迷いの竹林にて
私は今、自然界の産物たる妖精すら迷うという竹林に来ている。
竹林が目当てなわけではない。その先にある永遠亭、そこにいるという月のお姫様が目当てだ。
日本最古の物語のヒロイン。それが現実に存在するという。
本来なら、一笑に付す話だが、ここ幻想郷に限ってはあり得ないとは言い切れない。
物書きの端くれとして興味を持った私は、早速向かうことにした。
これは、その道中、私が興味を持ったことを書き記したメモ書きのようなものである。
竹林はその名に恥じない迷宮だった。何処まで行っても変わらない風景には、方向感覚どころかそもそも移動したのかどうかさえ忘れさせられる。
人間では踏破不可能。これが私の抱いた印象だ。つまり、目的地たる永遠亭にも辿り着けないことになる。
しかし、とある手段を使えば問題なく辿り着けるらしい。永遠亭は幻想郷の病院のような施設でもあるらしく、急病人が出たときなどはその手段を使うそうだ。
私やその他永遠亭に興味を持った生徒たちもその手段を使うことになった。手段といっても単純明快、案内人に連れていってもらうだけである。
しかし、先程述べたように人間では踏破不可能と感じた竹林である。案内「人」と言いつつ、ヒトでないものが現れる覚悟を私はしていた。
が、それは杞憂に終わった。
私たちの前に現れたのは、長い白髪の少女だった。彼女が履いた赤いもんぺとの対比で美しく映える白髪に、通常寄せられる悪い印象は浮かばなかった。
彼女の名は藤原妹紅というらしい。
道中、彼女に色々話を聞かせてもらった。
彼女は人間だけれども、少し長生きらしい。異能の力も持ち、そのおかげかこの竹林でも迷わずにいられるとのことだ。
見た目は10代の少女なのに、少し長生きとはどういうことだろう?
歳を尋ねようとも考えたが、何だか聞いてはいけない雰囲気だ。
話を変えて、永遠亭にいるお姫様のことを聞いてみた。
実はこっちの話題の方が地雷だったみたいだけど、その時の私は気付いていなかった。
多分、私は忘れられない。
物書きとして、大変恥ずかしく思うが、言葉では表せない複雑な感情の入り混じった、あの表情を……
一瞬見せたそんな表情を笑顔で掻き消し、妹紅さんはこう答えた。
「綺麗だよ。千年経っても、万年経っても、忘れがたい美しさだ」
このときには、私の興味はまだ見ぬ美しい姫様よりも、謎多き彼女に移っていた。
愛憎なんて言葉じゃ説明し切れない、一瞬の表情に魅せられたのだ。
あの表情を理解するのに、私は何年かかるだろう。
いつか、言葉で表せられるようになるだろうか。
夏目真尋の手記より
Q これって永遠亭編じゃないの?
A 小話のつもりですが、永遠亭編といっても過言ではない
更新は亀です しかも不定期です 申し訳ない