月の女神と一匹狼   作:柳芽帆奈

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第八話「親愛なる女神達に忠義を込めて」

「なあ、お前ら。なんか隠してることはないか?」

 

「「!!」」

 

 その言葉を放った瞬間、二人の身体がわずかに反応する。

 

「隠し事?あるわけないじゃないか」

 

「そうか?じゃあ、なんで愛莉が『芸能事務所に入って本格的に活動する』っていうところでなんであんなに過剰反応してたんだ?」

 

 そう、アルテミスの四人と話していたときに何故かこの二人はしきりに汗を流して『そ、そうだな!』とあたかもそこには触れられたくない様に話していた。

 

「し、しかし!そんなのはただの推s「紗乃、もういい」灯佳!?」

 

「もう大丈夫、いずれは話さないといけない事だったんだから……ごめんなさい、翔悟。隠してた事は本当……」

 

 そう呟いた後、灯佳は全てを話し始めた。

 

 実は紗乃と灯佳はアルテミスを結成する前から既にある芸能事務所からスカウトをもらっていた。元々は二人の高校卒業を待ってデビューする計画だったらしく、ユニット結成も部活の延長線上のようなものとみなされていたらしい。

 

 しかし、アルテミスが予想外に評判になった事で状況が一変。プロダクション側が焦ったのか、卒業後にデビューするという契約を急に即時デビューに変更し、ユニット活動の即刻停止を要求してきたという。無論、二人は愛莉と茉奈を入れた四人でのデビューも打診したが拒否され、そして今に至る。

 

「そんな事が……」

 

「……本当はこんな事はすぐに言うべきだった。でも、楽しかったユニット活動に水をさしたくなかった!いきなり突き放して愛莉や茉奈、そして翔悟を悲しませたくなかったんだ……本当に、本当にすまなかった……!」

 

「私も……今まで隠しててごめんなさい」

 

 二人は涙を流しながら頭を下げた。その顔から滴った滴が暗い地面を濡らしていく。

 

「俺に謝るのは別にいいんだが……他にも謝る相手がいるんじゃないのか?」

 

「「!!」」

 

 二人が顔を上げると、そこには先に帰ったはずの愛莉と茉奈がいた。

 

「翔悟が一旦帰ったフリをしておいてくれって言われて疑問に思ってたけど……そう言う事だったのね」

 

「……」

 

 二人ともいつもの様子とは違い、面持ちは重い。茉奈に至っては唇を噛んで表情を歪ませていた。あまりにもイメージと離れすぎてたもんだから一瞬、本当にこの人お祭り騒ぎが大好きなのかって疑ったわ。

 

「ねえ、二人とも」

 

「「……」」

 

「二人は……アルテミスを続けたいの?」

 

「……正直に言うのなら続けたい。でも、これからの事を考えるのならばプロとして、企業や事務所のバックアップは必要だ」

 

「でも、最初から一緒にアルテミスを盛り上げてくれた人達はどうするの!まさか、置き去りにするつもりなの!?」

 

「誰もそんな事は言っていない!だが、『身内』だけで固まって『遊ぶ』のが私達の目的だったか!違うだろう!」

 

 パシンッ!

 

「「「!!!」」」

 

 紗乃が捲し立てた直後、乾いた音が鳴り響く。茉奈が紗乃の左頬にビンタしたのだ。

 

「紗乃……あんた、それを翔悟の前で言うの?」

 

「え……」

 

「翔悟は!マネージャーとして、誰よりも『本気』でアルテミスの活動を支えてた!ライブの衣装の注文も、会場を手配してたのも、チケットの転売防止システムを学校と協力して作ったのも、練習メニューを考えてたのも、全部翔悟がやってたんだよ!それを『遊び』……?ふざけないで。紗乃の言葉は、必死に駆け回り、頭を下げ、私達が万全に活動出来る為に汗水垂らして働いてくれたマネージャー(翔悟)への最大級の侮辱だ!」

 

「茉奈……」

 

 爆発。紗乃の喉笛に喰いつかんとばかりに胸ぐらを掴む茉奈の様子を表すのにこれ以外の言葉は出てこなかった。

 

「……ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 胸ぐらの拘束から解放された紗乃は涙まみれの表情で俺の元にすがってきた。ひたすらに懺悔する姿にいつものクールな雰囲気はない。そこにいたのは年相応に感情を流す一人の女の子だった。ど、どうしよう……こういう時頭撫でてあげたらいいのかな。

 

 ナデナデ

 

「うっ……うっ……」

 

 胸の中で泣き続ける紗乃。どんだけ溜めてたんですか……

 

「……よく頑張ってるよ、紗乃は。事務所の件で色々あったんだろう?デカい権力相手に四人でやりたいって打診出来た事自体すごい事だよ。だからさ、今ぐらいは存分に泣きな。俺がついてるから」

 

「ぐすっ……あぁ……ありがとう」///ギュッ

 

 なんだろう、急に抱きしめる力強くなった気がする。

 

「それで?灯佳は?」

 

「……私も」

 

「なんて?」

 

「私も!こんな形でアルテミスを終わらせたくない!もっとこの四人で『夢』を追いかけたい!」

 

「うおぅ声デカっ」

 

 灯佳ってそんな感情出すキャラじゃなかったよね?こんなに声張り上げてるの初めて見た。

 

「……よし、それじゃあ決まりね!アルテミスは四人……いや、五人で一つ!芸能事務所にもそう認めさせてやりましょう!」

 

「「「おー!」」」

 

 と愛莉が啖呵を切る。いや待て、紗乃さっき言ってたじゃん交渉してもダメだったって。

 

「私達のライブは見てもらったのね?」

 

「うん。そうじゃないと人気が出たとは分からないだろうし」

 

「成程……じゃあ、言ってもわからない事務所には身をもってアルテミスの実力を見せてあげないとねぇ」ニヤァ

 

 愛莉がものすごい悪い笑顔を見せる。あれー?おかしいなー?なんかすんごい嫌な予感がするんだけどなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御一統、我らが讐敵はもう眼前にいるわ!目指すはこの芸能事務所の社長、吉良幸助ただ一人」

 

「やっぱりかよオイ!」

 

 どうりで嫌な予感がしてたんだよ!なんだよこれ!?

 

「翔悟、落ち着いて。こうなった愛莉はもう自然鎮火を待つしかない」

 

「諦めないでくださいよ灯佳さぁん……」

 

 ちなみに、今の状況を説明すると愛莉を筆頭に、俺、紗乃、茉奈、灯佳といういつものメンバーに加え、愛莉が某呟く鳥で招集した腕に自信のあるアルテミスのファン42人を合わせた総勢47人が港区は赤坂の事務所の社長の家の前に集合している。

 

 注目すべきは俺達が纏っている衣装。全員が入山形に染められた黒地の羽織の小袖、そして左の白襟には『 恋尾流御武或天御簾(コール・オブ・アルテミス)』、右の白襟には各自の姓と名が書かれた装束を身につけていた。さらに愛莉は綴という垂れ布がついた陣笠を頭に被り、手には棒に短冊状にちぎった紙を垂らした采配と呼ばれる指揮用の道具を持っていて、さながら忠臣蔵のような……いや、もう忠臣蔵そのものになっていた。

 

 ……まさか『実力を見せる』っていうのがパフォーマンスで見せるって意味じゃなくて、マジの実力行使っていう方の意味だったとはなぁ……

 

「あははははははもうどーにでもなれ!あははははは」

 

「しょ、翔悟!?頼む!壊れないでくれ!翔悟がいなくなったらもうまともな奴がいなくなるんだぞ!?」ガシガシ

 

 ……ハッ、そうだった。いかんいかん、あまりにも超展開すぎておかしくなりかけてた。

 

「……もし彼を説得しなければ、Call of Artemisの命運もこれ限り……アルテミスのファンとしての誇りと覚悟を極めて、存分に己の推しへの忠節を遂行しなさい!」

 

『お────!』

 

「いざ!」

 

 愛莉が采配を振るうと、一斉に集団が吉良家に向けて襲撃を始めた。

 

「な、何だお前らは!?」

 

 すると家を守っていた警備員が侵入者に対処する為に出てきた。しかし、時代錯誤な格好をした奴らが47人も一斉に襲いかかっている様子に混乱を隠し切れていない。

 

「御免!」

 

 警棒で対処しようとするが、最前線にいた屈強なファンにあっという間に無力化されてしまう。いやごめんなさい。こんな茶番に付き合わせちゃってホントすいません。

 

 警備員を難なく無力化して突入したそれぞれが社長を探す中、アルテミスの四人と俺は指揮部隊として中央で吉良の拿捕を待つ。

 

「これ大丈夫か?今度は逆に俺達がブシ◯ードとかに討ち入りされそうな気がするけど」

 

「そんなこと考えちゃダメよ!今は吉良が捕まるのを待つのみ!」

 

 ダメだこりゃ。

 

『……こちら一番隊!寝室で吉良を発見しました!』

 

 と、愛莉が手に持っていたトランシーバーから吉良確保の知らせが届く。

 

「よくやったわ!そのまま表まで連れてきなさい」

 

 数分後、吉良が両腕をファンに抱えられながら出てきた。

 

「い、いきなり部屋に入ってきたと思えば何なんだお前らは!」

 

「何なんだお前らと聞かれたら!」(愛莉)

 

「こ、答えてやるのが世の情け!」(紗乃)

 

「……愚鈍な悪に鉄槌を下すため」(灯佳)

 

「忠義忠節を貫く!」(茉奈)

 

「……」(翔悟)

 

「「「「じーっ」」」」

 

「……え、言わなきゃダメ?」

 

「「「「」」」」コクコク

 

「……ラブリーチャーミーな敵役」

 

「天野愛莉!」

 

「姫神紗乃!」

 

「嘉瀬茉奈!」

 

「高尾灯佳!」

 

「我らCall of Artemisの四人には!」

 

「ホワイトホール、白い明日が待ってるよ!なーんてね!」

 

「ソーナンス!」

 

 おい待て今のソーナンスどっから出てきた!?俺喋ってないぞ!?

 

「アルテミス……?そうか、姫神君と高尾君が所属しているユニットか」

 

「こんな形にはなりましたが……お願いします!改めて四人で活動させてもらえないでしょうか!」

 

 言って紗乃が頭を下げる。

 

「いや無理☆」

 

 でしょうね!俺が社長でも100%無理って言うわ!

 

「紗乃、この人にはそんな手段は通用しないわ」

 

「じゃ、じゃあどうするんだ?」

 

「みんな、お願い!」

 

「!?」

 

 愛莉が声を上げると吉良は突然ファンに囲まれて、担がれる様な格好になる。

 

「な、何をするんだ!」

 

「さあ、行きなさい!」

 

 采配を振るうとファンは吉良を抱えながら一斉に何処かに向かって走り始める。その先は……

 

「ま、待て!まさか私を近所のドブ川に投げ入れる気じゃないだろうな!?」

 

「そのまさかよ!」

 

「わ、分かった!分かったから!ちゃんと四人で事務所に所属出来るようにするから!だから勘弁して下さい何でもしますから!」

 

 ……もうなんか社長の方がかわいそうになってきたよ。

 

「ん?今なんでもするって言ったわね。ちゃんとボイスレコーダーに収録してあるから後で言い逃れは出来ないわよ!」

 

「それでもいいから!だからドブ川だけはやめてくれ!」

 

「状況を理解して判断できるとは、素晴らしい大人ですね!下ろしてあげなさい!」

 

 なんやかんやあったが、こうしてアルテミスは四人揃って、卒業後に事務所に所属するという運びになった。勿論、学校にバレて大目玉を喰らうことになったのは言うまでもない。

 




正史だとここでアルテミスは解散して二つのユニットに分裂するんですけど、翔悟というイレギュラーがいた事でアルテミスは分裂せずにそのまま残ります。パラレルワールド最高!
それにしても……うん、前半と後半の落差が激しすぎる。でもこれが月狼クオリティだからね!仕方ないね!
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