「翔悟、歌の練習に付き合ってくれないかしら?」
ある日の放課後、カバンを持った愛莉が練習に誘ってきた。
「練習?いいけど……俺は何したらいいんだい?一応金沢にいた時に、ギターを習ってた事はあったけど」
「聞いてくれるだけでいいの。貴方がそばにいてくれるだけで、いつもの3.34倍声の調子が良くなるの(当社比)」
「数字に悪意が見えるのは気のせいかい?」
中の人阪神ファンだよね?甲子園でライブしてたよね?そんな数字出して大丈夫なの?
「何でや阪神関係ないやろ!」
言うと思ったよ!まさか愛莉の口から出るとは思わなかったけど、絶対言うと思ってたよ!
「さあ、善は急げよ!早速いk……きゃあっ!?」ドンッ
愛莉が踵を返して練習場所に行こうとすると、後ろにいた誰かにぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい!ちょっとよそ見してて……!あなた、大丈夫?怪我してない!?」
「だ、大丈夫で……あっ!愛莉先輩!?」
あれ?この子、愛莉の事知ってるんだ……あっ、そういや『天才歌姫』って言われてたな彼女。俺が関わった途端ポンコツ歌姫になるけど。
ちなみにぶつかったのはキャラメル色の髪をした少女。胸のリボンが赤色だから一年生かな……
「えっと、私のことを知ってるの?」
「はい!というよりずっと探してたんですよ!」
「「?」」
一体どういうことだろう。愛莉の方を見ても分からないって顔してるし……
「愛莉先輩」
「あぁ、愛莉で良いわよ。先輩って呼ばれるのむずかゆいのよね」
「じゃあ、タメ口でも?」
「勿論!」
「……分かった。じゃあ、愛莉!」
意を決したように、少女が口を開く。その内容は驚くべきものだった。
「私と組まない?」
・
・
・
「「……えっ?」」
「ふむふむ……じゃあ、三人でユニットを結成したは良いけど、ボーカル……紗乃が尖りすぎててついて行けなくなったと」
「そう!だから紗乃の……まあ、言葉は悪いけど、引き立て役兼引き立たれ役って事で愛莉を誘ったの」
そう話すさっきの子。名前は嘉瀬茉奈というらしい。俺は知らなかったのだが、何と一年生ながら学内のDJコンテストで上級生と引き分ける程の実力を持つDJだと。はえ〜そんなホープが『天才歌姫』の愛莉と組む……か。
「……話は掴めたわ。私からもぜひお願い出来るかしら?」
「じゃあ!」
「ええ!一緒にやりましょう!」
「良かった〜!断られるかもしれないと思ってヒヤヒヤしてたんだよね〜」
二人は互いに握手し始めた。あれ、俺の影薄くない?
「あっ、そういえば彼は?」
「彼は吉野翔悟。私の婚約者なの♡」
「そうなの!?」
「違うよ?」
すんごいナチュラルに婚約してるって言ったから一瞬気づかなかったけど違うからね?後輩にも誤解与えちゃダメだよ。
ヒュッ
「!?」
カッ!
え!?なんか飛んできたんですけど!?しかもナイフじゃないのこれ!?咄嗟に屈んでなかったらブッ刺さってたよ……
「ショウゴ?イッタイナニヲイッテルノカシラ?」
振り向くと見えたのは、手にさっきのと同じナイフを何本も持つ愛莉サン。じりじり近づいてきてるけど……や、ヤバイ殺す気だ。
「うわっ……これがヤンデレってやつか」
茉奈さんも感心してる暇あったら助けてよ!
「茉奈で良いよ。何か面白そう」
いやいやそうじゃなくてぇ!呼び捨てでいいなら呼ばせてもらうよ茉奈、助けて!
「フフフ、ジットシテレバイタイノハイッシュンヨ♡」チャキッ
わりい、おれ死んだ!
「愛莉、そこまでだ」
と、後ろから芯の通った声が聞こえる。
「しゃ、紗乃、止めないで!今から防腐処理をして翔悟の身体を永遠のものにするのよ!」
怖いよ!それってあれだよね?社会主義の国のトップがこぞってやったエンバーミングってやつだよね?
あと、紗乃……?という事は今愛莉を止めてるのが……
「ん……ああ、申し遅れたな。姫神紗乃だ。よろしく」
「……高尾灯佳」
あ、やっぱりか。どっちもクールそうな人だな……
「吉野翔悟です。どうぞ宜しく」
「翔悟か、分かった。私の事は呼び捨てで構わない。どうぞ『紗乃』と呼んでくれ」
「……私も。『灯佳』でいいよ」
「ふふっ。灯佳はね、DJコンテストで賞を総ナメする程実力があるDJなんだ!私と引き分けるまでは全戦全勝だったんだって」
「……まあ、否定はしない。事実だから」
灯佳が目線を逸らしながら呟く。あんまり主張はしないタイプっぽいな……
ザッ
あれ?今度は紗乃がこっちにきたな……
「ふむ……なるほど。愛莉が言った通り、確かにカッコいいな……」
!?え、この人今なんて言った?
「な、何でもない。ただの独り言だ、忘れてくれ」///
いやいや忘れられないんすけど……カッコいいって……
「……愛莉とはこうやってユニットを組む前にもたまに会ってたんだが……」
あ〜この人、ずっと愛莉に惚け話ばっかり聞かされてたんだな……もう表情でわかるよ。
「ハハっ、お見通しみたいだね……おかげで身体、体重、座高、家の住所、趣味嗜好……全部聞かされてしまったよ」
おうおう、あのヤンデレ何してくれてんねん。これは後でオハナシ……いや、やったらやったであいつ悦びそう。八方塞がりですねありがとうございました。
てかあいつどこ行ったんだ?
チョンチョン
「?」
「はいどうどう、はいどうどう」
「んー!んー!」
「アハハ!何これ!」
紗乃が指差した先にいる愛莉は部屋の隅で布で出来た猿轡をかませられ、灯佳に背中を撫でられていた。いやいや、馬じゃないんだから……
「んー……」
え、落ち着いてるの!?俺もうあいつが分からなくなってきた……
「さて、愛莉も落ち着いたところだし」
「しゅみましぇん……」
「四人で活動するにあたって、ユニット名を決めたいと思いまーす!」
「ひゅーひゅー」
「あれ、何で俺まで」
別に歌が出来るわけじゃないし、DJなんてやった事ないんすけど。
「私が入る条件で出したのよ。『吉野翔悟をユニットのマネージャーとして任命する』ってね。これでいつでも一緒にいられるわね♡」ギュッ
「」
またしても何も知らない吉野翔悟さん(16)。そしてナチュラルに彼の腕に果実を押し付けながら抱きつく天野愛莉さん(16)。
「あぁ〜ショゴニウムが染み渡るわ〜」///
勝手に新しい栄養素作らないでもらえますかねぇ?(憤怒)
「という訳で話は戻るけど、何かいい案ない?」
「はい」
と、ここで手が上がる。上げたのは意外や意外の灯佳だった。これには他の三人もびっくりしている。
「Aqu◯rs」
「「「「却下」」」」
「???」
コイツ……自分で何言ったか分かってないのか……!
「灯佳……それは流石にまずい」
「色んなところから怒られるからやめとけ」
「しゅん……」(´・_・`)
みんなからの猛反対を受けた灯佳は目に見えるぐらい落ち込んでしまう。ごめん、すっごい可愛い。「しゅん……」って口に出すのがめっちゃKAWAI(ダンッ!)痛ぇぇぇっ!
「……」
……えー、愛莉がニコニコしながらこっち見てますね。しかも足元を見ると足をグリグリと踏まれてるし……ん?何か口をパクパクしてる……
(次、他のオンナの事可愛いって言ったら……分かってるわね?)
「」gkbr
「う〜ん……」
それから2時間。皆いい案が思いつかないのか、ダンマリモードに移ってしまい、さらに時間が経過してしまった。まずい、このままだと日が暮れる……いやもう暮れてたわ。
「早く決めないと……」
「まあまあ、焦ってちゃいいユニット名は思い浮かばないよ。お菓子でも食べよう?」
茉奈が購買で買ってきたというお菓子を取り出す。あっ、M◯◯NLIGHTだ……ん?moonといえば月、月の女神といえばアルテミス……あっ。
「ほうら!いいほほおほいふいは!」
「モゴモゴしながら喋らない!」パコーンッ
俺の後ろから愛莉がスリッパで叩いてきた。
「いてて……お前は俺の母親か!?」
「ええそうよ!私が翔悟のママよ!」
「……」
もうやだ(泣)完全にぶっ壊れてる。あっ前からか。
「……そ、それで、どうしたんだ?」
「あ、そうだ。ユニット名だよユニット名。いいのを思いついたんだよ」
「え何?聞かせて聞かせて!」
「……『Call of Artemis』ってどう?月の下で舞い踊る女神……つまり愛莉達だな。その歌声が地球を駆け巡って欲しいっていう願いを込めてつけたんだけど……」
「「「「……すっごくいい」」」」
そんな訳で満場一致でユニット名は『Call of Artemis』に決まった。え?強引じゃねえかって?しゃあないやんユニストにも由来なかったんやし!?(突然の逆ギレ)
アルテミスの名前の由来は完全に個人の妄想でございます。あれの本当の由来って何なんでしょうね?某青薔薇のアレは薔薇と椿の造語ってわかるんですけどねぇ……もちろんM◯◯NLIGHTのくだりもね。