がライト達が装備している指輪を見て、目を細めた。
「その指輪の紋章は黒エルフの……貴様ら、リュースラの民に力を貸している人族の剣士だな。どうやってこの場所を突き止めた!?」
そう聞かれても、ライト達は答える事が出来ない。ここには、ただ新しい武器を造るのに必要な鉱石を取りに来ただけだ。むしろ、フォールン達と遭遇して驚いているのはライト達の方だ。
「答えんつもりか。ならばその身柄を確保して聞き出すまでだ。行くぞおぉぉ!!」
「「「はっ!!」」」
小隊長の号令に反応し、奴らが襲いかかる。ライトは素早くユウキに目配せして、迎撃の準備を取った。人数はあちらが上だが、レベルの差はかなり大きい筈な為、油断しなければ問題ない。
「レベルはそこまで高くはないが、油断はするなよ!」
「ライトこそ、気を付けてよね?」
「誰に言ってるつもりだ、問題ない!」
不敵な笑みと共に、ライトは小隊長と1人の部下に狙いを定め、ユウキから距離を置く。そして、壁を背にして背後を取られないようにした。敵に挟まれる事は1番に避ける必要がある為、まずは自分の死角を無くす。必ず、自分の視界に相手が映るように陣取るのだ。
両サイドに挟み込んだ小隊長と部下の1人が剣尖を向け、距離を詰める。刹那、ライトは小隊長に腰に装備していた投擲ナイフを投げつけ、自身は部下に狙いを定めた。
上段からの振り下ろしを回避し、その横腹に横薙ぎの斬撃を与え怯ませる。更にそこから間合いを詰め、2撃目、3撃目とダメージを蓄積させる。
「グアアァッ!!?」
「貴様あぁぁ!!」
憤怒の如き表情を見せる小隊長が、ライトを斬り裂こうと剣を振りかぶる。それに対し、ライトは斬撃を叩き込んだ部下の背後に回り込み、小隊長の方向に蹴り倒した。
「ウワアァッ!?」
「っ!?」
小隊長は地面を転がる部下に気を取られ、ライトから一瞬だけ視線を逸らしたが、それが悪手だった。再び彼を視界に捉えようとしたが、ライトの姿が忽然と消えていた。姿を探そうと周囲に目配せした途端、上空からキイィィンという高音が届いた。
「はあぁ!」
「ヌアアァッ!?」
部下に気を取られた隙に、ライトは上に飛び上がり、空中で単発ソードスキル《バーチカル》を発動させ、落下する威力も加えて、ガードを試みた小隊長を吹き飛ばした。そして、硬直が切れるとすぐに動き出し、倒れている部下に2連撃ソードスキル《バーチカル・アーク》を与えた。その攻撃を受け、フォールンの1人はポリゴンとなった。
「お、おのれえぇぇ!!」
上段からの斬撃に吹き飛ばされた小隊長が歯軋りと共に、憎々しい目付きを飛ばす。それを真正面から受けながらも、ライトはユウキに視線を送った。彼女も殆ど苦戦しておらず、圧倒的な速さで敵を翻弄して攻撃を与えている。
「やああぁぁぁ!!」
「ガアアァァァ!!?」
素早い身のこなしと剣技の速さに押され、フォールン達は着いていく事が出来ず、発動させた3連撃ソードスキル《シャープ・ネイル》で1人を斬り裂いた。仲間がポリゴンとなって消滅した事が分かり、もう1人が怒号と共に斬りかかる。
「小娘が、調子に乗るなあぁぁ!!!」
硬直を課せられているユウキに向けて、直剣を真上から振り落とそうとする。しかし、ライトが黙って見逃す筈がなかった。
「ふんっ!」
「アアアァァッ!!?」
無防備に晒すフォールンの背中に向けて、刀身に光を纏わせた斬撃が横一文字に振るわれた。その斬撃を受け、フォールンは呻き声を上げるが、ライトは気に留めず奴の正面に回り込み、《ホリゾンタル・アーク》の2撃目を与えた。2本の赤いラインが刻まれたフォールンのHPが、一気にレッドゾーンまで低下し、小隊長の元へ斬り飛ばされた。
「貴様らよくもおぉ!!」
「先に仕掛けてきたのはそっちだ。お前らは、どうやってこの場所を突き止めたと聞いたが、オレ達は単にこの洞窟の鉱石を取りに来ただけだ。お前らこそ、一体ここで何をしてるんだ?」
降りかかる火の粉は払うだけと、ライトはユウキを背に隠して答える。しかし、彼には気になる事があった。これは自分達が進めている《エルフキャンペーン・クエスト》の一環なのかと。だが、クエストが発動した様子はない。
「リュースラと組んだ薄汚い人族に教える事など何もない! 我らの目的の邪魔はさせんぞぉ!!」
話し合いは無駄だと言わんばかりに、再び剣を構えて迎撃の準備を整える。そして、部下の1人も起き上がり、小隊長と並び立つ。そんな中、ライトはチラッとユウキに視線を送った。このまま戦闘を続行するか迷っていたが、彼女の瞳から撤退する意思は感じられなかった。
奴らがこの場所で、一体何をしているのかを突き止める必要があると考えたのだろう。第4層のヨフェル城の時も、水運ギルドから大金と引き換えに木材を入手し、船を製造して森エルフに攻め込ませた。
また似たような事を仕掛けるつもりだと勘付き、その真相を探ろうとしているのだ。実際、ライトもフォールンがここで何をしているのかは気になる。小隊長がポロっとヒントらしき事を言ってくれると、淡い期待を抱いたが、そう上手くいく筈もない。
その時、またも洞窟内に先程よりも多い人数の足音がライトの耳に届いた。瞬間、小隊長と部下がニヤッと薄ら笑いを浮かべた。
「ダレン小隊長、何かあったのです…何だ貴様ら!?」
現れたフォールンの増援の1人が、腰の剣に手を掛けながら叫び上げる。それを合図に、駆け付けた8人のフォールン達もそれぞれの得物を抜く。個々のカーソルの色は薄いピンク色で、手こずる相手ではない。しかし、小隊長達も合わせると合計10人な為、囲まれれば厄介な事になる。
幸い、脱出経路は確保している為、逃げようと思えば何時でも逃げられる。チラッと背後を見て、遮るものが何もない事を確認し、再びフォールン達に目を向けた
ーーーその時
「っ!!?」
これまで何度も感じた嫌な悪寒が、ライトの全身を駆け巡って震わせた。それと同時に、周囲への警戒度を全開まで引き上げ、フォールン達を見据える。すると、ゆっくりな歩調で近付く足音を捉えた。その足音がぐんぐんと迫り、残り数mまで着いた時、優美で落ち着きのある、澄んだ声色が耳に届いた。
「どうしたのだ?」
姿を見せたのは銀色に輝く瞳を宿し、灰色の長髪をポニーテールで結び、腰には細い剣と軽装の鎧を装備した美しい女性騎士だった。途端、フォールンエルフ達は左右に分かれて道を作り、女性騎士はそこを通る。
ライトは油断なく彼女を見据え、カーソルを確認する。そして、舌打ちと共に顔を顰めた。隣に立つユウキも、思わず我が目を疑うように見開く。現れた女性騎士のカーソルは、小隊長とは比べ物にならない程の濃い赤色を示していた。
【Cecil:Fallen Elven Regimental Commander】
見覚えのない単語だが、一切の油断が出来ない相手だという事は分かる。ユウキを背に隠したまま、ライトは女性騎士に警戒度を全開に維持する。すると、最初に現れた小隊長が、ライト達を指差して早口で言った。
「セシル連隊長、奴らはリュースラの民に与する人族の剣士どもです。既に部下も2名ほど殺られてしまいました。御指示を!」
「…確かに、リュースラに与する剣士というのは本当のようだな」
女性騎士セシル連隊長は2人の指輪を見て、優美な美声を放った。銀色の双眸がライト達を捉えて離さないかの如く、彼女は真っ直ぐに目を向けている。
「こんな子供達を頼るとは、リュースラも秘鍵を守るのに形振り構っていられないという訳か。しかし、それはこちらも《同じ》か……さて、悪いがお前達を見逃す訳にはいかない。こちらも被害を被っているのでな。リュースラに力を貸しているのなら、我らの大願成就の妨げは排除する必要がある」
彼女はそう言って、鞘に収めるレイピアの柄を握る。ゆっくりな動作で引き抜かれた刀身が、彼女の瞳と同じ銀色の輝きを放つ。鋭く華奢な一振りだが、その冴え冴えとした煌めきは業物の質感を覚えさせる。そして、所有者の彼女もまた、相当な技量を持つと会った瞬間に分かった。カーソルの色もそうだが、隙のない構えからは強い圧迫感を覚える。
「参る!」
「来るぞ!」
「うん!」
刹那、女性騎士セシルがレイピアを構え、ユウキと同等の速さで接近して鋭い突きを放った。2人は左右に別れて回避し、追撃をさせない為に迎撃の準備を整える。すると、セシルはライトを標的に捉え、間合いを詰めて突き技を仕掛ける。
しかし、ライトは攻撃が迫る前に距離を取り、放たれたレイピアの剣尖を横から弾く。だが、相手はすぐに剣を引き戻して連撃を見舞う。それをバックステップで距離を取りながら回避するが、レイピアの特性上、刺突攻撃がメインな為、攻撃が点となって襲い来る。更に、高いAGIも合わさって避けずらい。
「ぐっ…(速い上に重い!)」
ユウキと同等かそれ以上のスピードに目を取られるが、攻撃自体も確かな重さが感じられる。並の攻略組なら、初撃で回避できず死んでいた可能性もある。捉えるのも困難な攻撃の予兆《起こり》を察知し、巧みに間合いを外して攻撃を凌ぐ。
「ライト、スイッチ!」
反対側に避けたユウキがその言葉と共に、途轍もないスピードで接近する。直後、ライトは単発ソードスキル《スラント》を発動させて、踏み込みと同時に斬りかかる。セシルはその一閃をギリギリで回避したが、その時には既に、ユウキが迫っていた。そして、そこから目も追いつかない程の剣戟が繰り広げれる。
「兵士達よ、セシル連隊長の援護をするぞ!」
「「「「「「「はっ!」」」」」」」
「ちっ!」
フォールンの小隊長の言葉に、兵士達が各々の武器を構えて突撃を開始した。途端、ライトは舌打ちと共に、ユウキと剣戟を繰り広げるセシル連隊長との距離を詰める。お互いにAGIが高い2人だが、ユウキの方が押されていた。
素早い動きと剣技だが、太刀筋はまだ素直な為、攻撃を仕掛けようにも避けられる。一方、セシルはフェイントも加わった捉えにくい巧みな動きをしていた。反応速度だけでは回避できない技を駆使し、ユウキは後手に回っていた。
「ハァッ!!」
「くっ!?」
「ユウキ、下がれ! こいつの相手はオレがやる!」
彼女にそう呼びかけ、ライトは背後から斜め上段の一太刀を振るう。だが、セシルはサイドステップで回避し、ライト達の逃げ道を塞いだ。そして、フォールン達に囲まれた2人は背中合わせになって構えた。しかし、状況はかなり深刻だった。
「ライト、どうすれば…」
逃げ道を断たれた事に、ユウキが震える事で呟き、顔は真っ青になっていた。新しい剣の素材を調達しに来ただけが、気付けば危機的状況に陥っていた。そんな中、ライトはレイピアを構えるセシルを見据えながら、この状況を切り抜ける策を考えていた。だが、たった1つしか思い付かなかった。
「…最後の手段だ……あの剣を使う!」
「で、でもっ!!」
「リスクが大きいのは分かってる。だが、それ以外に切り抜ける方法はない!」
その言葉と共に、ライトは素早くウインドウを操作し、スキルmodから《クイックチェンジ》をタップした。刹那、右手に持つ剣が光を上げ、次の瞬間には全く違う剣が姿を見せた。そして、ライトのHPバーに3つのアイコンが灯る。
伝説の大剣《ソード・オブ・カイザー》が姿を顕現させた直後、ライトを中心に場の雰囲気が一変した。言い様のない圧が、剣を持つ彼から発せられ、敵兵士達が思わず後ずさる。そして、それを真正面から向けられるセシルは、姿を現した大剣を前に驚愕の表情を浮かべた。
「人族の少年、何故お前がその剣を持っている!?」
「へえぇぇ、やっぱり《フェルドラン・ヨフィリス》の名は伊達じゃないか。お前達の親玉の将軍ノルツァーを敗北にまで追い詰めたんだから当然か」
すると、セシルが大きく顔を顰め、強烈な殺気が圧力となってライトに突き刺さる。だが、彼はその圧を真っ向から受け止め、何時でも動けるように油断なく構える。周囲の抜け道を塞ぐフォールン達も警戒しながら、自身の神経を極限まで研ぎ澄まし、微細な気配をも見逃さないようにする。
「「っ!」」
息も忘れる程の静寂を破り、ライトとセシルが全く同時に動き出した。そこから、凄まじいまでの剣戟が繰り広げられた。刺突メインのレイピアの使い手を前に、後手に回るのは得策ではない。点となって迫る攻撃は回避が困難で、左右に回避すれば薙ぎ払いが待っている。
だが、カウンターを得意とするライトは、攻撃をギリギリで避けると同時に仕掛ける為、技が速くとも気配を掴めれば対処できる。
「しっ!」
「グッ!?」
更に、ライトには体術もある。レイピアの刺突を体を倒して避けると同時に、下から懐に潜り込んで蹴りを放つ動きは、簡単に対応される単調なものではない。攻防一体の戦いを実現している彼の蹴りが打ち込まれ、セシルは呻き声を上げて後退する。
先程とは明らかに違う動きに、セシルは一先ず距離を取ってレイピアを構えた。そんな彼女を警戒しながらも、ライトは辺りを素早く見渡した。フォールンの部下達は各々の武器を構えたまま動かず、額に汗をかきながら見ている。
「余所見とは余裕だな!?」
周囲の様子を伺うライトが気に入らず、セシルが声を荒げて接近する。刀身に光を帯びたレイピアが、一閃の煌めきとなって襲いかかった。心臓に向けて放たれた突きを、バックステップで距離を取って剣の鎬で軌道を逸らし、今度は右足を狙った突きも1歩下がって薙ぎ払う。
細剣上下2連撃ソードスキル《ダイアゴナル・スティング》を完璧に見切ったライトは、反撃とばかりに瞬時に間合いを詰めて通常の連撃を仕掛ける。硬直が終了し、セシルは繰り出される連撃を回避を中心に、時には反撃を放つ。
剣戟は拮抗しているが、幾らステータスが上がっても、全ての攻撃が回避可能という訳ではない。致命傷は避けるも、体の所々に擦り傷が生まれる。そして、ことさら厄介なのが《防御力低下》だ。僅かな深手でもHPが通常よりも減少する為、出来る限り長期戦は避けたい。
「はあぁ!!」
猛然と突進を仕掛ける彼女は、レイピアを中段に構えて刀身に光を纏わせる。瞬きする間も無い速度で迫り、単発ソードスキル《リニアー》が発動された。それに対し、ライトは大きくバックステップで後退し、左足を後ろに引いて構える。
レイピアの切っ先が残り3mまで近付いた
ーーーその時
ビュンッ!!
「っ!?」
ライトが左腕で、セシルに向かって投擲ナイフを投げつけた。突然の奇襲に、彼女は思わず足で地面を踏ん張って、スピードを緩めようとした。そして、首を傾けて躱そうと試みるも僅かに掠めた。しかし、一瞬でもナイフに意識が向いてしまったのが仇となった。
「チッ!」
投擲ナイフを投げた瞬間、ライトは一気にセシルとの距離を詰めていた。まだ見せてない手札をギリギリまで隠し、回避が困難なソードスキル発動中を狙ったのだ。懐に飛び込み、ライトは大剣の柄を握り締める。だが、セシルも体勢を立て直して、ライトを突き刺そうと剣を構える。
「ハアアァァアァァァ!!!」
「おおおぉぉぉ!!!」
大剣の刃に鮮血のような光が灯り、両者の剣が全く同時に振るわれた。
バシュッ!!
ザシュッ!!
「ぐぅぅっ!!?」
「アアァァッ!!?」
両者ともに悲鳴を挙げるも、深手を負ったのはセシル連隊長の方だった。心臓を貫く筈だった突きはライトの左肩を穿ち、凄まじい勢いで左腕が吹き飛び、HPを5割以上も減少させた。しかし、ライトの下段からの斬撃が彼女の胸を斬り裂き、そこから更に踏み込んで上からの振り下ろし、最後に横からの薙ぎ払いを与えた。
「はあぁ!!」
「アグゥッ!!」
片手剣3連撃ソードスキル《シャープ・ネイル》が叩き込まれ、彼女のHPが勢い良く減少を始める。彼女は傷口を押さえたまま、その場に膝をついた。
「せ、セシル連隊長がやられた!?」
「そんな馬鹿な!?」
「何なんだ、あの人族の小僧は!?」
まさかの事態を目の当たりにし、フォールンの兵士達の間に動揺が走る。
「ライト!」
両者の緊迫した戦いを見ていたユウキが、左腕を失ったライトに走り寄る。ライトのHPは5割以上も減少し、左肩からは彼の瞳と同じ色をした血のライトエフェクトが大量に溢れ出す。すると、ライトが跪くセシルに近付き、声を掛けた。
「あんたに生半可な攻撃が通用しないのは分かってた。それこそ、1度見せてる体術をまた使うのはリスキーだ。それでも、一瞬だけ隙を作りたかった。まぁ、結果的には《肉を切らせて骨を断つ》だったけどな」
「フッ……それ程の覚悟があるのを見抜けなかった私の思い過ごしが、敗北となった原因か……見事だ、人族の少年」
フォールンエルフの連隊長セシルがそう言うと、その体は無数のポリゴンとなって四散した。その光景を前に、小隊長を初めとした部下達は、我先にと走ってその場から姿を消した。
今回はここまでとなります。オリジナルの戦闘描写を描くのは、なかなか難しく感じます。
フォールと邂逅し、強敵を退けたライトですが、今後の展開でも数多くの強敵が待ち受けている形となっています。