この句が詠まれた日は、実は満月よりも僅かに欠けた、十六夜の月だったとか...
「いったん整理しよう」
「ええ、私も少し混乱している。というか怖い」
実験の結果。
私の能力で、今私が最も訪れたい時間と場所に、夢の中で行くことが出来た。
これ、例えば、恐竜を絶滅させた隕石が落下した日とか、地球が誕生した日とかにも行けちゃう感じ?
冗談じゃない。
夢の中での出来事は現実世界にも影響を及ぼす。
私の命は無限じゃないんだから。
一度ぴちゅったら二度とコンテニューできないんだから。
ぴちゅったらって何?
「それだけではないわメリー。この力が宇宙に与える影響がどのようなものかわからない。例えば、夢の世界と現実の世界で辻褄が合わなくなった時、等価原理の崩壊によって対称性の破れが生じ、宇宙全体が崩壊してしまう可能性だってあるわ」
蓮子のいう通り、これは私個人の問題にとどまらず、周囲の環境にも影響を与えてしまう可能性もある。
「とにかくメリー、夢の中での出来事はこれまで通り逐一報告して。それから行動は慎重に。夢についていきたいのは山々なんだけど、メリーにどんな負担があるのかわからないから、今後このような活動は控えることにするわ」
「ええ、そうするわ」
「とまあ、昨日までの話はここまでにして、調査の続きだけど」
「『藤原妹紅』、名前だけだとどこにでもいそうだけど」
藤原妹紅
―—竹林に住まう人間。存在は私(稗田阿斗)の一代前から確認されている。しかし正体は依然として明らかになっておらず、本来人間ならまずあり得ない不老不死の身体を持つ—―
「他にも『蓬莱山輝夜』との仲は険悪とも書かれているけど」
「輝夜と関係あるとなると、見えてきたわ」
出ました、蓮子お決まりの顎に手を当てる仕草。
「藤原妹紅はかぐや姫が帝へ寄越した不死の薬を服用した可能性が高いわね」
「...となると、『藤原妹紅』は帝と近しい人物...貴族とか?」
藤原の性からしてもあり得ない話ではない。
「ええ、一つ心当たりがあるの」
そう言って蓮子が見せてきたのは、藤原一族の家系図。
それを机の上に豪快に広げる。
蓮子はどうやら端末という言葉を知らないらしい。
「ここに藤原不比等という人物がいるでしょう」
「ええ、藤原一族を政治貴族の道へ導いた人物...だったかしら?」
うろ覚えの知識をなんとか引き出しから引っ張り出す。
「竹取物語では五人の貴公子が出てくるけど、その内の一人、車持皇子は不比等がモデルではないかと言われているの」
「...確かに、母が車持国子ではあるわね。それで、『藤原妹紅』と不比等の間にはどのような関係が?」
『藤原妹紅』と不比等が何らかの血縁関係で結ばれているとの予想はつくが、具体的な関係までも蓮子は大方予想を付けているのだろう。
「...一説に過ぎないんだけど、不比等の子供の中に、存在が不確かな人物や、母親や名前が不明な人物が多くいるとの話があるわ。ひょっとすると...」
「不比等の隠し子...」
この時代の貴族にはあり得ない話ではない。
蓮子の仮説が正しいとして、なぜ『藤原妹紅』が不死の薬なんてものを服用したのか。
そもそもにして、どのようにして手に入れたのか。
「最終的にあの薬がどうなったか、確かめる必要があるようね」
「確か、『駿河の国にある最も天に近き場所』で燃やされたと物語の中では語られているけど...」
要するに富士山の事だ。
「その時に薬の入った壺を持って行ったのが『調石笠』という人物だけれど、彼に関する記録というのが一切ないのが不思議よね」
「というかメリー、不死の薬って、そう簡単に燃えるのかな」
考えてみれば、不死身になれる薬が、火をつけられたくらいであっさりと消失してしまうとは考えにくいような。
それが恒久を謳う月の都の産物であるのならば尚のこと。
「私の夢の中で確かめられないかしら」
蓮子が真っ先に食いついてきそうな私の提案に、しかし蓮子は首を横に振る。
「いいえ、先ほども話した通り、なるべく貴方の能力は使いたくないのよ。メリーの身に何かあってからでは遅いし、現実の世界にどんな影響があるのかまだわからないわ」
「それじゃあどうするの?」
「メリー、私たちの目的は何か、忘れていない?」
私たちの目的...
「幻想郷の調査?」
「そう、不死の薬の捜索が私たちの目的ではないわ。確かに興味深いことだけど、それよりも、私たちの
世界に残された幻想郷の実存性を示す確固たる証拠を掴むことが最優先よ」
「そうだったわね」
「これからは『幻想の欠片』とでも呼称しましょうか」
「『幻想の欠片』...」
私たちの冒険は始まったばかり。
これからどのような出来事が私たちの身に降り注ぐのだろう。
毎度ありがとうございます。本格的に寒くなってまいりました。朝起きるのが辛いです。ところで、毛布の上に布団をかけるより、布団の上に毛布をかけた方が温かいってご存じでした?私もやってみたのですが、大して違いが判りませんでした。
それではまた次回、何時になることやら。