レトロスペクティブ京都   作:にわかの底力

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生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終りに冥し

人生は一方通行の直線道路ではない。多方向に複雑に絡み合い、簡単に迷い込めるが、必ず同じ場所へ帰ってきてしまう、不思議な迷路なのだ。


第九章 月まで届け、不死の煙

日本最高峰の山として日本中にその名を轟かせ、かつて信仰の対象にもなっていた霊峰『富士山』。

飢饉をも起こすほど巨大な噴火を絶えず繰り返していた活火山としての面影も、火山活動を完全に停止させた今となっては過去の幻影に過ぎず、世界遺産という肩書を持ってしても、自然の前に人間は無力で、保全活動は虚しく山は頂上から崩れ始めている。

聞けば聞くほど悲惨な状況だけど、かつて人々を魅了した雄大な自然が創り出す絶景は健在で、河口湖から見る富士の山に私たちは息をのんだ。

「あれがかつての霊峰…」

「まさに絶景ね…」

現在環境保護のため、登山は禁止されているのが、非常に残念でならない。

登れないとなると、周辺を散策するしかなく。

幸い近くにトロリーバスが走っているようだ。

 

『ー次は 青木ヶ原樹海入口 本日も 富士河口湖電鉄をご利用頂き 誠に有難うー』

「着くわよメリー」

「うっ、うぇ〜」

トロリーバスに揺られる事20分、ようやく目的の駅に到着した。

慣れない乗り物で、私の三半規管がぐるぐるなってしまったようだ。

「大丈夫よ!外の空気を吸ったら、すぐに良くなるって」

「う〜…」

『またのご利用 お待ちしています』プシュ〜

やっと地面に足が着いたという気持ち。

空気が若干冷たい。

「う〜ん!やっぱり大自然の空気はいいわねぇ」

「うー…」

「…少し休んでから行きましょ」

蹲る私の足元から、どんぐりを抱えたリスが心配そうに見上げてくる。

 

青木ヶ原樹海ー

富士山の麓に広がる広大な森。またの名を富士の樹海という。「入ったら二度と出られない」「方位磁針が北を指さなくなる」などの俗説があり、人々が近寄ろうとしなかった為、自然が殆ど手付かずのまま残っている。

かつて自殺の名所としても有名だったらしい。

 

入口付近は一部整備されてハイキングコースとなっており、自然を楽しめる観光地ともなっている。

しかし蓮子の装備は明らかにハイキングのそれでは無く、大きなリュクに何やらポケットが大量に付いた上着を着ている。

キャンプでもするの?

「蓮子、大丈夫?こんなところ入って」

案の定、蓮子は早速ハイキングコースから外れ、そのまま森の奥へと向かうつもりだ。

「メリー、私を誰だと思っているの?生きるGPSを舐めないで頂戴」

「そうじゃなくて、熊に遭ったらどうするの?」

「じゃじゃ〜ん、熊対策用スプレー」

「蛇に襲われたら?」

「蛇対策用スプレー」

「マンドリルに襲われたら?」

「マンドリル対策用スプレー」

何それそんなのあるんだ。

「世界の秘密を暴く為ならなんだってする、それが秘封倶楽部よ!さあ、レッツラゴー!」

大丈夫かなぁ。

 

雑木林とは明らかに異なる、岩と苔で覆われた地面に、樹齢百年は超えているだろう大木が生い茂る、そこはまさに別世界。

私の目にはしっかりと映る、無数の結界のスキマ。

かつて修行僧たちが修行の為に張って、そのまま放置されたその残骸か、はたまたこの地の空間が不安定なのか。

「にしても多いわね、ガラクタ」

まだ入り口からそう遠くないところにいる所為か、足元に空き缶やロープが落ちていたり、キャンプの残骸が残っていたり、更には粗大ごみの山まである。

「わざわざこんなところまでごみを捨てに来る人がいるのね」

「ほんと、そんな労力があるなら普通に処理した方が楽だし早いと思うんだけれど」

 

さらに奥へ進むと、いよいよ日の光も届かなくなってきた。

「はあ、はあ、蓮子、ちょっとペース落として...」

「大丈夫?少し休みましょうか」

私たちは大分深いところまで来てしまった。

人の気配どころか、人工物すら確認できない。

この地を踏むのは私たちが初めてではないかと思ってしまうほどに。

「噂だとこの樹海の中にはお寺や集落の廃屋群があるって聞いたことがあるけど」

「何その気味悪い噂」

こんなところに一人で暮らすなんて、いくらお坊さんでも正気の沙汰とは思えない。

「とにかくもう少し進んでみましょ」

「…休ませてはくれないのね」

 

小川が作り出した小さな渓谷、不自然に根元が空洞になっている大木、自然が創り出す独特な地形や樹木の形状が、ここが人間の住む世界とはかけ離れた場所である事を伝えている。

本来ここに居るはずのない私たちは、言ってしまえば場違い、周りから浮いた存在なのだ。

故に、夜になると私たちは獣に非常に狙われやすい。

そろそろキャンプ予定地を探さなくては。

「できれば洞窟みたいな所が良いんだけど」

「洞窟みたいな所ね…、狙ったように大口開けている崖があるけど」

洞窟というか洞穴だけれど、雨風は防げそう。

「いいねえ、どこまで続いて…」

蓮子はどこからか取り出した懐中電灯を点けたとたん急停止した。

「どうしたの?れんk…」

「しっ!…まずいかも」

蓮子はすぐに懐中電灯の明かりを消すと、ゆっくり後ずさりする。

しかし私は、足元がおろそかになっていた。

地面の出っ張った個所に足を取られ、尻もちをつく。

「きゃっ⁉」

「メリー!…あっ!」

その時洞穴の奥から、確かに聞こえてきた。

野生の、荒々しい息遣い。

浮かび上がる、二つの光。

「…逃げて、にげて!」

「…!?」

熊に背を向けていけないのは私も蓮子も分かっている。

いざご対面となると、そのような冷静さはあっという間に失われる。

私たちは森の中を無我夢中で駆け抜ける。

恐怖で後ろなど振り返れない。

「あそこ!見える?あの穴に飛び込んで!」

蓮子の指さす方に、確かに人間の下半身ほどの大きさの穴が地面から突き出ているのがわかる。

「滑り込んで!」

蓮子は穴に向かって自らのリュックを放り込む。

その後すぐに、まさに二人は滑り込むようにその穴に流れ込んだ。

その直後の事だった。

熊の前足が、私の靴をかすめる。

しかし、熊はその隙間を通ることが出来ず、暫く前足で宙を掻いた後、悔しそうにうねり声をあげて帰っていった。

地上から見た感じ、穴は人間の下半身ほどの大きさだったけど、いざ入ってみると、普通に立てるくらいの深さはあり、奥行きもありそう。

「ここには野生動物は入ってこれそうにないわね」

「蓮子…」

「何?」

「結界」

「えっ?」

私にははっきりと見えた。

洞穴の岩肌の細い割れ目に沿って、結界が張られている。

「ここにあるの?」

「ええ、確かにあるわ。この結界、まだ生きてる」

僅かながら、結界に揺らぎが生じている。

これはまだ、この結界が何者かによって管理されており、また何者かがこの結界を通じて向こう側とこちら側を出入りしている証拠だ。

「じゃあ私たちが暴かないとね!」

「さっきまで熊に襲われていたのが嘘の様ね」

恐る恐る中を覗く。

結界の向こう側はこちらの世界の空間がそのまま繋がったような、大量の壺が置かれた、薄暗い、やや広めな空間が広がっており、その空間の中央には白い袴を着た一人の男が、この空間の薄暗さの原因、ろうそくの前で何やら大量の書物を読んでいる。

「あ…あの…」

「……」

「すみません、お話良いですか?」

「蓮子!」

「………」

蓮子の呼びかけにも、彼は全く反応を見せない。

「貴方はなぜここにいるのですか?」

「まず名を名乗れ。話はそれからだ」

ようやく彼からの反応が得られた。

「私、宇佐見蓮子と申します。隣は同級生のマエリベリー・ハーン」

「よろしくです」

彼はこちらを見ようとはしないものの、私たちの事は気になるらしく、読んでいた書物を閉じ、こちらを向いた。

「…今更我を尋ねに来るとは何事か?」

予想と反して、割と若い男だった。

私たちに対して、警戒感を顕わにしている。

「貴方は何者で、なぜここにいるのですか?」

「お主らには関係あるまい」

「では、そこの大量の壺の中身は何ですか?」

「…さあな、昔の事は、よく覚えとらん」

何か後ろめたいことでもあるのか、私たちに返ってくる返答は、はっきりしない。

「そんなことより…だ。お主らこそここで何してる?まさか我を尋ねに来たわけではあるまい」

「ええ。ここに来たのは偶然です」

「偶然でこんなとこに来られるわけあるまい」

偶然かと言われると、確かに結界を探していたわけだから、完全に偶然とは言えないわけで。

「実はとある結界を探してまして」

「…結界とな」

「ええ、常識と非常識の…と言っても分からないでしょうけど」

「……幻想郷…とな」

「「!?」」

まさかこの人物の口からその単語が出てくるとは思わなかった私たちは、互いに顔を見合わせた。

「やはり…か。言っておくが、我がそいつに関して何か知っとるわけでもないぞ」

「なぜその存在を知っているのですか?」

「我もそいつを探しておるからだ」

私たち以外にも『幻想郷』の存在を知っていて、それを探し求めている人物が居たとは驚きだ。

しかし、それならばなぜここに結界まで張って閉じこもっているのか。

「我の目的は幻想郷へ行くこと」

「成程、存在を知られていては、その目的を達成できない」

『幻想郷』は忘れられた存在が行き着く場所。

彼は人々から忘れ去られる為に、この場所に籠り続けているのか。

「そこまでしてなぜ幻想郷に?」

「それは言えん」

彼は『幻想郷』にこだわる理由と自身の生い立ち、壺の中身に関しては、一切口を開こうとはしなかった。

「お主らが如何にして幻想郷を知り、なしてそれを探し求めんとするか、我にはわからんが、あまり深く追うでない。神隠しに遭うぞ」

何をもっての忠告か。

この時の私には、意味がわからない。

「わかったわ、気をつけます。それと、ここ、泊めさせて頂けません?」

「蓮子⁉︎」

「…………」

 

大人三人は余裕で寝れる広さのあるこの部屋で、ぐうぐうと寝息を立てる蓮子。

物音で目が覚めた私は、ふと彼が居なくなっていることに気づく。

恐る恐る、部屋の外に出てみた。

少なくとも、この洞穴の中には彼は居ない。

「どこ行ったのかしら?」

さらに洞穴の外に出てみる。

穴の外には、恐らく大木が朽ちて出来たと思われる、木々が無い広場の様な空間がある。

その中央で、彼は腕を組みながら空を見上げていた。

「何をしているのかしら?」

彼に近づこと広場に踏み込んだ途端、私は言葉を失った。

木々の葉も雲も何一つ遮るものがない空を、隙間なく星々が埋め尽くしていたのだ。

特に星々が密集している箇所はまさに空に川が流れているようで、ベガ、デネブ、アルタイルがその川をまたぐようにして巨大な三角形を描いている。

「うわー!綺麗ぇー!」

「すまぬ、起こしてしまわれたかな」

「あっいえ…何されているのですか?」

「いやはや、向こうに行けたとして、このような麗しき月が見えるとも限らんだろ?」

彼は空を見上げたままそう答える。

周りの星に気を取られていたけど、開いた空の真ん中に、確かに円い月が鎮座している。

「そう言えば、今夜は満月でしたね」

「お主は、この月に人が居なるとして、如何なる人と思うか?」

唐突な質問だった。

少し戸惑いながらも、深くは考えず、思ったままの事を伝える。

「そうですね。月は美しいので、そこに住んでいる方もさぞ美しいのではないでしょうか」

「そう‥.だな。我もそう思う。されど、美しすぐるものは人を狂わす。狂気に侵された人は盲目になり、周囲をも巻き込んでしまう。美しさに心を奪われるでない」

「‥‥」

「…明日出るのであろう。今日は休みなさい」

「…はい、おやすみなさい」

 

やはり月はいつまでも変わらぬと、そう思う。

この国で唯一変わらぬもの、そして、最も美しきもの。

「帝。この薬、我が必ず…」

 

「帰り道はわかるか?」

「はい、大丈夫です。お世話になりました」

「有難うございました」

「達者でな」

洞穴を出て、私たちは来た道を引き返していた。

「にしてもメリー、何者だったんだろう。あの人」

「さあね。結局壺の中身も分からずじまいだし」

「でも歴代の『幻想郷縁起』を貰えただけでもよかったわ」

「まさか初巻が平安時代だったなんてね。そんなものをなぜ彼が持っていたのかは謎だったけど」

「でも、これで『幻想郷』の存在を示す間接的な証拠が増えたわ」

「そうね。帰り道はこっちで合ってる?熊に襲われるのも懲り懲りよ」

「私を誰だと思っているの?この目はGPSより正確なのよ?」

「熊はどうにもできないのね」

森を抜けるのには丸半日かかった。

日もすっかり上がりきっている。

ここは避暑地だけど、涼しい場所にいた分、蒸し暑く感じる。

『ー当車両は 御殿場方面行きです。本日も 富士河口湖電鉄をー』

「はあ〜、バスの中は天国ね〜」

「ホント〜、戻りたくないな〜」

乗客が私たち以外だもいない無人運転トロリーバスは最早貸切同然だ。

後部座席に思う存分寛いでいた。

「にしても、あの壺、どこかで見たような気がするんだけど〜」

「いいじゃない、そんな事。今は何も考えたくないわ〜」

「そうね〜。ゆっくり休みましょ〜う」










どうもありがとうございます。今回、オリキャラタグをつけようか大分悩みました。一応オリキャラとして出したつもりはないんですけど、原作では死んだと思われていたキャラなんでね。
だけど、この先オリキャラをひょっとしたら出すかもです。ちょい覚悟しておいてください。オリキャラ無双、、とはさせません(そもそも戦闘シーンあんまりないし)。クロスオーバーにも恐らくはしません。
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