SAO another story   作:シニアリー

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久しぶりの投稿となります。

前回の続きから、クエストのイベントによって麻痺状態になってしまったライト達の前に、暗躍するPK集団が現れました。

4人は、無事に窮地を脱する事が出来るのか…


再戦

 

 

サイロンを殺した男《ローテム》の嘲笑に、ライトは3層でのデュエルを思い出した。まるで、殺人を楽しんでいるような怖気を感じさせる邪悪さだ。本来なら、すぐ戦闘態勢に入れているのに、麻痺の所為で未だに動けない。

 

「…滑稽だな」

 

奴の口からボソッと呟かれた言葉に、ライトの目が自然と鋭くなった。すると、遠くから甲高い声と低い声が耳に届いた。

 

「おい、ジジイが片付いたらこっちを手伝ってくれよ! こいつら、結構レベルが高けぇ!」

「兄貴、サクッと終わらせてくれねぇか?」

 

目線を動かせば、ダガー使いと片手剣使いが大柄な男達と戦闘を繰り広げていた。しかし、リーチが短いダガーは相手の間合いに入れず、片手剣使いの相手は両手両足に甲冑を装備している為、致命傷を与えられない。

 

正直、この危機的状況を打開するには、麻痺が解けるまで奴らに時間稼ぎを期待するしかない。だが、そんな淡い希望は打ち消された。

 

「わざわざ戦う必要など無い。俺達の目的を忘れるな」

「そうそう。倒せないんなら、森に入って撒いちゃって下さいよー」

 

その言葉に頷き、奴らは大男達を引きつけると、森の奥へと入った。ローテムとモルテはそれを見届けると、凍てつく笑みをライト達に向けた。

 

「いやー、待ちましたよ、皆さんが来るのを……領主クエは受けると思ってましたけど、最初から尾行するつもり無かったんで、パイ何とかさんの隠れ家に近い宿で見張ってたんですよ!」

「モルテ、お喋りはそこまでにしろ。目的を見失うな」

 

ペラペラと喋る奴の口を止めて、ローテムは目的を達成するように諭す。

 

「いかんいかん、自分の悪い癖ですねー。それじゃ、麻痺が解ける前にサクッとやっちゃいますか!」

 

喋り終えたモルテは右手に持つ斧をクルッと回し、4人に接近し始める。当然、ローテムも彼に続いて、己の得物を肩に担いで近付く。

 

その時、ライトとユウキのHPバーを囲む緑色の枠が点滅を開始した。もう少しで麻痺が解ける合図だが、とても間に合わないだろう。だが、ライトは諦めていなかった。

 

「(考えろ、何か方法がある筈だ。この場を切り抜ける方法が!)」

 

ザク、ザク、と草を踏みしめる音が効かせ、ローテムが得物を手に近付いて来る。ライトは周囲に目配せを続け、麻痺を解除させる為の時間稼ぎになる物を探す。そして、キリト達の方へ目をやった時、ある物が映り込んだ。

 

それは、サイロンが自分達を連れ去る為に使用した、麻痺毒の煙が入った小壺だった。あれを再び充満させれば、ローテム達は警戒して距離を取る筈だ。しかし、ライト達からは離れすぎている。

 

「(あの壺をどうにか倒す事が出来れば…)」

 

ローテムとの距離は、もう目と鼻の先だ。麻痺が解けるのも残り数秒だが、急所を突かれればまず間に合わない。それを証明するかのように、奴がライトの元に辿り着き、曲刀を振り上げた。

 

「安心しろ、その小娘もすぐに後を追わせてやる。1人で死ぬのはさぞ虚しいだろうからな」

 

邪悪な笑みを浮かべた奴が、ライトの首に目掛けて刀身を振り下ろした、その時だった。

 

 

 

 

ブワッ!!

 

 

 

 

何かが吹き出る音が発生した。思わず目をやると、毒々しい緑色の煙がそこまで迫っていた。

 

「ちっ!」

 

突然の事に、ローテムは反射的にステップで距離を取り、ライトは素早く息を止めた。視界が緑一色に染まり、HPバーの点滅が勢いを増す。煙を突き破ってローテムが仕掛けて来ないかを警戒しつつ待っていると、遂にデバフアイコンが消えた。

 

刹那、ライトは袋から飛び出すと同時に背中の剣を抜刀した。瞬間、横から何者かが迫る気配を捉え、ライトは咄嗟に距離を取って構えた。

 

空を斬った曲刀をダラリと下げるローテムの姿を捉え、ライトは一先ず煙から脱出しようと考え、警戒しながらも移動する。ローテムもライトを追いかけ、両者は煙から脱出した。

 

「残念だったな。オレ達を楽に殺す計画だったんだろうが、それは失敗だ!」

「…のようだな。モルテの奴め」

 

先程の煙幕は恐らく、キリトかアスナが発生させたのだろう。『どうやったかは分からないが、お陰で助かった』と、ライトは内心で感謝した。すると、少し離れた所から回復したキリトと、斧を持つモルテが姿を見せた。

 

「キリト、無事だな?」

「あぁ。ライトの方こそ!」

「あららー、ちょっと面倒くさい事になっちゃいましたねー」

 

クルクルと斧を回すモルテはそう言うが、フードから覗かせる口元は相変わらずニヤニヤしたままだ。それが意味するのは、この状況は想定内なのか、はたまた楽しんでいるだけなのか。

 

いずれにしても、油断できる相手ではない為、ライトは己の神経を研ぎ澄ませ、眼前に立つローテムを見据える。警戒すべきは、3層で使ってきた投擲武器だ。近接戦闘の最中に投擲されれば、見てからの回避は間に合わない。己の直感を信じ、相手の予備動作や違和感を掴む必要がある。

 

「…行くぞ」

 

直後、ローテムが素早い踏み込みを見せ、ライトに接近してきた。初撃は袈裟斬りから左逆袈裟斬りの2連撃を見せるも、ライトは後ろに下がって回避する。だが追撃と言わんばかりに、今度は左手で針状の武器を投擲してきた。

 

「っ!」

 

ライトは体を横へ滑らせ、攻撃の軌道から外れる。だが、ローテムはその瞬間に間合いを詰めていた。足を狙った斬撃を後方に回避した直後、胸に突きを放ってきた。

 

ライトはそれを横へ払うと、剣を上段から振り下ろす。しかし、ローテムはギリギリで躱し、水平斬撃を仕掛ける。ライトは後ろに躱し、下段からの斬撃を振るうも躱された。

 

「(…おかしい。どうした、ユウキ、アスナ?)」

 

しかし、ライトの頭には別の懸念が生まれていた。それは、何時まで経っても煙から姿を見せないユウキとアスナだった。既に麻痺は解除されて動ける筈なのに、一行に姿を見せない。

 

何かあったのかと考えるべきだが、眼前で刃を交えるローテムから目を離せない。予備動作が少ない投擲攻撃に警戒しながら出方を窺っていたが、それは奴も同じだった。互いが僅かな一挙手一投足も見逃さず、緊張状態が続いているその時、毒煙の方向から2種類の聞こえた。

 

「うひー、やーっと撒けたぜー」

「兄貴、そっちはどうなった…って、まだ生きてんのかよ?」

 

サイロンの護衛役を務めていた2人の大男達を森に誘い込んだ、黒フードの男達が戻ってきたのだ。すると、ローテムの口角がニヤリと上がった。4対2の有利な形に持ち込まれ、更には少女達をカバーしながら戦う事に、ライトは背後の気配にも警戒度を引き上げる。

 

「おいおい、何モタモタしてんだよ? つか何だ、この煙? こんなの作戦に無かっただろ?」

「いやー、NPCが持ってた毒アイテムをキリトさんに使われちゃったんですよー、あははー」

「ちっ、面倒くせーな。ところでよぉ、女どもはどうした?」

 

姿が見えない少女達に気付き、甲高い声の男は辺りに視線を走らせる。片手剣使いも同様に周囲を注視していると、ローテムが口を開いた。

 

「奴らはまだ煙から出ていない。もしかすれば、誤って吸ってしまったんだろう」

「ハッ、そりゃラッキーだぜ。5層でレイピアぱくられた恨み、忘れてねーからな! お前らは手ェ出すなよ!」

「じゃあ俺は、仕留め損なったもう1人の女を殺るとします……っ!?」

「「「っ!!?」」」

 

突如、片手剣使いの言葉が途切れ、凄まじいまでの悪寒が全身を駆け抜けた。そして、それは他の3人も同様だった。眼前に曲刀を携えたローテムと対峙しているにも関わらず、ライトが刃物のような鋭い目付きで睨んでいたからだ。

 

全身から溢れ出ている強烈な気迫が、キリトも含めた全員に放たれている。向けられているその殺気に片手剣使いは勿論、ダガー使いも思わず歯を食い縛る。対峙しているローテムとモルテもニヤニヤ顏が消えて無意識に足が1歩下がり、キリトも僅かだが体を震わせた。

 

「勘違いするなよ、お前らの相手はオレだ。死ぬ覚悟がある奴は掛かってこい!!」

 

滲み出る恐ろしい程の殺気とドスの利いた声に、4人が一斉に警戒度を全開にする。数では勝っている筈だが、今はそれが感じられない。ライトの背後を取っている筈なのに、攻撃を仕掛けられない。

 

 

ライトが放つ凄まじい殺気で、全員が硬直した状態が続いていた。この緊迫した状態で集中力が切れれば、それは死を意味する。

 

 

 

ーーーーしかし、それ故に気付く事が出来なかった。

 

 

 

 

ブゥワッ!!

 

 

 

「「っ!!?」」

「「「「っ!!?」」」」

 

刹那、片手剣使いとダガー使いのすぐ横に漂う毒煙から、2種類の光が突き破って現れ、奴らの胴体を見事に捉えた。突然の攻撃に、男達は反応する事も出来ずに呻き声を上げて吹き飛ばされた。

 

「ぐ…そっ!」

「が…あぁっ!?」

 

煙から姿を見せた少女達、アスナとユウキに目をやると、サイロンが持っていたマスクを着けていた。恐らく、煙の中から不意打ちのチャンスを窺っていたと推測できる。

 

「麻痺してねーじゃねーか! 卑怯な手使いやがってぇぇ!?」

「舐めた真似してくれたなぁ、小娘どもぉ!?」

 

彼女達のソードスキルをまともに喰らい、奴らのHPが一気に3割も削られた。突然の奇襲を受け、男達は少女達をフードの奥から睨みつける。しかし、そんな事は気に留めず、アスナとユウキはマスクを外し、髪をなびかせる。

 

一連に起こった出来事を前に、キリトは勿論、ライトも呆気に取られていた。すると、アスナとユウキがそれぞれの得物を構えて、決意を秘めた声を放った。

 

「こいつらは、私達が引き受けるわ!」

「ライトとキリトは、そっちの2人をお願い!」

 

2人が宿す瞳は、どこまでも真っ直ぐだった。その姿を見た少年達は、これ以上ない程の頼もしさを覚えた。これで、目の前の相手1人に集中できる。

 

ライトの愛剣《トワイライト・セイバー》の剣尖が、ローテムに向けられる。しかし、先程と違って奴は曲刀を構えたまま、仕掛けて来なかった。ライトが放った凄まじい殺気を前にして、不用意に近付くのは得策ではないと判断したのだ。

 

つまり、これまでの戦いと違って彼は、《本気で殺しに来ている》という事だ。今までは、可能ならどうにか無力化して撃退する方針と考えていたが、それが如何に甘い認識かを悟り、ライトは確実に《殺す》と決めた。

 

 

 

 

その時、何かがフッと緩んだ。

 

「っ!!?」

 

その緩みがローテムの意識を僅かに混乱させた直後、ライトが既に距離を詰めていた。足を狙った斬撃を後方に躱すも、避けきれずに赤いラインが走った。刹那、ライトは流れるような動きで、腰に隠していた《ピック》を左手で投擲した。

 

「っ!??」

 

予想外の攻撃に、ローテムはどうにか攻撃線から外れ、回避に成功する。しかし、ライトの猛攻は止まらない。先程とは打って変わり、攻めの手を緩めずに追撃を繰り返す。

 

「シッ!!」

「フンッ!!」

 

両者の得物が衝突し、鍔迫り合いが起こった。瞬間、ライトは僅かに力を緩め、ローテムの体勢を崩した。同時に、奴の右手首を左手で掴み、足の移動と腰の回転による遠心力を利用して投げ、地面に叩きつけた。

 

「ガアァッ!?」

 

一連の無駄がない動作に為す術もなく、背中に強い衝撃が走る。そこから、ライトは奴の手首を持ったまま剣を突き刺そうとしたが、ローテムは咄嗟に足を上げて、彼の顔面に蹴りを与えようとした。

 

だが、ライトは剣を持つ手を引き、ガードに成功した。両者は一定の距離を取り、再び硬直状態となる。

 

「貴様も《投擲》スキルを取っていたのか」

「当たり前だろう。こんな便利なもの、使わない手は無いからな!」

 

先程までの嘲笑は消え去り、雰囲気からも余裕は感じられなくなっていた。本気で殺しに来ている者同士の戦いで、飄々と嗤っていられる訳がない。殺されるかもしれないという極限の状態では、精神への負荷が計り知れないのだ。

 

「(3層での戦闘を考えると、同じ手は通用しないかもしれないな。誘いを与えても、乗ってくるとは思えない)」

 

そんな中でも、ライトは冷静に状況を分析していた。3層での戦闘で、彼は敢えて自ら隙を作り、カウンターによる戦略で戦況を有利に運んだ。しかし、2度も同じ手が通用するとは思えなかった。前回の戦闘も含め、その辺りは対策している筈だ。

 

両者の目には最早、眼前の相手しか見えていなかった。周りの金属音など届かず、己の集中力が極限にまで研ぎ澄まされていた。

 

 

 

 

 

ーーーーその直後

 

 

 

 

 

「だめえぇぇぇっ!!!」

 

 

 

 

「「っ!!?」」

 

刹那に耳を貫いたのは、アスナの悲痛な叫び声だった。ライトは何が起きたのかと周囲に視線を走らせると、キリトの剣がモルテの胸を貫いている光景が映った。当然、ローテムもそれを目撃し、フードの中で表情を強張らせる。

 

「モルテ!?」

「マモル、その剣を抜けぇぇ!!」

「はやくしろおぉぉ!!?」

 

更に、アスナの相手をしていたダガー使いのフード男が振り向き様に叫び、片手剣使いもユウキとの戦闘を中断して必死に呼びかけた。

 

 

瞬間、ライトが音もなく接近し、隙だらけのローテムに斬りかかった。

 

「っ!?」

「隙を見せたな!!」

 

ローテムは反射的に防御の構えを取り、上段からの振り下ろしを防いだ。だが、ライトはがら空きになった腹部に鋭い前蹴りを放ち、腰のポーチから《ある物》を出して投擲した。至近距離からの強烈な蹴りに吹き飛ばされ、放たれたそれは奴の右肩に刺さった。

 

「ぐうぅっ!?」

 

途端、ローテムのHPバーに麻痺を示すアイコンが灯った。ライトが打ち込んだのは、3層で発見したフォールンのアジトで見つけた《麻痺針》だった。これで奴は暫く動けない為、トドメを刺す絶好の機会だ。

 

地面にひれ伏すローテムを仕留める為、ライトは剣を構えてその命を狩り取ろうとする。自身の甘い認識を捨て、ここで確実に殺すと心に決めた。その覚悟を示す為、剣を持つ手に力を込める

 

 

 

ーーーーその筈だった。

 

 

 

 

「ライト、待ってえぇぇ!!?」

 

 

「っ!??」

 

 

 

ユウキの制止の叫びが届き、思わず立ち止まって振り向いた。鋭い光を纏う緋色の瞳に、涙目になっている彼女の顔が飛び込み、途端に剣を持つ手が緩んでしまった。

 

「兄貴いぃぃ!!!」

 

すると、ローテムが地面に横たわる姿を前に、片手剣使いが低い叫び声を上げ、凄まじいスピードで接近してきた。

 

踏み込みからの斬撃をステップで躱し、一先ず距離を取った。すると、奴はローテムを背負って倒れているモルテとダガー使いに合流し、4人に何かを投げつけた。

 

「3人とも、煙幕だ!」

 

キリトが警告を促した直後、片手剣使いが投げつけた球体状のアイテムから黒い煙が立ち込めた。その煙により、奴らの姿が見えなくなる。直後、カサカサと草むらを踏みつける足音が聞こえた。

 

「(撤退した、か。)」

 

あの状況では、それ以外に考えられない。追いかければ、少なくとも2人は仕留められる。

 

 

だが、出来なかった。

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

ユウキの悲痛な叫びが、ライトの耳に残り続けている。

 

分かっていた事だ。もし自分が奴らを殺そうとすれば、ユウキはそれを止めるかもしれないと。それでも、彼女の制止を振り切って仕留めると誓った筈が、結局何も出来なかった。

 

「ライト、ボクは…」

「オレの覚悟が甘かった。それは、オレ自身の問題だ!」

 

自分が呼び止めてしまったから、ローテムを逃してしまった。ユウキがそう感じていると思ったライトは、小さくだがはっきりとそう口にした。

 

そんな彼の様子に、ユウキは何か言いたげな顔をしていたが、口を噤んで俯くだけだった。

 

 




無事に危機を乗り越えられた4人。

しかし、その場に漂う空気は決して穏やかではなかった。
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