レトロスペクティブ京都   作:にわかの底力

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現代の感覚で、お寺というのは確かに静かで退屈なイメージかもしれません。しかし、覗いてみますと案外賑やかなものですよ。お近くの廃寺院を尋ねてみてください。夜から明け方にかけて、宴会が行われているかもしれません。


第三十三章 妖怪寺

「どうどう?作ってみたの」

早朝から、インファは手に布を広げて簡易集会所に現れた。

「どう?昨日作ってみたの。なかなか風情あるでしょ」

私たちに渡してきたのは、浴衣。

「迷彩服よ。これなら怪しまれずに済むわ」

恐らく夜通し作ったのであろう彼女の目元からは、その苦労が伺える。

「折角だから全員分作っちゃった」

「これ、どうやって着るのか?」

受け取った森羅がまじまじと浴衣の帯を見ながら考える。

「ちょっと待って、えーと、ここをこうして…」

「え!?ちょっ、おい!」

浴衣を羽織った森羅に対し、身を寄せながら帯を体に巻き付けるインファだったが、前が開きっぱなしである。

「ちょっと待って」

代わりに私がやる。

多少不格好ではあるものの、何とか形にはなった。

「すごい!どこで覚えたの?」

興奮するインファだったが、私は覚えたわけではなくて、なんとなくそれっぽく整えただけだ。

結局全員分の着物の着付けを私がすることになり、その結果、全員不格好に着崩す羽目になった。

おそらく午後には崩れてはだけてしまうことだろう。

「それじゃ、森羅シャクルトン、アンリエッタ・クリステン、ラン・インファ、マエリベリー・ハーン、以上4名を、派遣隊員として任命する」

「「「イエッサー!」」」

その他の隊員はここに残る。

事実上、これがエルヴィン調査隊としての私の初任務だ。

都市までは歩いて移動する。

言わずもがな、ヴィークルに乗ったままだと、確実に目立つ上、文明に計り知れない影響を与えてしまう恐れがある。

荷物は、インファが通行人をゴーグルで観察して、実際に都市で使用されていたものをコピーして作成された荷物入れに入れてある。

「それでは、行ってまいります」

「気を付けてな」

 

 

 

目で見えていたのにも関わらず、実際の道のりは体感七キロメートルほどあり、それも途中までは険しい山道なので、相当の時間がかかった。

「はあ、はあ、やっと着いた」

やっと肉眼で人の動きが確認できる距離まで来た。

都市は私が想像していた範囲よりもさらに大きく、長方形の都市の対辺は地平線の向こう側にある。

都市は活気にあふれており、人の往来も激しく、木造の建物や人々の服装は太古の日本を思わせる。

建物一つ捉えると、それは日本古来の伝統的木造建築であり、それは重要文化財にて私も見たことはあるけど、この都市全体に対して心の深層部にとっかかりがあり、それは視覚とも聴覚とも取れない異質な感覚によって捉えられる。

私はこの都市に、何らか見覚えがあるような気がしてならない。

既視感とは言うけれども、これは既視感からくる違和感と言った方が的確かもしれない。

というのも、この都市に見覚えがあることを前提に、何かが決定的に違うからだ。

そこから来る感情は、昨晩から感じている、恐怖である。

それはトラウマではない、既視感と、それを引き起こす幻の体験が映し出す像と現実が一致していないことで、それが良からぬことの前兆を指示しているのだと、無意識の領域で処理されているのだ。

きりがないので、私はここで考えるのを止める。

 

 

 

それにしても、浴衣で山道は歩くものではない。

おそらく彼女らも同じことを感じているであろう。

痛いつま先を抑えながら靴を下駄のような履物に履き替えると、私たちを見つめる人影がいることに気が付いた。

まだ完全に都市に入ったわけではないけど、山の麓のあたりにいくつか建築物が確認されていたので、おそらくそこに暮らす者ではなかろうかと思われる。

私たちが彼に気づくと、彼は飛んだように走って逃げて行った。

頭を坊主にした、法衣のような衣装に身を包んだ、年端もいかぬ少年だった。

「こちらインファ、只今住民と思われる人影に遭遇‥‥ヨーソロー。‥‥接触の機会はこちらに一任するとのことでした」

インファが、チップ型の小型無線機で班長らのキャンプと連絡をとる。

返答は、現場に任せる、だった。

「ついていってみましょうか」

クリステン隊員の言葉に一同賛成し、非常に走りにくい格好で彼を追いかけると、とある木造建築の建物に辿り着いた。

玄関には、閉じられた大きな木の門があり、横におそらく建物の名前が書いてある。

『藏山寺』

「漢字で書いてある…」

「漢字か…局所的エヴェレット多世界の一つと考えてよさそうね」

局所的エヴェレット多世界――起源を同じくする平行宇宙であることを前提に、偶然毎で行われる量子的な分岐により創られた重ね合わせの世界の中で、特に局所的に分岐した世界の事。

それらの世界では使われている言語のルーツがほぼほぼ同じであり、隊員の中にはそれを母国語としていた者もいる。

それが今回私であったわけだけれど。

多国籍な隊員と思われがちだが、実は全ての隊員、住んでいた世界線が異なる。

「ハーン隊員、そういえばヤマト系モングール語族とゲルマン語群が担当だったね」

と森羅隊員。

ハーンの名前の所為で誤解されることが多々ある。

というわけで、私はこれからコミュニケーション担当となるわけで、その責任は更に重くなる。

その第一歩として、門を叩くところから。

「ごめんくださーい」

返事がない。

「ごめんくださーい!」

更に大きな声で言ってみた。

「はーい」

中で微かに声が聞こえた。

老人の出すような、ややしゃがれた声。

カコン、と門の向こうで、おそらく閂を外す音がすると、扉の片側が静かに開いた。

姿を現したのは、法衣のような衣装に身を包んだ老人と、それにしがみつく先ほどの少年だった。

「いらっしゃい。どなたですか?」

「私たち、ここに初めて来た者でして、道に迷ってしまったところにこの建物があったものですから…」

どうやら言葉は通じるようだ。

「それはそれは、災難でしたね。着物の裾も泥で汚れてしまって、山道を歩いて来られたのですね。さぞ大変だったでしょう。さあ、ここではなんですから、なかでごゆっくりとなさってください」

老人は私たちを門の中に入れると、中の建物の方へ、私たちを案内した。

瓦屋根の建物の他に、釣鐘をぶら下げた鐘楼のような建物がある。

「ここはお寺ですか?」

「ええ、(わたくし)藏山寺(ぞうざんじ)住職の 蔵山安住(くらやまあんじゅう)と申します。どうぞ中へ」

石段を上がり、既に開け放された玄関から中に入る。

その際、住職にしがみついて離れない少年は、私たちから目を放すことは無かった。

警戒されているらしい。

「これこれ、あまりじろじろ見るものではありません。お客様にご迷惑でしょう」

住職のお叱りを受けてもなお、彼の状態は変わることは無かった。

「おじゃまします」

靴を脱ぎ、中へと入る。

「あ、靴はそろえてね」

念のため、他の隊員にも注意を促す。

玄関の靴は綺麗に揃えられていたため、生活習慣や常識もさほど変わらないと見た。

「今お茶をお出ししますので、暫くこちらで楽にしてらっしゃってください」

住職のお言葉に甘え、畳の座敷に荷物を置き、一息つくことにした。

住職は、少年とともに座敷から出ていく。

「メリーの故郷と変わらない感じ?」

インファが聞いてきた。

「いえ、大昔の私の国って感じね。この建物のつくりも、歴史的建造物に見られるような造りだわ」

「それではこの着物も、着たことがあったから全員の着付けができたということですか?」

「いえ、というより、私も着物というものをほとんど初めて見たもので、本当の着方とは多分異なると思います」

「え、そうなの?だから歩きにくかったんだ」

歩きにくさは着方云々以前の問題気だと思う。

「やい!そこの者!いい加減正体を明かせ!」

先ほどの少年が、障子を飛ばすような勢いで開け放ち、私たちに向かって叫んだ。

「え?ええっと、正体?」

「そうだ!正体は山の狐だろ!全部知っているんだ!」

成程、私たちが山から来たこと自体を怪しんでいたわけか。

ここにも化け狐の概念が存在するのだろうか。

「こらあああああ!タケゾウ!お客様に向かい狐とは何事か!」

住職が飛んできて、先ほどと同一人物であることを疑うほどの迫力で少年を叱りつけた。

途端に涙目になる少年。

「この度は(それがし)の弟子が大変なご無礼を働きましたことを、謹んでお詫び申し上げます」

膝をついて謝る住職に、こちらも条件反射的に同じ姿勢をとる。

「いえいえ、こちらこそ、誤解されるような行動をとったばかりに」

「お前は反省するまで裏の山で滝に打たれてこい!」

住職に言われ、少年は飛ぶようにこの場から去っていった。

「こちら、粗茶とお菓子、それから、先ほどのお詫びと申しては恐縮ですが、こちら、猪口齢糖というお菓子になっております」

言葉がわからない隊員たちも、よからぬ場面であることを、なんとなく場の空気で察している様子。

「あ、チョコレートだ!」

そんなこともなかった様子。

あらためて、住職と隊員で、食卓を囲むようにして座る。

「と、いいましても、じつは(わたくし)も、あなた方が山の方から来られたのは少々不思議に思っておりまして、特に薬師でもないのに薬箱を抱えながらあるかれているところを見ますと…」

インファが用意した荷物入れが薬師の薬箱だったという事実を今初めて知った私は、なるほど、恰好がそもそも怪しかったのかと今ここでようやく理解する。

(あの方はなんとおっしゃっている?)

横で森羅隊員が耳打ちしてくる。

「私たち、相当怪しまれていたみたい」

「なんだって!?強盗か何かに間違えられていたとか!?」

「それ以前に、人間であるかどうかというレベルで」

「私の衣装、イマイチだったってこと!?」

衣装は完璧だったのだが、その他が衣装と嚙み合っていなかったというべきか。

「しかしながら、あなた方が人々に害をなす存在でないことはわかります。例え(わたくし)たちと存在を異にする者であったとしても、お客様はお客様です。もうすぐ日も暮れましょうし、今晩はここでゆっくりしていかれるといい」

「え!?ここに泊めてくださるのですか?」

「ええ、歩いてお疲れでしょう」

まさか、寺に泊るよう住職から提案があるとは思わなかった。

今晩の泊地が決まっていなかった私たちにとってはありがたいことではあるが。

「ここに泊めていただけるらしいけど、どうする?」

「本当ですか?それはありがたいですね」

「ええ、でも判断はメリーに任せるわ」

住職からの折角の提案を無下にするわけにもいかず、私たちは一晩、この寺にお世話になることになった。

 

夕食には動物性の食材は入っておらず、山でとれた山菜が使われていた。

修行から戻った修行僧とともに、これら精進料理をご馳走になる。

食事をするにあたっても厳格な戒律があり、まず私語は厳禁、さらに、食す順番なども厳格に決められている。

修行僧たちは、食事をする前にお経のようなものを読み上げる。

キリストでいう所の所謂、食前の祈り、に相当するものと思われる、アーメン。

畳の上に座布団は敷いてあるものの、普段正座に慣れていない人間からしてみれば、正座は耐えがたい姿勢の一つである。

他の隊員も限界間近なのか、時折足の方を気にしながら非常につらそうな表情を浮かべているが、僧侶たちは目を瞑りながら食べていた為、それには気が付かない。

「ごちそうさまでした」

 

食事の時間が終わり、部屋に戻った私たちは、張り詰めた神経と凝り固まった筋肉を伸ばし始めた。

まだ足のつま先辺りに電流が流れている。

「いたたたた、あの人たちはどうしてこんなにつらいことをやっているのだろう」

インファが畳に寝転がりながら、この場の誰にも答えられない問いを、どこかに向かって投げかけている。

「きつかったな、正直食事どころじゃなかったよ」

「足、マッサージいたしましょうか」

「ああ、助かる…おお、気持ちいい」

流石はDr.クリステン、冷たくなった足に血流が戻ってくるのがわかる。

「はい、こちらA所属ラン・インファ、聞こえますか?‥‥‥住民との接触に成功しました。現在、寺院とみられる建物に宿泊中です。‥‥‥住民とのトラブルはありません。生活様式から考察して、東洋のヤマト文化継承のものと推測します。経験因子をただいま転送いたします。‥‥‥はい、報告は以上です。ヨーソロー」

横になりながら、懐から小型無線機を取り出したインファは、声色だけを真面目にしながら班長に状況報告を済ます。

「それじゃあ、お風呂をお借りしましょっかメリー、それからクリステンも。森羅以外で今のうち入っちゃいましょうか」

「インファ、さっきも言ったけど、お風呂は一つよ」

「っへ?」

 

カコンッ という桶の音を聞くと、故郷が少し寂しく感じてしまう。

本国を離れるときは特に何も感じなかったのに、地に足がつかないような生活を送る今の私にとっては、安定した地面が一層恋しく感じてしまう。

非情に強い硫黄のかおり、変色した岩、天然の温泉だ。

周囲には、厳しい修行で凝り固まった体を癒す修行僧。

高齢の方から、私と歳が変わらないほどの青年まで、年齢も様々だ。

普段女性がこの風呂に入ることはないのだけど、そんな非日常的状況に置かれてもなお、彼らに一切の動揺が見られないのは、修行の賜物だろうか。

周囲の目を気にして辺りをきょろきょろとしているインファとは反対に、クリステンはまるでこれが日常であるかのように、目を閉じながら足を延ばし、肩までお湯につかっている。

「ヴぅううう、さぶいさぶい、夕食(ゆうげ)終わるまで滝に打たれろとか、正気じゃないっての‥‥‥うわああああああああああ!!!!!!!!!」

後ろで叫び声がしたので、何事かと思い振り返ると、先ほどの少年が脱衣所の前で地面に倒れこんでいた。

鼻から血液を垂れ流して。

「っだ、大丈夫!?怪我してない?」

「鼻血を拭きとりましょう」

医療担当のクリステンが、手拭で彼の鼻元を拭きとる。

「貴重な生体サンプルです」

「‥‥‥タオルは洗って寺に返してくださいね?」

 

「全く、風呂に入ってのぼせよるとは」

心配した住職が、脱衣所で横になっている少年の元に心配して駆けつけた。

少年はあの後、周囲の修行僧らによって脱衣所に運び出されたのだ。

いっぽうその少年は、ぐったり横になっている。

着替えた私たちが彼の看病をして、今に至る。

「しかし妙だな、身体は濡れておらんぞ?」

この住職、なかなか鋭いところに気が付いた。

「い、いえ、あの、私たちが彼の身体を拭いたので」

「…そうか、では、そういうことにしておこう」

住職はそう言って、少年を背負って脱衣所から出て行った。

 

天井を眺める。

天井があるとないとでは、安心感が全然違う。

森羅隊員は別の部屋で、この部屋には私含めて三人で寝ている。

一人は確実に寝ている。

もう一人は、確実に起きている。

明りを消してしまった今、顔を見ることはできないが、寝息が聞こえる方向にはインファがいる。

「寝れませんか?ハーン隊員」

相手の方から話しかけてきた。

「ええ、なんとなく」

「怯えてはいませんか?」

「‥‥‥」

「これが、初任務でしたね」

「‥‥ええ」

「貴方が何に対して怯えているかはわかりかねます、しかし、安心してください。私たちが、ついています。貴方は私たちの隊の研修生ではありません。紛れもない、私たちの仲間です。私たちの命運は、貴方とともにあります」

「私と…ともに」

 

 

 

いつの間に寝てしまったのだろう。

トイレに行きたくなってしまって、目が覚めた。

辺りはまだ暗い。

障子の繊維の隙間を透き通って、青白い月の光が畳を照らしている。

周りを起こさぬよう、静かに布団を剥がす。

それから、そっと、廊下へ出た。

建物が古いせいか、すこし移動するだけで、床がぎぃぎぃときしむ音がする。

不思議なことに、廊下の真ん中には、所々壺や地蔵などが置かれており、ただでさえ狭い廊下をさらに狭くしている。

廊下からは、月に照らされて青白く光る枯山水が見える。

二本の松のような木と、七つの岩の周りを、一面に敷かれた砂利が、水の流れを表すように綺麗な模様を描いている。

「っと、そんなことよりトイレトイレ」

目の前の目的を忘れてはならない。

 

トイレは建物から少し離れたところにある。

この寺には電気が通っていないため、当たり前だが水洗トイレではない。

木製の、和式トイレ。

早々に用事を済ませ、部屋に戻ろうとした。

山の麓なので、いつどのような野生動物に出くわすか、わかったものではない。

廊下を歩いていると、ふと違和感に気づいた。

違和感のする方へ目を向ける。

一、二、三、四、五、六‥‥‥やはり、枯山水の岩が、先ほどより一つ少なくなっている。

「さっき、数え間違えたかな‥‥」

「どういたしました?」

あまり足音を立てないものだから、驚いて体がのけぞってしまった。

そこには、油に灯した蝋燭の火を明りに歩く、住職の姿があった。

「いやはや、驚かせてしまいましたかな?」

「い、いえ」

トイレを済ませた後でよかったと心底思う。

「ところで、どちらに?」

「トイ…厠から戻るところでして」

「それはそれは、戻り方はわかりますかね?」

「ええ、大丈夫です」

「‥‥‥綺麗な庭でありましょう」

「え、ええ。とても素敵な庭ですね」

「以前の住職が、大変大事にされていた庭なんです。(わたくし)たちはあの方に良くしてくれた恩がありまして、どうしても、この枯山水だけは、守り通さなくてはならないのです」

その声はどこか悲し気で、それでいて強い決意のようなものを感じた。

「すみませんね、大昔の話です。さあ、明日もお早いのでしょう。ゆっくりお休みなさいな」

 

 

 

小鳥の囀りがやけに近くに感じ、目が覚めた。

霞んだ視界から、枕元に素早く動く何かを確認した瞬間に、それらは飛び立ってしまった。

それから、部屋が妙に明るく感じ、身体を起こす。

インファは、口を開けたまま天井を眺めて固まっている。

それもそのはず、天井には、大きな穴が開いていたから。

それだけではない。

畳はぼろぼろで苔が生え、布団と思っていたものは皆落ち葉、障子は枠の全てに穴が開いて、床は所々穴が開いている。

穴の場所は、昨晩壺なんかが置かれていた場所とおおよそ一致しているように思える。

「どういうことなのでしょうか?」

クリステンが天井を見ながら首をかしげる。

「この寺には俺ら以外誰もいない!僧侶たちも、誰も!」

お堂の阿弥陀如来像は土を被っており、長らく人がいた形跡はない。

「なんだったのかしら‥‥‥」

寺の中はものすごく荒れているのにもかかわらず、庭は昨晩のとおり、綺麗に整備されていた。

「綺麗な庭ね。今も誰かが整備しているのかしら?」

インファが不思議そうに庭を見つめる。

「これが、昨晩のは夢じゃなかったって証拠じゃないかしら?」

「え?どういうこと?メリーってばー‥‥っと、あ!ラクーンだ!」

インファの指さす方を見ると、松の木の下で、一匹の狸がこちらを眺めていた。

「山から下りてきたのかしら」

インファがカメラのようなものでその動物の姿を捉えると、狸は一目散に逃げて行った。

「昨晩転送した少年の血液サンプル、イヌ科の塩基配列が確認されたとのことでした」

「イヌ科?じゃあ、あのタヌキ…」

私たちは、タヌキが逃げていった方向へ、敬礼をした。

「これを報告しなきゃいけないのか…また骨が折れるわ」

インファのため息を合図に、私たちは歩き始めた。

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