レトロスペクティブ京都   作:にわかの底力

10 / 33
タンパク質を中に詰め込んだ人形風情が。


第十章 人の形弄びし少女

 結局その日、家に帰ったのが夜の十一時だった。

「はあ、今日はもう寝ましょうか」

ほぼ2日間酷使した足は、もう自分のものではなくなっていた。

私はベットに倒れ込むように寝転がり、いつの間にか意識が無くなっていた。

「ここ、どこ?」

気がつくと、まだ薄ら明るい森の中にいた。この森には見覚えがある。

「きたわね」

そう、かつて夢の中で訪れた古道具屋のある森。

「霖之助さんのとこに行かなきゃ」

とりあえず、森の奥へ奥へと進んで行く。

夢の中でも足の疲労は付き纏う。

なのに、夢の中では体をいくら酷使しても、起きた時には回復しているから不思議だ。

夢の中を探索するということ自体不思議なのだから、今更不思議がることでもない様な気もするが、なんにせよこのタイミングでこの不可解な現象に遭遇するなんて、ついていない。

 

「はあ、はあ、こんなに奥だったっけ?」

いくら進んでも香霖堂には辿り着かない。

そもそも、道順を覚えていないから当然だけど。

やがて、空が赤く染まってきた。

(いけない、夜になっちゃう!)

夢の中といえど、影響は現実の世界にも及ぶ。

なんとしても夜の行動は避けたい。

「カン カン カン」

 金属を何かに打ち付けている様な音が聞こえた。

(人がいるのかもしれない!)

私は、音のする方に歩いた。

早く誰かに逢わなきゃと焦りつつも、危険を考えて慎重に移動する。

「カン カン カン」

序々に音が大きくなってくる。

おそらく、もう十数メートルのところまで来ている。

身を屈め、木陰から恐る恐る音のする方を覗いてみた。

その直後、私は自らの行いをひどく後悔した。

見れば、手前の木々に無数の洋風の人形が打ち付けられており、その奥、木々の影に紛れ、何かを木に打ち付けている、女性のシルエットが蠢いていた。

「きゃああああああああぁぁ」

声を出すのは危険だと判断したのは、既に叫び終わった後であった。

人影の動きがぴたりと止まる。

顔は見えなくとも、こちらを見たのは動きで分かった。

逃げる、とにかく逃げる、それでもこの疲弊し切った身体はいう事を聞かない。

夢の中で何かに追いかけられて、逃げ切れた試しがない。

転ぶ、そのまま、意識は薄れて…

 

はっと目が覚めた。

白いシーツのふかふかのベッドの上に、ピンク色の毛布がかけられた状態で、私は寝ていた。

夢の中で寝るって、変な感じ。

ゆっくりと、起き上がってみる。

部屋にはベッドの他に、机と椅子、その上にスタンドと、金髪で青いドレスの人形が置かれている。

壁には窓がひとつ、壁紙は貼ってなく、木本来の色がそのまま残されている。

外の景色を見てみると、既に空が赤く染まっていた。

あれからどの位の時間が経ったのだろう。 

ふと、何者かの視線を感じた。

その先は机の上の人形。

こちらを見る様にして、ちんまりと座っている。

胴体に比べてやや大きめの顔には縦に伸びた楕円形の目と、小さな口しかないが、とても喋りたそうにこちらを見ている。

「あなたが私をここに? まさかね」

視線を逸らそうとした瞬間、

「シャンハーイ」

「し、喋った⁉︎」

人形が片手を上げ、立ち上がる。

恐怖よりも、なんか可愛いと思ってしまう仕草。

しかし、それもまた直ぐに恐怖へと変わる。

部屋の外から、キイ、キイと床が軋む音が聞こえる。

音の聞こえ方からして、おそらく階段を登っていると思われる。

直ぐに足音が部屋の前まで来た。

慌てて布団から飛び出ようとするが、疲労もあってか、身体が言うことを訊かない。

ドアノブに手がかけられた。

意味がないとわかっていながら、布団の中に隠れる。

キィとドアが開く音がすると同時に、少女の声が聞こえた。

「もう大丈夫よ」

少女としての幼さを残しながらも、大人のように落ち着いた声だった。

恐るおそる布団から出てみると、私より頭一つ大きいくらいの身長の少女がこちらを覗いていた。

短い金髪に赤いカチューシャをつけ、青いワンピースにケープを羽織り、赤いリボンを腰に巻いた、人形と同じような格好をした少女。

「え、ええ。ごめんなさい、少し驚いてしまって」

「ふふ、見ない顔ね。里の人間では無さそうね」

少女は優しい表情で笑いかけた。

まるで人形のように、整った顔立ち。

しかし、先程まで木に人形を打ち付けていた少女だ。

油断はできない。

「あ、あなたは何者?」

恐るおそる聞いてみた。

少女はクスッと笑う。

「怖がらなくてもいいのよ。別に、貴方が見たものは見てはいけないものではないわ。あれは実験みたいなものよ、完全な自律人形を作るためのね」

そう言うと、少女の下に一体の人形がやってきた。

今度は先程の人形と違い、赤いドレスを着ている。

「ホウラーイ」

「この子たちはまだ私の近くにいないと複雑な動きはできないわ。私はアリス・マーガトロイド、七色の人形使いよ。」

「…マエリベリー・ハーン、大学生です」

「大学?成程、外界から来たのね」

 外界と聞いて、今度はピンと来た。確か、幻想郷縁起にも書いてあった、私たちの世界を指す言葉。

「ここって幻想郷ですか?」

「あら、貴方知っているの?」

少女の反応からして、ここの世界には外界から人が来るのは珍しくはないが、その中で幻想郷を知っていたものは少ない、といった感じだ。

それもそのはず、私もあの本を手にするまで幻想郷の存在は知らなかった。

「私、『香霖堂』っていう古道具屋さんに行きたいんだけれど」

少女はまたも驚いた様子を見せる。

「あの店主とも繋がりがあるのね。貴方に興味があるわ。ゆっくりお話ししたいところだけど、またの機会ね」

そう少女が言っている時、黒い影が窓の外を通り過ぎていった。

それと同時に、少女はため息をつき、部屋を出ていく。

 

「ようアリス!元気か…」

「マリサ!約束!」

「え?えーっと、あ!きのこ料理ならまたの機会に」

「違う!魔導書よ!私が貸したやつ、まだ返ってきてないんだけど!」

下の階で、少女が誰かと争っている声が聞こえる。

私はゆっくり、階段を降りた。

「もう少しだけ、な?」

「もう少しもう少しって、何回日が昇ったと思ってんのよ!」

「うーん、これくらい?」

「足の指まで使ってもあんた三人必要なのよ⁉︎」

「いいじゃんちょっとくらい、アリスって私より長生きなんだろ?そんくらいわけないって」

「そんなわけない‼︎すぐに返して!んで?本を返しに来た訳じゃ無いなら、今日はなんのヤボ用?」

「実は魔導書を借りに…」

「あっきれた。あんたねえ、もう自分がブラックリストに載ってるって自覚ないでしょ」

「ここはまだだと思ったんだが」

「ここはって何よ⁉︎はぁ、里があんたの顔だらけになるのも時間の問題ね」

一応下まで降りてきたが、すっかり蚊帳の外だ。

「頼むよアリス、もうここだけしかないんだよ。紅魔館には指名手配されちまったし」

「はあ、わかったわよ!その代わり…」

少女は私を指差した。

「あの子を香霖堂まで連れてってくれる?」

 ひょこっと玄関のドアから相手が覗いてきた。

「へえ、客人とは珍しいな。」

「丁重に扱ってね。空飛べないんだから」

「お安い御用だぜ。んじゃ、邪魔するぜ」

そう言って、家の中に入ってきたのは、まるでお伽話に出てきそうな魔女の格好をした少女だった。

身長は私と同じくらい、頭には黒いとんがり帽子、金髪で片方だけ三つ編みのおさげを垂らしており、黒い服に白いエプロン、黒いスカートを履いている。

魔女の少女は迷わず家の中の本棚へと向かう。

「そうそう、これだぜこれ!」

「これだぜこれ、じゃないでしょう!ほら、取引成立!貴方もいらっしゃい」

魔女の少女と共に家の外に出された私は、人形の少女に袖を引かれた。

「貴方、帰り方わかる?」

「ええ、目が覚めれば戻れます」

すると人形の少女はまたクスッと笑った。

「面白いこと言うのね、また逢いましょ」

「おーい、準備できたぜ」

魔女の少女は、片手に箒を持って、こちらに手を振っている。

「ありがとうございました」

「気をつけてね」

人形の少女に一礼すると、魔女の少女の元へと駆け寄る。

「よし、じゃあ箒にこうやって跨って」

「こ、こう?」

「そう、しっかり掴まってるんだぜ」

足がだんだんと地面から離れていく。

「えっ?えっ?」

「じゃあな、アリス」

「いやああああぁぁ」











投稿始めてから早一週間。たくさんの人に見て頂いて感激です。
さて、じつは新しいシリーズも始めようかと思っているのですが、そうなるとこのシリーズの投稿頻度が落ちてしまいまして、、、もう少しこっちのシリーズを続けていこうかな。
新シリーズの方はこっちよりも読みやすい、と思う。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。