SAO RTA any% 75層決闘エンド   作:hukurou

35 / 37
アーカイブス 023

ニルーニルの部屋から退出し、地下闘技場に戻るための階段を下りながらキリトは難しい顔で眉間に皺をよせていた。

 

地下闘技場のモンスターアリーナでは不正が行われている。少なくともラスティーリカオンに関しては完全に黒だった。

 

バトルアリーナ虎の巻は午後の5試合すべての勝敗を的中させていた。もし夜の部でも予想が的中し続けるのなら、これは偶然や単なる目利きではありえない確率だ。

 

おそらく虎の巻はコルロイ家の企みとつながっている。

同程度の実力をもつモンスターの戦いで、その勝敗を連続で的中させることは至難の業だ。あらかじめ決められた筋書き通りに勝敗が操作されていたと考えた方が説明がつく。

 

おそらくコルロイ家は午後の5試合にもラスティーリカオンの一件のように勝敗を操作できるようなイカサマを仕掛けていたのだろう。そしてそれは夜の部でも仕掛けられている可能性が高い。

 

クエストの会話を終えた後、キリト達はニルーニルとキオに何かイカサマに心当たりはないか、これまで怪しい勝敗操作が行われた記憶がないかなどを聞いてみたが、結果は芳しくなかった。不正が疑われる試合自体はいくつかあったそうだが、決定的な証拠とも言うべきイカサマの種が割れたのは今回のリカオンの件だけだそうだ。そもそもそんなものが分かっているならとっくに摘発しているといわれ、それはそうだと納得した。

 

「やめさせるべきだよな……」

 

「ケイ達のことカ?」

 

先行して階段を下りていたアルゴがキリトのつぶやきに反応して振り向いた。

 

「ああ。クエストの流れから言ってあの虎の巻はコルロイ側の悪だくみだろ? ケイ達があの本の指示通りに賭けを進めていったら、きっとどこかのタイミングで裏をかかれてコインを失うことになるんじゃないのかと思ってさ」

 

「ま、このまま大勝利、とはならないだろうナ」

 

この状況に不信感を抱いているのはアルゴも同じようだ。

 

「よくあるパターンで言えば最後の試合、第10試合目だけ予想が外れて全財産をなくしちゃうとかなんだけど……」

 

「それなら9試合目までで賭けをやめればいいんじゃない?」

 

アスナが提案した最も単純な解決策にキリトは賛同しかねた。

 

「言うほど簡単なことじゃないぞ……大勝ちしているギャンブルの辞め時を見つけるっていうのは。下手すりゃ一試合で数百万コルも儲けてる最中ならなおさらに。騙されているかもしれないなんて曖昧な言葉じゃ抑止力としちゃ弱すぎる。100パーセント罠だっていう証拠でもなきゃ立ち止まれない……んじゃないかなぁ」

 

「経験者は語るってやつかしら?」

 

「うぐっ……」

 

アスナにからかわれて呻き声を上げながらキリトは頭の中で言葉を続けた。それに、第10試合だけを回避すれば終わるような簡単なクエストにも思えない。直感でしかないがこのクエストはもっと複雑なアルゴリズムの元に動いているように感じるのだ。

 

「キリトの言いたいことはわかるわよ。何とかしないとってのも同意見。でも、たぶん……ケイはソード・オブ・ウォルプータを手に入れるまで止まらないんじゃないかしら……」

 

ミトが悩まし気につぶやいた。

 

「でも、目標金額にはもう到達しているじゃない。いまって夜の部の第3試合の真っ最中でしょ。もし、この試合までコルロイ家が動かずに順調に賭けに勝っていたら、みんなに事情を説明して協力すれば、《ソード・オブ・ウォルプータ》を交換できるんじゃない?」

 

「アーちゃん、5チームの合計じゃダメなんダ」

 

首をかしげるアスナにアルゴが語り聞かせる。

 

「今日集まったメンバーはみんな本気で攻略したいって思ってるプレイヤーなんだロ。だったら誰だってソード・オブ・ウォルプータは欲しいに決まってル。あれには装備するだけで他のプレイヤーから頭一つ抜けられるポテンシャルがあるからナ」

 

彼らの表情を思い出しながらキリトも首を縦に振った。

 

「ああ。仮にみんなのコインでソード・オブ・ウォルプータを交換したら、あの剣を誰が使うかで絶対に揉めごとになる。剣が一本しかない以上折衷案を出すのは無理だし、仮にコルで補填するにしても他のチームに数百万コルを渡すなんてこともできないしな」

 

残念そうにアスナが沈黙する。

 

「……そこまで考えてケイはあんなルールにしたのかもナ」

 

「どういうこと?」

 

1人で頷くアルゴにアスナが目を向けた。

 

「虎の巻の内容が本当だったら10万コイン以上稼ぐチームが複数出てもおかしくなイ。一本しかないソード・オブ・ウォルプータを誰が交換するかで揉めちまうだロ。そうならないように一位のチームが全部のコインを独占して勝者が一人しか出ないようにしたんじゃないカ?」

 

階段が終わる。ロビーの向こうに見える分厚い扉を開ければもうそこは熱狂渦巻く地下闘技場だ。今のうちに行動の方針を決めておきたかったキリトは一度足を止め、皆の顔を見る。

 

「どうする?」

 

「とにかく一度情報共有するしかないんじゃないかしら」

 

アスナが言う。

 

「最終的な判断はケイにゆだねましょう」

 

「異議ナシ」

 

ミトが提案し、アルゴがそれに賛同した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

地下闘技場に入ったのはちょうど夜の部第3試合目が終わった時だった。興奮したNPCに交じって上機嫌で換金所前に集まるクライン達の姿を見るにこの試合も虎の巻の予想は当たったのだろう。

キリト達は換金所前で彼らに声をかけ、次の試合が始まるまでのわずかな時間に今進行しているクエストの概要を伝えた。

 

バトルアリーナの胴元の一方であるナクトーイ家からのクエストでバトルアリーナの不正を探っていたこと。コルロイ家がラスティーリカオンの毛皮を染めてイカサマをしている証拠をつかんだこと。そしておそらく、夜の部の他の試合でも勝敗を操作するようなイカサマが行われる可能性があること。

 

しかし、それを聞いたケイの反応は実に淡白なものだった。

 

「予想の範囲は超えてこないな……」

 

「まるで分かっていたみたいな言い方ね」

 

ミトが言うとケイは淡々と説明を始めた。

 

「お使い然りモンスター討伐然り、SAOのクエストはプレイヤーに何かしらの課題を課すのが常だ。朝に話した予想の通り、虎の巻がクエストに関連するアイテムだとすると、モンスターバトルにはプレイヤーに解消させるべきトラブルが発生している可能性が高い。そしてカジノの勝敗予想という性質上、それはイカサマに関連していても不思議じゃない」

 

「それが分かっているなら私たちが何を言いたいのかもわかるわよね」

 

「コインを巻き上げられる前に賭けを中断して利益を確定しようってことか?」

 

ミトが頷く。まっさきに異議を唱えたのはキバオウだ。

 

「ちょお、待ってんか! 話を聞いとるかぎり虎の巻がコルロイってやつの差し金ってのはあんたらの予想でしかないんやろ!? 証拠はあるんか!?」

 

痛いところを突かれてキリトは答えに窮した。

 

「ないヨ。いまのところはナ」

 

代わりに答えたアルゴが肩をすくめる。

 

「じゃあ、わいらは止めんで! こんなチャンス逃せんて! 今波が来とるんや!」

 

「俺もキバオウに賛成だね」

 

ギラギラとした目でレジェンドブレイブスのオルランドも追従する。パーティーリーダーの意見を補強するようにクフーリンが声を上げた。

 

「キリトさんの言いたいことはわかるよ。でも、俺たちから金を巻き上げるんならこんな遠回りな罠を仕掛ける必要はないだろ。ほんとに勝敗が操作できるなら最初から俺たちの予想とは逆のモンスターを勝たせとけばいい」

 

「もしかしたら……最初はあえて勝たせてギャンブルに嵌らせてから、お金を巻き上げるのが目的なのかも……」

 

「やっぱネズオはなんも分かってねえな……。俺たちの持ってるコルなんてせいぜい数万程度だろ。それを巻き上げるために百万コル以上勝たせてどうすんだよ。持ち逃げされたときのリスクがデカすぎるだろ」

 

「そもそもギャンブルっていつだって負ける可能性があるなかでやるものなんだから、ある程度のリスクは許容するべきじゃないのか?」

 

「俺はこれ、ソード・オブ・ウォルプータの獲得クエストだと思うって!」

 

それから喧々諤々と議論が交わされるが、やはりというべきか賭けを中断しようという意見は少なかった。それも仕方ないだろう。今の時点で8連勝。コインの額面は100倍以上に増えている。度重なる幸運と成功経験は判断能力を鈍らせるものだ。皆が大なり小なり欲望で顔を紅潮させている中で、カジノの魔力に魅せられていないのはケイを除けば一人だけだった。

 

「怖いんなら掛け金を減らせばいいっしょ。オールインじゃなきゃイカサマにかけられても少しは手元に残るんだし」

 

薄ら笑いを浮かべながらしゃべるモルテはこの状況を面白がっているように見えた。

しかし提案自体は至極まっとう。リスクの軽減と利益の確保を両立させたその意見は妥当な落としどころのように思える。少なくとも最悪の事態――コインを全額失うことは避けられそうだとキリトが胸をなでおろしかけた時、彼はチームメンバーの方を向いて言葉を付け足した。

 

「あー、でも俺は次の試合でも全額ベットっすけどね」

 

「は?」

 

矛盾した言葉に疑問の声を上げる面々をあざけるようにモルテは軽薄な笑みを浮かべる。

 

「だって、コインは一番になったチームの総どりなんでしょ。だったらちまちま稼いでもしょうがないじゃないすかぁ」

 

キバオウが乗り出した身を一歩引いて、チームの方に身を寄せた。ブレイブスのオルラントは真意を探るように周りの人間の顔色をうかがう。一瞬だが確実に蔓延した猜疑心と対抗意識は無意識のうちに形成されていた協力してクエストを乗り切ろうとする空気を変えてしまった。

 

「ねえケイさん。そういうルールでしたよね。あ、今更ルール変更とか無しっすよ。俺たちは午前中からそういうルールでリスクをとってやって来たんすから……」

 

「……ああ。もちろんルールの変更はない。各チームはこれまでの情報を多角的に判断しつつ、最善と思われる決断を下すといい」

 

ケイは最後にそう締め切ると一同を解散させた。

モンスターバトルの試合間隔は複雑な議論を行うには短すぎる。次の試合の投票締め切りの時間が迫ってきているのもあって、キリト達は我先にカウンターへ向かう皆の姿を心配そうに見送るしかできなかった。

 

夜の部第4試合が始まる。

 

賭けに参加しているメンバーはどのチームもNPCのカウンターに直行していた。ケイでさえもだ。イカサマのリスクを危惧しモンバトを中断する判断を下したチームがいないのは分かっていた。だから、問題はどの程度かけたのかだ。そしてその点で言えばキリトが合流した風林火山の面々の判断は最悪と言ってよかった。

 

「また、全額ベットしたのかよ……」

 

呆れたようにため息をつくキリトにクラインはさすがに少しバツが悪そうな顔をした。

 

「そうはいってもよぉキリト。やっぱり一番にならなきゃいけないなら、ここは手を抜けないだろぉ」

 

「コインが全部なくなったら元も子もないだろ……」

 

「お、俺たちだって考えなくかけたわけじゃねえよ。これまでやってきた古今東西のRPGの経験をいろいろ考えてだな、イカサマが起こるなら最後の10試合目だって踏んだわけよ!」

 

その流れはキリトも考えなかったわけではない。だが、それこそ全く根拠のない希望的観測にすぎない。少なくともキリトには数百万コルの金額を賭けるに足るほどの確信は得られなかった。

 

「このイベントは9試合連続で勝たせておいて、最後の最後に裏切られるタイプのやつに違いない! つまりこの試合までは賭けても問題は、ない!」

 

自分に言い聞かせるようにそういうクラインを、キリトはため息交じりで見守る。

 

本日9試合目の勝負。賭けの行く末はクラインの読みの通りになった。これで9連勝。今日の朝にはたった200枚分だったVCコインは、今やクラインの手元でその数を6万枚近く、600万コル相当にまで増えていた。

 

「で、どうするんだ?」

 

カウンターでコインを引き替えてきた後のクラインはかれこれ一分ほども無言を貫いていた。仕方がないのでキリトが声をかける。のっそりと振り向いた顔は分かりやすいくらいに葛藤に満ちていた。

 

「か、賭けるしかねえだろうよぉ……ここまで来たら」

 

初めは6人いた風林火山のメンバーは今やクラインを含めて3人しかいない。あるものはクラインにすべて任せると言い、あるものは心臓に悪いからと言ってラウンジに戻ってしまったのだ。残り2人のメンバーが不安げな表情でクラインと相談する。

 

「10試合目はイカサマがあるんだろ……」

 

「やっぱここでやめておいた方が良いんじゃないか?」

 

弱気を見せる他のメンバーにクラインは言い返す。

 

「でも他のやつらはかけてるしよ……」

 

結局こうなったか、とキリトは内心で諦念を抱いた。勝者が総取りをするルールは確かに誰がソード・オブ・ウォルプータを交換するかで揉めないという明確な利点がある一方、リスクを避ける選択肢を消してしまうという明確なデメリットがあった。

 

これが普通の賭けならばクラインもここまで迷わなかっただろう。おそらくイカサマが行われるであろう第10試合は避け、これまで稼いだ大金をもって酒場にでも繰り出せたはずだ。

 

だが、他の4組が賭けを行っているとなれば話は変わってくる。最も資金の多い状態で行う最後の試合の賭けの報酬は、これまでで最大となるからだ。ここで降りた場合、クラインが1位になる確率は低く、それはこの大金がクラインの手元に残らないことを意味する。

 

「問題はどっちに賭けるかなんだよな……」

 

風林火山の3人は頭を突き合わせて試合の倍率表をのぞき込んだ。最終試合の対決はタイニー・グリプトドン対ヴェルディアン・ビッグホーン。虎の巻の予想ではタイニー・クリプトドンは△、ヴェルディアン・ビッグホーンは〇となっている。これまで通り予想が的中するとなれば勝つのはビッグホーンだが、虎の巻が罠だとしたらタイニー・クリプトドンが勝つことになる。

 

「チケット購入締め切りまでは後5分! どうか本日最後の大勝負に乗り遅れる事なきよう!」

 

タキシードを着たカジノ側のNPCの声が響き渡り、クラインのこめかみを一筋の汗が伝う。

 

「やっぱりここは最初の予想通りヴェルディアン・ビッグホーンが――」

 

「いやこれは、人を疑った方が損をするタイプのオチという可能性も――」

 

「チケット購入は残り3分で締め切らせていただきます」

 

「やばいな。もう時間がないぞ!」

 

「もうリーダーが決めてくれ!」

 

「外しても恨むなよ!」

 

アナウンスを聞き、クラインがカウンターへ走り出す。

 

「へへっ。やってやったぜ」

 

チケットを握りしめて戻って来るクラインにキリトは本心から言った。

 

「当たると良いな」

 

「そうしたらキリトにもなんか奢ってやるぜ……! そうだっ! 祝勝会にはアルゴさんたちカワイ子ちゃんズも誘ってくれよ!」

 

クラインはややひきつった笑顔でそういった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。