速い。
すごく速い。
ライスシャワーは目の前のウマ娘を相手に、必死の追走を試みていた。
今、実際にどれほどの速度で走っているのか、体感では分かり辛いところではあるが、おそらく時速にして50㎞もあるかないかといった程度。ウマ娘はサラブレットで最高時速70~80㎞で走るともいわれているので、時速50㎞が特別速いとは言えないが、この粘り強くも鋭い、鉈のような走りには、追走するもの皆に「速い」と感じさせる凄味があった。そして、何よりも特筆すべきはその持久力だ。先ほどから数分間この力強い走りを維持し続けるその豪脚には目を見張らざるを得ないものがある。
もっと彼女の走りに付いていきたい。そう思っても息が切れて上手く加速できず、じりじりと差が開いていく。彼女との間には、もう少し近づいて手を伸ばせば何とか届きそうな実際の距離とは裏腹に、巨大な薙刀で切り落とされたかのような深い断絶が感じられた。
間違いない。この娘は生粋の
かつて追い抜いた坂路の申し子や名優の背とはまた違う新たな頂に、背筋が震えるような感覚がした。
いったい誰なのだろう。
あたりはすっかり夜闇に包まれて、その輪郭はその暗闇に溶けるように揺蕩っている。街灯の光がその姿をかろうじて此岸に浮かび上がらせているようだった。それ故、おそらくは学園の生徒なのだろうけど、はっきりとしたことはわからない。
夜の帳も降りて久しい街中を、二つの影が駆けてゆく。ライスシャワーは目の前のウマ娘の身体が右に寄ったのを好機に、左側のスペースに入り込もうと少しずつ速度を上げていった。横に並ぶことができれば、或いは相手の素性を探ることができるかもしれない。そんな思いを漠然と胸の内に抱えての行動だった。
やにわに、前を走っていた娘が交差点を右折した。前触れもなく、速度も緩めずのことだった。ライスシャワーは一瞬虚を突かれたが、前を走っていたウマ娘が横Gを受けて半馬身ほど外に膨らんだのを見て、乾坤一擲、空いた隙間に向かって身体を滑り込ませるように曲がった。その結果、思いがけず不安定な感覚が足から伝わってきたため、ライスシャワーはすわ転倒かと肝を冷やしたが、幸いにも転ぶことなく前方のウマ娘のちょうど真横に張り付くことに成功した。
その瞬間、ライスシャワーは左側を走っていたそのウマ娘と目が合った。
「……あっ」
知っている、というか有名な娘だった。
デビュー前からすでにかなりの注目を集めていた娘。当時はかのウマ娘マルゼンスキーに勝るとも劣らないとされ「怪物二世」の異名で囁かれるほどの実力。そして実際、常に怪我との隣り合わせながらもトゥインクルシリーズで手堅い結果を残した。
『不死鳥』グラスワンダー。
あれだけの強度で走っていたにも関わらず、その端正な顔にはどこか涼し気な表情さえ浮かんでいる。が、その瞳の奥には苛烈とも云えるほどの炎が宿っていた。
普段のおっとりのんびりとした性格からは想像もつかない闘争心をもろに受けたライスシャワーは、気圧されるわけでもなく、むしろ触発されでもしたのか、自身の肌からメラりと闘気が立ち昇るのを如実に感じとった。
グラスワンダーとはあまり親しい覚えがない。お互い顔と名前を覚えてはいるだろうけど、二人とも積極的に他人と交流を持ちたい性格でもないし、廊下ですれ違ったとしても挨拶すら交わさない仲だ。
顔見知り程度の他人。向こうはそう思っているだろう。だが実のところライスシャワーのほうはグラスワンダーのことを多少なりとも意識していた。
生来の人見知りが災いして話しかけることこそなかったものの、ふと視界の隅に彼女の影が入り込むと、自然にその姿を目で追ってしまうほどには。
密かに期待していた。
自身の閉塞的な状況を打開するためのキーパーソン。
トゥインクルシリーズを終え、新たなステージ、ドリームシリーズへと旅立つための足掛かり。人生の岐路に立たされていたライスシャワーが、その煮え切らない思いを断つにあたり何かきっかけが欲しいと考えていた矢先に、現れた新たな好敵手。
今ドリームシリーズで活躍しているグラスワンダーを負かすことができれば、自分は新たなステージでも戦えることの証明になるはずだから。
交差点での刹那の邂逅を経て、相手に不足なしと判断したのだろう。グラスワンダーはさらに加速して、ライスシャワーが詰めた距離を再び突き放し始めた。
ライスシャワーはこの勝負に乗るかどうか一瞬迷った。いくら専用のトレーニングシューズを履いているとはいえ、硬いコンクリートの上をこれ以上の負荷で走るのは少し躊躇われたのだ。ウマ娘にとって足は文字通り第二の心臓といってもいいほど重要。足のけがは、場合によれば致命傷ともなり得る。決して替えの利く消耗品ではない。
だが、次の瞬間には、ライスシャワーは速度を上げてグラスワンダーを追走し始めた。
自分を突き動かしたのは本能だ。走り去っていくグラスワンダーの影を、反射的に追いかけてしまった。ライスシャワーは、自身の瞳の奥で燃え上がり始めた鬼神の如き闘争心を抑えることができなかったのだ。無限に続く綱渡りの綱の上に立たされたかのような不安に、脳を揺さぶられるかのような抵抗感を覚える。が、その程度のことではもはや自分を止めることはできない。
合図はなかった。
力士が互いの呼吸を合わせるかのように。
ライスシャワーとグラスワンダーの集中力が限界にまで膨れ上がった瞬間、ほぼ同時に二人は立合った。
爆発的な衝撃がコンクリートを叩く。二人の本格的な勝負が今始まった。
と、思った瞬間。
少し前を走っていたグラスワンダーの背が、そこから溢れ出る闘気が、突如、一気に萎み始めた。
「えっ!?」
急激に減速するグラスワンダーに困惑しながらも、ライスシャワーは同じように足を緩めざるを得なかった。
二人の肩が真横に並ぶ。互いの息遣いがはっきりと聞こえるほど二人の距離は縮まった。グラスワンダーはそこでようやくライスシャワーの顔を見て、ほんの少しだけ目を見開いた。
「……ライスシャワーさん、でしたか」
グラスワンダーは、先ほどの闘志を一切感じさせない、柔和な笑みを浮かべた。
「勝負はお預け、ですね」
二人は足を止めて、しっかりと向き合った。そこでようやくライスシャワーは、グラスワンダーがどうして勝負を降りたのかが分かった。
行く先の交差点に、赤信号がともっていた。ライスシャワーはあまりに勝負に集中していたため、信号の存在に気が付いていなかったらしい。
ライスシャワーはがっくりと項垂れた。
「そんなぁ~」
きっとこれ、ライスのせいだぁ。
大きく肩を落としたライスシャワーの隣にグラスワンダーが音も立てずにスッと近づいた。
「誰かと思ってましたが……。素晴らしい走りでしたね」
そう言って、グラスワンダーは人当たりのよさそうな笑みを口元に浮かべる。
「あ、いえ、そんなこと……ないです……」
ライスシャワーの目と耳がキョロキョロと泳ぎ始める。勝負が止まって気持ちが落ち着いてくると途端に、ただの夜のランニングでたまたま遭遇した相手と、本気で競い合ったことが恥ずかしくなってきた。ライスシャワーの頬に赤みが差したが、この夜闇の中では気付かれないだろう。尤も、それは相手が人間だったらの話だが。
「是非とも、次は
「は……はい」
「ライスシャワーさんはいつドリームシリーズに来られるのですか?そろそろこちらに移籍されてもおかしくはないと思うんですが~」
グラスワンダーは目を閉じてにっこりと微笑んではいる。が、目を閉じていても瞼の奥からこちらをじっと観察している気がする。ライスシャワーの背筋がブルっと震えた。
「えっと、実はまだ決めてなくて……」
「そうなのですか」
「はい……」
「それは残念ですね~。それではいつまたご一緒できるか……」
グラスワンダーの瞼がほんの少しだけ持ち上がり、覗いた瞳の奥の光が、ライスシャワーを見つめる。
「そうですねぇ……。それではこの勝負、今週の土曜にでもどうですか」
「はい……はい?」
〇
「ライスさんとの模擬レース、明日だったっけ?」
昼下がりの食堂にて、グラスワンダーとその親友であるスペシャルウィークが、肩を並べて昼食を共にしている。盛りに盛ってチョモランマ級の白ご飯に手を付けていたスペシャルウィークの箸先が、ぴたりと止まった。
「このレース、リギルのトレーナーさんが組んでくれたの?」
彼女は耳をせわしなく動かしながら、隣に座るグラスワンダーに尋ねた。
「いえ……。模擬レースといっても、私とライスさんが個人的に約束しているだけですから」
「そうなの?その割には結構話題になってるらしいけど……」
「まあ、みんな噂好きですからねぇ。私が広めたわけでもないのに……どこの誰が喧伝してるのやら」
話を聞いていたスペシャルウィークは脳裏に、チームメイトの某葦毛奇天烈ウマ娘の後ろ姿を思い浮かべていた。少なくとも、チームスピカのメンバーは彼女からこの話を聞かされている。
「だ、誰なんだろうね……」
「あまりライスシャワーさんに迷惑はかけたくないのですけれど……」
手に頬を当てて悩ましげな表情を浮かべるグラスワンダーを、スペシャルウィークは苦笑交じりに見やった。
「あはは……。それにしても、どうしてライスさんと走ることになったの?ライスさん、まだこっちには来てないよね」
「たまたまです」
「たまたまなんだ」
「はい」
スペシャルウィークはそれ以上追及はせず、再び山盛りの白ご飯に手を付け始めた。かわいらしく昼食を頬張るそんな友人の横顔を微笑まし気に眺めつつも、グラスワンダーの内には暗い野心が燻っていた。
トゥインクルシリーズを共に駆け抜けた仲間でライバルでもあったスペシャルウィークとグラスワンダーであったが、ドリームシリーズに移行してからは実績に差が付き始めていた。思うように結果の出せない自分と比べて、スペシャルウィークは水を得た魚のようにのびのびと才能の発芽を魅せた。かつて追い縋っていた背中がするすると前方を駆け抜けていくたびに、グラスワンダーは焦りにじわりと身を焦がされるような錯覚にはまりつつあった。
そうこうしている間に、ふと風のうわさで彼女が海外進出を目指していると耳にした。
グラスワンダーは、事実を確認しようかどうか悩みつつ、結局本人に問いただすことができずにいた。もし本当なら、彼女は憧れの先輩の背を追いかけて、今度こそ自分は蚊帳の外に放り出されてしまうのでは、いや、もうすでにそうなっているのではないだろうかとすら思うのだ。少なくとも世間の目にはグラスワンダーはもはや日本総大将の好敵手たり得ないとみられているのではないか。今のところそのような話題が俎上に上がることはないが、内心ではそのように思われても仕方のないほどに彼我の実力差は如実に開いていると、そうグラスワンダーは考えずにはいられないのだった。
「……なにか、きっかけが欲しいんです」
「…ん?何か言った?」
「いいえ~」
この閉塞的な状況を打開するための、きっかけが。あの時のライスシャワーとの出会いは、その足掛かりとなるかもしれないと思わせるだけのインパクトがあった。普段のおどおどとした態度からは想像もつかないほどの闘気に当てられたグラスワンダーには、ある種の確信があるのだ。
「私がライスシャワーさんと勝負がしたいの思ったのは、あの人に運命的な何かを感じたから、ただそれだけです……」
〇
「聞きましたよライス。グラスワンダーさんと勝負するんだそうですね」
手に持っていた朝食のパンが、中空でピタリと止まった。
「ブルボンさん……」
「はい、ブルボンです」
少し遅い朝食を一人で食べていたライスシャワーの元に、ミホノブルボンは無機質な表情を顔に浮かべながら歩み寄った。
ライスシャワーはいつものように、人目を避けるようにして食堂の隅に座っていた。その様はむしろ人目について目立つので、ミホノブルボンは食堂に入ってすぐに彼女を見つけることができた。
「う、うん。……えっと、その話どこで聞いたの?」
「そのあたりで」
ミホノブルボンは自身の斜め後ろのあたりを指さした。ライスシャワーは恐る恐る目を向けたが、人がまばらに座っているのみだった。そのうちの数名と目が合った気がしたライスシャワーは慌てて視線を戻す。
「そ、そうなんだ……」
「頑張ってください。私も応援に行きますから」
「……え、応援?」
ライスシャワーがぎょっとして顔を上げた。ミホノブルボンの、吸い込まれるような瞳がじっと見返してくる。当たり前、といった感じだ。
「はい」
「い、いやいや、いいよ別に来なくても!」
「……そうですか」
ミホノブルボンの眉尻が心なしが下がった気がした。
「いや、その……。ほら、ブルボンさんも忙しいだろうし。それに予約したの、夜だから」
「問題ありません」
「そう……ですか……」
「ダメですか?」
「……ううん、大丈夫だよ」
ライスシャワーの性格上、ここで面と向かって「恥ずかしいからダメ」とは言えない。がっくりと肩を落としながらライスシャワーは渋々了承した。
「ありがとうございます。サイリウムとか持っていきますね」
「いや、ちょっとそれは勘弁してほしいかな」
「……わかりました」
再びしょんぼりとするミホノブルボンだったがライスシャワーは見なかったことにした。
そんな二人の元に、一人のウマ娘が颯爽と駆け寄ってきた。
「ブルボンさん!それにライスさんですね!!お二人ともおはようございます!!今日はいい天気ですね!!」
「そういうあなたはサクラバクシンオー。以前ここで話しかけてきて以来でしたね」
瞳に輝く桃の花。サクラバクシンオーは両手を勢いよくテーブルにたたきつけた。その衝撃で食卓に並んでいたパンが跳ね上がり、ライスシャワーは慌ててパンの入っていた容器を手で抱きかかえるように支える。
「それで、何の用ですか?」
どことなく棘の感じる声色で、ミホノブルボンは再びサクラバクシンオーに問いかけた。
「うーん、実はですね……ライスさん!!」
「ふぇ!?」
急に話しかけられたライスシャワーは驚いたように肩を竦ませた。
「な、なんですか」
「風のお噂でお聞きしましたよ!!何やら面白そうなレースをするらしいですね?」
「は、はい」
「私も、見物してよろしいでしょーか」
サクラバクシンオーは、鼻尖が接触しそうなほど顔をライスシャワーに寄せる。口からとんでくる数々の飛沫がライスシャワーを怯ませた。彼女はその状況から辛くも何とか口を開く。
「ええっと、バクシンオー……さん?」
「はい、サクラバクシンオーです!」
「……」
なんだろう。もう何を言ってもダメな気がする。全く方向の違う性格の二人だが、こういう押しの強いところはミホノブルボンと似ているかもしれない。
「あの……はい……もんだい、ないです」
「ありがとうございます!!せっかくですからサイリウムとか持って応援しますね!!」
「……あの、もしかしてさっきの話、聞いてました?」
「いやぁ楽しみですね~」
ジト目のライスシャワーに意を介さず、サクラバクシンオーはまだ見ぬ未来のレースに思いを馳せるように何度もうなずいていた。
「ところで、ライスさんはどうしてグラスワンダーさんと勝負するんですか?お二人に交友があったなど学級委員長の私ですら初耳ですが」
「クラス違うよね、バクシンオーさん」
「いえ、私は学校の皆さんとっての学級委員長ですから」
全く意味が分からない。ライスシャワーはもうとことん突っ込まないことに決めた。心の中で。
「別に、大した理由じゃないです。たまたま、成り行きでグラスワンダーさんとそういう話になったってだけで……」
「なるほど、運命ですか」
「うん、まあ、もうそれでいいです……」
勝手に一人で納得しているサクラバクシンオーを横目に、ライスシャワーは先ほどの質問の答えについて思いを巡らせていた。大した理由ではない、と自分は言ったしそこに嘘偽りはないが、果たして本当にそうなのだろうか。
ライスシャワーにはグラスワンダーとの再勝負が、なにか必然のものだった気がしてならないのだ。どう転んでもこの結果に行きつくような。
ライスシャワーは時折似たような感覚に陥ることがある。レースに出走したとき、勝利と栄光と手にした時、「初めからこうなると決まっていた」かのような錯覚が、自身を襲った。そしてそれらはいつもライスシャワーから確かな自信を損なわせた。
運命。
サクラバクシンオーの言葉を思い返す。つい先ほどまでは内心一笑に付していたのだが、あながち間違いでもないのかもしれない。
ライスシャワーはあの時確かに、グラスワンダーに対し運命レベルの繋がりを感じたのだから。
〇
身体のコンディションはすこぶるよかった。これならば今日の夜の勝負はなかなか良い走りが期待できるかもしれない。グラスワンダーを失望させることもないだろう。とりあえずは一安心だ。
朝焼けの空の下、河川敷の道なりを、ライスシャワーはゆっくりと足を慣らすように歩いていた。河川敷を流れる川の流れは、朝日を受けて輝きを放っていた。それはあたかも川を登る無数の魚のように生き生きときらめいていて、見る人の心を吸い込むかのような美しさを醸し出していた。普段のライスシャワーなら見惚れて歩みを止めるほど良い景色。
だけど今日はなぜか夜の勝負のことが頭から離れない。これほどの集中力の発揮は、人生でも数えるほどかもしれなかった。
なぜだろう。
勝っても負けても実りのない野良勝負なのに。あの時感じていた期待や予感がぶり返す。
わからない。わからないがとにかく、今日のライスシャワーはすこぶる調子が良いのだ。
ようやっと陽が昇り始めた時分で、人通りの少ない河川をライスシャワーは一人歩き続けた。そして、前から歩いてくるもう一人のウマ娘の陰に気が付いた。
「グラスワンダーさん」
自分と同じように学園指定のジャージを身に着けているグラスワンダーを前に思わずそう口にすると、あちらのライスシャワーの存在に気が付いたようだった。
ほんの一瞬の間、互いの視線が交差した。
「あ、あの、今日は……」
グラスワンダーから発せられる謎の気迫を如実に感じ取っていたライスシャワーだったが、ここで黙っているのも不自然だと思い、口を開いた。
「……」
だが、グラスワンダーは無言でライスシャワーからわざとらしく目を背けた。ライスシャワーはギョッとして立ち止まった。グラスワンダーの行動は、ともすれば、というより確実に相手を不快にさせるものだった。あまりにもグラスワンダーに似つかわしくない挑発的な行為に思わず目を剥かされる。
「……」
ライスシャワーはその意図を本能的に察した。グラスワンダーは本気なのだ。本気で自分に勝ちに来ている。
それに気が付いたとき、ライスシャワーの中でスイッチがカチリと切り替わるのが分かった。瞳の奥で増幅された光が、ちらちらと燃え始める。
ライスシャワーはあの夜の勝負を思い返していた。あの時の自分はグラスワンダーに勝てただろうか。いや、勝てなかったに違いない。
勝ちたい。
あの時の勝敗をはっきりつけたいという、自分の本心に今ようやく気が付いた。
二人は言葉を交わすことなくすれ違った。一介の学生からはおおよそ感じられないような異様な覇気をその身に纏いながら。
勝負は今夜。