幻想郷にも貸本屋はあるが、蔵書量でいえば紅魔館の大図書館には敵わない。
魔法使いであるパチュリー・ノーレッジが所有・管理するこの図書館には、古今東西の魔術書の他、現在では入手不可能もしくは困難な一般書なども多数保管されている。
それ故、魔術書を求めて、泥棒が入ることも良くある。
しかし、本日やってきた2名は純粋に本が読みたいからやってきた、珍しい客人であった。
「大切に扱うのなら、私が禁止する区画以外の閲覧は自由よ。読みたい本のジャンルが決まっているなら案内するわ」
パチュリーは本を読みながら、2人に話しかける。
その内の1人――村上文緒が質問する。
「小説などは置いてますか?」
パチュリーは本から目線をとある本棚に移し、歩き出す。
「こっちよ」
言われて文緒も後に続いた。もう1人は、そのジャンルには興味がないらしく、ついてこないようだった。
案内された場所には、文字通り、四方八方に本があるような区画だった。本の重圧に押し殺されるが如きの圧迫感と物量。
しかし、本好きの文緒にとっては、天国に等しい空間だったらしく、目を輝かせている。
「小説の類はこの辺り全部よ。悪いけど、あまりジャンル分けは出来ていないわ。ここの本は殆ど読んでないのよ」
パチュリーの言葉に、文緒は疑問が浮かんだ。
「パチュリーさんは小説はあまり読まないのですか?」
「私にとって読書は知識を増やすものよ。娯楽に近い小説はあまり読まないわ。別に娯楽としての読書を否定はしないけどね」
パチュリーの答えは文緒にとって、理解できるものであった。
確かに、読書は知識を増やすために行うものといえるだろう。それを否定することは出来ない。
だが、小説では知識を増やせない、という点には同意できない。
「パチュリーさん。小説でも知識は増やせますよ」
「そうかしら? 個人の意見や知見は得られるかもしれないけど、そんな不確定なもの知識とは言えないんじゃない?」
ほぼ初対面の自分の、このような話題にも乗ってくれるパチュリーは自分と同じ本好きなのだろう。
文緒はそう解して、遠慮なくパチュリーに意見を述べる。
「確かにその通りです。しかし、同じようなシーンを描いた場面でも、作者によって、登場人物によって、描写は異なりますし、心の機微も変わります。
読者である私たちの感じ方も異なるでしょう。その違いを発見して、そんな感じ方、描写があるんだと知ることは、知識を増やすことに他ならないと思います」
こんな風に考えを話し合うことも、知識を増やすことに繋がる。
そう考えながら、伝えた言葉は、
「……なるほど、ね。確かに、そういう知識の増やし方もあるわね」
パチュリーにはしっかり届いたようだった。
「ありがとう。村上さん、だったわね。貴女が面白いと思った本があれば紹介してちょうだい」
「はい。是非、そうさせてもらいます」
こうして本好き同士は、お互いに友情を築いたのだった。
「お待たせしたわね。貴女は何か希望のジャンルはあるのかしら?」
文緒を案内し終え、パチュリーはもう1人の来訪者――赤瀬川摩姫に問いかけた。
摩姫は答える。
「……魔術書。出来れば、封印指定されているような強力なのがいい……」
「? 封印指定って?」
摩姫の言ってることがイマイチ理解出来なかったパチュリーは思わず聞き返す。
「……一般人が読むと発狂するような本のこと……無ければ別に……」
「あぁ、確かにあるわよ。そんな本。本当に発狂するから、今は隠匿しているわ。残念ながら、ね」
パチュリーの言葉に、マジであるの!? と言わんばかりの表情を見せた摩姫だったが、すぐさま気を取り直し、
「なら、閲覧できる魔術書を……」
と、若干要求を下げることにした。
「構わないけど……おそらく無意味よ?」
「大丈夫……魔法を理解できるだけのセンスは秘めていると、自分を信じている……」
何だか都合の良いことを言っている摩姫を尻目に、パチュリーは既に移動を始めていた。
慌てて摩姫は追いかける。
「この辺りのなら、安全よ」
そう言われた本棚の本を取り出し、早速読み出そうとする摩姫だったが、
「……うっ!?」
と、短く呻き、固まってしまった。
「……馬鹿な……全く読めない……まさか、プロテクト!? ……私にはまだ早い、ということか……」
大仰なセリフと共に項垂れる摩姫。
「ね? 意味がないでしょう? 先ずはヘブライ語辺りを読めないと話にならないから」
このように、この日の大図書館は比較的平和だった。
Q こいつら何語で会話してんの?
A 日本語に決まってんだろ、いい加減にしろ! いや、ごめん、ホントは分からない。