ガヤガヤ……
「ねえ、何でこんなに集まってるの?」
「何でも天野愛莉と姫神紗乃がユニットを組んだんだって!」
「嘘!?あの歌姫の二人が!?」
「そうそう!しかもDJもすごいらしいよ」
「楽しみ〜!」
陽葉学園の屋上にある野外ステージ。新ユニット結成の知らせを聞いて一目見ようと人が集まっている。ちなみに最初ステージを見た時玉ねぎみたいだなって思った人、怒らないから挙手してくれ。いない?あっ、そすか。
そんな新ユニット、Call of Artemisのマネージャーとなった俺は、出演時間が迫った彼女達を呼びに控室へ足を運んだ。いやね、マネージャーってみんな言うけど結構大変よ?あれ実質雑用係だからね?打ち合わせも基本的には俺が一手に担ってるし。
コンコン
「入るぞー」
「どうぞ〜」
んじゃ、入りますか。
「お邪魔しm」
「翔悟────!」バッ
「!?」ヒョイ
「あ──れ──!?」チュドーン
……あ、ありのまま起こった事を今話すぜ!控室の扉を開けたら何か飛び出してきたんだ!な、何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何をされたのわからなかった…
「しょ、翔悟……何で避けたのよ」
振り返るとそこにはギリシャ神話をモチーフにしたような白い衣装を身に纏った愛莉の姿があった……上半身が壁にめり込むというギャグ漫画さながらの状態で。
あっ、ふ〜ん(察し)
「んしょ……あれ?ぬ、抜けない!た、助けて〜!」o(>< )( ><)o
あの〜、壁にめり込みながらジタバタしないでくれる?今の状態だとすんごいまぬけに見えるよ?
「もーう、ライブ前なのに。愛莉って翔悟が絡むと何でこんなになっちゃうんだろう……」
「……はぁ、仕方がないな」
それを見た他のメンバーがやってくる。彼女達も愛莉と同じような意匠の衣装を身に纏っている。上手いこと意匠と衣装がかかったねぇ。
「翔悟、一緒に抜いてくれるか?」
「分かった」
「助かる」
という訳でアルテミス三人+俺で愛莉を壁から引っこ抜く。この派手に空いた穴どうしよ……弁償だよね?
「大丈夫、ライブが終わったら勝手に治ってる」
灯佳よ、正しい
「ていうか、もう時間やばいじゃん!」
「そうそう、それを伝えにきたんだよ!」
「急がないと……」
「……よし、準備完了!」
一足先に向かった三人に続いて、愛莉が乱れた髪のセットを済ませ、ステージへと向かう……あれ、立ち止まった。どしたの?こっち振り返ったけど。
「じゃあ、行ってくるわね♡」
ずきゅーん。
それだけ言い残して愛莉はステージへと向かっていった。
何あの微笑み……ズルすぎだろ。
「どうも初めまして!Call of Artemisです!」
ワァァァァ!
「うわっ!マジであの二人組んだんだ!」
「しかも後ろ見て!あれ一年の嘉瀬茉奈じゃない?」
「高尾灯佳もいる……まさに陽葉のドリームチームじゃん!」
四人の登場に観客が湧き上がる。もともとソロでも名が知られていただけあって、会場のボルテージが一変する。ちょっと後のユニットかわいそうになってきた……今頃gkbrしてるんじゃねえの?
「それではいきます。『Do the Dive』」
とまあ、お披露目ライブ直前に俺に抱きつこうとして壁に突っ込むという大ポカをやらかした愛莉だったが、いざ歌い始めると、雰囲気が一変する。
「Do the Dive いま Do the Vibe 背徳の世界へ時間へ……」
そこはまさに彼女達の世界。
圧倒的な歌唱力と天性のDJセンスでステージを呑み込み、観客だけではなく、関係者、袖に控えていた俺さえも目を奪われた。
最終的なステージの観客動員数は全校生徒の4割。これは後に絶対王者と評されるPeaky P-keyも破ることができていない前人未到の記録である。よくあのステージに詰め込んだなと思ったが、実際は溢れていたらしい。
この出来事は後にCall of Artemis最初の伝説として日本のDJ史に残ることとなった……
「お疲れ様でした〜」
「ご苦労様」
あの後、スタッフに混じって会場の片付けを手伝った。何でも風邪をひいた人がいて人手が足りなかったらしい。謝礼も5000円貰えたし、満足満足。
「あっ、翔悟!」
あれ?茉奈だ。もしかして俺を待っててくれたの?
「うん!翔悟も立派なアルテミスのメンバーだもん」
嬉しいこと言ってくれるなぁ、茉奈……
「今からご飯食べに行くんだけど、良かったら一緒に行かない?」
「一緒に?」
丁度腹ペコだったし誘いに乗ろう、と思ったけどあのヤンデレが脳裏にちらついてくるんだよな……
「大丈夫大丈夫!愛莉は上手いこと丸め込んでおくからさ」
「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「オッケー。それじゃあ、レッツゴー!」
言って茉奈が通りを渡ろうと一歩を踏み出す。
「おい!茉奈!」
「ん?どしたの……っ!」
右手には猛スピードで車が迫ってきていた。歩行者用信号は青。つまり、信号無視っ……!
「くそっ!」
気がついた時には身体は道路に飛び出していた。頼む、間に合ってくれ!
ププーッ!!
「キャアアアアアッ!」
俺は車が茉奈にぶつかる直前に何とか抱きとめ、その勢いで反対側の車線に押し出した。一方、車は減速することなく走り抜けていった。ほんのちょっとでもタイミングが遅かったら完全に轢き逃げだったぞこれ……
「……しょ、翔悟?」
「はぁ……はぁ……間に合った。大丈夫か?」
「う、うん……」
「よ、良かった……うっ!」ズキッ
「しょ、翔悟!怪我してるじゃん!」
ズボンをまくって俺の足を見ると、大きな擦り傷ができていて、血がどんどん滲み出ていた。恐らくさっき路面で擦った時に出来た傷か……くそっ、痛え。
「ハハっ、ちょっと無理しすぎたかな……」
「無理しすぎだよ!何で、何でそこまで……」
「……あの時俺が動いてなかったら大変なことになってた。打ちどころ悪かったら死んでたかもしれないんだぞ?それに……仲間として認めてくれた人を助けられなかったって後悔するのが一番嫌だったんだよ……人助けにそれ以上の理由はいるか?」
「!」
〜side茉奈〜
「人助けにそれ以上の理由はいるか?」
「!」
翔悟の言葉に私は驚いた。それだけの為に自分の命を投げ打ってまで私を助けてくれたんだ……
「……ぐすっ、ごめんね……私を助けてこんな怪我までして……」
「いいよいいよ、助かったんだから……ほら、これで涙でも拭き」
そう言ってハンカチをくれた。人肌に触れていたそれはとてもあったかかった。
「うん……本当にありがとう」///
「じゃあ帰ろうか」
「分かった……あっ、ちょっと待ってて」
私は近くにあったコンビニに駆け込み、消毒液と包帯、杖代わりの傘を買ってきた。彼は命の恩人、せめて応急処置だけでもしてあげたい……!
「さっ、じっとしてて」
早く治ってね……そう願いを込めながら包帯を巻いていく。
「……よし、巻けた!どう?立てる?」
「痛てて……うん、何とか。でもこの怪我で外食はなぁ……」
「そうだね」
「じゃあ、俺こっちだから」
そう言って彼は傘片手に帰っていった。
「……」
何だろう……この気持ち。翔悟の顔が頭から離れないよ……
「もしかして……恋?」
『恋』。この一文字を意識するだけで先程まで頭の中で暴れ回っていたモヤモヤが大人しくなっていく。得体の知れないものに『名前』という形がついていくように。
(分かったよ……私、翔悟の事が好き。友達じゃなくて一人の女性として。君の事を考えてるだけですごくキュンキュンしてくるの。この気持ちは誰にも負けない……ふふっ。待っててね、翔悟♡)
〜side俺〜
「ふふっ、おはよう翔悟♡」
「ま、茉奈?」
俺は目を疑った。何と茉奈が俺と出会うや否や、腕に抱きついてきたのだ。愛莉と遜色ないほどのOPが当たって最光、発光!じゃなかった、最高!
「フフフ……何をしてるのかしら、茉奈」
右側には愛莉が黒い笑みを浮かべ、どす黒いオーラを漂わせている。勿論ハイライトもバーイしてしまっている。
「え〜?ただのスキンシップだよ」
「それにしては距離が近いように見えるのだけれど」
「距離が近いっていうのは……」
ムギュッ
「こういう事を言うんだよ♡」
!?きゅ、急に目の前が真っ暗に……しかも柔らかい……これはまさか!
「そ、私のおっぱいだよ〜、おっきいでしょ?」
すごく……大きいです……
「……茉奈?翔悟を離してもらえるかしら?」
「……い〜や」
「……宣戦布告と捉えるわよ?」
「上等、翔悟とゴールインするのはこの私、嘉瀬茉奈なんだから!」
身の毛もよだつオーラに直面しながらもキッパリと啖呵を切った茉奈。つ、強すぎる。
「フフフ、ショウゴハワタシダケノモノ……ゼッタイマナニワタシタリシナイワ」
「という訳で翔悟、ちゃんと告白したからね!」
「え、ええ?」
こうして茉奈と愛莉はアルテミスの仲間でありながら、恋のライバルとなった。そして……
「もう二人とも告白してしまってるのか……私も負けられないな」
それを陰で見つめる少女の中にも恋心が燃え上がっていた。
お待たせしてしまいました。1月に例のアレを控えてるものでほとんど執筆時間が取れなかったんです……他の作品もおんなじ様な感じです。