三日月は鋼鉄城の夢を見る   作:柏槙

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凡そ1ヶ月ぶりの投稿ですよろしくお願いします


会議と鼓舞は踊ってこそ

 アインクラッドにログインしてから1ヶ月が経過した。旅立った日から毎日が冒険と探検に満ちていて、あちこち巡るうちに拠点はトールバーナに、そしてレベルも上がって気づけば僕とシリカのレベルは二桁に到達した。いつも世話になっている情報屋の話によると攻略しようとするトッププレイヤー達と同等のレベルらしい。もっとも僕らは迷宮区には行かずフィールドの探索が主だったので、トップだと言われてもピンとは来なかった。

 

「今日も稼げたねー」

 

「そうだね。報酬のクリームも美味しいらしいし、頑張った甲斐があったよ」

 

 クエストを終わらせた帰り道、僕とシリカは今日の成果について話している。

 今日受けたクエスト名は『逆襲の雌牛』。クエスト達成まで少々長いし報酬のコルも効率が良いとは言えないのがネックだが、コル以外に貰える報酬のクリームが黒パンに合うと攻略した人の間で評判なのだ。やれる事が多くない現状、美食は数少ない楽しみで、僕たちは浮かれていた。

 

「どんな味がするんだろう?」

 

「楽しみだよねぇ。早く食べたい!」

 

 そんな会話をしながらトールバーナの噴水広場を歩いている途中、人集りを見つけ、足を止めた。

 動きからしてプレイヤーだが、集まっている人数が多い。ここ1ヶ月プレイヤーには何度か遭遇しているが、パーティーとして集まっているのは4〜6人が殆どだった。しかし今集まっているのはその3倍以上あるように見える。

 

「なんだろう、あれ」

 

「イベントでもやってるのかな」

 

 首を傾げつつ様子を伺っていると、集まりの外周にお世話になっている情報屋の姿を見つけて声を掛ける。

 

「こんにちわ」

 

「ん? ああ! お前たちか!!」

 

 声をかけると彼はこちらを振り向き、嬉しげな顔を見せた。

 

「この前売ってくれたクエスト情報、すっごく助かったぜ」

 

「そうですか、それは良かったです。ところであの人集りは何なんでしょう? 随分多いみたいですけど……」

 

「あぁ、なんでも最前線で頑張ってるプレイヤーを集めて、攻略会議をするみたいだ。ひょっとしたらもうすぐ次の層に行くかも知れないな」

 

「へぇ〜」

 

 次の層という事は、探索できる場所が増える。この層に無かった新しいものが見つかるかもしれない。そんな事実に僕の好奇心が存分に刺激され、隣にいるシリカも同じなのか目を輝かせている。

 そんな僕らの反応に目ざとく気付いたのか、情報屋は少し得意気に続けた。

 

「興味があるなら行ってみたらどうだい? 夕方開始だから、まだ間に合うはずだ」

 

「えっと……いいんですかね?」

 

「構わんだろう。お前たちのレベルなら足でまといにはならないさ。それに攻略にはとにかく人手がいる。歓迎されると思うぜ」

 

 彼の言葉を受け、隣のシリカを見ると彼女も小さくコクリと首肯したので、僕らはこの誘いを受ける事にした。

 

 情報屋と別れ、トールバーナの東に位置する広場へ向かう。古代ギリシアの劇場を彷彿させるような階段状の客席にはには、既に噴水広場で見た以上のプレイヤーが集まっており、舞台に位置するであろう中央には青髪の男性が立っていた。僕らは客席の後方右端に座り、会議の始まりを待つ。

 

「はーい、それじゃあそろそろ始めさせてもらいます!」

 

 5分ほど待った後、男は手を叩きながら口を開く。その堂々たる口調から彼がリーダー格である事は容易に想像できた。

 

「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう! 俺はディアベル。職業は……気持ち的にナイトやってます!」

 

 爽やかな笑顔と共に発せられたジョークに周囲から笑いが起きる。場の雰囲気が和むと同時に、集まったプレイヤーは皆ディアベルと名乗った好青年を注目した。

 

「さて、こうして最前線で活動している、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう言わずもがなだと思うけど……」

 

 一呼吸置き、真剣な雰囲気になると静かになった全員を見渡しながら続ける。

 

「今日、俺たちのパーティがついに迷宮区の最上階に到達した。つまり、明日か明後日には、ついに辿り着くって事だ。第一層の……ボス部屋に!」

 

 途端、周りに集まったプレイヤーがざわつく。

 ざわつきの内容の殆どが、攻略の速さに驚く声であった。

 僕も驚いている。フィールドの全てが明らかになっていない現状から、呑気にもこれから迷宮区に突入する為の会議なのだろうと、勝手な予想を立てていたからだ。

 

「1ヶ月。ここまで来るのに、1ヶ月の時間がかかった……それでも、俺達は示さなければならない。第二層に到達し、このデスゲームそのものをいつかきっとクリアできるという希望を……それが今ここに居る俺達の義務だ! そうだろ!? 皆!」

 

 再び拍手が巻き起こる。先程よりも強い喝采だ。僕らは周りの雰囲気につられつつも、少し遠慮がちに手を叩く。

 その後ディアベルが話を続けようとした、その時だった。

 

「ちょお、待ってんか」

 

 自分たちの後方から声が上がる。振り向くとそこには赤いトゲ頭をした如何にも戦士といった風貌の男が一人、眉間にシワを寄せて立っていた。周囲がザワリとどよめく中、男は階段状の客席を飛び降り舞台の中央に躍り出た。

 

「そん前に、こいつだけは言わせてくれんかい。そないと仲間ごっこはできひん」

 

「何かな? 発言は自由にしてもらって構わないよ」

 

「おう、あんがとよ。なら、遠慮なく言わしてもらおか」

 

 トゲ頭は一度咳払いすると、苛立ちを隠そうともせずまくし立てるように話し始めた。

 

「ワイはキバオウっていうもんや。こん中に五人か十人、詫び入れなアカン奴らがおるはずや」

 

「……詫び? 誰に対してだい?」

 

「決まっとるやろ。今まで死んでいった2000人にや。β連中が根こそぎ独り占めしたからこんなにも死人が出とる! せやったらその責任取ってもらうのが道理ちゃうんかい!」

 

 彼の言葉は最後怒号となって広場に響き渡り、僕の隣にいたシリカが小さく悲鳴を上げて僕の服を掴む。

 それでもキバオウという男の演説は終わる気配が無い。それどころか更にヒートアップしていく様にも見えた。僕はそれとなくシリカの手を握り返し、安心させるよう努める。

 

「ええか、ベータ上がりどもは、こんクソゲーが始まった初日にそそくさとビギナー見捨てて消えよった。美味いクエストも狩場も全部独り占めや。そんでポンポン強うなって、その後ろでオロオロしていたワイらみたいなビギナーの事は知らんぷり。こん卑怯者どもが独占なんてセコイ真似せぇへんかったら、2000人も死んどらんし今頃この階層どころか3層くらいまで行っとったとちゃうのか!?」

 

 キバオウの演説は喜怒哀楽が剥き出しのままになっていた。だからこそだろう、周囲も彼のβテスターへの怒りをよく理解し、共感を集める。演説を邪魔しない範囲での囁き声も、βテスターを悪しようにするものが増えていき、テスター叩きの風潮は一層強くなる。

 

「せやから──」

「ルブリスは卑怯者なんかじゃない!」

 

 しかし、そんな重苦しい会場を凛とした声が切り裂いた。

 見ると舞台を挟んで僕らの対岸に位置する場所で、珍しい紫髪の、これまた珍しく僕らと同じ年代に見える少女が立ち上がりキバオウを見据えている。

 

「なんや、小娘。言うことあるんならまず名前言うてみ」

 

「ボクの名前はユウキ。さっきの言葉、取り消してよ。ルブリスはあの日、ボクを連れ出して、生きるために戦う方法を教えてくれた。ボクにとっては命の恩人で大切な相棒なんだ! 悪く言うなんて許さない!」

 

「ハッ、そないな事言うても結局は選り好んで他のビギナー見捨てとるやないか。情報一つ寄越さん癖によう言えるわ!」

 

「情報はあったよ! NPCショップにちゃんと──」

 

「ユウキ、ダメだよ」

 

 言い返そうとした彼女に、その隣に座っていた少年が制止する。茶色い髪をした、こちらは穏やかそうな印象を受ける顔つきをしていた。

 恐らく彼は、彼女と一緒に行動しているのだろう。

 

「でも!」

 

「大丈夫だから。座って」

 

 優しい口調だが有無を言わせないような物腰の彼に促され、彼女は渋々と言った風に席に着いた。しかし、あの赤いトゲ頭の男はこれで終わらせるつもりは無かったらしい。

 

「ちょい待ち、小娘とつるんでるっちゅーことは、お前がルブリスやな?」

 

 次なる矛先は諍いを止めようとした少年だった。公開処刑のようなキバオウの質問に、彼は長い間を置いてから苦い顔をして小さく頷いた。

 

「そないなら早い話や。ビギナー見捨てた責任とって貰うで。まずは装備も金もアイテムも、全部置きいや」

 

 周囲がにわかに沸き立つ。逸脱した要求なのは間違いないがそれを是正する声は無く寧ろより重い罰をと叫ぶ声もある。それほどベータへの憎悪が蓄積しているのか、しかし決して頷ける内容じゃない。ルブリスと呼ばれた少年は押し黙るしか無かった。

 

「態度で見せられんなら、肩並べるんのは──」

「キバオウさん、そこまでにしてくれないかな」

 

 尚も詰め寄る男に、ディアベルが割って入る。

 

「なんやディアベルはん。こん小狡いベータ上がりを庇うんか?」

 

「庇う訳じゃない。俺だって最初の頃苦労したり、死にかけたりもしたさ。でも今は責任を問い質すよりも、前を向いて進むべきだよ。僕らはβテスターを晒しあげる為に集まったんじゃない。そうだろう?」

 

 確かにディアベルの言う通りだった。……少なくとも、僕ら二人はβテスターを非難する為にここに来ていない。それは他の参加者も同じらしく、テスター叩き上等な周囲の雰囲気も少しずつ冷めて落ち着きを取り戻していく。

 

「……思う所はあるかも知れないけど、今だけは呑み込んでくれ。第一層を攻略して希望を繋いでいくためにも、みんなの協力が必要なんだ」

 

 彼の言葉は力強く、それでいて皆の心に深く染み渡っていく。この場においてこれ以上の演説は無いと言える程の説得力があった。

 

「……せやな」

 

 キバオウは何度か視線をディアベルとルブリスで行き来させた後、静かに呟いて自分の席へと戻っていった。




前話の予告通り攻略会議編となりました。
今回は傍聴という形だったので二人の活躍は薄かったのですが、代わりに新キャラがユウキと、名前だけの登場ですがルブリスというオリキャラが登場しました。
ルブリスはどんな人物かは今後の描写で明かされていきますのてみ、お楽しみに
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