百合好きトレーナーに降りかかる災難の話
ウマ娘同士の絡み合いって尊すぎじゃね?
そう感じたのは物心がつく頃だったか。ともかく衝動に駆られるまま猛勉強して無事、中央トレセンのトレーナーになることができた。そんな俺の初担当となったのは――。
「わわ、ダイヤちゃんごめんってば~!」
わかりやすく頬を膨らませてそっぽを向く親友のサトノダイヤモンドに縋りつくキタサンブラック。我が自慢の担当バである。
「おいおい、また約束ダブルブッキングさせて怒られてんのか。まったく――滾るなぁ」
彼女は間違いなく最高の逸材だ。彼女の周りにはサトノダイヤモンド、コパノリッキー、スイープトウショウなど、まるで百合ゲーの主人公のような立ち位置を獲得している。もちろん走りに入れ込んだところが第一ではあるが、好きなものを合法的に好きなだけ鑑賞しながら仕事ができる。これほどまで恵まれた職場環境がほかにあるだろうか。
「ひょえぇ~~ッ」
「おっと」
いつの間にか現れた同士兼師匠であるアグネスデジタルを抱きかかえる。正直俺も一緒になって昇天したいところだが尊い空間を壊したくない。ここはこのまま退散するか……。
「――また、別の娘と」
去り際に悪寒を感じた気がしたが、気のせいだと思いその場を後にした。
「トレーナーさんトレーナーさん、今度のお休み一緒にお出かけしませんか!?」
トレーナー室に入るなり前のめりで聞いてくるキタサンブラック。
「あー、その日は野暮用が……」
「もう!この前もそういって相手にしてくれなかったじゃないですか!!」
「そうはいってもなあ」
こちらとしては俺なんかよりもっと大事にしてほしい相手がいるというか。絡みは見たいが刺されたりしないか心配なので爆弾処理を頑張ってほしいものなんだが。
「むぅ~、こうなったら!」
「え、ちょっ!」
ガバッと勢いよく抱き着いてくる。
「キタサン、当たってる!当たってるから!!」
「えへへ、何のことかわかりませーん」
「全身をこすりつけるな!」
このままではまずい。マーキングされたかのように匂いが染みついては、キタサンガールズ(勝手に命名)にあらぬ誤解をされてしまう。
「わかった、わかったから!昼からでいいか?」
「本当ですか!?やったぁ!」
ぱっと離れて嬉しそうに小躍りするキタサン。
「言っとくけど、トレーニング用品の買い出しに行くだけだからな!」
「わかってますって。そういう名目、ですよね?」
「ちっともわかってないだろ……。なんだ名目って」
なんか引っかかる言い方だが、とにかく俺が気を付けるべきことは彼女と親しいウマ娘に会わないことだ。
「――そう思っていたんだけどなぁ」
「あ、ダイヤちゃん!」
「キタちゃん!奇遇だね」
あれよこれよと言われるままにいろいろと連れまわされ続けた結果、行く先々で一人ずつと鉢合わせ、挙句の果てにゲーセンでサトノダイヤモンド。もはや危険人物認定されていないことを祈るばかりである。
「キタちゃんもトレーナーさんと?」
「うん!もってことはダイヤちゃんもだよね?」
「そうなの!今あそこでクレーンゲームやってるのが私のトレーナーさん」
クレーンゲームやってるっていうか、クレーンのつかむ役やってるというか……。なんていうか、ご愁傷様です。
「あ、そろそろ出番だから行ってくるね」
そういって店舗の裏側に入っていく。やはりというか、サトノグループだったのかここ。
「何が始まんの?」
「さあ?私にも――って、ダイヤちゃん!?」
「トレーナーさん!ダイヤの思い、受け止めてください!」
巨大なクレーンの下から突如現れたサトノダイヤモンドはとびかかるように彼女のトレーナーに飛び掛かる。彼は抵抗するそぶりを見せるがウマ娘の力に逆らえるはずもなく沸き立つ観衆に対して痴態をさらす。
「すっごい、だいた~ん……」
「オカシイ、コンナコトハユルサレナイ」
ウマ娘はウマ娘同士で恋愛するのではなかったのか。理想が崩れた気がして眩暈がする。
「ト、トレーナーさんあたしたちも」
「やらん!絶対やらんからな!?」
逃げるようにその場を後にする。そのまま解散しようかと思ったが、キタサンがどうしてもというのでそのまま夜道を歩く。
「トレーナーさん、覚えてますか?」
「何が?」
疲れ切った頭では何も考えられないので早く帰って幸せな夢を見たいんだが。
「スカウトの時。君が俺の一番だ、君が欲しいって」
ああ、確かに言った(百合環境的な意味で)。今でもその気持ちは変わってはいないが。
「あたし、本当に嬉しかったんですよ?この人と一緒に頑張ろうって」
そう言いながら顔を近づけてくる。思わずそらそうとするが、そうはさせまいと両手で顔を捕まえられる。
「でも、最近はそっけないですよね。今日だって強引に誘わないと来てくれませんでしたし」
「それ、は」
仕方ないだろ、百合の間に挟まる男にはなりたくない。本人には口が裂けても言えないが――。
「トレーナーさん、知ってるんですよ?あたし、ううん。あたしたちを変な目で見ていること」
「ッ!?」
心臓が跳ねるのが自分でもわかった。今気づいたがこちらをのぞき込む彼女の眼は、どこか濁っているかのような――。
「初めはそれでも良かったんです。あたしをみてくれるんなら―って。でも、最近いろんな人と仲いいですよね」
「ちが、デジタルやみんなとはそんなんじゃ」
「違わないですよ」
胸元に抱き着かれる。猛獣に襲われているみたいでとても怖い。
「何人かはそういう目で見てましたよ。あたしをダシにするような真似されたんじゃもう、やってられないですよねぇ」
キュッ、ときつめに抱きしめられる。
「だから、もう我慢しないことにしたんです。初めてが外だなんて普通じゃないかもしれませんけど」
「何を、言って」
「今度こそちゃんとしたパートナーになりましょうね、トレーナーさん」
そう言って押し倒してくるキタサンに、全てを黒く塗りつぶされた――気がした。
――ジリリリリ!!!
「うわッ!」
ハッとなって飛び起きる。ここは、自室?ということは、今までのは全部夢?ホッと胸をなでおろす。
「なんだ、良かった~」
「何がよかったんですか?」
「!?」
心臓が飛び出るかと思った。
「どうして、ここに?」
「どうしてって、トレーニングの時間になってもなかなか来ないから呼びに来たんですよ?」
「ああそう……」
よく見るとまだ制服姿だ。どうやら今までのことは完全に夢だったらしい。
ま、でもやけにリアルな夢だったし、もう少し彼女と親身になったほうがいいのかもな。
「じゃ、今日も元気にトレーニングするぞぉ!」
「オー!」
笑顔で腕を上げるキタサン。やはり彼女は笑顔でないとな。
二人で自室を出る。部屋に残された彼女の着替えには俺は気づかなかった。
pixivさんでも同様のものを投稿させていただきました。