『…っ、覚悟を決めるか。イズクレイ』
『決まるわけないでしょーが!失敗失敗この劇は失敗です!』
使命感に燃えるレオンとは対称にイズクレイは全力で諦めモードである。
だがそんな2人の脳内に救世主の声が響き渡る。
名監督ポーチのテレパシーである。
(これを受け取ってください、位置入れ替え(遠)!)
気が付くとレオンの手元に何かが握られていた。
それはサランラップであった。
『…なるほど。これを2人の顔の間に挟めば』
『なるほど…じゃないよ!何を納得してるのさ!』
『これならば透明故に観客には見えない。そして俺達はラップごしなのでノーカンだ』
『ノーカンじゃない!こんなのでお前の温もりと感触が防げてたまるか!』
もう付き合っていられない。
イズクレイは身を起こして逃げ出そうとするがレオンに両手を掴まれ阻まれる。
『劇は成功させねばならん。覚悟を決めろイズクレイ』
死んでいるはずのシンデレラが逆に王子様を押し倒した。
会場が爆笑の渦に巻き込まれる。
『ちょおおお!やめてやめてやめてやめて!!終了ー!劇は終了でーす!!』
イズクレイが必死に叫ぶがレオンは止まらない。
イズクレイは口づけまでわずか数mmのところでレオンの腹部に足を突っ込みそのまま後ろに放り投げる。
『おお、なんだあの技は!』
会場が再び盛り上がる。
柔道は現実世界に於いても東方の小さな島国でしか発達しなかった希少な戦闘技術なのだ。
逃げ出そうにも出入口の門は既に閉められている。
つまりどうあっても劇を終わらせなければならないのだ。
もうやるしかない。
この劇は王子がシンデレラをKOして終劇だ。
追い詰められたイズクレイは覚悟を決める。
『ここで決着をつけるぞ!シンデレラ!』
『そうはいかん。貴様を倒し口づけを交わしお嫁に貰ってもらう』
当初の予定とはかなり展開が異なるが裏方も機転を利かしBGMを決闘にふさわしい壮大な曲に変更する。
負ければイズクレイの男の尊厳は消え失せる。
まさしく必死の闘いだ。
パワーと技量を武器に正面突破を仕掛けてくるレオン。
対して機動力と手数、搦め手を武器にして逃げ回りながら消費させていくイズクレイ。
気を抜けば一瞬で勝負は決まる。
手に汗握る本気のバトルに会場は大いに盛り上がる。
だが忘れてはならない。
これはK-1ではなくシンデレラの劇なのだ。
ポーチは会場内にいい感じの熱が籠もったところで鐘を鳴らす。
『むっ、12時の鐘が鳴ってしまったか』
イズクレイがホッと息をつく。
助かった。
俺の誇りと唇は守られた。
『勝負は預けるぞ王子!また会おう』
そう告げるとレオンは素早く舞台を立ち去っていく。
だが慌てたレオンはシンデレラの重要な要素である靴を脱ぎ捨てるのを忘れてしまった。
そして代わりに舞台に黒剣を置き忘れてしまった。
靴がない。
剣がある。
じゃあこれしかない。
イズクレイはとっさのアドリブでシナリオを修正した。
『おお、これはシンデレラの忘れ物だ!
兵士達よ、この黒剣リベレイターを使いこなせる者を探し出すのだ!』
最初はシンデレラに意気揚々と襲い掛かる。
次は必死になってキスを拒んだ。
にも関わらず今度はシンデレラを探し始めた。
一体王子は何がしたいのか。
それはもう観客にもイズクレイにもわからない。
シナリオは完全に破綻していた。