レトロスペクティブ京都   作:にわかの底力

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大事なものは、失ってから気づく。肌身離さず持っているといい。そのものを失くすときは、たぶん自分も亡くなっているだろうから。


第十八章 少女幻葬 ~Necro-Fantasy

朝起きると、ベッドに蓮子の姿は無かった。

先に自宅に帰ったのかとその時はそう思った。

蓮子は所々常識が欠けている部分がある。

よって私は大して気にも止めず、いつも通りの朝を過ごしていたところだった。

一通の連絡が入る。

『話がある。至急、部室に来て』

久々・・・に感じる部室の中には、普段は部室にいない人物がいた。

赤い髪に白衣姿。

年齢は私たちとさほど変わらないにもかかわらず、大学教授の職についている、事実上の秘封倶楽部の顧問、岡崎夢美教授だ。

「久しぶりだな。夏休みは満喫しているかな?」

「ええ、それなりには」

「どうやらそのようね」

「・・・え?」

教授はホログラムを部室内の空間に映し出す。

「急ですまない。実は先ほど、こんな知らせが届いた」

 

2***年 8月11日 第42号 機密第2類

 

本件の内容に関しまして、守秘義務が発生しております。第三者への情報漏洩は処罰の対象となります。

 

主文:宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーンに結界省への出頭を要請する。

 

 貴校に在学中の学生に、結界への直接干渉の疑いがあります。特殊能力発現の可能性も含め、現在調査中です。調査協力の為、行政機関職員職務執行法第138号を根拠に、該当する学生に本省への出頭を要請します。

日時:8月11日 午前10時00分

場所:内閣府第一機密公聴室 京都上京区丸太町烏丸通209A

監督者:結界保安庁長官 八雲紫 特殊能力調査局局長 小泉班

諸注意:建物内部の撮影、録音を禁止しております。また、通信機器、光学機器、またはそれらの機能が付属する機器の持ち込みはできません。

 

結界省大臣 大橋水樹

 

秘封倶楽部はもとより結界を暴くという法律に触れる活動をしてきたわけで、心当たりはないわけではない。

しかし、

「なぜこのタイミングなんでしょう?」

「わからない。以前のやれ墓荒らしだの、結界くぐりだの、なんなら他の法にも抵触してそうな過激なことばかりやってた時とは打って変わって、活動自体は落ち着いてきたと思ったんだけど・・・」

どのタイミングで、どの活動が暴かれた?

一つ、心当たりがあるとすれば、例のサナトリウム。

人工衛星で未知のウイルスに冒された私は隔離施設で療養していた。

未知のウイルスの感染源が人工衛星だと政府が知ったら、まず真っ先に疑うのは結界の操作だろう。

しかし十の昔に廃棄されたも同然の人工衛星に関することなんて、政府が知るはずのないこと。

いえ、もしかしたら、私たちが知るはずのないことを知ってしまったのかしら?

資料館に保管されていた『幻想郷縁起』。

蓮子がそれを入手できたのは果たして偶然なのだろうか。

―!?

「先生!蓮子は!?」

「宇佐美君は朝から連絡をとれていない」

「そんな!?まさか、夢から覚めていない!?」

「!?…どういうことだ?説明したまえ、メリー君!」

「い、いえ。とにかく本日、内閣府へ行けばよいのですね?」

「お、おい!メリー君!」

部室の扉を閉める余裕もなく、私は大急ぎで部室を飛び出した。

大学から内閣府までは徒歩10分程度の距離。

現在時刻は9時45分。

当日、しかもこのようなぎりぎりの時刻に事前告知もなしで任意聴取を政府が行うはずもない。

政府も予期せぬ、急な展開がなされたに違いない。

「おそらく、蓮子について何か知っているわね」

平等院鳳凰堂を思わせるような左右対称の建物、内閣府。

豪勢に花崗岩を使用した建物の外観は、最早血の気の血の字すらも感じない近代の遺産といった感じだ。

入り口の守衛に身分証を提示して、建物の中に駆け込んだ。

「すみません!第一機密公聴室はどこにありますか?」

「? すみません、そのような部屋は当館にはございません」

受付の案内の人に話しかけても、警備員に話しかけても、そのような部屋は存在しないの一点張りだ。

「!?」

結界だ。建物を縦に貫くように、一筋の結界が姿を現した。

その結界は真ん中でぱっくりと裂け、建物ごと私を吸い込むように移動した。

結界の割れ目がこちらに向かってきた途端、咄嗟に目を瞑ってしまった私は、目を開けて自分がどのような状況に置かれているのかを確かめる必要があった。

建物の造りは全く同じだが、決定的に足りないもの。

私以外に、人が誰一人としていない。

否、コツコツという足音とともに、薄暗い廊下の奥から近づいてくる人影が一つ。

窓から差し込む太陽とは異なる赤い光で、その人物の外見が確認できた。

肩にかかる長い金髪、紫を基調としたワンピース、白い手袋をはめた細い指に、大きな扇子をぶら下げている。

「どーも、本日はお目にかかれて大変光栄ですわ。マエリベリー・ハーンさん。わたくし、本日の聴取の監督を務めさせて頂きます、八雲紫と申します。よろしく」

見るからに胡散臭い空気を放つ八雲紫を名乗る女性。

ここは恐らく彼女が創り出した結界と結界の狭間の空間だろう。

建物の内部のみで完結した世界、そこに私は閉じ込められたことになる。

「貴方は…なにものなんですか?」

「あーらー、そんなに緊張しなくても。それともこのような場所は初めて?そんなはずはないわよね。なにせ、貴方は秘封倶楽部。数々の結界を渡り歩いてきた少女ですもの」

この女、一体私の何を知っているのだろう。

「貴方は大切な友人をどこかに置き忘れて行ってしまったようね。でも安心して頂戴、彼女は無事よ」

「!? 蓮子はどこにいるの!?」

「貴方が知らないはずないんだけど、残念ながらもう会うことはできないだろうね」

「!? なんですって!?」

「いーい?幻想郷は、昨晩消滅したの」

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