レトロスペクティブ京都   作:にわかの底力

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箱の中の猫は箱の外から中を見られなければ幾様の状態を同時に保てる。ただ、猫という観測者を中に入れてしまったのは失敗だった。結界の中の世界は、なるようにしかならないのだ。


第十六章 シュレディンガーの化猫

「私たちの本の隣にあったのよねえ?」

「ええ、作者は誰かしら…」

背表紙を見てみる。

『監修:宇佐美董子』

「宇佐美…董子、、それって」

「私の…ひいおばあちゃん!?」

秘封倶楽部は私たちが自分たちで作った大学のサークル。

決して先代から受け継いだものではない。

ではなぜ、蓮子の曾祖母を名乗る人物が私たちのサークル名を使っているのか。

残念ながら、その本には封がしてあり、購入しない限り中身を確認することが出来ない。

とは言いつつも、ここに店員らしき人間はおらず、入ったときは気づかなかったけどレジらしきものもなく。

そもそも本に値段が書いてない。

「これ、もってっちゃっていいやつ?」

「ちょっ、ダメに決まってるじゃない!万引きよ、万引き!」

「大丈夫よ!ここは本の管理が杜撰だし、防犯対策もされてないし」

「そういう問題じゃない!」

「メリー、バレなければ犯罪じゃないんだよ」

「名言っぽく言ってもダメ」

やってしまった。

とうとうやってしまった。

ウキウキ顔の蓮子の手には『秘封倶楽部活動記録』がしっかりと抱えられている。

しかし、私の本の隣にこの本があるというのは、誰かが狙ってそこに配置したとしか思えないような配置だ。

もしそうだとして、誰が何のために?

「私たちよりも、私たちの事を知っている存在…」

「そんな人がいるとして、私たちに何を伝えようとしているのかしら」

 

蓮子の実家に戻り、本の開封を始める。

「本っていうより、冊子みたい」

「ただひもで本を結んでいるだけなのね」

表紙のタイトルも手書きっぽかった。

「『始めに:本書は私宇佐見菫子の奇想天外で波乱万丈な半生をまとめたドキュメンタリーである。』」

 

 私がこの世界の裏側の存在に気が付いたのは中学のころ。

 きっかけは自分が扱える超能力について独自に調査を行っていた時。

ガンツフェルト実験を模倣して行った実験によって私の超感覚的知覚が世界の裏側を映し出した。

具体的にどのような知覚を用いたかは私自身わからなかったが、少なくとも映し出された世界がこの世界から断絶された、結界によって隔離された、しかしながらこの世界と同次元、或いはすべての物理法則が通用する世界であるということは認識として記憶された。

 この世界の存在について現時点でまだ世間的には公になってはいないものの、量子力学を理解する上で、このような裏世界の存在はもはや約束されたも同然であることは、今はまだ地中に埋まったままの種のような存在である物理学者の中では共通の通念である。

 しかしながら研究者同士で無益な駆け引きを繰り返す野蛮な現代物理学に協力する気は微塵もない私は、この世界の裏側の存在をあくまで興味本位で、誰にも知られることなく、自らの手で発見することを目的に、高校に進学後すぐ、誰にも邪魔をされず、干渉を受けない場を設けた。

 それが秘封倶楽部。 */*/20**

 私が初代会長、宇佐見菫子。

 

その他、この本にはある手段を用いて結界を破壊し、実際に世界の裏側ー幻想郷に行ったこと、そこでの記憶、ほんの少し学園生活の事について書き連ねてあった。

最後のページ、USBメモリと思しきストレージがセロテープで張り付けてあった。

「なんだろ、これ?」

「ここにUSBを差し込めるような機械はない?」

「どうだったかな、Windowsがまだ動くかな…」

蓮子が部屋の奥から引っ張ってきたのは、祖父の遺品だというパソコン。

立ち上げるとすぐに画面が表示された。

「暗証番号はっと…」

祖父の生年月日を入力すると、『ようこそ』の文字が表示される。

「よし、USBを差し込んでっと」

そこに記録されていたのは、どうやら曾祖母が撮った映像記録らしい。

「なになに?」

「どれどれ?」

狭い画面を二人で覗き込む。

映像が読み込まれた。

 

「えーっと、神社に来ていま~す。霊夢さん!いますか~」

 

画面に映し出される赤い鳥居と境内。

そして、恐らく撮影者のものと思われる女性の声が聞こえてくる。

 

「はいはい、なんか用?」

 

あくびをしながら奥から出てきたのは紅白の巫女服を着た女の人。

頭に大きな赤いリボンが特徴的だ。

 

「な、なによ、これ。なんで私の方を向けているの?」

 

どうやらこの巫女さんは撮影をされているということを知らないらしい。

表示されている映像の画面の形からして、スマホでの撮影でしょうけど、巫女さんはスマホというものを知らないのかも。

 

「え?撮影!?ドウガ?なにそれ。動く写真!?ちょっとやめてよ!恥ずかしいじゃん」

 

動揺する巫女さん。

年齢は十代後半といったところだろうか。

 

「よう霊夢…と董子か!久しぶり!」

 

画面外から現れたのは金髪に白黒の服、頭のとんがり帽子が特徴的な…

「ってこの人知ってる!夢の中で会ったわ!」

「本当!?」

「ええ、霖之助さんのお店で。確か、マリサって名前だったはず」

 

「魔理沙さん、こんにちは」

「魔理沙、撮影だってよ」

「この薄っぺらいのでか?天狗や河童の奴らのとは随分形が違うんだな」

「しかも動くんだって。パラパラ漫画みたいにして」

「そいつはすげえ!ねえ、どんな仕組みなんだ?ねえ!」

 

更に、この映像記録には様々な場所での様々な人との会話が記録されていた。

 

「ここの団子屋さんがおいしくてね。美味しさは地上一を謳っているのよ」

「地底とは張り合う気はないんですね…」

小さな町。

様々な商店が立ち並んでいる。

同行しているのは桃色髪の女性。

 

「成程。この店にある同じものを河童に調べさせたんだけど、よく仕組みがわからなかったんだってさ」

「私も大体しか知らない。具体的な製造工程は企業秘密になっているんだ。分解もできない」

香霖堂。

霖之助が興味津々に画面を見つめている。

 

「今は何が流行っているんですか?」

「コンテンツの分散が激しくてね。何が流行っているのかいまいち私にも…強いて言えば流行病かな」

「うへえ、病気ですか。新型インフルエンザを思い出します」

神社。

緑髪の女性は外の世界に関心があるようだ。

 

「ここが魔理沙さんのお家ですか」

「ああ。散らかってて悪いけど、ゆっくりしていってくれ」

魔理沙の家。

部屋の散らかりようは香霖堂といい勝負。

 

「私の後継者となる方に。器には許容量というものがある。許容量を越して水を注げば水は奈落の底へと滴り落ち、覆水は二度と器へは返らない。失ったものは二度と手に入らない。同じものが、あってはならないのだから」

 

何者かに向けての撮影者本人のメッセージで締めくくられたこの7分46秒のビデオには、幻想郷とみられる場所の、映像記録が残されていた。

「…ひいおばあちゃんはね、最後、行方不明になったんだって。ひいおじいちゃんに限っては、誰も分からない。居たのかすらも。私がいるんだから、間違いなく居たのでしょうけど」

それにしても、なぜ蓮子の曾祖母が私たちと同じ秘封倶楽部を名乗っていたのだろうか。

これは単なる偶然?

「なんにしても私たちが後継者に選ばれたことには変わりないわ。必ず、見つける。この世界の裏側」

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