東方女友達(仮)   作:タイラー

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紅魔館編 ①咲夜の主

紅魔館にて

 

「我が紅魔館の懐の深さを外の人間にも見せつけてやりましょう!」

 

紅魔館の当主、永遠に紅い幼き月ことレミリア・スカーレットのこのような一言から、最近外からやってきた(偶然来てしまった)聖櫻学園の生徒たちを招待することになり、館の全権を実質掌握している十六夜咲夜の仕事量は爆発的に増える予定だった。

 

客人を出迎えるための用意をすることは大して問題はない。主たるレミリアはよくパーティーを主催し、その用意を咲夜がすることは最早日常だからである。

今回の問題は、レミリアのその他の思い付きにあった。

 

「咲夜はメイド体験希望者への応対、美鈴は武術についての指導を開いて、客人の興味を引きなさい。パチェも図書館の危険な魔術書以外の書物は解禁して、閲覧させてあげなさい」

 

この突然の提案により、紅魔館の住人の手間は増えることになった。

特に紅魔館唯一の人間たる咲夜は、外の人間たちへの応対だけでなく、他の住人のフォローに回ることも予想され、まさに有用な仕事術を発揮しなければやってられない状況である。

 

ちなみにレミリア自身は、

 

「私?当主として、全客人に挨拶をするし、質問も受け付けるわ。吸血鬼なんて、外の人間は見たことないでしょうしね。これが当主たる責務ね」

 

とのことだった。これはつまり、話したい奴と話をすると言っているだけなので、実質は何もしないと同義である。

 

かくして、紅魔館の住人の忙しい一日が始まったわけである。

 

 

①咲夜の主

 

「きゃあああっ!?」

 

メイド服に身を包み、ティーセットを持った柊真琴は、絵に描いたドジっ娘メイドの如く、足を滑らせ宙を舞う。

 

他の聖櫻学園の生徒たちは思わず息を飲む。彼女が転んだことに、ではない。彼女が転ぶのは割りかし日常茶飯事なので、そんなことで緊張は走らない。

 

問題は彼女が持っている、明らかに高級品なティーセットである。あれが割れてしまったら、きっと大変なことになる。

先ほどこの紅魔館の主で、吸血鬼たるレミリアを見た生徒全員の直感だった。

 

しかし、これもレミリアから溢れるカリスマや威厳から、危険を察知したわけではない。

あんな高価そうなものを割ったら、あの幼女は泣いてしまうかもしれない、という別ベクトルの心配からだった。

 

だが、どんな心配であっても、杞憂である。

 

「あああ……? あれ?」

 

真琴は転んでいなかった。ティーセットも彼女の持つトレイにしっかり存在している。

変わったことといえば、一つだけ。

 

「お気を付けください。お客人」

 

さっきまで居なかったはずの紅魔館のメイド長が、真琴の側に佇んでいることだけだ。

 

「ゆっくり運んでいただければ結構です。慌てず、落ち着いて……」

「は、はい!」

 

困惑する真琴に柔らかな笑顔で話しかけ、緊張を解した後、咲夜は他の体験者の指導に戻る。

その優雅かつ華麗な姿に対し、

 

「さすがメイド長! 私たちに出来ないことをやってのける! そこに痺れる憧れるぅ〜!!」

 

と、メイドAこと戸村美知留は賛辞を送り、

 

「め、メイドが転けたと思ったら、何事もなく立ったままだった……な、何を言ってるか分からねぇと思うが……」

 

と、メイドBこと小野寺千鶴は驚愕していた。

 

 

咲夜が生徒たちの指導をしていると2人の生徒が彼女に近づいてきた。

 

「咲夜さん、こんにちは〜」

 

その内の1人、天都かなたがのほほんとした独特の雰囲気で話しかける。

 

「こんにちは、かなた様。いかがですか、紅魔館のメイド体験は?」

「ええ、とっても楽しいわ〜。メイド喫茶は学園でやったけれども、それとはまた違うものね」

 

咲夜の問いかけにニコニコと上機嫌で返すかなた。

このメイド体験には、数十人の生徒が参加しているが、中でも一番楽しんでいるのは、イベント事が好きなこの生徒会長だった。

 

しかし、かなたの後ろに控えていたもう1人の生徒――鴫野睦の表情は冴えなかった。

 

「会長、何故私までここに?」

「何故って? 楽しそうだから、睦ちゃんも誘わないと、って思ったからよ〜」

 

いとも簡単かつ軽く答えるかなたに対し、睦は頭を抱えている。

 

「元の世界にいつ戻れるかも分からないときに、生徒会長が率先して楽しんでどうするんですか!」

「だって戻れることは分かってるんだから、戻る前にこの世界を楽しんでおくべきと思ったのよ〜」

 

睦の叱責にもあまり動じず、笑顔で返すかなた。

そして、別の生徒に用事を頼まれたかなたは睦に手を振りながら離れていった。

深く溜め息をつく睦に咲夜は声をかける。

 

「お疲れですか?」

「え、えぇ少し……会長の言うことも分かるんですが、やっぱり不安は不安ですし」

 

いつ帰れるか分からない。そんな不安を持つのは、何も睦だけではない。他の生徒も感じているものだ。

 

「……ここにいらっしゃったお客人はほとんどが笑顔ですね」

「はい?」

 

突然の咲夜の一言に、睦は思わず聞き返す。

 

「勿論、内心は不安に思っているのかもしれませんが、少なくとも今は笑顔です」

 

睦は周りを確認する。

確かに、みんな笑顔である。

紅魔館の西洋貴族風の部屋や調度品、妖精メイドという可愛らしい存在やホブゴブリンというちょっと怖い顔の妖精にも夢中になり、お屋敷メイドの体験を楽しんでいるのが明白だった。

 

「かなた様は全力で今を楽しみ、それを皆さんと共有することで不安を打ち消そうとしているのかもしれません」

 

睦は何も言えなかった。

否定することなど、出来はしない。

 

「勿論、これも私の空想かもしれませんが」

「いいえ。空想じゃありません」

 

はっきり断言する。

天都かなたは、だからこそ生徒会長なのだ。

 

「ならば、これからも貴女の信じる彼女を信じていけば宜しいかと……」

「……そうですね」

 

睦は周りの生徒と同じ笑顔になっていた。

 

「では、私は他の人の様子を見て参ります」

 

そう言って咲夜は睦から離れる。

睦は一言、咲夜に尋ねた。

 

「十六夜さん。貴女の仕える人も会長みたいな人なんですか?」

 

咲夜は振り返り、苦笑して答えた。

 

「もっと子供っぽい吸血鬼ですよ」

 

 




Q エレナさん、メイド服ですよ?
A 一回イベントで撮ったし、何よりこのとき脇巫女シスターズ(正確には姉妹ではない)を撮るのに忙しかった。それぞれの話の時系列は同じだったり異なったりします。
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