昨日、イズクレイは大いに騒いだ
久しぶりの陸地と言う事もあり朝から外出した。
大いに飲み、食い、騒ぎ、部屋に帰る頃にはヘトヘトに疲れ果て
気絶するかのように布団に倒れ込みそのまま眠りについたのだ
昨夜の彼の記憶はここまでである
『起きろ。時間だぞ』
そして今、ツギハギのスカート姿にボロボロのエプロンを付けたレオンが自室にまでやってきて自分を起こしている。
一晩の間に何が起きたのか
何が起きてこうなっているのか
ボクはどうなってしまうのか
イズクレイの不安は尽きない
『えっと、レオン…さん?これは一体…?』
イズクレイは恐る恐る尋ねる
『今の俺はシンデレラだ』
『そ、ソウデスカ…』
やばい
レオンが壊れている。
まずは戦略的撤退を決めねば…
隙を伺ってばかりで全く動く気配のないイズクレイにしびれを切らしレオンがイズクレイを取り押さえる。
『早く支度をしろ王子様。始めるぞ』
『ボクが男役なの!?朝っぱらから何をおっぱじめるの!?』
『シンデレラストーリーに決まっている』
『やめて服を脱がさないで!誰か助けてぇぇーー!!』
イズクレイの悲痛な叫びが船内をこだました。
『な、なんだぁ。劇の話かぁ。やるとは聞いてたし出演OKも出したけど、昨日ボクがいない間にくじ引きで王子様役に決まったのね』
『イズクレイさんは昨日帰ってすぐ眠られてしまったのでお話しできなかったのですよ』
『そして事情を知らない俺は練習の時間になっても現れないお前を起こしに行ったわけだ』
ポーチの言う無計画に始めつつトラブルをアドリブで対応していく方針、いわば行き当たりばったりのトラブルが早速起きたわけである。
先行き不安なスタートだがポーチは気にしていない。
行き当たりばったりなのは舞台の内容だけにする、と言う気はさらさら無いようだ
『ところで昨日一晩考えたのデスが、やはりシンデレラ役はレオンさんよりレグレスの方が向いていると思いマス』
シンデレラ一家の部屋の隅に置いてあるタンス役に抜擢されたレグレスがそう訴える。
そういえば昨日も食堂で自分の方がシンデレラに向いていると言っていた。
意外とそういう願望があるのか、あるいはタンスがイヤなだけかも知れない。
ともかく彼女はまだ諦めきれないようだ。
しかし至極ごもっともな意見でもある。
だがポーチの目は泳がない。
むしろ待ってましたと言わんばかりの自信に満ち溢れた瞳で答えるのだった。
『ならば少しだけご披露頂きましょう!昨日の昼間から夜までの猛特訓を乗り越えたレオンさんの唄声を!』
ポーチが叫ぶとレオンが静かに呼吸を整え始める。
コイツ、やる気だ。
自然と周囲に何とも言えない緊張感と静寂が訪れる。
『もぉ~もたろさん♪も~もたろさん♪』
レオンが桃太郎の唄を歌った。
ビブラートを駆使し、思いの限りを込めて歌った。
それはとても美しいセレナーデ
神妙不可侵な聖地で傷ついた戦士が静かに眠るようなベルスーズが響き渡る。
仲間たちの瞳からは自然と涙が零れ落ちた。
『すげぇ、こんな泣かせる歌は初めて聞いたぜ…』
『レオンが今までに味わった苦労と喜びを全て聞かされているかのようだ…』
仲間達は次々にレオンの唄声を褒めちぎる
『では次にレグレスさんどうぞ』
『ハイ、モーモタロサンモーモタロサン』
『すげぇ何も感じられねえ』
『お前の人生スカスカかよ』
『やる気あんのか』
余りの落差にイラついた船員から罵声が飛び交う
キレたレグレスがイレイザーガンを撃ったので練習は一時中断。
『このようにレオンさんからは役者としての才能を感じるのです』
くじ引きで決まった配役だが自分なりにレオンから役者の才能を見出したからこそ配役を変えなかったとポーチは主張する。
ともかくシンデレラ役にレオンという異色の采配ではあるが
レオンは実力を見せ監督が出来ると言うのだから信じるしかない。
配役に意義を申し立てる者はいなくなり練習はつつがなく始まった。