レトロスペクティブ京都   作:にわかの底力

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搗き続けましょう 百八十柱の御子のため


第四章 お宇佐さまの素い幡

隠岐の島から因幡へ渡ろうとした白兎は和邇を欺いて海に並べ、背中を渡った。

しかし、うっかり口を滑らせたことで欺きがばれてしまう。

怒った和邇は白兎に噛みつき、艶やかな白い毛をむしり取り、皮を剥がした。

波に流されて何とか陸までたどり着くと、目の前を兄弟の万の神が通りかかる。

八上比売へ求婚に向かっている最中であった。

万の神は哀れな白兎を見るや否や、からかい、罵声を浴びせ、仕舞には兎を騙して海水を浴びせ、全身傷だらけの兎を余計に苦しめた。

その後、兄弟の中で一番末の神が通りかかる。

名を大国主という。

白兎の哀れな姿を見た大国主は、白兎に川の水を浴びてガマの花粉の上に寝かせると、兎の傷が見る見るうちに癒え、白い毛が生え、元の姿となった。

白兎は「八上比売様は必ずや貴殿を選びましょうぞ」と予言し、見事、的中させた。

 

ー古事記に見える、求婚譚である。

 

「やってきたわ鳥取県!」

「ちょっと蓮子、はしゃぎすぎ!」

平日の早朝ということもあり、リュックを背負った通勤客で駅は多少混雑していた。

駅周辺には、商店や土産店が並ぶ。

まだ早朝であるにも関わらず、開店準備を始める店や、宅配ドローンで、賑やかだ。

 

「さあ、鳥取県と言ったらここでしょ、鳥取砂丘!」

「わ~!すご~い!」

人の手を加えることなく、風と水の流れの偶然によって生み出された、この広大かつ生き物の気配すら感じさせないほど滑らかな土地を、もったいないと思いながらも足跡をつけながら二人で歩く。

かつては観光客で賑わっていたのであろうこの土地は、今は私たち以外の人影は見当たらない。

これほど広大な土地は今の日本にはほとんど残っておらず、この非日常的な光景に、若干の恐怖すら感じる。

「メリー!カニよ!カニ!」

向こうは向こうで楽しそうにしている。

「あら?」

今、一瞬、結界が蓮子の後ろに黒い影が・・・。

「ん?私の服になんかついてる?」

「えっ?あ、いや、何でもないよ」

気のせいよね。

 

所変わって、今いるのは白兎神社。

日本の医療発祥の地、恋物語発祥の地として知られるこの神社は、「因幡の白兎」に出てくる白兎、白兎神の他、安産、育児の神である豊玉比売、食糧の神である保食神を祀っている。

今回鳥取県に来たのは、実はここの神社に来ることが目的。

「竹林が幻想郷に移る前から竹林に住んでいたとされるこの妖怪兎、ここと何かしら関係あるかも」

『因幡てゐ』が白兎の妖怪であること、名前に『因幡』とあることなどからここを調査することにした。

もしかしたら、ここがかつて竹林が存在した場所かもしれない。

「それはそうとここはラブストーリー発祥の地、メリーにも良い人が出来ますように!なむあみだぶつ」

「余計なお世話よ!人の心配をするより自分の心配をしなさい!あと神社で念仏を唱えるな!」

と蓮子へのツッコミで自分のお願いをするのを忘れてしまった私は、蓮子と境内の裏に回った。

境内の裏は崖になっていて、大海原が視界いっぱいに広がっている。

「さて、伝説によるとここから500メートル沖合に隠岐の島があるはずなんだけれど・・・」

「蓮子!あれじゃない!?」

視界の隅に突き出た岬の先、大きな岩のような小島が海に浮かんでいるのが見える。

「そこよ!間違いない!」

「え!?ちょ、ちょっと待って蓮子!」

 

砂を撫でるように穏やかに寄せては引いてゆく波、あたりは波の音によって支配されている。

ここが古戦場だとは噓のようだ。

「ここが隠岐の島だとすると、この岬が白兎が流れ着いた場所、気多之前ね」

海岸に沿って西側に進むと、例の岬に辿り着いた。

海には先ほど確認した小島が確認できる。

「うーん、あの島に行くには何かいかだのようなものがあれば・・・って蓮子!?」

なんという事でしょう、私の目の前に、何を血迷ったのか、服のボタンを上から丁寧に外してゆく女友達の姿が・・・。

「泳いで上陸するわ」

「止めておきなよ!いくら波が穏やかだからと言って、危険すぎる!ってか、水着ないでしょ!」

私の友人は、頭は良いはずなのに、時々頓珍漢な行動に出ることが稀に良くある。

「そうよね・・・。岬の上から覗いてみましょうか」

 

岬の上からだと、より一層海が広く感じる。

海にちょこんと顔を出した小島からは海面に突き出した岩が列をなして陸に向かって延びている。

「島の上に白い鳥居が見えるわね」

「隠岐の島の上には『あまんじゃく』の塚があるといわれているようだけど、なにか関係があるのかな」

「わからないわ。でもあれがただの岩じゃないってことは、はっきりしたわね」

 

「もう一つ関係していそうな場所はここなんだけれど」

比較的新しく見える鳥居の先、広大な境内に敷かれた迷路のような参道み進んだところ、数十トンはあると思われる巨大なしめ縄を堂々と正面に垂らした社が鎮座している。

「『出雲大社』ー国譲りの際、大国主が自身の隠居として建立を命じた神社」

「国を造ったのに、その国を追い出されて、引き籠ることになるなんて。日本の神様も冷酷ね」

「その神様の存在そのものを消してしまった人間の方が、ある意味冷酷なのかもしれないわ」

神は人類が想像で作り出したものだから、消すも生かすも人類の勝手、これが人類側の主張なのだろう。

必要だから生み出して、要らなくなったら処分するといった人類の性質は、資本主義を1000年近く維持できた一番の原因なのかもしれない。

「にしてもここは人が少ないわね」

平日とはいえ、世間では長期休暇が始まったところ。

レジャー施設は今頃家族連れで賑わっていることだろう。

「ここの神社はまだ少し結界が残っているわ。まだ誰かが訪れている証拠ね」

神社の境内を囲うように張り巡らされている結界は、今はそのほとんどが消滅してしまっている。

結界が消滅してしまった神社はもはや聖域の役割を放棄し、文化再興の公約も虚しく、ただ崩れかけの社が見るも無残に残っている。

それに比べ、ここの神社は微かに結界が残り、かろうじて聖域を保てているが、崩れるのも時間の問題でしょう。

「駄目ね。ここにも幻想郷に通じるような結界はないわ」

「そっか・・・。折角だし、参拝していきましょ」

「そうね」

出雲大社はどういうわけか、本殿には入れないようになっている。

日本には禁足地とされる聖域が多数存在していたが、そのほとんどが解放された現在、それを守り通しているのは非常に稀だ。

「ここでは二礼四拍一礼が正しいそうよ」

「やはりここは特別な神社なのね」

賽銭を入れ、礼をする。

今時この作法を知らない者も多い。

「では行きましょうか」

「そうね。なんだかすっきりしたわ」

神の存在は人々の中から完全に消え去ってしまった。

それでも、亡くなった飼い主を待ち続けた忠犬さながら、いなくなった祭神を待ち続ける社は、いずれ帰ってくると信じている祭神の威厳を保つため、誰もいない境内で、これからも悠然とした態度で建ち続けることだろう。

目の前の少女は、そんな社にとって、たった二人の理解者だったに違いない。




まいどありがとうございます。ついに四章を迎えることが出来ました。メインタイトルに京都と入っているにもかかわらず、この二人京都に居ませんね。
pixivでご覧の方は気づいているかとは思いますが、実はもう一シリーズ作ろうかと思っています。今頑張って構想をひねりだしている最中なので少々お待ちください。
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