レトロスペクティブ京都   作:にわかの底力

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鞄の中は奈落の底。鍵や小物を安易に入れてはならない。必ず後悔する。


第十九章 神々が恋した幻想郷

「…どういうこと?」

「言葉のとおり、というわけにはいかないけど、そうねえ。この世界は、幻想郷は存在しないことになっているといった方がいいかしら」

怪しげな笑みを浮かべえる八雲紫。

彼女が幻想郷とどのような関りがあるのかわからない。

幻想郷が今どのような状況にあるのかもわからない。

わからないことだらけで、頭の整理が追い付かない。

「いつまでも眠っている寝坊助な友人を、早く目覚めさせてあげないとね」

「!?」

なんの前触れもなく、八雲紫はその場から姿を消した。

正確には、いないと分かった時には、もういなかった。

いなくなる速さに、脳の処理が追い付かなかったのだ。

周りは既に正常な空間に戻っていた。

人の声が聞こえる。

人の足音が聞こえる。

何もかもが至って正常な空間。

というわけにはいかなかった。

圧倒的に足りないものがそのままだ。

「蓮子を探しに行かないと!」

建物を飛び出した私はその足で蓮子の住んでいるアパートへと足を運んだ。

いつか作っていた合鍵で部屋の中に入ると、やはり中はもぬけの殻だった。

「待ってて、今探しに行くから」

ビールの空き缶が大量に転がっている円卓の上にはあるはずの物がなかった。

『幻想郷縁起』

本当にこの世界から幻想郷が無くなってしまったのだと実感した。

幻想郷はどこへ行ったのか、まずはそれを突き止める必要がありそうだ。

ふと、ベッドの枕元に一冊の本があることに気が付いた。

『秘封倶楽部活動記録』

「唯一の手掛かりはこれか」

この本が、幻想郷に関する唯一の手掛かりとなる。

「えーっとなになに?『異世界へ行く方法…』」

 

宇佐見菫子氏は結界を内側から破壊するという方法をとったらしい。

実際この方法が成功したかはわからないけど、理論的には可能なはず。

この世界に幻想郷があればの話だけど。

「そういえば最近、結界を見ないわね」

京都は隅から隅まで緻密に計算しつくされた、都市そのものが結界としての役割を果たす結界都市から発展した都市であるため、そこかしこにその名残が見られる。

しかし最近になって、元々張られていたはずの結界が消滅していたり、不定期に現れる結界が滅多に姿を現さなくなった。

「もしかしたら…」

嫌な予感がした。

私は急いで東へ走った。

日がもうじき頂上へ届きそうで、気温も徐々に上がってきている。

夏も中盤で残暑が続く中、昼間のランニングを経験したことがない身にとって、かなり過酷な行為だったけど、そこまでして確かめなければならないことがある。

山道を駆け上り、息を切らしながら京都を一望できる舞台へと上がってきた。

今が秋だったらどんなにきれいだったか、などと考える暇もなく、愕然とした。

京都から、一切の結界が消滅しているのだ。

「この世界に…何が起こっているの?」

幻想郷が消滅した。

それは、幻想郷をこの世界から隔離するための結界が無くなったということなのだろうと、この時は思った。

隔絶された世界ではなく、断絶された世界となったのだと。

「どこでもいい。どこか、結界が残っている場所は…」

ふと、私の頭の中に、たった一つの、それでいて決定的な場所が思い浮かんだ。

気づけば、なぜ今までその場所を訪れなかったのか、それくらい、決定的な場所だった。

「博麗神社…」

深い山の奥、獣ですら入ってこないような静かな森林。

その中に忘れ去られたもはや社としての機能を果たせていない木材の残骸を守るかのように佇む赤い鳥居と一対の狛犬。

その鳥居を抜けた先で見たのは、屋根をしっかり支え、本来の姿に復元された社と、山々に囲まれた盆地に広がる森林と平原、それから、集落の明かり。

あの後、気が付いたら神社の社の残骸にもたれかかって眠ってしまったために記憶が曖昧だけど、私たちが神社に集まっていた人たちと一晩中吞み明かしたあの場所は、間違いなくどこか別の世界。

もしあれが幻想などではなかったとしたら、何だったのか。

「待ってて、蓮子。すぐ行くから!」

私はかつて蓮子と訪れた宴会会場へ向かって、走り出した。














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