『まずはシンデレラが意地悪な母親と姉にいじめられているシーンからです!どうぞ!』
ポーチがカチンコ(※映画監督が持ってるアレ)を勢いよく鳴らした。
『シンデレラ!雨漏りを直しておきなさい』
『わかった』
『シンデレラ!床の掃除は終わったの?』
『まずは雨漏りだ。床が濡れては意味がない』
『シンデレラ!花壇の水やりはどうしたの?』
『外は雨だ、いらん』
『カット、カットなのです!』
淡々と的確に作業をこなすシンデレラにポーチがツッコミを入れた。
『まるで悲壮感が感じられないのです。シンデレラが強すぎます』
一目見ればわかる事を監督が今更になって言い出した。
『俺の演技はザルだ。
床掃除や雨漏り如きで音を上げる演技はできない。
従って俺に悲壮感を出させるには本当に痛めつけるしかないだろう。
だが並の苦痛では俺には通用しない。相応の準備が必要ではないか?』
ポーチはレオンの言葉に大きく頷きながら何かを考えている。
だがそれはもちろん配役を変えるべきかを考えているわけではない。
そもそも無計画に始めつつトラブルをアドリブで対応していく方針なのだから彼女にとってこれはチャンスなのだ。
恐らくは無駄な思考を繰り返しながら両手で頭を抱えて唸るポーチにレオンが再度語り掛ける。
『…そもそも俺は戦士だ。素直に隷属などしない』
この一言にポーチが何かを閃くと、この場面は大掛かりな準備が必要なったと次のシーンの練習をするよう指示を出す。
ポーチの指示通りに練習を続けていく面々であったが、所々で名監督のごくごく当たり前の指摘が入っては練習が中断されていく。
『可愛らしいカボチャの馬車に乗るレオンさんはちょっとしたショッキング映像です。別の乗り物に変えましょう』
『レオンさんにダンスの女性役は不可能です。大きすぎます』
その度にポーチは頭を捻らせてシンデレラを魔改造していく。
『これはもはやシンデレラではありませんね。
劇場にお伝えください。今回の演目は名付けて【真・デレラ】です!』
こうして名作シンデレラは迷監督ポーチの手により真・デレラとやらに変貌を遂げ、街中に大々的に宣伝されることになった。
そして迎えた初回公演日
チケットは即日完売し劇場は大勢の人々で埋め尽くされていた。
ちなみに劇場はポーチの指示によりコロシアムが指定されていた。
にも関わらず少し高さのある舞台はコロシアムの4分の1ほども使われていない。
残りのスペースは巨大な布で隠されている。
声が響き渡る構造になっているとはいえ、わざわざ天井のないコロシアムを選んだのは大きな意味があるのだろうと観客達は開幕前から盛り上がっている。