しかし、更なる展開が謎を呼び、彼らを困惑させる。
麻痺イベントを利用したPK集団の襲撃をどうにか退け、4人はスリバスの街に帰還した。
ローテム達が撤退した後、3人はキリトの指示で奴らが残していった武器を回収していた。その理由は、モルテが使用してきた投擲武器が関係していた。なんとそれは、ライトとユウキが3層のフォールンのアジトで見つけた、《スパイン・オブ・シュマルゴア》だった。
『どうして奴らが、この武器を持ってるんだ?』
『…まさか、あのノルツァー将軍を倒した…とか?』
訳が分からない様子のキリトに、アスナが自身の推測を話す。だが、ライトがすぐに首を振りながら否定した。
『いや、あり得ない。奴のカーソルを見たなら、分かってるだろう? そもそも、ローテム達がそんなに強いなら、麻痺状態を利用して殺そうなんてしない!』
『そうだよね。つまり、ローテム達はフォールンからこの武器を盗んだって事なのかな?』
彼の言う通り、ノルツァー将軍を倒せる実力を持っているなら、4人は生きていない筈だ。それが違うとなれば、ユウキが話した推測が最も当たっていると考えられる。
詳しい調査が必要だと考えた4人は、奴らが《クイックチェンジ》で自分達の武器を取り戻す前に、所有権を破棄させる策を実行した。それが、森に現れる《ムリキ・スナッチャー》と呼ばれるモンスターを利用する事だ。
キリトから、奴らは《強奪》スキルを所有していると聞かされた為、それを利用して《クイックチェンジ》でも《所有アイテム完全オブジェクト化》でも取り戻せないようにしたのだ。モルテの斧と、ローテムの曲刀は間に合わなかったが、それ以外は奪う事に成功した。
スナッチャー達を無事に倒し、街に帰ろうとした時、森の奥からサイロンの手下の大男達が現れた。主人の姿を探して周囲を見渡す奴らに、全員が距離を取って構えた。しかし、2人が襲ってくる事はなく、荷馬車に乗り込んでスタキオン方面に姿を消した。
翌朝、4人はお高いスイートの部屋でアイテム整理をしていた。サイロンが落としたアイテムも、ムリキ達は獲得していた為、ドロップアイテムに混じっていた。すると、アスナが悪趣味なペンダントを摘み上げながら口を開く。
「サイロンさんって、家族とか居るのかしら?」
「…いや、あの屋敷に家族が住んでた記憶は無いなぁ」
「そう……ていうか、サイロンさんはもうずっとアインクラッドから消えたままなの? もう誰も、《スタキオンの呪い》クエストは受けられないの?」
このクエストが《パブリック》なら、それは十分にあり得るが、キリトは暫く考えた末に首を振った。
「いや、あくまで《俺達のサイロン》が殺されただけであって、他のプレイヤーには特に影響は無いと思う」
「ううぅ……やっぱりボク、インスタンスって好きになれないよ。」
「同感だわ。同じ場所や人が複数存在するなんてね…」
嫌悪感を含む少女達の声に、ライトも内心ではどこかで納得していた。だが、ここは仮想世界《ソードアート・オンライン》なのだと割り切っている。すると、グラスに入ったジュースを飲み終えたユウキが、どこか悲しげな表情で口を開いた。
「サイロンさんは、10年間も自分の罪を隠し続けてたけど、ホントは苦しかったんじゃないかな? だって、いつ自分の悪事が暴かれるか怖かっただろうし…あんな形で殺されちゃうなんて……せめて…」
「せめて、自分の罪を悔いて、違う形で罰を受けて…何かしらの許しを得られたら。そう思ったんでしょ、ユウキ?」
「……うん」
「私も、サイロンさんにはしっかりと罪を償って欲しかった。自分の過ちを認めて、更生する展開があればって思ったから…」
その言葉や表情で、2人がどれだけ優しい人間なのかが嫌でも分かる。だからこそ、PKを厭わない連中にも慈悲をかけた。それに比べ、自分の心が如何に穢れているかを感じ、ライトは内心で自虐してしまう。
「…まあ、サイロンの事は兎も角、これでクエストがクリア出来なくなったのは間違いないな。ログも途中で止まってる筈だ」
クエストに必要不可欠な登場人物が消えた以上、もう何も発展しない。念の為、ライトはクエストログを開いて、1番下の行に目を通す。
「……はっ?」
「どうした、ライト?」
突然、ライトが腑抜けた声を出し、3人の視線が注がれる。当のライトは、珍しく意味不明な顔を浮かべていた。その原因が書かれているクエストログに目を通そうと、3人も覗き見た。
【スタキオンの領主サイロンが盗賊に殺されてしまった。残された2つの鍵の使うべき場所を見つけなければならない。】
4人は顔を見合わせ、テーブルに置かれている複数のアイテムから黄金製と鉄製の鍵を発見した。
「…ちょっと待って。これってつまり、サイロンさんが殺されるのもシナリオのうちだったって事?」
「いやいや、そんな筈ないよ。だって、あれは完全なイレギュラーだったんだ。」
「じゃあ、どうしてこんなログが…」
理解不能なログを前に、4人とも思考が混乱する。モルテ達の介入はシナリオに無かった筈な為、ログに変更があるのは不自然だ。ユウキの疑問に、キリトがある推測を話す。
「え、えーっと……考えられるのは、サイロンが圏外へ出た時、他のプレイヤーに殺られる可能性もあるから、そのルートを作っておいた…とか?」
「正規ルートから外れた場合、か。確かに、その可能性もある。けど、このクエストがまだ終わってないとしたら、問題はこの2つの鍵を使う場所だ。黄金の鍵は、オレ達がパイサーグルスの別宅で見つけた物だが、この鉄の鍵は何だ?」
テーブルに置かれた黄金の鍵とは別に、サイロンが持っていた鉄の鍵を掴み、キリトに問いかける。
「分からん。金色のは領主館の地下ダンジョンで使うんだけど、鉄の方は初めて見る。」
「ダンジョン? 黄金のキューブをそこにあるの?」
アスナの質問に、キリトは答えるのを躊躇う素振りを見せたが、諦めて詳細を語った。
「そう。現場からキューブを持ち去って地下に隠したのは屋敷の元召使い、セアーノさんだったんだ。彼女はパズルの天才で、次期後継者に選ばれていた」
「へえぇー、そうだったんだ……でも、何でセアーノさんはサイロンさんを糾弾しなかったの?」
最もな疑問がユウキの口から飛び出る。犯行を目撃したなら、すぐに誰かに伝えたりするが、召使いのセアーノは逆にサイロンの手助けをした。
「それはですね、サイロンとセアーノが恋人同士だったからなんです」
「へぇ〜」
「ふぅ〜ん」
セアーノがサイロンを庇った理由に、少女達の顔が少し綻んだ気がした。その手が好きな彼女達にとって、詳しく聞きたい内容だろう。
「それなら納得だね。大好きな人が殺人を犯したなんて、考えたくないもん!」
「告発するのは忍びないけど、見て見ぬふりも出来なかったのね」
コクっと頷き、キリトは続きを話す。
「そんな感じ。セアーノがキューブを近くに隠して、黄金の鍵を隠れ家に置いたのは、サイロンに罪を償って欲しかったからなんだ」
「「???」」
少女達は頭に?マークが浮かべ、ライトも視線で続きを促した。
「領主館のダンジョンは超激ムズなパズルのオンパレードで、隠れ家の書斎にある本のヒントが必要なんだ。セアーノは10年間、サイロンが自分の罪を認めて助けを求めに来るのを待ってた。その時は隠れ家の場所を教えるつもりでね。黄金のキューブを取り戻す為には、サイロンはパズルダンジョンを突破しないといけない。それが、パズル王と領主の地位を引き継ぐ為の試練なんだ」
「…本来のルートが、そんな風にサイロンが罪を認めて、パズルダンジョンを解く展開なのか?」
「いや。サイロンの荷馬車がスタキオンの裏道に入ったタイミングで、セアーノが助けてくれてそこから一緒に協力していくのが正規ルート!」
モルテの介入によって正規のルートから外れた以上、まずはログの指示に従った方が賢明だ。となると、もう一方の鉄の鍵を使う場所を知っているかもしれない人に会えば、何かが始まる可能性がある。
「だったら、そのセアーノを探して、鉄の鍵についてを聞き出した方が良いな」
「まあ、それが正道だな。彼女を無視して進めると、どうなるか分からないから!」
ユウキとアスナも、異論なく頷いた。一先ず、《スタキオンの呪い》クエストの方針は決まった為、漸く本題に入れると思い、ライトが切り出した。
「ここからが本題だ。どうして奴らが、フォールンが持つ武器を持っているのか」
4人の視線が、テーブルに置かれているアイテムに再び注がれた。黒々とした鋼鉄のピックと、使い込まれたダガーをを目にしたライトは、最初にピックをタップし、出現したウインドウのアイテム名を見る。
「アイテム名、《スパイン・オブ・シュマルゴア》」
「ボク達が3層で見つけた毒針と同じ名前…」
「これって……やっぱりローテム達は、フォールンエルフからこの武器を奪ったって事かしら?」
「うん、それが1番考えられる!」
やはり、ユウキが立てた仮説が1番信憑性が高かった。すると、キリトはダガーの方もチェックしようと、右手の人差し指でタップし、ウインドウに目を通す。そして、彼の目が静かに見開かれた。
「キリト君、どうしたの?」
「…フォールエルフの褒賞、だと!?」
その言葉に、3人がウインドウを覗き込む。《ディルク・オブ・アゴニー》というアイテム名と、特殊効果やその他諸々が記載され、最後の追加説明文に確かに書かれていた。
《フォールン・エルフの指揮官から褒賞として与えられる短剣》
「じゃあ、これって……クエストの褒賞って事?」
「…そうなる、な」
ユウキの戸惑う声に、ライトが首を縦に振った。この説明文を読む限り、そうとしか考えられない。つまり、モルテ達はフォールンからこれらを盗んだ訳でなく、褒美として貰った事になる。
これが意味するのは、PK集団とフォールン・エルフが繋がっている可能性があるという事だ。どうやら、事は複雑極まりない事態へ発展している可能性が高いと考え、ライトは全員に声を掛けようとした。
「ねぇ、みんな。スタキオンのクエストは後にして、まずはこの武器を調べてみない?」
「私もユウキに賛成だわ! もしこんな武器が無限に入手できるなら
だが、それより先に少女達が口を開いた。呪いクエストも気になるが、PK集団とフォールンの繋がりを調べるのが優先だと考えたのだ。そして、麻痺で動けなくなる状況は、何としてでも避ける必要がある。昨夜の経験で、それを身を以て味わったのだから。
「俺も全く同じ事を考えてました。けど、現時点でレベル2の麻痺毒に対抗する手段は限られてるなぁ……それについても相談するか!」
誰に相談するのかと首を傾げる少女達だが、フォールンについて詳しい人物など、彼女しか思い浮かばなかった。
「なら、次の目的地は、第6層の砦だな?」
「…ああ!」
そのやり取りを聞き、誰に聞きに行くのかが分かったアスナとユウキは、パッと笑顔が弾けた。
第6層は星型の湖を中心に、険峻な山で5当分されたフィールドとなっている。攻略集団のALSとDKBが、今日の昼には北西エリアに通じる洞窟に挑む予定だと、アニキ軍団のリーダー、エギルから知らされ、4人は彼らに合流した。
面倒なパズルの扉が集団を待ち受け、キバオウとリンドが何度も言い合いを繰り広げる光景に、ライト達は『またか。』と内心で呆れた。だが、キリトの助力を活かし、最後のボス部屋に到達できた。
巨大な植物モンスターだが、エギルとローバッカの両手斧が特攻だった為、最後は根元から切り離された。LAを入手したエギルだが、ボーナスは大量の豆だった。キリトが温かいコメントを残して、4人は攻略集団とはダンジョンの出口で別れた。
「……今更アインクラッドのマップデザインに文句を言うつもりはないけど…」
目の前に広がるフィールドを眺めながら、アスナが呆れる表情で口を開いた。
「山ひとつ隔てただけで、この変わりようはどうかと思うわ」
「右に同じく!」
「異議なし!」
「………」
ユウキ、キリトがすぐに頷き、ライトは太陽の眩しさに目を細めた。スタキオンやスリバスがある最初のエリアは森が多かったが、ここは赤茶けた荒野なのだ。あまりの様変わりに、反論も浮かんでこない。
「これが現実なら、あっという間に干からびてるな!」
「違いない!」
ライトがボソッと呟くと、キリトが即座に肯定した。そうして、一行は6層にあるダークエルフの砦に向かう為、荒野を進み始めた。当然、圏外なのでモンスターが出るが、トップレベルの戦闘力を誇る4人は苦戦もせず、順調に向かっていた。
何度目か分からない巨大サソリやヒヨケムシとの戦闘を終えた途端、すぐ近くから変な声が聞こえた。
「ヤッフー!」
「「「っ!?」」」
見れば、キリトが右拳を突き上げ、ピョンっとジャンプしていた。その反応に、少女達は少し引いた顔となり、ライトもどこか呆れた顔をしていた。
「な…なに? あなた、そんなキャラじゃないでしょ?」
「いや、レベル6と12の時もしたぞ?」
「そっか、スキルスロットが増えたんだね?」
「ヤっフー!」
「はいはい、おめでとう。で、5つ目は何にするの?」
「マンマミアー!」
途端、アスナの眼差しが氷の如く冷たくなり、キリトはふざけるのを止めて咳払いする。
「今取ってるのは《片手直剣》と《体術》、《索敵》に《隠蔽》だから、次は……《投剣》か《疾走》かな」
「疾走おすすめよ。移動時間の短縮になるし、単純に走ってて気持ちいいから!」
「ゲームの中だから、ずっと走ってられるしね!」
少女達は共に、キリトに《疾走》を進める。ライトはスロットが5つになった時、迷わずに《投剣》を取得した。飛び道具を使えば、戦闘の幅が広がり、自分に優位な状況に持ち込みやすいと考えたのだ。
「うん。俺も好きなスキルだけどさ…」
どちらを取ろうか迷っているらしいキリトだが、不意にアスナに視線を送った。
「あのさ、アスナは《細剣》《軽金属装備》《裁縫》《疾走》と、もう1つは何を取ってるんだ?」
彼女のレベルは、キリトよりも1つ下の19で、スキルスロットは4つしかない。しかし、あるアイテムのお陰で5つ目のスロットが手に入ったのだ。それが、《カレオス・オーの水晶瓶》なる代物だ。
このアイテムは、スキルスロットに設定中の各種スキルの熟練度を保存できる、超レアアイテムなのだ。秘鍵クエストの最初に戦ったカレオス・オーの戦士からドロップした物と、アスナは言っていた。
すると、彼女は今まで見せた事もない渋面を作った。その反応に、少年達は戸惑いを覚える。
「何その反応?」
「…怒られるから秘密。」
「はあぁっ!?」
正直、意味が分からない回答に、キリトは声を上げ、ライトも訝しそうな表情となった。一方、ユウキは秘密を知っているのか、苦笑を浮かべていた。
「いやいや、怒んないよ! どんなスキルを取るかは、その人次第だし」
「そういう事言う先生ほど、起こるのよ!」
「先生って…」
そのやり取りに、一瞬デジャブを覚えたライトだったが、少し気になった為、ユウキに声を掛けた。
「ユウキは知ってるのか? アスナが取ってる5つ目のスキルを」
「…知ってるけど、教えられないよ。アスナとの約束だもん!」
そう言われれば、答えてくれないだろう。しかし、絶対に知る必要はないので、しつこく聞くつもりはなかった。
「今は私の事より、キリト君でしょ? で、《投剣》と《疾走》のどっちにするの?」
「…いやー……暫くは保留で!」
「了解、じゃあ早く行きましょ!」
「待ってよ、アスナ!」
話が纏まったところで、アスナが進もうと声を掛けた。彼女の背中に、ユウキが小走りで追いかける。そして、2人は仲良くガールズトークを始めたのだった。
「そんなに気になるのか?」
「っ…いや、別に!」
不思議そうな面持ちのキリトに問いかけると、彼はすぐに済ました顔を見せて歩き始めた。彼の分かりやすい反応に苦笑いを零しつつ、3人を追いかけようとした時、ライトは事を思い出した。
それは、ユウキが取得している4つ目のスキルだ。彼女が取っている《片手直剣》《軽金属装備》《疾走》までは知っているが、残りの1つは知らない。機会があったら聞いてみるかと、ライトは足を進めた。
その後、何度も遭遇するモンスターを撃退し、4人は砂底の渓谷を進み続ける。複雑に入り組んだ迷路の為、突破するには時間が掛かるらしい。壁や地面から姿を見せるmobを斬り伏せ、行く手に漸く人工物が見えた。
「うわっ、でっかいわね!」
「すっごい迫力!」
地面に敷き詰められたタイルの先に、超巨大な門がそびえ立っていた。眼前の光景に、少女達は感嘆した様子で見上げる。門の上には、見慣れたリュースラを象徴する旗が掲げられ、風邪で靡いている。
「あの《ガレ城》は、ダークエルフの砦の中で1番大きいんだ。建物はヨフェル城ほど豪華じゃないけど、食堂も風呂もあるよ!」
「「お風呂!?」」
道中までの戦闘で少し疲れた様子が、お風呂という言葉を聞いただけで、アスナとユウキは元気を取り戻した。そして、鼻歌を唄いながら門へ近付くが、キリトが2人の背中に声を掛けた。
「ただ、ちょっと申し上げにくいんだけど、あの城は《パブリック》なんだよなぁ〜」
「「っ…」」
すると、ご機嫌だった2人が立ち止まり、両肩をピクリと上下させた。揃って振り返ると、途端に顔を顰めた。
「パブリックって、インスタンスの対義語だよね?」
「うん。」
「つまり、食堂やお風呂にも、他のプレイヤーが入ってくるって事よね?」
キリトが頷くと、2人はドッと肩を落とした。
「でも、あの砦に入れるのはダークエルフ側でかつ、俺達と同じとこまで進めてる奴だけだから、そこまで心配する必要はないと思うよ。なんなら、3層の時みたいに俺らが見張るからさ!」
「100%安全、とは言えないだろ? なにせ、あの城は《圏外》だからな。奴らの手の内が分からない以上、城の中でも油断はしない方が良い!」
今までも、PK集団によって数多くの問題が投下された。その手口は正に巧妙な為、圏内でない限り安心は出来ない。
「確かにモルテ達の襲撃は不可能じゃないが、さっき言った通り、その為には黒エルフ側でクエストを進める必要がある。奴らにそんな時間があるとは思えないし、ALSに潜入してるジョー……ダガー使いには無理だ!」
ALSに潜入しているPK集団には、実は目星を付けていた。その名前を出しそうになったキリトは、平静を装って言い直した。少女達は僅かに眉をピクリと動かしたが、追求する事はなかった。
「…それはそうか。だが、万が一の為に備えておこう?」
ガレ城で襲撃される確率は確かに低いが、それでも警戒しておこうと、ライトは3人に促した。昨夜の奇襲が脳裏に刻まれている為、3人はしっかりと頷いた。
そして、地面のタイルを渡りきり、城門前に到着した。衛兵の姿が見えないと思っていると、頭上から鋭い声が聞こえた。
「立ち去れ!」
「この門は人族の為に開く事はない!」
かなり厳しい口調だが、キリトは返事の代わりに左手に嵌めた銀の指輪《シギル・オブ・リュースラ》を掲げた。すると、それに気付いた衛兵が後ろに何か合図し、直後に城の中から鐘の音が発生した。そして、硬く閉ざされていた城門がゆっくりと開き、眩い光が4人の瞳に射し込んだ。
目を細めるも、4人は城の中へ入ろうと門の隙間を潜る。全員が城内へ足を踏み入れると、再び門は閉ざされた。
「「うわあぁ…」」
途端、少女達が感嘆した声を上げ、ライトも少し目を剥いた。
ガレ城は円形の窪地に築かれた城塞で、3階建ての城郭が半弧を描き、広場の中央には1本の巨大な広葉樹が立っていた。荒れた地に植物が生えている事を不思議に思い、ライトはその木をよく見た。すると、根元には大きなウロが口を開け、その奥には脈打つ仄かな青い光が見えた。
「ねぇ、あれって《霊樹》?」
「そう。ここは城の中に霊樹があるんだ!」
アスナも気付き、キリトに問いかける。今までの層で、霊樹が城の付近にある事はなかった。キリト曰く、霊樹には寿命があり、100年ごとに代替わりする。しかし、6層の砦にある霊樹は例外的で、ガレ城が築かれた数百年間も枯れずに生き続けている。
その説明を3人にし終えた直後、城郭西翼の扉が勢い良く開かれ、驚いた4人が一斉に目を向けた。すると、アスナとユウキの顔に、輝くような笑顔が弾けた。
「アスナ、ユウキ、キリト、ライト!」
6層の砦で、彼らの名前を呼び者など1人しか居なかった。黒鋼の鎧と薄闇色のマント、左腰にはサーベルを装備し、褐色の肌にユウキよりも薄い紫色の髪を持った女性騎士は両腕を広げた。すると、アスナとユウキは同時に走り出し、迷う事なく飛び込んだ。
5秒以上もギュッと抱き締め合ってから体を話すと、今度は少年達に体を向けて両腕を広げる。まさかの行動に、ライトは少し躊躇するも、照れ臭そうにバグするキリトを見れば、自分だけ断るのも不自然だ。騎士に近付いて、同じようにハグを交わす。
ライトとのハグを終えると、キズメルは全員に向き直った。そんな彼女に、ユウキが声を掛ける。
「キズメル、会えて良かった」
「私もだ。ユウキ、アスナ、ライト、キリト、良く来てくれた……この乾き切った大地を超えるのは大変だっただろう?」
キズメルの心配に、アスナが首を振って答える。
「キズメルに会えるなら、そんなの何でもないわ!」
「そう言ってくれると嬉しい。さぁ、城で長旅の誇りを落としてくれ……と言いたいが、ここの城主に挨拶してもらわねばならん」
「いや、お世話になるんだから当然だよ」
済まなそうに話す彼女に、キリトが問題ないと答え、ライトも小さく頷く。騎士は「ありがとう」と言って、4人を案内し始めた。
キズメルと再会できました。
次回、毒針の詳細と、少年達に思いもよらぬアクシデントが降り注ぎます。