SAO RTA any% 75層決闘エンド 作:hukurou
全てのソロプレイヤーにメリークリスマス!
フォールンエルフの隠れ里をでて東にまっすぐ進むと階層中央の湖《タルファ湖》が見えてくる。そのころになるとエリアを区切る岩山の間隔も狭くなり、第3エリアの前と後ろを挟む絶壁がともに目視できるようになる。
老人の言っていた魔獣の巣穴というのは湖近く、南側の岩山のふもとに存在した。中はダンジョンになっているようで、大型のアルマジロ型モンスターがいたるところに息をひそめていた。一見すると丸い岩のようにも見える彼らは岩山にぱっくり開いた大きな断層に住み着いているようで、正面からゴロゴロと転がって来てはそのまま突進してくるのがお決まりの戦闘パターンだった。
巣穴は常に上方向への勾配がついており奥へ進むにつれ右側へと折れ曲がっていった。ついには大きく180°回転し、巣穴の出口はぐるりと大きな半円を描くように入り口と同じ斜面に存在した。岩山の中腹、洞窟を通らねば到達できないほどの標高にぽっかりできた円形の広場のような空間には一面に広がる青い花の絨毯に紛れるようにひっそりと薬草が生えており、これを採取した後ミト達は再び村に戻った。
要は単純なお使いクエストだ。
病気の少女――正確には呪いだが――のために薬の材料を取ってくるだけ。難しい事なんて何もない。だがミト達は最難関のクエストにでも挑むような集中力でやり遂げた。
再びの長老の家。薬草を渡すと彼は自ら薬を煎じ始めた。リビングのテーブルに石製の薬研を並べ、ゴリゴリと薬草をすりつぶす。草が十分細かくなったらたくさんの引き出しがついた木製の小箱から乾いた木の皮やよくわからない木の実などを手際よく入れてすりつぶしていく。
鍛冶スキル同様、調合スキルも現実ほど長い時間は必要としない。老エルフが最後に水を加えると、霊薬とやらはすぐに完成した。
ミトが吸いのみを受け取り、寝ている少女に薄緑色の液体を飲ませる。顔色はすぐによくなった。このゲームの設定ではエルフの魔法は失われているらしいが、呪いなんていうファンタジーな体調不良を治す霊薬の効き目は薬というより魔法じみていた。
「これでじきに目を覚ますじゃろう」
長老が言うとクエストログが更新され、コルと経験値が分配される。ケイはそれを無感動に一瞥すると老人に目を向けた。
「それじゃあ、話してもらおうか。フォールンエルフの呪いとやらについて」
老人が椅子をすすめた。キリトとケイも各々席に着く。アスナとミトは少女のベッドの端っこを借りることにした。
「……良いじゃろう。とはいえ、正確な歴史は大地切断の混乱に乗じて失われてしまっている……我らの歴史は形のある物に残されてはいない。一部の者たちの間で口伝のように伝えられているのみじゃ。……その上で誰もが口を噤むような内容であるからか、その口伝すらも多くが失われた。……あるいは忘れ去りたいという思いが無意識にこのような結果を生み出しているのかもしれん……」
そう前置きして、老エルフは彼らの歴史を語りだした。
遠い昔、まだアインクラッドが存在する前、エルフたちは地上で自然とともに暮らしていた。しかしある時、とある一族と彼らの賛同者が、聖大樹の樹液を得ようと画策しそれを実行に移した。残念ながらなぜそのようなことをしたのかは今の時代に伝わっていないらしいが、その結果は明らかだ。エルフに恩寵を与えていた聖大樹は禁忌を侵した者達を許さず、一族郎党に強い呪いをかけた。聖大樹は当時からエルフに神聖視され崇められていたため、その幹を傷つけ聖樹の怒りをかったもの達の居場所はエルフの里には存在せず、彼らは厳しい環境の北方の地へ追放された。
その後、俗にいう大地切断により地上から土地が切り取られアインクラッドの一部として天空に囚われるようになっても彼らにかかった呪いはこうして今も子々孫々と受け継がれているという。
「一つ聞きたいことがある。さっき呪いを抑える霊薬の在庫がないと言っていたな。この里の皆が呪いに侵されているならその設定には無理がある」
老人の話の途中でケイが口をはさんだ。
「呪いの強さには個人差がある。通常ならば命にかかわるほどではない。しかしこの子は、巫女の血筋なのじゃ」
「巫女? あの連中の一族か?」
老人は首を振った。
「彼女たちは関係ない。我らが里に住むようになってから自らそう名乗りだしただけじゃ。そうではなく、この子は正真正銘、古より続くアヴェリアの巫女の血筋なのじゃよ」
「聞いたことない名だな」
「人族ではそうじゃろう。アヴェリアは在りし日にわれらの中で最も強く聖樹の恩寵を賜っていたエルフの一族の名じゃ。その中でも一族の乙女たちはその身に強く恩寵を受け、アヴェリアの巫女と呼ばれていたという。……じゃが今となってはその恩寵は誰よりも深い呪いとなって身を蝕むようになってしまった。難儀な宿命じゃ。強き呪いは寿命をも蝕み、かの一族は代々短命。巫女の血筋も今や彼女を残すのみとなってしまっておる……」
「呪い子や忌み子というのは?」
老エルフは悲し気な表情で頭を振った。
「どうか彼らを責めないでほしい……。われらは長い間贖罪の時を過ごしてきた。……あまりに長い間だ。……救いのない困難な日々の中で苦しみに意味を見出さなければ生きていけない者もいた。……彼らは今を禊の日々であるとし、苦難に耐え贖罪を続ければ……呪いが弱まり、いつか聖樹に許される日が来ると考えだしたのだ」
「…………バカな奴らだよ。そんなことあり得ないのに」
声は後ろから聞こえた。ミトは驚いて振り返る。
「呪いの強さは未だ許されざる罪の証。徳の高い者ほど呪いは薄く、信心の低い不心得者ほど強い呪いを受けているんだと。ボクを穢れた子っていうのはそういう理由だよ。生まれた時から強い呪いを受けているボクの家系は贖罪派の連中にとっては信仰心の無い呪われた一族ってわけさ」
長老の話を聞いている間にいくぶん顔色の良くなったアリアがゆっくりとした動きで上半身を起こした。
「冗談じゃない。ボクの母は誰より信心深かった。村のみんなに馬鹿にされながらも、誰より清く、真摯に生きていた。母が……死の間際になんていったかわかるかい? 自分が苦しんで死にかけている時に。こんな体に産んでごめん、だってさ。それと幸せに生きてって。そんな人のいったいどこが罪深いっていうんだ……?」
アリアは別離の時を思い出したのか一度上を向いた。
「祈りならしたさ…………。誰よりも……。母を助けてくださいって。もう悪いことなど一つもしませんから、ボクのことはどれだけ呪ってもいいから……どうか母を元気にしてくださいって…………」
アリアは弱弱しくつぶやき、ぎゅっとシーツを掴んだ。
「でも、あれは祈りなんか聞き届けちゃくれなかった。母は日に日にやつれ、ついには一人で立つこともままならなくなり、苦しみの果てに死んでいった。はっきりとわかったよ。聖樹が慈悲の心など持ち合わせているものか。あれにとってボク達の祈りなど羽虫の命乞いに等しいのさ」
アリアは吐き捨てるように言った。その瞳はしっとりと濡れている。
「そもそもあの人がいったい何をしたっていうんだ……? 聖樹に呪われるようなエルフでは断じてなかった……」
切りそろえられた髪が彼女の肩の上で散らばる。
「ボクは聖樹に祈らない。自分の力で呪いを解く。そのために兵士になったんだ。そして母が望んでもできなかったこと――呪いを気にせず、恩寵の豊かな湖で目いっぱい沐浴をするし、森の中を気のすむまで散策するんだ。ボクは幸せだって、謝ることなんかないって言いに行くつもりだった。だけどっ……!!」
アリアは高ぶった感情をそのまま叫んだ。
「それももう全部かなわぬ夢だ! お前たちが裏切ったせいで《秘鍵》はダークエルフの城に運び込まれてしまった! あの城の一帯は不毛の地だ。ボクたちは近づくことすらできない! 《秘鍵》は、もう手に入らない! 呪いは、もう解くことはできない!」
彼女は怒りと悲しみと、とにかく強い感情のこもった声で訴えた。
「どうしてボクの味方のフリをしたんだよ! 裏切るなら最初から協力なんてするなよ! ……そしたら……無駄な希望なんて抱かずに済んだのに…………」
鼻をすする音ばかりが部屋を満たした。アスナもキリトもいたたまれないような表情を浮かべる。そんな中ケイだけが誰に憚るでもなくしっかりと彼女の視線を受け止めた。
「俺たちは、エルフ相手ならいくらでも力になろう。だが、人族の冒険者同士で剣を向けあうことはない。絶対にだ。もう一度あの場面に戻っても、俺は迷わず同じ決断をするだろう」
このゲームの性質を考えれば、その言葉の重さはミトには強く、強く、伝わった。だが、エルフの少女にはそうではなかったようだ。
「そうかよ」
アリアは声に怒りと失望をにじませた。
「だが、勘違いするなよ。まだクエストは終わっちゃいない。《秘鍵》は必ず君に渡す。その方針に変わりはない」
アリアは真っ赤に充血した目でケイをにらむ。
「不可能だ」
「自慢じゃないが俺は人族で一番、不可能を可能にしてきた男だ。エルフの城の一つや二つ落としてみせるさ」
ケイは不敵に笑う。
「本当にわかってるのか? これまでの野営地とはわけが違うんだぞ。たかだか数人の人族が向かったところで戦闘にすらならない。そして、何度も言うけどあの城に里の兵士は近づけない」
「城周辺の荒野に《森と水の恩寵》がないことはよくわかった。確かにエルフにとってはつらい環境だろうさ。でも本当に通行不可能なのか?」
「……人族には分からないだろうが、あの土地はエルフには過酷すぎる。向かえばたちまち衰弱して一歩も動けなくなってしまうんだ」
「それはおかしい」
ケイは強い確信をもって言いきった。
「なに?」
「あの場所が本当に通行不可能なら……」
ケイは一拍置いてその疑問を口にした。
「《秘鍵》の回収に向かったダークエルフはどこから来たんだ?」
「それは…………」
ミトは息をのんだ。アスナもだ。アリアは何かを言い返そうとして口を開けたまま固まっている。
キリトはケイの言葉をきっかけに思索の海に耽っている。
ミトはケイの言わんとしてることを口にした。
「城と祠を往復するには枯れ谷を通らなきゃいけないわよね……ダークエルフは少なくとも城と外を行き来する手段を持っているってこと……?」
アリアの表情は複雑だった。猜疑や不満と希望がせめぎあっている。
「……できるのか?」
「俺はそう確信している」
「確信って……それは……そうだけど……でも…………具体的な方法は分かんないのかよ……!?」
アリアは混乱する感情に振り回されるように無意味に手を動かした。
「それはこの里一番の物知りに聞くとしよう」
これまで黙って成り行きを見守っていた老エルフに視線が集まる。彼は長いひげをしごきながら頷いた。
「ふむ…………確かに、エルフが恩寵なき土地で活動する方法はある」
アリアが目を見開いた。
「生命力の強い植物の枝は手折ってもすぐには力を失わないものじゃ。適切に処理すれば、わずかな間ではあるが我らに森の恩寵を与えてくれるだろう。枝を集めて兵士に持たせれば、枯れ谷を越えてガレ城へと進軍することは可能じゃ。だが……我々は制約により生木を手折ることはできん。兵士の中にこの方法を知っているものがいないのもエルフには実行不可能な方法であるがゆえじゃろう」
老エルフのもの言いたげな視線を受け止めてケイは胸を張った。
「心配するな。そのために俺たちがいる」
ケイの言葉にミト達は頷いた。
◇
枝を集めるのに時間はかからなかった。材料になる植物は隠れ里のある湿地エリアに生えているものだったからだ。アリアが調子を取り戻すまでの間、ミト達は手分けして植物を探し周り、オブジェクトを破壊してはクエスト用のドロップアイテムと思しき《千年月樹の小枝》を集めて回った。
「わしのような老いぼれの命など聖樹様にささげても惜しくはない。じゃが、あの子のように罪のない新しい世代のエルフの子らまでもが呪いで苦しむのを見るのは、あまりに忍びなくてのぅ……」
生木の枝を長持ちさせるという特殊な処理をしながら老エルフはミト達に頭を下げた。
「罪人の末裔たる儂が言うのは虫のいい話じゃと思われるかもしれないが……どうかこの里の未来のためにもよろしくお願い申し上げる……」
受け取った枝は実物以上の重みがあった。
【部隊を整え《秘鍵》を奪取せよ】
エルフの将校に荒野を抜ける手順を伝えるとクエストログが変化した。終幕は近いだろう。
兵舎の出口では見知ったエルフと出くわした。アリアの叔父のホランドだ。
「5層は良いのか?」
彼は別の階層で兵士を指揮しているはずだとケイは指摘する。
「ああ。お前たちのおかげであそこの軍事的重要性は薄れた。秘鍵無き階層に人員を割くよりももっと難しい局面に力を入れるべきだと判断した」
「そうか」
ホランドは封印の祠での一幕には触れなかった。みすみす回収部隊を見逃したというのだから、痛罵される可能性も考えていたミトは肩透かしを食らう。
代わりに彼が口にしたのはエルフの少女のことだ。
「あの子が世話になったようだな。長老から話は聞いている。俺からも礼を言わせてくれ」
「いえ、そんな……! 私たちこそ、祠では……その……」
結局ミトは自分からそのことに触れた。
「かまわない。しがらみを抱えて生きていない者など、どこにもいない。この里では特にな」
「そういってもらえると、助かります」
キリトが軽く頭を下げた。
「そもそも秘鍵は我々の力で手にすべきもの。兵数にすら数えていない人族の冒険者に責任を求める方がおかしな話だ。それに、聞くところによると今はガレ城攻略のために尽力してくれていると聞く。ならば感謝こそすれ、責めるのは筋違いだ」
ホランドは腕を組んで彼の考えを語った。
「このタイミングで来たということは、あんたも参加するのか」
「ああ。そしてもう一つ。あの子の任務を解くために俺はここに来た」
ホランドの言葉にケイは難しい顔をした。
長老の家で休んでいるアリアの元へ戻る道すがら、彼の真意を尋ねるケイにホランドは胸の内を明かした。
「荒野を渡る方法が分かっても、それでようやく我々はダークエルフと同じ土俵に立ったに過ぎない。里の兵士を総動員したとしても兵数はダークエルフに及ばないだろう。そのうえ地の利は城を擁する向こうにある。戦いは死力を尽くしたものになるはずだ。あの子は連れていけない」
「たぶんだが、反発するぞ」
「予想はできてる。両親に似て芯の強い子だからな」
ホランドは目を細めた。
「あの子は今は亡き兄の忘れ形見なんだ。兄は呪いに苦しむ義姉を助けるために誰よりも《秘鍵》を欲していた。《秘鍵》の伝承は聞いているか?」
ケイは首を振る。
「エルフには大地切断以前から伝わる6つの《秘鍵》がある。あれらが何のために作られて、どのように用いるものなのか。はっきりとしたことは何も分かっていない。あるいは古代種であるノルツァー将軍は知っているかもしれないが、あの方がそのことを語ったことはない。確かだと言えることは一つだけだ。《秘鍵》をすべてそろえると我々はエルフの聖域に至れる。聖樹と対話を試みるにしろ、あれを弑するにしろ、そこでなら呪いを解くことができると考えたんだろうな。まあ、結局兄はあれを手にする前にエルフとの闘争で命を落としたのだが。義姉もそのあとを追うように……」
しばしの沈黙が流れる。
彼はただのプログラムに従って動くだけのNPCだ。その設定だって過去だって生成されたデータにすぎない。ミトは時々そのことを忘れそうになる。
「義姉は優しい人だった。つらい運命を背負わせるくらいならばと、子供を作ることすら躊躇うような人だ。自分の体がどれほどつらかろうともあの子を産んでからは常にその身を案じていた。死の間際、彼女はあの子のことを俺に託した。俺はその思いに応えなければならない。どんな事をしても、だ」
ホランドがぎゅっと拳を握りこむ。
「もともとあの子は霊薬の補充のためにこの里に戻っていただけだ。軟派な巫女どもに横やりを入れられ、薬を切らしたと聞いたときははらわたが煮えくり返る思いであったが、今はかえってその方がよかったとも思っている。体調を崩しているなら好都合だ。彼女はこの村に置いていく」
ホランドは固い決意をにじませる声でそう言った。
◇
「嫌だ!」
客間にアリアの叫び声が響く。長老の家に着いたホランドに今回の作戦から外れるように告げられた彼女の反応はミトの予想通りのものだった。
「ボクも皆とともにガレ城へ行く!」
「無茶を言うな。病み上がりの半病人など死にに行くようなものだ」
「覚悟はできてる!」
「馬鹿者!」
ホランドが声を荒げた。
「こう言わないと分からないのか? 俺たちに足手まといを連れていく余裕はない」
アリアが息をのんだ。正面から足手まといだと言われた彼女は何度か口を開きかけ失敗する。
「……死んじゃやだよ。お父さんみたいに突然いなくならないでよ」
結局彼女の口から出てきたのは年相応の泣き言だけだった。
「たとえそうなっても、お前の父と母のように祖霊となって見守っている」
ぐすぐすと鼻をすする音と、ホランドが扉を閉めた音だけがミトの耳に残った。
「なんてクエストだよ……」
キリトが悪態をつく。アスナはアリアの背中をそっと撫でている。
ミトは自分に言い聞かせる。落ち着け。これは所詮クエストだ。感情移入しすぎるな。
だが胸を占める無力感は一向にぬぐえなかった。
「見事な死亡フラグだな」
不吉なことを呟くケイをアスナが睨むが、ミトも理性はケイに賛同していた。これほどの前置きをしたのだ。ホランドが無事に帰ってくるシナリオは考えづらい。戦場では彼を守るように立ち回るか。だが、そういう問題でもない気がする。それで秘鍵の奪取に失敗すれば元も子もない。
ミトはベータ時代に訪れたガレ城の威容を思い出す。高い壁と強固な門。一般的に城攻めは攻める方が不利だと言われている。兵数差まであるのならば勝ち目は薄いだろう。
フォールンエルフだけではない。そもそもミト達が生きて帰れるのか。ここまで流れに身を任せるだけだったが、決断の時が来ている。
このクエストからは手を引くべきだ。
「どうしよう……おじさんが死んじゃう」
アリアの堤防はついに決壊してしまった。ずいぶんと感情豊かになったものだ。
初めは不愛想なエルフだと思った。無口で心を開かず、ミト達を無視することもあった。だが彼女は不器用なだけだった。里のエルフに差別され、若くして両親も失い、人との距離感がつかめていないだけだった。あるいはもう悲しまないために誰にも心を開かないようにしていたのかもしれない。その気持ちがミトには痛いほどわかった。
『ミトちゃんとゲームしても面白くないよ。あたし、他の子と遊んでくるね』
いつかの記憶がよみがえる。彼女が友達を欲しがらなくなったのも、趣味を隠すようになったのも、同じ理由だった。
エルフクエストは中止できる。今すぐにでも里を去ればミト達は分の悪い城攻めに参加しないで済む。だが、彼らは止まらないだろう。フォールンエルフの部隊は全滅する。プレイヤーの協力なしに秘鍵を奪えるようなシナリオは用意されていないはずだ。
たかが、NPCキャラだ。プレイヤーの命と釣り合うものか。
ミトはぎゅっと拳を握った。彼女にだって大切なものはある。
ミトは目を瞑り、深呼吸を繰り返す。息とともに未練を吐き出すように。何度も。何度も。
「どちらにしようか。ずっと悩んでいた」
だが、こんな時ミトの覚悟を無駄にするのはいつだってこの男だ。
「でも、今決めたよ。ホランドじゃなくて君にする」
ケイはベッドに近づくと泣きはらした少女の目を正面から見つめた。
「アリア……ホランドのために、いや君自身の願いのためになら地獄に堕ちる覚悟はあるか? もし君が何でもするというのなら……」
ケイはいつものようにニヤリと口角を釣り上げた。
「俺に一つ、試してみたいことがある」
エルフの少女の答えは決まっていた。