ファンタジーの存在しない現代世界だと思ってたらいきなり異能力バトル系デスゲーム始まった 作:セフィール
さて、それではなんで殺し合いをさせられそうになっているか簡単に言うと。
旅行のために飛行機に乗ってたら、眠らされて気がついたら拉致られて変な施設の中みたいなところにいた、だね。もっと詳しく?
わかったわかった、ちゃんと説明する。
まず、久しぶりに旅行に行こうと、休暇を取って飛行機にのったんだ。どっかの学校の修学旅行と被ったのか、学生がすごく多かった。
そして目的地に着くまで本を読んでいた。で、ある時乗客が全員寝ていることに気づいた。夜でもないのにこれはおかしいと思ってちょっと色々探ってみたら、空気中に催眠ガスらしきものが漂っていることに気づいた。ベクトル操作で全部弾いてて気づかなかった……。
それから私は、すぐに寝たふりをした。ハイジャックだかなんだか知らないけど、こういうのは専門家に任せておけばいいんだよ。万が一墜落したら、直前に乗り損ねてたことにでもしておけばいい。カメラの映像はハッキングして差し替えれば大丈夫でしょう。
そんなわけで飛行機がどこかに着陸した時も、ガスマスクを着けた怪しい黒服の集団が乗客達をどこかに運び始めた時も、ライブ会場みたいな施設の観客ゾーンに運ばれた時も、なんか変な首輪と腕時計みたいな装置を付けられた時も、私は狸寝入りをしていた。
…うん、まあ、途中からなんか思ってたのと違うなあって思ったよ。これ、ただのハイジャックじゃないなって。こいつら人一人軽々運ぶなあとか、不思議にはおもっていたよ。だから実は着陸した時、ここがどこかこっそり調べてみた。そしたらなんとびっくり、ここは日本どころか地球上ですらなく、何らかの方法で作られた亜空間の中だった。
これには私も驚いたね。
なんせ何年も探して見つからなかった
今までいったいどこに隠れてたんだって思ったよ。
まあそんな驚きはそこそこに、私はすぐにこの亜空間と、ハイジャック犯(仮)の技術力の解析を開始した。
まず無いとは思うけど、もし万が一にも私を害することができるなら、大変だからね。
そこで最初にやったのは、逃走経路の確認。紫の『スキマ』がここで開けるかどうか試してみた。少しだけ不安だったけど、これは問題なく開くことができた。これでいつでも逃げられる。
スマホはもちろん圏外。目視できる範囲において確認できるハイジャック犯の数は、約60人。旅客機の乗客が確か400人くらいだったから、一人が10人弱運ぶ計算になる。黒服達は人一人運ぶぐらいは楽々こなせる身体能力があるようだから、まあ妥当な数なんだろう。
次は、この亜空間自体に監視能力があるかどうか。もしこの亜空間内部全体を事細かに把握できる監視体制があるなら、少し厄介だ。だが幸いにも、その可能性は低そうだ。
なぜならそんな物があるなら、さっきスキマを開いた時に気づかれている。そうでなくても私は、誰も見てない時に眼を開けて周囲の様子を観察したり、手を動かしてスマホを操作したりしている。何か反応があってもいいはずだ。けれどそれが無い。ということは気づいていないか、気づいた上で放置されていることになる。起きて周囲を伺ったりスマホを触っているぐらいならともかく、スキマという外部に繋がる道を開いて何もされないなんてことは考えにくい。
それとも一人逃げたぐらいは些事なのか?
まあこれは考えても答えは出ないだろう。余裕があったら、そのうち本人に聞いてみてもいいかもしれない。
それから、首と手首に巻かれた謎の機械。青い1本線が入ったシンプルかつスマートなデザインのそれ。装着と同時に起動したようで、サイズがぴったりになるように変化。隙間が全く無いのに苦しくなく、動作の邪魔もしない。これだけでも、明らかに現代の科学技術で作れる域を越えていることがわかる。
そんな装置を付けられた私が真っ先に確認したのは、洗脳などの精神干渉の機能があるかどうか。この謎の装置がそういった類いの物で、私の力で防ぐことができない類いの物なら、すぐに破壊しなければならない。けれど、どうやらその心配は少なくとも今は無さそうだ。
脳波測定のような機能は見つかったが、精神にも脳にも異常は見られない。これがもし、本当はあるその異常にすら気づかせない程高度な精神干渉をされている可能性もあるが、それは考えるだけ無駄だ。どうしようもない。
ならその可能性はひとまず置いておいて、この二つの装置の解析を進めた方が建設的だ。
というわけで、一方通行のベクトルを観測する力で色々調べてみた。
そしてわかったのは、この装置は未知の物質で作られていて、未知のエネルギーを動力や信号として使用しているということ。この未知の物質は極めて頑丈で、試しに引きちぎろうとしたが無理だった。私の体は見た目は華奢な美少女だが、『天与の暴君』とまで称された伏黒甚爾の驚異的な身体能力を秘めている。しかもベクトル操作で反作用すら反転さて、物体に倍以上の力をかけることが可能だ。ある程度のところでやめたが、物理的な力で破壊するのは至難だろう。
だが私だけなら、外すことは簡単だ。
手を傷つけて確認したが、いつも通り傷は瞬時に再生した。妹紅の不死性は健在と見て良いだろう。
だから最悪の場合でも、自爆して肉体を再構築すれば装置は外せる。
それから肝心の未知のエネルギーについてだが、まだよくわかっていない。
電子に似た、何かしらの量子で構成されていること。
首輪と腕輪の双方を無線で繋いでいたり、脳波や心拍の測定に使われていたりとかなり万能なエネルギーであることは分かったが、逆に言えばそれだけだ。
やはりベクトルを観測するだけでは限界がある。詳しく調べるには、実際にこのエネルギーのベクトルに干渉して反応を見てみる必要がある。しかし、今それをやるとさすがに気づかれるだろう。
続きの調査はしばらく経ってから。
そんな風に考えていた時だ。
『おはよーーー!ございまーーーす!』
突如、甲高く甘いアニメ声が響き渡った。
見ると、いつの間にかステージにバニースーツを着た緑髪の少女が立っていた。
年齢は、おそらく中学生ぐらい。発育の良い体がバニースーツでより強調されている。特に胸の二つの山が。緑の髪は腰まで伸ばされ、綺麗に整えられている。顔も肉体も、これこそ美というものだと言わんばかりに整っていて、文句無しの美少女だ。髪と同じく緑の瞳は、その表情と同じく楽しくて仕方ないと訴えかけるかのごとく輝いている。
『ほらほら起きた起きた!さっさと起きる!そして起きたら立つ!』
少女のその言葉に反応して、今まで眠っていた人達が次々と目覚めていく。
少し不自然に思いベクトル操作に意識を向けてみると、あの謎のエネルギーが少女の声と共にぶつかって来ていた。念のため普段発動している反射の演算に組み込んでいたが、無事に反射できていたようだ。
これはなかなかの収穫だ。この謎エネルギー、そしてそれを構成する量子が法則を無視するような理不尽な物ではないことがわかったのだから。
そしてベクトル操作で反射できるなら、無下限呪術の無限防御で防ぐことも可能だろう。無限防御の方にも、ベクトル操作と同じ指標で防御してもらおう。
この時気をつけるのは、絶対に腕輪と首輪に当たる謎エネルギーは遮断しないこと。この二つの装置の両方、またはどちらかに謎エネルギーの観測機構が無いとも限らない。というかほぼ確実に搭載しているだろう。
だから完全に遮断すると、私の力がばれかねない。
もっと言えば、体に向かう謎エネルギーを弾いているのもばれるんじゃないかと思ってならないが、安全には変えられない。
ともかく周囲の人達の反応から、少女の声に乗せられた謎エネルギーには、意識の覚醒を促す作用があるらしいことがわかった。
このまま高性能目覚まし時計で終わってくれればいいが、それは望み薄だろう。
そんなことを考えている間にも、状況は推移していく。
『レディースアンドジェントルメーン!今宵は私ルルスのショーをみに来てくださり、まことにありがとうございまーす!』
この場にいる全員が戸惑いながらも立つと、ルルスと名乗った彼女は、どことなく小馬鹿にした雰囲気で話を続ける。なお、例の謎エネルギーも声と同時に放たれ続けている。
すでに全員起きているのに?オンオフの切り替えができないのか?それとも、効果が違う?…後者だと仮定しておこう。だとすると、全く違う効果というのも考えにくい。精神干渉系の効果だろうか。
『それでですね、今回皆様方をお呼びしたのは他でもない。デスゲームを開催するためなんです!』
は?デスゲーム?超技術でハイジャックするような奴らなんだから、どうせろくでもないことを考えてるんだろうなとは思っていたが、デスゲームときたか。中二病集団か?
『おや皆さん、デスゲームと聞いてピンときていない?では分かりやすく言いましょうか。それにはやっぱりこの文言が一番ですね。』
そう言って少しためを作り、隠しきれない喜悦を顔に浮かばせ、言った。
『今から皆さんには、殺し合いをしてもらいます。』
…すごく言いたかったんだろうなあ。