セフィド神聖王国の傭兵兼海賊団ホワイトシャークのキャプテン『セシル』とイズレーン皇国に所を構える部門の名家『蔵院家』の若き頭領『クライン』。
数多の英雄達の中でも特に抜きんでた力を持つ2人は互いを好敵手と認め合っており、この日もお互いに相手の姿を確認すると戦略もお構いなしに一騎打ちを始めた。
今回の一騎打ちも双方ともに互角であり、誰しも2人の決着は今回も着かないまま終わると思っていたが…
『これでもくらいやがれっ!…っとあぁぁああああっ!』
セシルが気合の掛け声とも取れるような不思議な掛け声と共にクラインに攻撃を仕掛ける。
武器を構え勢い良く駆け出したかと思うとセシルは突然姿勢を低くし、そのまま横に体を回す。
次にその体制のまま高く飛び立て回転を加えクラインに襲い掛かる。
セシルの不思議な動きに圧倒されクラインは身動き一つ取れないまま勢いのついたセシルの強烈な攻撃を受け止めて後ろに飛ばされてしまった。
『ふゎっ!あれはヤンクデッゴン術のゴッポリなのです!』
頭に犬耳と後ろにふさふさの尻尾が特徴的な少女が大きな声を上げる。
セシルと同じくセフィド神聖王国の傭兵兼コボルト王国軍の王女『ポーチ』である。
『…ヤンクデッゴン術…まさか実在したとは…』
『…見事!!』
全身鎧を着込んだセフィドの傭兵『カインド』とポーチのポチ術(槌を扱ったコボルト族秘伝の技術)を盗むべく戦場を観察していた『スレイ』の2人が解説を入れる。
『お前ら知ってるのか?教えてくれ!なんだの今の技は!』
強く打ち付けた腰を抑えながらクラインがゆっくりと立ち上がり3人に声を掛ける。
『ヤンクデッゴン術はノッパノッパ族さんに伝わる剣術なのです。イックヤッヒ術から派生した技だとも言われてるのですよ』
『イッヒヤック術か…俺はてっきりヴァクラマ術が関係していると思ったのだが』
『!そうかイックヤッヒ術か!それならばあのドントゴッホに似た動きにも合点が行く!!』
謎の専門用語が飛び交う3人の会話にクラインが『全っ然わかんねぇよ!!』と抗議をすると3人が無知なクラインを哀れむような目で見たためクラインは頭を抱えて塞ぎこんだ。
なお、この時にもっとも苦悩していたのは大技を披露したセシル本人であった。
(な、何だよこの空気!クラインはやたら落ち込んじまってるしアイツらは勝手に盛り上がってるし。い、言えねぇ!俺はただ躓いたのを無理やり誤魔化して斬りかかっただけだなんて絶対言えねぇ!!)
冷や汗を書きながら何も無い空間を見続けるセシルの姿だったが、1本取られ自信を失っていたクラインにはセシルの姿がここではない遠くを見つめ長い髪を風になびかせる自信に満ち溢れた男の姿のように映った。
『くそっ、いつの間にかあんなすげぇ技を身に付けてやがるとはな。へへっ、やるじゃねぇかセシル!…お前のヤンク何とか術…次は必ず破ってみせるぜ!!』
クラインがセシルに向き直り宣言するとクラインは走り出した。
ライバルに差をつけられたままではいられない。
クラインはさらに強くなるためわずかな時間も惜しんで修行へと駆け出した。
『ヤンク何とかって何だよ!すっげぇ気になる!!』
一方、置いてきぼりをくらったセシルもまた自身の繰り出した大技の正体に頭を悩ませた。