カレらは皆永遠の愛を誓うだろう。その時だけは
※今回のお話には、少々不適切な表現があります。苦手な方はスキップを推奨致します。
構わないのでしたら、どうぞご覧下さい。
「あと少し、頑張れよぉ~俺!」
午後7時を過ぎた頃。男は退社せずに残業をしていた。
まだ、片付いていない仕事があるためである。
「アレ?先輩じゃないですか。まだ残ってたんですか?」
突然ドアの方から女性の声がする。声の主は誰かは分かる。この会社に女性は一人しか居ないのだから。
「結菜さん。すみません、ちょっとキリが良いところまでやろうと思って。結菜さんこそどうしたんですか?」
「忘れ物取りに来たんですよ。ほら、スマホ、デスクの上に置きっぱなしで。オッチョコチョイですよね、私」
そう言いながら結菜は、画面がバキバキに割れたスマホを見せ付ける。
「うわ、液晶凄い事になってますね。買い替えた方がいいんじゃないですか?」
古いアスファルトの様に大量にヒビが入ったスマホに、思わず男も声を漏らす。それに対して結菜は、少し機嫌が悪そうに答える。
「あーコレですか。私、新しいの買っても直にこうなっちゃうんですよね。お見苦しくてごめんなさい」
「いや、気にしないで下さい。」
「っあそうだ。先輩これからご飯でもどうですか?美味しい居酒屋さん知ってますよ」
先程の会話を断ち切ろうとせんばかりに、結菜が食事に誘う。
「お誘いは嬉しいんですけど、まだ仕事が残ってて…」
「どうせ終わらないんですから。今日は休んで、明日やればいいんですよ」
男の手を取りながら、彼女は強気は口調で喋る。これ以上は断れそうにないみたいだ。
「分かりました。鍵閉めておくんで、外で待ってて下さい」
「了解です。お疲れ様です」
また一人になったオフィスで、男は嫌そうにパソコンの電源を落し、電気を消して鍵を閉める。
「結菜さんって悪い人じゃないんだけど、たまに怖い時があるんだよな」
「私のドコが怖いんですか?」
「うゎあ、?」
後ろからした声に驚愕する。振り返ると結菜はいつもの変わらない顔で、こちらを見ていた。
「あ、イヤ何でもないです。ささ。鍵閉めたんでもう行きましょうか」
男は彼女の背中を両手でそっと押しながら、口早に言う。そして有無を言わさずに、オススメの店に連れて行ってもらった。
「乾杯!」 「乾杯」
店でビールを頼んだ二人は、ジョッキを勢いよく当てて乾杯をする。
「やっぱり、仕事終わりのビールが一番美味しく感じますよ。休日の朝の次くらいにはいい気分です」
「それは良かったね、アハハ…」
男はチビチビとビールを飲みながら話す。そもそも、彼は酒が好きではないのだ。
そして社内の人間同士で酒を飲めば、必然的に仕事の話題に移る。
「それにしても、千秋君は凄いですよね。私と同い年なのに、取引先の人からあんなに好かれちゃって」
「彼はどんな人とでも仲良くなれる、器の持ち主だからね。人から信頼を得られる人は、最も営業に向いてると思うよ」
「ですよねー。私経理なんで、基本営業とかしませんから。ああいう人見ると羨ましいって思っちゃいます」
結菜は酒が入っているからか、少し寂しいそうな声色になっていく。自分の仕事に不安を感じているのかもしれない。
「そんな事を無いですよ。経理の仕事だってとても大切なんですよ。ミスがあったら会社が傾きかねないんですから」
「エヘヘ、ありがとうございます。やっぱり仕事して嬉しいのは褒められた時ですね」
元気を取り戻した結菜は、上機嫌で焼酎を飲む。それからだった。雲行きが怪しくなったは。
「先輩って彼女いますか?」
「うん、恋人の事?」
いきなり彼女の口から発せられる、脈絡の無い質問。コレもアルコールが引き起こした人体のバグといえよう。
「他に何が有るって言うんですか!?…で、実際どうなんですか?」
怒声と小声を繰り返しながら、質問は続く。
「えっと、いませんね。現在募集中ってヤツです」
「そうですか!私にはいたんですよね!最高の彼氏が」
男の返答になど目もくれず、彼女は話す。恐らく、最初からこの事を話したかったのだろう。
「私にはあ、高校の時から付き合ってる人がいんですう」
酒も回ってレロレロになりながらも、彼女は止まらない。
「ずっと愛してたのに、愛し合ってたのに、別れちゃったんですよ!」
「それは、災難でしたね」
熱く語る彼女に対して、少し冷ややかな雰囲気で男は会話を続ける。
「でもただ別れたんじゃないです!あの人…アイツ、あん野郎…!姉貴と浮気してたんですよ!」
「っえ」
前触れなく表れる衝撃の真実。車の衝突事故並みの衝撃に、店員や他の客までもがこちらを見ている。
「結菜さん、それくらいにした方が――――」
「―――私があ、リビングに上がった時にい、アイツ姉貴とヤッテたんですよ!?信じられますか?」
男の制止を振り切り、噴火の如き不満はまだ溢れている。
「初めての恋人だったのに。初めて手を繋いだのに。初めてキスもした人なのに。とにかく!私がこんだけ尽くしといて酷いと思いませんか?」
「そうですよね。酷いですよね」
「あのまだ俺、何も言ってない」
「そりゃ私だって、一度や二度程度の浮気だったら笑って許しますよ。でも、でも」
もはや場所も相手も関係なく、結菜な止まらない。嫌止まれないのだ。ブレーキの効かない暴走者の様に、何かにぶつかるまで彼女が止まる事は無いだろう。
「姉貴が妊娠したんでよ!なんで出来ちゃんでしょうね?たった一回で?空気読めよ!空気の読めない女って卵子までバカなんですかね?」
「もうホントに辞めて。みんな見てるから。あの店員さんお代ここに置いとくんで、俺らもう帰ります」
「ああ、ハイ。お疲れ様です、色んな意味で」
意図せず奢る形になってしまったが、これ以上同僚に恥を晒してもらう訳にもいかず。男は結菜の襟を掴み、そそくさと店を後にする。
そらから、店から少し歩いた所にあるベンチに、彼女を座らせた。
途中何か暴言を吐いていたようだったが、聞くに堪えないので無視した。
「ちょっと先輩、話聞いてますか?」
「うん聞いてるよ」
「それから、あの二人デキ婚するとか言ってて私アイツらの事死ぬ程憎んでるんです。毎朝近所の神社行って、『墮胎しますように』って神様にお願いしてるんです」
「そんなお願いされる神様の方が可哀想だよ。世の中には子供が出来ない人もいるんだから、そういう事言っちゃ良くないよ」
流石に話疲れたのか、勢いは衰えたかその分、トゲが増した言葉でその女性は怨念を伝えてくる。
「そんなの知りませんよ。私の方が可哀想ですから。あーあー頼むからアイツらの子供と、姉貴死んでくれねーかな。そうしたらまた彼と寄りを戻せるのに」
「ほら、今タクシー取ったんでコレに乗って帰って下さい」
男は財布から五千円を取り出し、彼女のポケットに忍ばせる。
「ありがとうございます。先輩って私に優しいですよね?もしかして、私の事好きなんですか?」
「そんな事ない。同僚だからだよ」
結菜の甘い言葉を、光速とも言える速さで拒絶する。
誘いに乗っかると最悪、命が危うい。
「まあいいや。お休みない、今日はとても楽しかったですよ~」
タクシーの窓を開けて手を振りながら、彼女は去っていた。遊んでいたはずなのに、疲れが取れない。
一人になった背中で男は呟く。
「明日から、あの人とどんな顔で話せばいいんだろう…笑えばいいのかな?笑えねーよ」
今日の事は誰にも言えないなと、思った男は。全てを自分の心の中に止めておく決心をした。
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おまけ
今回、結菜 蛍さんが大暴れしましたが。彼女は普段は至ってまともです(他人の前では)。
事実、職場では『気遣いが出来て、仕事も完璧にこなす素晴らしい女性』を演じています。
どうか彼女の事を嫌いにならないで下さい。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
それと何ヶ月も投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。