ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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 今後の試験の流れや、ホワイトルームからの刺客がどんな人なのか想像していると日も傾いて夕暮れ時となっていた。徐々に暗くなっていく空を眺めながら寮に帰り、部屋で夕食の準備をしていた時に、スマホに着信があった。

 

 画面には一之瀬さんの名前が映っている。どうやら生徒会の業務は終わったらしい。

 

「一之瀬さん、時間は空いたのかな?」

 

『うん、ごめんね遅くなっちゃって。今、寮に帰ってる所なんだけど……試験のことで話があるんだよね?』

 

「あぁ、色々と相談したいんだ……あ、そうだ。一之瀬さん夕飯はまだだよね? 予定が無いんなら一緒にどうかな。今、作ってるんだけど」

 

『――え?』

 

 少し驚いた声が耳に届く、そして沈黙も。

 

「サンマのアクアパッツア……今日はちょっとおしゃれで凝った料理を作っております。でもサンマってあまり長く持たないから、一気に作っちゃってさ……どうかな?」

 

 一之瀬さんは沈黙している。息遣いすら聞こえてこない。

 

『そ、それなら……今から、お邪魔させてもらうね』

 

「うん、待ってるよ」

 

 いらないと言われたら清隆でも呼ぶつもりだったが、サンマの処理は彼女に任せるとしよう。

 

 調理をしながら暫くすると控えめなノックが扉から部屋に広がった。一之瀬さんの到着らしい。

 

「いらっしゃい、一之瀬さん」

 

「お、お邪魔します」

 

 扉の向こうには当たり前のことだが一之瀬さんが立っていた。俺を見た瞬間に「エプロンだ……」と小さく呟いてしまう。

 

「丁度、食事もできた所だよ……あ、言い忘れてたけど、ちょっと部屋が散らかっていてね、そこは許して欲しいかな」

 

「そうなんだ、ちょっと意外かも。笹凪くんは整理整頓とかしっかりしてそうなイメージがあったから」

 

 そう言いながら緊張した面持ちで部屋に入ってきた一之瀬さんは、待ち受けていた様々な作品を見て驚いてしまった。

 

「わあ、凄く沢山あるね。そう言えば美術部だっけ?」

 

「ん、それで作った作品の置き場所がなくて困ってるんだ。ここ最近は友人の部屋に置かせて貰ってるからかなり片付いた方なんだけどね」

 

 鈴音さんが崩壊させてしまった件を反省して、本格的に部屋の片付けを行っていた。正確には一部を清隆の部屋に置かせて貰っている。今度は大規模なマネーロンダリングをするつもりなので、それが終われば一気に片付くことだろう。

 

「色々と作ってるんだねぇ……あ、これ可愛いかも」

 

 キョロキョロと部屋を見渡して気になったのは招き猫の彫像であった。かなりデフォルメされた姿をしているそれを見て頬を緩めている。

 

「一之瀬さん、飲み物は麦茶でいいかな?」

 

「あ、うん、ありがとう」

 

 清隆の協力もあって何とかギュウギュウ詰めの状態から改善した我が部屋は、普通に生活する分には何の問題も無く、以前は作品に埋もれていた机の上にも物はない。そこに作った料理とお茶の入ったコップを用意した。

 

 一之瀬さんは暫く招き猫に心奪われていたようだが、俺が机の上に作った料理を並べ始めるとソワソワとした様子を見せる。

 

「……」

 

「あんまり見られると、ちょっと恥ずかしいんだけど」

 

「にゃはは……ごめんね、エプロン姿がちょっと新鮮だったから、つい」

 

「まあ普段は制服だものね」

 

 俺も他人のエプロン姿を見たら似たような感想を思うのかもしれない。

 

「さぁお嬢様、本日の献立はサンマのアクアパッツアとなります」

 

 ちょっと気取った感じにそう伝えると、一之瀬さんは少し恥ずかしそうに頬を染めて、俺が引いた椅子に座るのだった。

 

「自信作なんだ。どうぞどうぞ」

 

「うん、それじゃ遠慮なくいただきま~す……あ、美味しい」

 

 サンマの切り身を口に運んですぐに頬が緩んでいく。可愛らしい表情だと俺は思った。美味しそうにしている女性の表情は魅力的だと思う。

 

「笹凪くん、料理上手なんだね」

 

「こればかりは長じていると言えるのかもしれない」

 

 この学校に来る前も毎日作っていたからな。料理もそうだけど師匠の酒の肴なんかも俺が作っていたのだ。

 

「さて、一之瀬さん。食事しながらで構わないから試験のことで相談しようか」

 

 幸せそうな顔で料理を楽しむ彼女は、その言葉に現実に引き戻されたかのように表情を戻してしまう。ごめんね、あんな面倒な試験のことを思い出させてしまって。

 

「う、うん……なんていうか、本当に残酷な試験だよね」

 

「ああ、正直腹が立ってるけど。決まってしまった以上はどうしようもない。堂々と乗り越えるしかないと思っている」

 

「笹凪くんのクラスは、どうするつもりなのかな?」

 

「こっちは救済の方向で纏まったよ」

 

「反対意見は出なかったんだ」

 

「出なかったというか、単純に余裕があったんだ」

 

 財布に億単位のポイントがあると2000万くらいは穏やかな顔になれる。師匠曰く余裕は大切とのこと。

 

「そっか……Bクラスはポイントを工面できたんだ」

 

「一之瀬さんクラスはどうなんだい?」

 

 そう訊ねると彼女は視線を下げて考え込む。

 

「誰が退学になったとしても、救済する方向で動いているよ……うん、でも」

 

「ポイントが足らないか」

 

「そう、だね……Bクラス程余裕はないかも」

 

「あ~……実は、ちょっと噂を小耳に挟んだんだけど……一之瀬さんは南雲先輩から支援をしてもらうと」

 

「え、どうしてそれを……」

 

「情報元は朝比奈先輩だ」

 

「あはは、そうなんだ。心配させちゃったかな……やっぱり、その、支援して貰う条件も聞いてたりする?」

 

「南雲先輩と交際する条件とは言っていたよ」

 

 サンマが美味い。師匠もよく酒の肴にしていたことを思い出す。今の話とは何の関係もないけど。

 

「うん、そうなんだ……どれだけポイントを掻き集めても足らなくて、不足分をどうしようかなって思った時に、二つの方法が思い浮かんだんだよね」

 

「一つは南雲先輩か……あの人は学年中からポイントを集める体制を作ってるらしいから、工面はできるだろうな」

 

 しかし二年生は納得するんだろうか。自分たちの為ではなく一之瀬さんと交際する為にポイントを使われることに……いや、もう半場諦めているのか。

 

「でも、もう一つは何なのかな?」

 

「それは、その……」

 

 彼女の瞳はおずおずと俺に向けられた。不安と焦燥に彩られた瞳は、頼っちゃいけないと理性では思いながらも、どうやら選択肢の一つとしては思い浮かんでいたらしい。

 

「笹凪くんはさ、大量のポイントを持ってるって噂が一時期あったでしょ。ウチのクラスの美術部の子から聞いたんだけど」

 

「なるほど、俺からポイントを支援して貰う方向性か」

 

「だけど、それは駄目かなって……私たち、ライバルな訳だし。他所のクラスの危機にポイントなんて貸してくれないよね」

 

「だから南雲先輩か……ん~、一之瀬さんはそれでいいのかな?」

 

「……どうだろうね」

 

 その顔で大丈夫ということも無いだろうに。

 

「笹凪くんはどう思うかな?」

 

「上級生に支援して貰うのは1つの攻略法だと思う。何も間違ってはいない」

 

「うん……」

 

「けれど交際というのはよくわからない。そんなの抜きにして普通に申し込めばいいと思うな」

 

 それが作法なのかもしれないと最初は思ったのだが、どうやら彼女や朝比奈先輩の反応を見る限り、そんなことはないらしい。

 

「でも、それ以外にクラスメイトを助ける方法が無いんだよね」

 

「いや、ある」

 

「え……」

 

「実は俺は今、自己満足のお節介をまき散らしている最中なんだ。俺から君に2000万渡そうと思っている」

 

「……」

 

 黙られてしまった。まあ気持ちはわからなくはない。俺もいきなり2000万渡すと言われたら、渡された箱の中に爆弾でも入っているのかと疑うだろうから。

 

「つまり、笹凪くんがポイントを支援してくれるってことかな……自分のクラスだって大変なのにこっちまで、それにやっぱりライバルだもん、難しいよ」

 

「そんなことはない。君も俺が大量のポイントを持っている噂は耳にしている筈だ。そしてそれは事実……俺は自分のクラスを救済した上で他所のクラスを支援するくらいの余裕がある」

 

 目の前にいる一之瀬さんの瞳にこれまでとは違う色が宿っていく。期待と希望と、僅かな不安だろうか。

 

「で、でも条件があるんだよね?」

 

「いや、無い。無利子無担保の催促無しだ。俺からは返せとは言わないし、踏み倒してくれることを寧ろ期待している」

 

 意味が分からないだろうな。言ってる俺自身ですらこいつ馬鹿だなって思い始めているくらいには、滅茶苦茶な発言であった。

 

「何だったら今の条件を誓約書に印して学校側に提出しても良い」

 

「どうして……そこまでしてくれるのかな? 私たちはライバルだよ、どこかで戦うことになるよね」

 

「よくわからない発言だ。ライバルだから助けてはいけないのかい?」

 

「……」

 

「俺が君を助けるのに、大層な理由もごちゃごちゃした理屈もいらない、君が困っているのならそれだけで十分だろう」

 

 一之瀬さんは絶句している。驚きのあまりポカンと開いた口も閉じれていなかった。

 

「それにこんな理不尽な試験で退学者が出ることにちょっと思う所もある。だからいっそ全てのクラスに2000万を配ろうかなって考えてね。既に坂柳さんとはそういう方向で話が済んでる」

 

「坂柳さんと?」

 

「彼女は俺が善意の押し付けをしたいという意思を汲み取ってくれてね。ついでに葛城派から優位を得る為の材料にするみたいだ……当然ながら彼女に渡した2000万を返してもらうことはない。後日正式にさっき言った条件の誓約書を作るつもりだ」

 

「それなら龍園くんにも渡すのかな?」

 

「応とも、彼が困っているのなら、それだけで助ける理由としては十分だ」

 

 強い意思を込めてそう伝えると、彼女は眩しい何かでも眺めるように瞼を細めてしまう。そして坂柳さんと同様に物憂げな顔となってしまった。

 

 何故か心配されてしまうな。俺は俺のやりたいように動いているだけなのに。

 

「笹凪くんは凄いね……本当に、遠い人だよ」

 

「目の前にいるじゃないか」

 

「そういう意味じゃないよ……何もかも届かないくらいに凄く遠くて、眩しい人だなって。太陽みたい」

 

「俺は灼熱の男でもない」

 

「もうッ、だからそういう意味じゃないよ」

 

「ふふ、ごめんごめん。ちょっとおどけただけさ」

 

 返って来る反応が楽しかったのでつい揶揄ってしまったようだ。シリアスの雰囲気をいつまでも引きずりたくなかったのも理由の一つである。

 

 姿勢を正し、改めて一之瀬さんを見つめる。結び合った視線はさっきまであった不安や焦燥が消えているのがわかった。

 

「一之瀬さん、力にならせてくれ」

 

「本当に、良いの? 私は、何度も何度も助けられているのに、また迷惑かけちゃうよ」

 

「何一つとして問題はない、俺は俺の為に、ただ自己満足を突き詰めているだけだ……言ってしまえばこれは全て俺自身の欲望であり、余計なお節介と善意を押し付けているだけだからさ」

 

 他者を助けたいとは思うけど、それは理由の一つでしか無く。真ん中にあるのは己の都合でしかない。

 

 そうやって死んで逝くと決めた時点で、きっと俺は碌な死に方しないんだろうなと何となく思うけど、それで良いと受け入れている。

 

「だからさ、俺の都合に巻き込まれて勝手に笑顔になって欲しい」

 

「……」

 

 その言葉に一之瀬さんはクシャっと表情を崩してしまう。泣くのを我慢しているようにも見える。

 

「本当に、ズルいよ……こんなことされちゃったら」

 

「そうさ、俺はズルいんだ。勝手に君に利益を与えてしまうくらいにね」

 

 スマホを操作して俺は2000万ポイントを彼女の端末に送る。

 

「もってけ泥棒」

 

「泥棒じゃないよね!?」

 

「ごめん、このセリフを一度言ってみたかったんだ。後、いつまでもシリアスな雰囲気を続けられても正直迷惑だから」

 

「う~ん、そう言われても私は困っちゃうよ」

 

「道端に2000万落ちててラッキーくらいに思って欲しいな」

 

「そんな無茶な!?」

 

「でも、実際似たような感じだろう。なら、それで良いのさ」

 

 龍園なら鼻歌を奏でながらポケットにしまうだろう。悪びれることもなく。それくらいの感覚でこの2000万は受け取って欲しい。

 

「笑ってくれ一之瀬さん……君は笑顔の方が似合ってる」

 

「――んにゃ」

 

 奇妙な呟きを口から漏らし、そして忙しそうに瞳を揺れ動かして、最終的には見つめ合う形となってしまう。

 

「さぁ、食事を続けよう。今日のは自信作だから美味しく食べて欲しい」

 

「わかったよ……そうさせて貰うね」

 

 よしよし、これで一之瀬さんクラスは問題はないだろう。幾つかの賞賛票をこっちに回してくれることも約束しておけば清隆にプロテクトポイントを持たせることも難しくはない。

 

 二人で食事して、ちょっと試験に愚痴ったりしながらも、有意義な夕食であったと思う。やはり一人で食べるよりも誰かと一緒の方が美味しく感じられるな。

 

 夕食を終え、最後に笑ってくれた一之瀬さんを見送り、俺はベッドに背中を預けて仰向けになってスマホを弄る。

 

「後は龍園クラスだけだな」

 

 彼に関してはそこまでダラダラと言い訳は必要ないだろうなと考えていると。まるで俺の考えを受け取ったかのようにその龍園から電話がかかって来るのだった。

 

 今日は本当にスマホがよく震える日である。それだけ大事であったということだろう。

 

 耳にスマホを当てて通話状態にすると、龍園は開口一番こう発言してくれる。

 

 

『笹凪、さっさと2000万寄こせ』

 

 

 うん、これでこそ龍園だ、こうじゃなきゃ困るのが龍園である。本当に話が早くて助かる男と言えるだろう。

 

「龍園、君は本当に話が早くて助かるよ」

 

『あぁ? 何言ってやがる。テメエのことだからもう他所のクラスに配ってんだろうが』

 

「その通りだ。この通話が終わったら君の所にポイントを送るよ。あ、ついでに南雲先輩との賭けの分のポイントも上乗せしておくから」

 

『なんだお前が持ってたのか。そろそろ学校側に訴えようと思ってたのによ』

 

 俺も訴えられたくないのでしっかりポイントは渡しておこう。

 

「ところで君は今回の試験をどう思うかな?」

 

『どうもこうもあるかよ、要は学校側が屁理屈こねてテメエの資金を削ろうって魂胆なんじゃないのか』

 

 なるほど、清隆の背景を知らず、俺の資金力を把握している龍園からすると今回の試験はそんな風に見えるらしい。

 

『で、大丈夫なのか?』

 

「どういうことかな?」

 

『退学者がいないからなんてふざけた理由でぶち込まれた試験だぞ。今回を凌いだ所で退学者が出なければまた繰り返される可能性もあるだろうが』

 

「それに関しては問題ない」

 

『……理由は?』

 

「口では説明できないが、まぁ大丈夫だ。二度目は無い、それは俺が保証しよう」

 

 何故なら、もし二度目があれば俺が退学するからだ。ついでにホワイトルームからの刺客を排除して、その足で本拠地と元凶も叩く。

 

 例の刺客とやらが暴れた結果の試験ならばこれで終わるだろう。できればやりたくないけど、相手が悪いから仕方がない。

 

「まあそこまで心配しないでよ。とりあえずそっちに2000万送るから幾らか賞賛票を回して欲しい、そっちは?」

 

『問題はねえ』

 

「了解、じゃあそっちは上手く着地させてね」

 

 通話を終えてすぐにスマホを操作して龍園に2000万を送った。これでこの滅茶苦茶な試験は終わることになるのだった。

 

「あ、先輩たちにもポイントを送らないとな」

 

 南雲先輩の動きを知らせてくれた二年生たちにも報酬を払わないといけない。正直、役に立ったかと言われると微妙な所ではあるが、ここで金払いが悪いと思われると情報を回して貰えないかもしれないので、そこはしっかりしておこう。

 

 とりあえず三十人近いスパイ候補たちにはそれぞれ30万ほどを送っておく。これで情報をまた回してくれるだろう。彼ら彼女らはAクラスに上がった反南雲派が羨ましくて奥歯を鳴らしている程なのだから。

 

 キッチリとポイントを送って、また宜しくお願いしますとメールも添えると、今日やらなければならないことはこれで終わりとなる。

 

 後はゆっくりできるな。鈴音さんから借りた本でも読みながら過ごすとしよう。

 

 

 俺の中では既に試験は終わったも同然だ。学年末にあるという特別試験にリソースを注ぐとしよう。そんなことを考えていると、まだ休ませないとばかりにまたもやスマホが震えだす。

 

「誰だ……ん、桔梗さんか」

 

 画面には櫛田桔梗の文字。偶に愚痴に付き合うのでそれなりの頻度で電話はしているのだが、この時間にかかってくるのは珍しいな。

 

「どうしたのかな桔梗さん。また苛ついてるのかな」

 

『違うよ!? 天武くんの中で私はずっと苛ついてるイメージなのかな?』

 

 その通りじゃないかとは、口にしない方が良いんだろう。

 

「冗談さ……それで、どうしたんだい?」

 

 口調と伝わって来る感じから、只の電話ではないらしい。だとしたら相談したいことがあるということだ。

 

『うん、えっとね……実は、春樹くんからちょっと相談を受けてね』

 

「山内から?」

 

『春樹くんが言うにはね、今回の試験で2000万は貯金して使わない方が良いんじゃないかって言うんだよね……それで、綾小路くんを退学させるべきなんじゃないかって、凄く遠回しに相談されたんだ』

 

「なんでまたそんなことを……理由は?」

 

 すると、電話の向こうで桔梗さんは困ったかのように、あははと笑う。

 

『ほら、最近の春樹くん、佐倉さんを露骨に意識してるでしょ? それでその佐倉さんは綾小路くんと仲が良いから……ね?』

 

「……おいおい」

 

 何をやってるんだ彼は、既にクラスが救済で纏まっている状況でそんなことをすれば、自分に批判票が集まるってわか……らないんだろうな。

 

「それで、桔梗さんはなんて言ったのさ」

 

『やんわりと注意したかな……でも、どうだろう、ちゃんと伝わったかどうかは……あはは』

 

 自信の無い言葉が返って来る辺り、山内の行動は止められなかったらしい。

 

「ん、報告ありがとう……山内に関しては、明日にでも話してみるよ」

 

『ごめんね』

 

「いいさ、君は何も悪くない」

 

 そんな通話を終えて俺は瞼の奥に妙な疲れを感じ取った。まさかこんな形で煩わせるとはな。

 

 しかし彼は自分が置かれた状況がわかっているのだろうか? この状況でそんなことを言っても自分に批判票が集まるだけだろうに。

 

 せめてもっと上手く票を動かすように立ち回って、その上で俺が2000万を使うことに躊躇させるような状況を作って欲しい。これではただ不和をまき散らしているだけである。

 

 明日、どうなるのやら……。

 

 

 

 

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