『これは…みんなで作り上げた技だから…みんなで決めるべきです…』
泣きそうになりながら訴えるマナに2人は『なんと!泣くほど我々の事を想ってくれていたのか』と勘違いをする。
マナは説明するのも面倒くさくなったので「もうそれでいいです」と力なく呟いた。
『では、クライン殿を除く我ら4人がコボルトで思いついた単語を取り上げ、それらを名前に取り入れるとしよう』
カインドの提案に3人も頷き、カインドを先頭に時計回りで順番に単語を上げていく
『噛む』
『元気いっぱいなのですっ!』
『あ…愛すべき…』
『ペンギンさんパンツ!』
4人の冷たい視線が一斉にスレイに向けられるが、スレイにとって最も印象に残ったのがそれだったのならば仕方ない。
カインドは気を取り直して名前を混ぜ始めた。
『これは難しいな、順番を入れ替えよう。『愛すべきペンギンさんパンツに元気いっぱいに噛み付く蔵院流槌術火の章第128項奥義』でいいか?』
『名前が長すぎるぞ『蔵院流槌術火の章第128項奥義、愛・ペンギンパンツ活発牙』ではどうだろう』
『いい訳ねぇだろ!尺の問題でもねぇよ!そんなのに家の名前を入れんな!!』
『そうか、ならば『愛すべきペンギンさんパンツに元気いっぱいに噛み付くクライン』でいいな』
『俺の名前も入れんな!事態が悪化してんじゃねぇか!!もういい、ポチが決めてくれ!!元々コボルトの技術なんだしさ!!コボルト語でOK!!』
冷静さを欠いたクラインが最も危険物であるポーチに全てを託した。
渡されたバトンを受け取り、単語をそれぞれ組み合わせてポーチが故郷の言葉を発した。
『「ギップギャッグファイファイ・ドンドコランブランブ・クライン・イズ・ペンギンパンツ・ダイスキング」なのです』
最後の最後で人とコボルト族の言語の偶然の一致による奇跡の組み合わせが生まれた。
数週間後、ホワイトシャーク号の甲板でセシルとクラインは再び互角の戦いを繰り広げ、決戦の立会人であるスレイ、カインド、マナ、ポーチ、ダンデリオンは達人同士の戦いを固唾を呑んで見守っていた。
互いが繰り出す数々の技、それらをかわす身のこなし、返す刃、とっさの機転。
それらのどれもが彼らが一流の戦士であることを物語っていたが、肝心のあの技がなかなか出てこない。
『ぬぅ…クラインめ、何故あの技を使わんのだ』
あの技という単語にダンデリオンが反応を示す。
『それってセシルさんの開発した…えっと、ヤンク…何とかゴッポリを打ち破るための?』
『打ち破る特訓だけではなく、返し技もちゃんとご用意したのですよ。ちなみにセシルさんのあの技はヤンクデッゴン術のゴッポリなのです。コボルト族の誰かがもし使えたら一気に英雄扱いのそれはそれは誉れ高い技なのですよ。あの技を再び見れるのがとても楽しみで私はここ最近はずっと眠れなかったのですよ』
あぁ、あれってそんな技だったんだ。
なんか偶然で出来ちゃって成り行きでテキトーに似た埋め合わせ技まで開発してごめんな。
後ろめたさと自己嫌悪でセシルの動きがわずかに鈍る。
『いまだクライン殿!』
『クライン・イズ・ペンギンパンツ・ダイスキングですっ!』
今度はクラインの動きが止まる。
『ぬ!何故動きを止める!!』
『忘れたのか、あの技は怒りの感情を武器に変えるんだぞ』
『そうでしたっ!でわっ、みんなでクラインさんを罵倒しましょうっ!』
3人の会話を呆気に取られるダンデリオンが意味ありげな視線をマナに向けるが、マナは横を向いて目を逸らしたまま何も語らなかった。
『マザコンのクライン殿!!今回も負けてママに甘えるつもりか!!』
『この勘違い野郎!貴様など斎藤の胸がお似合いだ!!』
『いい加減にお母さん離れしなさいっ!』
3人がクラインに一斉に物を投げつけて罵倒し始めるとセシルは混乱してクラインと立会人を交互に見比べる。
『いや、その、これには事情が』
体を萎縮させて小声で言い訳をするクラインの姿と罵倒がエスカレートしていく立会人達に我慢できず、セシルが両手を広げてクラインの前に立ち塞がった。
『お前らやめろ!!それでも戦友かよ!!何があったかしらねぇけどクラインが可哀想じゃねぇか!!』
セシルの優しさでクラインが泣き叫んで走り出した。
それが感謝の涙か、悔し涙かはクライン本人にもわからない。
言える事はただ一つ。
クラインがあれほど苦労を重ねて習得した技は発動する前に破られたという事実だけだった。
『どこへいくクライン!クライン・イズ・ペンギンパンツ・ダイスキングはどうしたぁ!?』
『罵倒が足りなかったか!このヘタレマザコン野郎!!リィ殿の優しさと同情につけこむタラシ野郎!!』
泣いて走り去るクラインをスレイとカインドの2人が走って追いかける。