死んだ者しかいないはずの冥界は、生きた人間で賑わいを見せている。
お化け屋敷(真)として開放された白玉楼であったが、実際に人気があるのはどちらかというと冥界の桜の美しさであった。
白玉楼の幽霊は、簡単に表現すると白くてデカいオタマジャクシで怖さはなく、むしろ可愛らしいとされていたが、持て囃されるとまではいかない。
そういうわけで、白玉楼の幽霊たちは来客が増えても、特に変化なく過ごしていた。
「あらぁ?」
そんな幽霊たちを白玉楼の縁側で眺めていた冥界の主こと西行寺幽々子が、不思議そうに首を傾げる。
幽霊たちはいつも通りに漂っているように見えたが、一体だけ何やら慌てて動き回っているのに気付いたからだ。
幽々子はその幽霊の元に向かった。
「どうしたのかしら?」
幽々子が話しかけると、幽霊はビックリしたかのような仕草を見せる。
近づいたことで気が付いたが、その幽霊は他の幽霊と異なる特徴を持っていた。
形状こそ他の幽霊と同じだが、その幽霊には顔と手のようなものがあり、額烏帽子を付けていた。
「あなた、ひょっとして外の世界の幽霊?」
幽々子の言葉に幽霊は頷くような仕草をする。
幽霊は今にも泣き出しそうな表情をしていた。
そして、幽々子に何やらジェスチャーを交えて、何かを伝えようとする。
基本的に幽霊は話せない。意思の疎通は波長の合った者以外とは困難を極める。
「外の世界の娘に憑いてきたけれど、その娘とはぐれちゃったの? 迷子なのねぇ、あなた」
しかし、亡霊の姫君は幽霊の言いたいことを完璧に理解した。
当然といえば当然だが、自分が憑いている少女としか意思疎通していなかった幽霊にとっては驚愕に値する出来事だった。
幽霊の驚きの仕草に、幽々子は微笑みを浮かべつつ、優しく声をかける。
「その娘とはお友達なの?」
幽霊は頷く仕草を繰り返す。
幽々子は少し考え、不安そうな表情を浮かべる幽霊を安心させるように話しかける。
「一緒に探してあげるわ。あなたのお友達の娘」
幽霊の表情に明るさが宿る。
「幽霊なのに表情豊かねぇ」
クスクスと笑いながら幽々子は幽霊が探している少女がいると思われる場所へと歩き出した。
聖櫻学園の生徒たちは冥界の見事な桜に感動し、見入っている中、三嶋ゆららは桜とは違うものを探していた。
辺りをフワフワと漂っている幽霊を見かけてはそれに近づき、何やら話しかけ、ガックリして戻るという行為を繰り返している。
「うーん、どこに行っちゃったんだろ〜?」
そしてまた、ゆららは辺りを探し始める。
実は、彼女には、幽霊がいつも憑いているのだが、今は一人だけである。
幽霊が沢山いるこの白玉楼ならば、ゆららに憑く幽霊も色々楽しめるのではないかと考え、やってきたゆららであったが、一つ誤算があった。
幽霊は期待通り楽しんでくれた。はしゃぎすぎて迷子になるくらいに。
そんなわけでゆららは迷子の幽霊を探しているが、土地が広大な上に幽霊が多すぎて難航している。
意思疎通が出来る幽霊が多いのが、ゆららにとっての救いではあった。
しかし、迷子の幽霊は見つからない。
ゆららは辺りをうろついている内に、大きな桜の木の下に辿り着いた。
不思議なことに、他の桜は満開に関わらず、この大木だけ枯れてしまっている。
「この桜……何か怖いなぁ……」
大概の物事に恐怖を感じないゆららが恐怖を口にする。
この桜には何か触れてはいけない秘密がある。そんな風に直感した。
「……」
ゆららは黙ってその場を離れた。
幻想郷には触れてはいけない何かがあるのだ。
再び満開の桜が咲く場所まで戻ってきたゆららに声がかけられる。
「あなたがゆららさんね? 探してるのはこの子かしら?」
ゆららが振り向くと、そこには冥界の主たる西行寺幽々子とゆららの探す幽霊がいた。
「よかったぁ! 見つかったぁ!」
ゆららが喜び、両手を広げる。
幽霊はゆららに向かって飛びついていく。
再会の抱擁が交わされるかと思われたが、幽霊はゆららの身体をすり抜けてしまい、何の意味もなさなかった。
それでもお互い嬉しそうに笑いあっていた。
「ありがとうございます、幽々子さん。この子を連れてきてくださって」
ゆららが幽々子に向かい、お辞儀をする。
幽霊もゆららに倣うかのようにお辞儀の仕草をした。
「ところで何で私の名前を?」
「その子に聞いたのよ」
ゆららの疑問に幽々子が幽霊を指差し、答える。
幽霊はよっぽど嬉しいらしく、ゆららの周りを飛び回っている。
ゆららも笑顔で幽霊の相手をする。
幽々子はそんな2人に対し、
「私も中々珍しいものを見せてもらったわ。ありがとう」
と楽しそうに礼を述べた。
キョトンとした顔でゆららが尋ねる。
「珍しいもの、ですか?」
「えぇ、とっても珍しいわ。そして、この冥界の桜よりも美しい」
風が吹く。
桜の花弁が舞い踊る。
「生きている人間と幽霊の友情なんて、ここ幻想郷でも珍しいわ」
ゆららはその言葉を聞き、少し困惑した表情を見せた。
しかし、すぐに笑顔になり、答える。
「見えないし聞こえないから友達になりにくいだけですよ。ここみたいに皆に見えて、あなたみたいに話が出来たら友達になることは誰にだって出来ると思いますよ」
本心からの言葉と笑顔。
ゆららの側では幽霊も頷いている。
その様子に、自然と幽々子もほほえんでいた。
「そうかもしれないわね」
「絶対そうですよ。その証拠というのもなんですけど――」
「?」
ゆららが幽々子に手を差し出す。
「私と友達になってください」
今度は幽々子が面食らった表情になる。
しかし、すぐにまた微笑み、答えた。
「えぇ、よろしく」
Q 友情話が多くない?
A 交遊録ってそんなもんじゃない?
次回は小話の予定。白玉楼編は終了。短いって? すまんな。
次々回からは永遠亭編。もしかしたら何回か小話になるかもしれない。
更新は亀です。読んでくれている皆様、ありがとうございます。