レトロスペクティブ京都   作:にわかの底力

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永遠は須臾の連続。しかし、須臾の連続は必ずしも永遠ではない。須臾にも満たない穢れが混ざるだけで、永遠に続く糸は簡単に切れる。


第七章 竹取飛翔 〜 Lunatic Princess

「…なんで私のベッドで寝てるのよ⁉︎」

「いいでしょ?私だって見たいのよ。メリーの夢」

「同じベッドで寝たからって、同じ夢を見られるとは限らないわよ!」

「わからないじゃない、そんなの」

図々しくも私の家まで上がり、私のベッドに私より早く入った蓮子は、まるで遠足前の眠れない子供のようにはしゃいでいる。

「さあ、メリーもおいで」

「…私のベッドなんですけど」

自分の部屋なのに床で寝るなんて屈辱的な思いをしたくない私は、仕方なく、あくまで仕方なく、蓮子と同じ布団に入った。

「へへえ、メリーと同じ布団♪」

「やめて」

 

 

「実験は…」

「成功…、したのかな」

辺りの景色は私の部屋から竹林へと変化している。

私と蓮子は、パジャマ姿のままで。

「ここがどこかわかる?」

「夢の中の世界では流石に…待って!わかる!」

「本当⁉︎」

蓮子の目、月や星の位置から正確な時刻と場所がわかる目は、確かにこの世界が実在するものである事を示していた。

「現在の時刻は午前0時、北緯34度52分62秒、東経135度72分90秒…奈良県の辺りね」

因みに蓮子の目は正確な場所がわかるだけで、そこが何県かわかる能力は備わっていないはず。

「止まってても仕方ない、歩くか」

「そうね」

もし実験が成功したならば、ここは二千年以上前の地球。そして、これから起きる出来事は…

その時だった。

頭上、竹と竹の隙間から、少しずつ見える、満月。

その輝きとは異なる、青白い光を放つ、一筋の閃光が満月を横切った。

「蓮子!あれ!」

「彗星⁉︎いえ、月の周回軌道よりも内側。流星でもないわね」

「追いかけましょ!」

「ええ!」

閃光は徐々に大きくなっていき、やがてそれが光り輝く人の集団である事がわかってきた。

「きゃっ⁉︎」

頭上に気を取られた私は、足元に広がる地下茎に足を絡め取られ、盛大に転んでしまった。

「大丈夫⁉︎メリー!」

「ええ、なんとか」

肝心な光は、速度を落として徐々に地上に降りてきていた。

「降下地点はあそこね!急ぐわよ、メリー!」

「ええ!」

 

光を追いかけ、暫く竹林を進んだ先、開けた場所に見えたのは、大層立派な屋敷。

それを護るように、至る所に配備された、武士と思しき人々の姿がある。

その数ざっと二千余り。

中には馬に乗った武士までいる。

武士が見上げる先、やはりというか、光り輝く集団が降りてくる。

だいぶ至近距離まで近づいた事もあって、集団一人一人の姿が確認できる。

大きな羽衣遠身につけた、まさに俗説の中に出てくるような、想像のままの、天女だ。

天女達が囲んでいるのは、おそらく要人を乗せるための籠。

様々な装飾が施され、まるで小さな宮殿のようだ。

おそらくその要人が、あの屋敷にいる。

いよいよ天人が、人の丈の所まで降りてきた。

刹那、一本の矢が放たれる。その矢は笛のような、独特な音を出しながら放物線を描く。

その矢に続くように、天女に向かって今度は一斉に矢が放たれた。

しかし、放たれた矢は皆、まるで意志を持ったかのように各々見当違いの方向へ軌道を変え、結局、一矢も当たる事は無かった。

尚も矢を撃ち続ける武士達に対して、天女集団の先頭の人物が大弓に矢を番えて引き絞り、放った。

放たれた矢は見える事なく、気が付いたら一本目の矢を放った武士の身体を貫いていた。

射抜かれた武士が馬から落ちると同時、他の武士も次々に倒れ込み、ついに屋敷から現れたのは…

泣きじゃくる老夫婦、そして、

十二単に身を包んだ、髪の長い女性。

「間違いない!あの人が伝説の…」

「…かぐや姫」

先程矢を放った天女が降りてくる。

かぐや姫と何かを話しているのか、草むらに隠れている私たちには、会話は聞こえない。

かぐや姫はとうとう天女に連れて行かれそうになるが、それを制し、泣き崩れる老夫婦に箱を渡し、大量の壺を置いていった。

かぐや姫は今度こそ籠に乗り込み、倒れた武士と泣きじゃくる老夫婦を置いて、天へと昇っていった。

「蓮子、この後かぐや姫は月へ帰るんだよね?」

「ええ、そうだけど…あっ!」

「幻想郷にも居るはずがないのよ」

『幻想郷縁起』には確かに『蓬莱山輝夜』の名があったが、単なる偶然か。

しかしながら、それにしても遠目から見た感じ、かぐや姫の姿は『幻想郷縁起』に描かれていたイラストと雰囲気は似ていた。

もっとも、至近で見たわけではないから、なんとも言えないが。

「追ってみましょう!あの光」

「あっ、ちょっと待って!」

とは言ってもここは竹林の中。

竹に遮られて、上空の視野は狭く、既に飛び立ってしまったあの小さな光は中々見つけられない。

「かぐや姫は月に帰るはず。取り敢えず月の方へ走ってみましょう」

「ええ」

今夜が満月という事もあって、的の大きな月は竹林の中でも確認できる。

歴史的に見て恐らくはもっとも偉大な名月を目指して、私たちは走った。

 

「きゃああああああああああああああああああ」

竹林に響き渡る悲鳴。

輝く月の中には、隊列を崩し、散り散りになって動く影があった。

「戦ってる…」

「…なぜ?」

戦っているのはかぐや姫ではない。

あのシルエット、まさしく集団の先頭にいた人物。

武士に向けて弓矢を放った人物だ。

その周りを、天女達の影が襲い掛かるように動いている。

肝心のかぐや姫の姿は見えない。

「いやああああああ」

「きゃああああああ」

あれだけの大人数相手に、その人物は全く引きを取らない。

その人物が何本か同時に放った矢はまるで意志を持ったかのように不規則な軌道をとりながら飛び、狂う事なく命中する。

矢で射抜かれた天女達は悲鳴をあげ、落下しながら上空で霧のように消えてゆく。

「倒し切った!」

人物に歯向かうものは一掃され、籠だけが残された。

人物が籠の中へ入ったと思ったら、籠の中から、かぐや姫のものと思われる影が出てきた。

それから二人は、満月の中、互いに抱き合った。

「…何がどうなっているの?」

しかし、非情にもその時は来てしまう。

二人の身体から突如として光が現れた。

「蓮子、タイムリミットよ」

「え⁉︎そ、そんな!まだこれからだというのに!」

そんな蓮子の嘆きも虚しく、夢の中での私たちの意識は遠のいていった。




お読みいただき光栄です。ハーメルンへの投稿は朝にすることにいたしました。どうかな?
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