人里にて
語り部が片手に持つ本の物語の朗読に合わせ、人形が動く。
人形遣いは片手の指を忙しなく動かすが、人形に糸が繋がっているようには見えない。
また、明らかに片手のキャパシティを超えた数の人形が同時に動いている。
流れるような動きは人間そのもの。
魔法のようだ、とは正にこのこと。
「――本日はこれにて閉幕。ご静聴、ありがとうございました」
語り部かつ人形遣いの恭しい挨拶の後に起こるは、まばらな拍手。
殆どが子供、一部が大人。観客の構成はいつも通り。
ただ、子供の中には、見慣れない服を着た少女が混じっていた。
客が立ち去っていく中、語り部かつ人形遣いの少女――アリス・マーガトロイドは片付けを始める。
しかし、あることに気付き、それを中断する。
「何か御用かしら?」
いまだその場に立ち尽くす観客に問いかける。
先程見かけた、変わった服の少女だった。
「そ、その、初めまして! 私、優木苗っていいます! 聖櫻学園の生徒です!」
緊張しているのか、必要以上に大きな声で苗は答える。
聖櫻学園という言葉は、アリスにも聞き覚えがあった。
「あぁ、事故で集団で幻想入りしちゃった人たちね。災難だったわね」
アリスは片付けを再開しながら、話を続ける。
「それで? 何の用?」
「あ、あの、さっきのお人形さんたち、どうやって動かしてるんですか?」
「どうやってって……あぁ、外の世界の人には分かんないか」
そう言ったアリスの傍らから、西洋人形が一体飛び出した。
そして、踊るように空中を舞い、苗の眼前を飛び回る。
「え、えぇぇっ⁉︎」
あり得ない動きに面食らう苗。
「魔法で動かしてるのよ」
「ま、魔法!?」
「私は魔法使いという種族の妖怪。名前はアリス。アリス・マーガトロイドよ。その子は上海」
自己紹介と人形の紹介を済ませたアリスはちょうど片付けも終えたようだ。
「人形自体は私の手作りだけど、別に仕掛けはない普通の人形よ」
アリスの説明に感心したのか、驚愕したのか、上海を見つめながら、放心したように聞く苗。
その苗が持っていたものに今度はアリスの関心が移った。
「貴女のそれ……そのクマのぬいぐるみ、ひょっとして手作り?」
聞かれた苗はビクッと反応する。どうやら上海にまだ集中していたようだ。
「は、はい。アリスさんのお人形に比べればまだまだですけど、私の手作りです」
「そんなことはないわ。良く出来てる……少し触らせてもらっても?」
「あ、はい。どうぞ」
苗はアリスにぬいぐるみを渡す。
アリスはぬいぐるみを、まるで生きている赤子を抱くように、優しく手にとる。
「本当に良いぬいぐるみ……心が宿っているみたい。すごく優しい、穏やかな心……」
アリスは素直な感想を述べる。俗に言うベタ褒めである。
そんな称賛を受けた苗は少し照れているようだ。
「な、何で私が作ったとわかったんですか?」
「この子の雰囲気が貴女に似てた。製作者の心がこもっているものは、雰囲気が似るのよ」
アリスは可愛がるようにぬいぐるみを撫でる。「この子」とは、もちろんぬいぐるみのことである。
「あ、あの私も、その……」
苗は上海をチラチラ見ながら、アリスに話しかける。
「! えぇ、どうぞ。触れてやって」
アリスの言葉と同時に、上海は苗の目の前にやってきて、抱っこをせがむ子供のような仕草をする。
苗は、アリスと同じように優しく抱きしめる。
「可愛い……それにすごく丁寧な作り……」
うっとりするように上海を眺める苗。
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
アリスの言葉に反応するように、上海が嬉しそうな仕草を見せる。
「さっきの人形劇の人形も、とってもきれいでしたよ」
「そう? じゃあ、こっちも見てみる?」
「いいんですか? ありがとうございます!」
その後、アリスと苗は人形作りとぬいぐる作りの話に花を咲かせた。
「今日はありがとう。実は最近ちょっとスランプ気味だったんだけどね。貴女のぬいぐるみのおかげで初心に戻れたし、今なら良い人形を作れそうだわ」
「そんな、こちらこそ貴重なお話ありがとうございます」
気付けば、夕刻が迫っていた。
その頃には、二人に友情が芽生えていた。
「さようなら、苗。また会いましょう」
「さようなら、アリスさん。またお話聞かせてください」
心を持たぬ人形とぬいぐるみが、心を繋いだこの瞬間。
魔法のようだ、とは正にこのこと。
Q 全キャラ登場させるつもり?
A 東方勢は出来ればさせたいなぁ。ガルフレ勢は端役も含めても無理だな。
次回からは白玉楼編ですが、更新は亀になります。2週間に1回できればいいほうかなぁ。
誠に申し訳ない。