レオンが舞台を飛び降りると同時にコロシアムに張られていた巨大な布が一斉に外される。
すると空きスペースには所狭しと戦車が走り回っていた。
『ふはははー、我は王子!この国の次期支配者である!』
王子を名乗るチャリオッツの使い手が武装した人物が操る戦車を次々と破壊していく。
演技とは思えないほどの高い操縦技術を魅せる王子に観客達が思わず歓声を上げる。
『凄い!まるで本物の戦士だ!』
イズクレイは本物の歴戦の勇士である。
旅をすれば馬車を操縦し、必要であれば戦場を戦車で駆け回る事もある。
その腕前は戦車レースの出場者達にも見劣りするようなものではないのだ。
『我を倒せる者はおらぬかー!?我を倒せる者はおらぬかー!?我を倒せる者はおらぬかー!?』
王子が声高々に3回唱えると、後ろから何者かが王子の問いに答えた。
『ここにいるぞぉ!』
我らがシンデレラのお出ましだ。
シンデレラはチャリオッツ(レグレス)を豪快に操り王子の戦車を後ろから破壊しようとしている。
『おおなんとたくましい女性だ。お嬢さん、shall we chariot?』
『イエスだ!行くぞ!』
互いの戦車が横向きに激しく衝突する!
『予想以上に痛いデス!』
レグレスが泣き言を叫ぶがレオンは止まらない。
戦車が激しく衝突する度に観客のボルテージが上がっていくのを見てポーチは満足気に胸を張る。
『演技が出来ないならばフリではなく本当にやらせればいいのです。
そもそもお芝居などしなくともみなさんの戦闘技術を見せるだけで十分に場は盛り上がるのです。
いわば演劇でありながら演技以外の場面で勝負をするという逆転の発想なのです』
例えば演劇の最中に一流の格闘家が現れ、話の流れでルール無用の全力バトルが始まればそれはそれで大いに盛り上がるだろう。
間違いなく禁じ手ではあるがそもそもポーチは本職ではない。
何をやっても困らなければ失う誇りもない無敵の監督なのだ。
『ファイアー!』
『ちょっ、レグレス!戦車が燃える!加減して!シナリオどおりにして!』
『お断りしマス!レグレスはこれ以上痛い思いをしたくはないのデス!ここで破壊しマス!』
練習なしのぶっつけ本番ガチバトルなのでやってみたら予想以上に痛かった。
レグレスも必死である。
『このままじゃシナリオが無茶苦茶になるでしょ!?』
『もういい!イズクレイ、俺の攻撃にカウンターで合わせろ!』
『エッ!?』
レオンの甘い攻撃に合わせてイズクレイがカウンターで弾き返す
互いの戦車は派手に吹き飛び走行不能状態で地面に転がる。
『うぅ、私と互角とは…素晴らしい。お嬢さんお名前を伺っても…?』
かろうじて起き上った王子が手を伸ばしシンデレラに問いかける。
だが王子の呼びかけにシンデレラは答えない
『…これは…!し、死んでいる…!!』
なんという悲劇!
戦車から放り出された衝撃でシンデレラは死んでしまったのだ!
よく考えなくても当然の結果だがコロシアム内にはさも運命のいたずらかのようなBGMが鳴り響く。
BGMの演出だけで乗り切るつもりのようだ。
『ああなんということだ。
やっと見つけた私の姫が死んでしまうとは。
いやまだ諦めるには早い!
人工呼吸だ!私の蘇生術で彼女を救うのだ!』
(それはしらゆき姫だ…)
客席のセシルが頭を抱えて下を向く。
名監督ポーチはシンデレラとしらゆきひめの区別がついていなかったらしい。
イズクレイがレオンに近づいたその時、2人はまたもトラブルに気付いた。
この場面では2人の口づけを観客に見せないように周囲に散らばった破片が2人の顔を隠すはずだった。
もちろん本当に口づけをしなくても済むようにするためだ。
だが先ほど派手にバラけた戦車の破片が周囲の破片に衝突し動かしてしまっている。
すなわち劇を予定通りに終わらせるためには本当に口づけをしなければならない。
イズクレイ、レオン、人生最大の危機である。