『救界』とかどうでもいいから彼女を推したい   作:シティー

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 初投稿です。見切り列車ですが良ければ高評価お願いします。


妖梟

 

 

 

 

 

「生きたければ、私の命令を聞きなさい」

 

 それは、突然のことだった。

 いつものように罰という名の虐待と憂さ晴らしを受けていた矢先、急に現れた女性――否、女神。

 見張りのエルフたちを一瞬で昏倒させ、少年の前に舞い降りた。

 超常たる美貌を隠そうともせず、その女神(おんな)は少年に話しかける。

 

「あなたは今から死ぬ。だけど、私が『サーヴァント』を召喚して貴方に憑依させれば、仮初の命を繋ぐ事が可能よ」

 

 しかも最優の『セイバー』なんだから、といたずらっ子のように唇に手を当てて言い放つ女神から、目が離せない。

 

「生命を得たらオラリオへと向かい、私の敵……『救界(マキア)』の阻止を目論む者たちを倒してほしい」

「なに、を……」

「時間がないから、あとはセイバーから聞いてちょうだい。取り敢えず、貴方が果たすべき使命はただ一つ……」

 

 情報源である聴覚に全意識を傾けて、一言一句聞き逃さないようにする。

 

 「――【アストレア・ファミリア】及び【静寂】と【暴喰】の生存」

 

 何を言っているかは、一切理解できない。

 過去改変も、黒き終末も知ったことではない。

 ただ一つ言えるのは――――

 

「それが、貴方を生かすための条件となる」

 

 ――――その日から、本当の意味で、ラクス・■■■■■の人生は時を刻み始めた。

 

 

 

 

 

「殺せ! 恩恵のない民衆を皆殺しにしろ!」

 

 暗雲の下、迷宮都市オラリオでは絶え間ない爆撃音が轟いていた。

 燃え盛る炎はまさに地獄を表しており、何の力も持たない民衆は逃げ惑うしかない。

 そんな無力な者たちを見て嗤い声を上げる闇派閥(イヴィルス)たちは、眼前に迫る()に気づけなかった。

 

「お前はっ!」

「――遅い」

「がはぁ!」

 

 ようやく認識できた時には、魔力を帯びた木刀による殴打で、白装束の一人は意識を無くしていた。

 他の闇派閥(イヴィルス)が警戒の視線を向ける先には、覆面で顔を隠す金髪のエルフ。

 か弱い見た目とは似つかわない剛力と瞬発力に闇派閥(イヴィルス)達は唾を飲んだ。

 数にものを言わせ妖精に飛びかかろうとした瞬間、神速の刀が背中を裂いた。

 

「おや、私も忘れないでいただけると」

「いつからそこに……!」

「言う必要性がありましょうか?」

 

 穏やかな言い方とは裏腹に、その眼差しには侮蔑と嫌悪が滲み出ている。

 オラリオでは珍しい極東の着物を纏う黒髪のヒューマンは呆けている男達を次々に屠っていく。

 一瞬で劣勢に傾いた状況に隊長格の白装束は歯軋りをする。

 

「なんだよ、これ……! ふざけんじゃねぇぞてめぇら!」

「ふふ! 私たちは偉大なる正義の女神の眷属――【アストレア・ファミリア】よ!」

 

 悪に一抹も屈さない強き『正義』の意志を持って、赤髪の少女は結いている髪をかきあげる。

 ふふん、と自信げに発育の良い胸を張る団長に対し、いつものようにパルゥムから諦めの視線が突き刺さるが一切気にしていない。

 仰々しく口上を述べている間に、たくさんいた闇派閥(イヴィルス)は残りわずかとなっていた。

 淡い笑みを浮かべる男は腹を決め、懐の長剣を取り出す。魔力を内包した神秘の剣……『魔剣』を使うようだ。

 

「ひひ、こうなったらやるっきゃねぇな!」

「っ、やべぇ、リオン! 逃げ遅れた民衆の方を守れ!」

「……まずい、間に合わない!」

「もう遅えよ!」

 

 異常を察知したパルゥムはファミリアの中で一番『敏捷』に長けているエルフに指示を出すが、風が着くよりも先に長剣型の魔剣は緋色の輝きを放った。

 爛々と燃ゆる炎線は逃げ遅れた二人の子供たちに向かっていく。

 無力な子供たちの悲鳴と共にその身が焼き尽くされる寸前――

 

「放浪せよ、罪禍の始原――【命徨運廊(モロス)】」

 

 暗澹たる闇が炎を打ち消した。

 瞬く間に放たれた超短文詠唱は魔剣を防ぐのみならず、勢いのままに影響は対象者まで及ぶ。

 迅速に這い寄った闇は彼我の距離を埋め、魔剣を破壊する。

 

「何が……ひぃっ!」

 

 最後の足掻きを潰された男は下手人を睨もうとして、晴れた煙から梟の仮面が垣間見える。

 小さな体躯からは想像できない殺意に、男は息を呑んで後ずさった。

 十歳ほどに見える仮面の少年は、煤汚れたローブに所々破けている戦闘衣、そして長い耳は高潔な妖精の証。

 髪は色素の落ちた灰色にくすみ、それは男の未来を仄めかしているであった。

 彼のスキルだろうが、虚空から突如魔力を帯びた木刀が現れ、少年の手に握られる。

 木刀の切っ先が残りの闇派閥(イヴィルス)に向いた時、男たちは本能に従って少年に一斉攻撃を仕掛ける。

 

「しねえ!」

「クソガキ!!」

「ぶっ殺してやるよ!」

 

 あれだけは許容できない。

 自分達より何倍も醜悪なそれを、許容するわけにはいかない。

 魔剣、爆弾、魔法を一斉に放たれる少年は木刀を横に構えて一言。

 

「仮想宝具展開、劣等技能模倣……借りるぞ、()()()()

 

 一秒にも満たない刹那、木刀が輝きを取り戻し眩い光を放つ。

 思わず目を閉じてしまった男が次に見たものは、()()()()()()()()の姿だった。

 

「……は?」

「お前で最後だぞ」

 

 何が起こったのか分からない。

 攻撃が全てかき消され、一閃で白装束たちは地に伏した。

 次はお前の番だと、木刀の切っ先が最後の男に向けられる。

 頭の中でガンガンと警鐘が鳴り響く。

 男の本能が告げてくる言葉は一つ――『死』のみ。

 

「ストップぅ! もういい、もう充分だから剣を下ろしてちょうだい、ラクス!」

「……」

 

 仮面の少年……ラクスは無言で剣を右に投げる。地面に衝突するかと思われた木剣はまたもや虚空に消えていった。

 ラクスはあまりの恐怖に気絶してしまった男を一瞥し、その後に【アストレア・ファミリア】の面々を見渡す。

 アリーゼ以外から突き刺さる視線は恐怖、警戒、畏怖など仲間に向けるものではなかった。しかし、ラクスはどうでもいいとばかりに目線を切り怯えている子供達の方へと向かった。

 安堵から息を吐くアリーゼにファミリアの参謀たるライラが近づく。

 

「とりあえず、全員無力化だ。負傷者はアホみてぇにいるが、死人は一応ゼロだな」

「ふぅ、良かったぁ。魔剣が子供たちに向いたときには焦ったわ!」

「私は心配などしておりませんでしたよ。なんせあの【妖梟】様のお守りでしたからね」

「輝夜……」

 

 極東のヒューマン……輝夜は厳しい目を未だにラクスに注いでいる。

 手の内は一切明かさず、淡々と敵を屠る梟面の少年。これでパルゥムではなくエルフというのだから怪しむのは当然だ。

 齢10であの凍てついた眼が出来る、この事実だけで輝夜にとって警戒するに値した。暗黒期というのなら尚更だ。

 気まずい雰囲気が流れる中、第三者の声が響く。

 

「突如オラリオに現れた()()()()の【妖梟】、さすがの実力だな」

「シャクティ!」

「すまない、アリーゼ。遅くなった」

 

 凛とした声のシャクティを筆頭に、【ガネーシャ・ファミリア】が一足遅れて到着した。

 ファミリアの構成員はシャクティの指示で既に闇派閥(イヴィルス)の捕縛を始めている。手際のよさは『都市の憲兵』に恥じないものだ。

 どこか懐疑的な視線をラクスに送りながら、素直にその実力を賞賛する。

 

「オラリオに来たその日に闇派閥(イヴィルス)の拠点を襲撃し、レベル3を含む構成員20名を殺害……その後は神アストレアに拾われ、『星屑の庭(お前たちのホーム)』を寝所としている。にわかには信じがたい話だ」

「……アストレア様は信頼できると言っていましたが、私はどうも違和感が拭えません」

「そんなことない。彼は優しい人よ」

 

 アリーゼがラクスのことを庇うが、効果は薄い。

 特にリューは得体の知れない気持ち悪さをラクスに感じている。

 生理的嫌悪とでも言うのだろうか、本能的に分かり合えないと認識してしまう。

 アリーゼはどうしたら彼の悪印象を失くせるか頭を回すが、良い改善策は当然出てこない。

 

「おい、ローヴェル」

「ひゃっ! ら、ラクス、近くにきたなら声かけてちょうだい」

「ずっと呼びかけていたんだがな」

 

 後方を振り向けば梟の仮面に、冷え切ったマリンブルーの眼。

 話の中心であったラクスが近くに来ていた。今の話を聞かれていないか確認する為にライラに視線を送るが、彼女もラクスに気づいていなかったようで目を見開いていた。

 彼の背後には張り付くように二人の子供が身を隠してこちらを見ている。

 

子供たち(こいつら)をシスターの所まで送ってくる。夕飯は適当に済ませるとアストレアに伝えてくれ」

「ちょっ、また食べないの?」

「……元より俺が『星屑の庭』に求めるのは就寝場所として機能のみだ。それ以外は自分で負担する」

「そんなこと言って……あっ、ちょっと待ってってば!」

 

 説得は一切聞かず、ラクスは二人の子供を抱え、廃工場から早足で出て行った。

 アリーゼの事を無視したせいであるエルフが暴走しかけているが、ライラが羽交い締めにすることで未然に防いだ。

 ラクスはアリーゼ達と一緒に住んでいるのに、一度も食卓を共に囲んだことはない。

 いつも何処かに消えてしまい、深夜帯になればひっそりと戻ってくる。

 暗い顔をしているアリーゼにライラは問いをぶつける。

 

「無理に誘う必要はねぇんじゃねぇか? ありゃ確実に避けてるだろ」

「どうしてそこまで一緒に食べたがるんですか?」

 

 ライラに続いてリューも問いかけた。

 誘いを断られたのは初めてではない。一ヶ月前から毎日しているが結果は惨敗だ。

 諦めの悪いアリーゼでも流石に堪えているはずだが、当人にめげている様子はない。

 

「だって……」

「「だって?」」

「だって、ラクスの素顔を見てみたいじゃない!」

「「……」」

「……アホな団長に構ってないでさっさと切り上げるぞ」

 

 想像の数倍浅はかだった理由にあのリューでさえ言葉を失った。

 輝夜の号令により【アストレア・ファミリア】はその後の作業をシャクティたちに任せ、帰宅するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリーゼ可愛すぎだろ……」

「うわあ、気持ち悪い」

「お姉ちゃんが居なくなった途端、悪い意味で態度変わるね!」

「水路に投げ捨ててやろうか?」

 

 ラクスは子供たちを軽く脅すが、キャッキャッと笑うだけで全く反省していない。

 先の文面で分かる通り、俺はアリーゼ・ローヴェルに好意を持っている。

 いつでも笑顔を絶やさない元気な彼女、正義という不明瞭なものを信じ、どこまでも真っ直ぐに駆ける姿にいつしか目で追うようになっていた。

 仮面がなければ輝夜辺りにはバレていただろう。

 無論、恋人関係になどなれるはずがないため、あくまで推しという扱いだが。

 

「ラクスお兄ちゃんってファミリアの人と仲良くないの?」

「……俺は【アストレア・ファミリア】ではないからな。それに、『暗黒期』にとって俺という存在は異質すぎる」

「変なのー」

 

 俺は【アストレア・ファミリア】ではない。

 神アストレアとの()()が要因で居候をさせてもらっている。

 よって、アリーゼ達との関係はファミリアというよりビジネスパートナーのそれに近いだろう。

 先程の会話から俺と【アストレア・ファミリア】の関係はあまり良くないことは自明である。

 

「アリーゼお姉ちゃんと仲良くしたいなら、ファミリアの人とも仲良くしなきゃじゃないの?」

「それは、その、仲良くなりたいんだが……」

「だが?」

「……アリーゼの前だと緊張して、うまく話せんのだ」

「「……」」

 

 馬鹿にしたような目線が両側から突き刺さるが、ここで反応したら負けのでどちらも無視する。

 しかし、俺にも言い分はある。

 使命のために【アストレア・ファミリア】に転がり込んだが、蓋を開けてみれば女性しかいない。

 コミュ障には同性と話すのもきついのに、異性と話すなどもっての外だ。

 リューにはレベル5の実力を持っているため、()()()()()()が目的で『星屑の庭』に居候したと思われているようで、かなり辛い。

 数分歩いていると、ようやく目的地の孤児院が見えてきた。

 

「あ、お母さん!!」

「ママ、ただいま!」

 

 孤児院の前でオロオロとしていたのは壮年の女性……この子達の育て親であるシスターだった。

 シスターを見つけた二人は俺の腕から脱出し、すぐにシスターに抱きついた。

 シスターは急な衝撃に驚いたが、それが居なくなっていた二人のものだと気づき、すぐに抱きしめ返す。

 

「ありがとうございます、冒険者様。二人を救っていただいて」

「礼はいらない。その代わり、そいつらには沢山説教をしてやってくれ」

「お兄ちゃんの悪魔!」

「だからファミリアの人たちと仲悪いんだよ」

「……関係ない、はずだ」

 

 純粋な言葉が、深くラクスの心を抉った。

 否定しきれないが、こいつらがあんな危ない場所にいたのも事実なので、シスターにはキツく言ってもらいたい。

 この孤児院に来訪するのは初めてではなく、何度かオラリオに来てから訪れている。

 オラリオに来た当初、行く当てもなく彷徨っていた時に出会ったのが、子供たちだった。それからたまに絵本を読み聞かせたり、一緒に遊んだりするため、シスターとも面識がある。

『星屑の庭』では前述した通り、あまり居座ると空気が悪くなるため、頻繁に孤児院を訪れることも多い。

 子供の相手をしていると、シスターは一旦孤児院に戻り、すぐにまた出てきた。

 

「あの冒険者様、お夕飯がまだでしたらこちらをどうぞ」

「……ありがたく頂く」

 

 差し出されたのはお弁当であった。

 滅菌植物で包まれた弁当は、持つと熱が手に伝わり出来立てであることが分かる。

 このままダンジョンに潜り、飲食代を稼ごうと思っていたがこれなら問題ないだろう。

 弁当を丁重に懐にしまい、子供たちを軽く撫でて孤児院を後にする。

 

「また来てねー!」

「今度はかっこいい絵本持ってきて!」

 

 どこまでも現金なやつらだと思いながら、振り返って幼き宝をもう一度目に入れる。

 

『お前など、生まれてこなければよかったのだ!』

「違うな」

 

 あいつらは捨てられたとしても、シスターに親以上の愛を注いでもらっている。

 生誕を祝福されているのだ。

 その事実が眩しく、どうしようもなく妬ましい。

 どうか、何があっても俺のような生を歩まないようにと願い、孤児院から離れていった。

 

 人通りの少ない裏路地で食べた弁当は、暖かくて美味しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、おかえり、ラクス」

「ローヴェル、まだ起きていたのか?」

 

 適当に時間を潰し『星屑の庭』に戻ったラクスを迎えるのは、リビングのソファにだらけていたアリーゼであった。

 だらけきっている様子は有力ファミリアの団長とは思えないが、返ってそこが民衆の人気の秘訣なのかもしれない。

 

「ふふーん、さぁ問題です。私はなぜこんな時間まで起きているでしょう!」

「俺から情報を抜き取るためか」

「普通にラクスとお話したかっただけよ!?」

「っ……?」

「うわぁ、本気で驚いてる顔ね」

 

 ラクスは本気で分からず首を傾げている。仮面の下の表情はきっと間抜けなものだろう。

 実際のところ、ラクスはアリーゼが待ってくれていたという状況を前に、歓喜に打ち震えているのだが、仮面のおかげでバレていない。

 アリーゼはショックを受け膝を突きかけるが、彼女の強靭な心と豪胆さを舐めてはいけない。

 すぐに持ち直し、話題の展開を図る。

 

「ご飯は食べた?」

「食べた」

「何を食べた?」

「弁当」

「美味しかった?」

「美味しかった」

「食べた後は何してたの?」

「適当に散策していた」

「話続ける気ある!?」

「……ある」

 

 会話のボールを投げるのにキャッチするだけで投げ返してくれないラクスに心が折れかけるが、何とか持ち直し再度話を続けようとする。

 しかし、ラクスは感情のない視線でアリーゼをみつめていた。

 

「無理に俺と関わる必要はないぞ」

「っ」

「お前たちが俺のことを扱いづらく思っているのは分かる。ならば、相互不干渉が最善だろう」

「そんなことないっ!」

「……お前はそうであっても、周りは違う」

 

 団長という立場なら、腫れ物の少年より他の団員を優先しろ。彼はそう述べた。

 そんな彼の申し出に腹が立った。

 どうしてそこまで自分の価値を下げられるのか、自身より幼いのに気を遣ってばかりなのか。

 疑問と苛立ちは止まらず、アリーゼは一歩も引かない気迫を持ってラクスに相対する。

 

「……はぁ、レベル3(お前)なら大丈夫か」

「どういうこと?」

 

 態度を変える気がないアリーゼにため息をつき、観念したようにラクスは梟の仮面に手をかける。

 そして一言――

 

「――()()()()?」

「〜〜〜っ!!!」

 

 彼が仮面を外した瞬間、地獄の釜のような吐き気が全身を駆け回る。

 言うならば、蟲の大群を目に入れた時のような生理的嫌悪。頭のてっぺんから足のつま先までもが眼前のラクスを拒絶している。

 闇派閥(イヴィルス)との戦闘で死体を見ることよりもずっと気持ち悪く、眼前が十歳の子供でなければすぐに吐いてしまっただろう。

 口を抑えて耐えながら真摯な眼で見つめる少女に、少年はまたもため息をつき仮面を被り直した。

 

「はぁっ、はぁっ。今のは……?」

「元来、俺は()()()()ものなのだ。居るだけで周りに不利益を撒き散らす、害でしかない存在」

「それはっ、でも!」

「勘違いするなよ。俺はこの体質を憎むことこそあれ、それほど不便には感じていない。故に同情も憐憫も不要だ」

「……」

 

 拒絶されてもそれを許容して受け入れる姿勢、十の子供が出来ていいものではない。

 

「あなたは、どんな人生を歩んで……」

「ふん、これに懲りたらさっさと寝ろ。お前が気落ちしていたら、あのエルフが五月蝿いだろう」

「あっ、ちょっと待っ、」

 

 ラクスは静止を無視し、何かをリビングの机に置いて、自室である奥の部屋へと足をすすめる。その背中はこれ以上話す気はない、と物語っていた。

 ……そして、その背からは、ほんの少しだけ寂しさも感じた。

 

「待って! これだけ聞かせてほしい」

「……」

 

 めんどくさそうな視線がこちらに向けられる。

 冷え切ったマリンブルーの瞳に気圧されるが、拳を強く握って耐える。

 

「じゃあ、どうして私たちに協力してくれるの?」

 

 この問いだけは、聞いておきたかった。

 他者との関わりを断ってもなお、他者を救う理由を。

 正義のファミリアである【アストレア・ファミリア】に力を貸す道理を。

 

「そんなの決まっている――――生きるためだ」

「〜〜〜っ!」

 

 麗俐な青眼に吸い込まれる。

 言霊が弾丸となって胸に突き当たる。

 そう錯覚してしまうほど、彼は感情を言葉に宿していた。

 呆然としている自分を置き去りにして、今度こそ彼は振り向かずに去ってしまった。

 

「ラクス、あなたは一体何者なの……?」

 

 レベル5の実力。

 年齢に見合わない成熟した精神。

 不快感を抱かせる梟の仮面の下。

 そして何より、他者との関わりを断っても、他者を救おうとする矛盾の行動。学のない頭では独立した情報が線でつながらない。

 あの唐突な嫌悪感と不快感が関わりを避ける主な理由なのか。

 

「ふぅ……」

 

 吐き気をおさえ、まとまらない思考を打ち切る。

 今は何かも情報が足らない。

 どんな要因が彼にあんな態度を取らせているのかを突き止めるには他のピースが必要だ。

 アリーゼは自身の頬を強めに叩いた。

 

「無駄なお節介しれないけど、あんな背中を見たら黙っているわけにはいかないわ」

 

 自分よりも歳下の子供が寂しがっている。

 それだけで、負けずお人好しな彼女を動かす理由には充分だった。

 そして、吐き気が完全に治った今、脳裏に仮面を外したラクスの顔が蘇る。

 最初に覚えるのはやはり嫌悪感、しかし、それを加味してもなお思ったことがあった。

 

「ラクスの素顔、かっこよかったなぁ……」

 

 リビングの魔石灯(ライト)に照らされた彼女の横顔は、ほんのりと赤く染まっていた。

 

 

 

 

 

 




「そんなの決まっているーーーー(お前を側で推しながら)生きるためだ」
 
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