ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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学級裁判

 

 

 

 

 

 

 

 やったことのケジメは付けなければならない。当たり前のことではあるけれど、それは俺も山内たちもそうだし、学生に限らず大人だってそれは同様だろう。

 

 いや、まあ、俺はそんな偉そうなことを言える立場では無いんだけれども、捕まらないからって好き放題振る舞っている訳だからな。

 

 それでも道理と信念は曲げることはないと思っている。どうしようもない程に悍ましい最後を迎えることになったとしても、己の業だと認めるしかないだろう。そこはもう受け入れている。

 

 だから俺は山内を責めたりはしない。そこまで清廉潔白な人間ではないからだ。

 

 何とも矛盾した話である。誰かを責める資格も無いというのに、誰かを追い詰めようだなんて。

 

 だがこれで良いと思う。師匠曰く悩みは大切とのことだから。いつまでも矛盾を抱えたままで行こう。

 

 さて、俺の資格や矛盾の話はどうでもいい。この場で大切なのは山内たちのことだからな。

 

 クラス内投票が明日に迫っているが、このクラスは救済で纏まったので随分と落ち着いているのがわかる。ただしこの滅茶苦茶な特別試験とは別の緊張感が広がっていた。

 

 理由は単純だ。この後にちょっとした会議というか……裁判のような物が行われるからである。

 

 すまない、滅茶苦茶怒っていた軽井沢さんを止めることが出来なかった。女子の大半を味方に付けられると流石に止めようもない。

 

「よっしゃ、ようやく部活だぜ」

 

 本日最後の授業が終わり、須藤が勢いよく立ち上がってバスケ部としての活動に勤しもうとするのだが、それに待ったをかける人がいた。

 

「待ちなさい須藤くん、少し貴方に話があるわ」

 

「お、どうしたんだよ鈴音、何の話だ」

 

「……気安く名前を呼ばないで頂戴」

 

「え、いや、なんでだよ」

 

「自分の胸に聞きなさい」

 

 鈴音さんは静かに怒っている。そして須藤から視線を外して池と山内と博士を睨んだ。

 

「貴方たちも教室の外に出ることは許可しないわ、そこで待機していなさい」

 

「は、何でそんなことするんだよ、意味わかんねえって」

 

 池が文句を言って、山内もそれに同調した。

 

「そうそう、俺はこの後、予定があるんだけど」

 

 博士だけは何やら嫌な予感がしたのか、顔を青くして鈴音さんではなくクラス全体の雰囲気を感じ取っているな。

 

 そして気が付く、主に女性陣からの汚物を見るような視線に。

 

「ま、拙い……これは拙いでござるッ」

 

 おや、混合合宿以降、鳴りを潜めていたござる口調が復活しているな。咄嗟の状況だと染みついた癖はどうしても出て来るということだろうか。

 

「被告人四名以外は好きにしてくれて構わないわ。ここに残るのも、教室を去るのも自由よ」

 

 不穏な様子に包まれた教室を去ろうとする者はいない。高円寺ですらどこか面白そうな顔で足を組んでこの状況を眺めることに決めたらしい。

 

 これから行われるのは学級裁判、ブチギレた軽井沢さんが女子チームを扇動したことでこうなってしまったのだ。

 

 軽井沢さんの動きは早かった。山内が清隆の印象操作をしていることを知り、その内容を知った段階で彼を吊し上げることに決めたらしい。ついでに盗撮の実行犯である池と須藤と博士も一緒に。

 

 あまり事を荒立てるのもどうなんだと思わなくはないけれど、既に女子チームはそういう方向で動いていたので止めようがなかったんだ。クラス内投票が終わった後に山内を個別に呼び出して説教するつもりだったのだが、止めきれずこうなってしまった。

 

 仕方がないな、事の成り行きに任せるとしよう。女子チームの主張も極めて正当なものだから反論もできない。

 

「あたしは我慢ならないことがあるのよね」

 

 教室の前方、黒板と教壇の間に立った軽井沢さんが、被告人となった四人を睨みつける。

 

「山内くんさぁ~……なんかここ最近、変な噂を流してるよね。綾小路くんが盗撮したとかどうとか」

 

「あ、あぁ、いや、別に、何というか……」

 

 自分たちを取り囲み睨みつける女子チームの雰囲気に押し負けてか、山内はしどろもどろになりながらキョロキョロと視線を彷徨わせていた。

 

 この段階になると須藤や池も博士と同様に異変に気が付く。自分たちは今、大勢を敵に回しているのだと。

 

「いや、盗撮してたのってアンタだよね……後、池くんと須藤くんと博士くんもそうらしいじゃない」

 

 そんな軽井沢さんの発言と同時に、四人は一気に顔を青ざめさせていく。

 

「ち、違ッ……」

 

「は? 何が違うって言うのよ。こっちはアンタらが仕掛けたラジコンとカメラもしっかり把握してるんだけど……何も映ってなかったよね? そりゃそうだよ、だってあたしがSDカードを差し替えて未遂にしてあげたんだから」

 

 女子チームの怒りが膨れ上がっていき、その圧力に押されるように被告人の四名は教室の隅に追い込まれていった。身を寄せ合って震えている姿は同情を……いや、誘わないな。

 

「ま、待てって落ち着けよッ……こんな所でそんな話をしたらさ、クラスポイントだって引かれるかもしれないだろ!?」

 

 池の言葉を否定したのは、なんと面白そうにこの状況を眺めていた高円寺であった。

 

「ハハハッ!! 愚かだねえ、一之瀬ガールの一件でわかった筈だろう? この学校は生徒からの訴えが無いとまず動かない上に静観すると。そして我々は暴力を振るっている訳でもなければ、喧嘩をしている訳でもないのだよ。ただクラスで話し合っているだけで損失など被らないさ」

 

 女子チームを援護したと言うよりは、この状況を見世物のように思っているからこその援護なのかもしれない。

 

 ただ高円寺の言葉は事実だ。確かに一之瀬さんへの誹謗中傷があった時、彼女が訴えなかったばかりに、終ぞ学校は動かなかった。

 

 あの後、ポストに誹謗中傷のプリントを投函した生徒が裁かれたとも聞かないし、本当に静観したんだろうな。

 

「そういうこと……で、言い訳がある訳?」

 

 軽井沢さんがそう言うと女子チームは一歩詰め寄る。同じ距離を後退しようにも四人は既に壁際まで追い詰められているので不可能だ。

 

 四人とも視線を右往左往させて顔を青ざめさており、どうにかこの窮地を脱出しようと活路を探しているようだが、残念なことにどこにも逃げ場はない。

 

「あの時はさ、表沙汰にしてクラスに迷惑がかかるのが嫌だったから黙って見逃したの……けどさ、この状況で綾小路くんに何もかもを押し付けるのは流石に黙ってられない訳よ」

 

「うぐッ」

 

 山内は四人の中で一番焦ってるかもしれないな。

 

「事情をまだ知らない人がいるかもしれないから説明しておくとね。この四人は夏休みに色々とやらかして、綾小路くんはそれを天武くんに相談、そして私に話が回って来て対処したの」

 

 女子チームは既に大まかな情報を共有していたのだが、男子の中にはどうしてこんなことになっているんだと思っている者もいたので、軽井沢さんはざっくりと事情を説明した。

 

 そしてここ最近、山内が流しているここだけの話と合わさることで、ほぼ全員が納得するのだった。

 

「最ッ低!!」

 

 冷たい篠原さんの言葉が池に刺さる。ここ最近は何だかんだで良い雰囲気になっていたようだが、凍えるような視線になっている。

 

「しかもそれを綾小路くんに押し付けるって……幾ら何でもヤバすぎ」

 

 松下さんも同様に極寒の視線で四人を、中でも山内を鋭く突き刺す。

 

「き、桔梗ちゃん……助け――」

 

「……ごめんね、寛治くん」

 

 まさに針の筵となった四人の視線は教室中を彷徨い、池は藁にも縋る思いで桔梗さんに活路を見出すのだった。ただ彼女も思う所はあるだろうし、女子チーム全てを敵に回してまで四人を庇う意味がない。

 

 それでも申し訳なさそうな顔でごめんと言いたげに両手を合わせるのは、アイドルとしての最後の配慮なのかもしれないな。

 

「す、鈴音……違うんだ、これは、だから」

 

「これは、だから? 何? そもそも気安く名前を呼ばないで貰えるかしら」

 

「……」

 

 体育祭で頑張って名前呼びを許して貰った須藤ではあるが、どうやら評価は地を這う程に低くなってしまったらしい。汚物でも見るかのような鈴音さんの瞳に黙るしかなかった。

 

「多少なりとも落ち着いたと思っていたけれど……見誤っていたようね」

 

 最早、彼らに味方はいない、鈴音さんの言葉が全てである……自業自得と言ってしまえばそれまでなのだが、そんな四人にも手を差し伸べる者がいた。苦労人平田だ。

 

「み、皆、ちょっと良いかな?」

 

 桔梗さんですら彼らを庇うことを躊躇した中で、彼だけは四人の側に立つ。いや、立たされたと言うべきなのかもしれない。

 

「皆の怒りや苛立ちは、仕方のない事だと思う……けれど、その」

 

 チラチラと、平田は教室の隅で身を寄せ合っている四人に視線を送るのだが、その度に苦々しい表情となっていく。

 

 まあ、盗撮犯を庇う言葉はそう簡単に出て来るものじゃない。幾ら平田でもだ。

 

 彼は自分に祈りを捧げる四人を見て、喉の奥から何とか言葉を吐き出そうとするのだが、美辞麗句はいつまでたっても出て来ない。

 

 庇いたいという思いと、女子たちの怒り、どちらが正しいのかは言うまでもないだろう。

 

「僕はその……」

 

 平田の視線が池と山内と博士と須藤の順に移ろっていき、最後には俺に向けられた。

 

「ごめん……無力だ」

 

「諦めんな平田ぁぁぁあッ!?」

 

 池と須藤の叫びが虚しく響く。流石の彼もこの状況はどうすることもできなかったのだろう。誰が彼を責められるというのか。

 

「笹凪くん……すまない、力を貸して欲しい」

 

 最後に彼が頼ってきたのは俺である。それ自体は構わないし良い傾向であるとも思う。平田は何もかもを自分だけで背負おうとする男だからな。面倒事を丸投げすることも偶には必要である。

 

 平田の助けを求める視線と、四人の願うような視線、そして女子チームの苛立ち交じりの視線を一身に受けて、俺は席から立ち上がった。

 

「軽井沢さん、すまないがここは俺に任せて欲しい」

 

「……わかった」

 

 そして彼女と位置を交代するように、黒板と教壇の間に立ち、混乱極まる教室を見渡すことになる。

 

 集中を高めていき、師匠モードになった瞬間に全員がビクッと体を震わせたことを確認して、力強くこう言い放つ。

 

「全員、席に座れ」

 

 内心では不服だろう、当たり前だ。それでもただ言い争うだけならば一向に終わりが見えないので、ここは俺に従ってくれるらしい。

 

 女子も男子も、そしてあの四人も、とりあえず席に腰を下ろす。

 

 全員が席に座ったことを確認して暫く言葉を発さずに無言の時間が訪れた。堀北先輩を見習って沈黙と言う話術を使ってみる。

 

「須藤、池、博士、そして山内」

 

 師匠モードのまま四人の名前を呼ぶと、彼らはわかりやすく体を震わせて見せる。ある程度の苛立ちを乗せた言葉だったので、喉元に刃物を突き付けられているような感覚になったのかもしれない。

 

「盗撮をしたのは事実だな?」

 

「い、いや、それは……その」

 

 この期に及んでまだ取り繕うとする山内を、強く睨みつけると彼は涙目になってしまう。

 

「はいか、いいえで答えろ」

 

「……はい」

 

「盗撮は犯罪行為だ、どうしてかを説明する必要があるか?」

 

「……いいえ」

 

「退学どころか警察沙汰になることもわかる筈だ。そうだな池?」

 

「……はい」

 

「清隆はお前たちの犯罪行為を未遂にする為に動いていた、軽井沢もだ。表に出て来なかったのは、クラス全体に迷惑がかかるからに他ならない……つまりお前たちの首は二人の配慮によって繋がっているということだ。須藤、反論はあるか?」

 

「ね、ねえよ」

 

「言葉遣いには気を付けろ。いつまで中学生気分でいるつもりだ」

 

 師匠モードで圧力をかけながらそう伝えると、須藤は顔を青くしながらカクカクと首を頷かせた。

 

「あ、はい……ありません」

 

 その殊勝な態度をあの日に得ていて欲しかったものである。

 

「博士、自分たちの立場と行動に擁護できる点はあるか?」

 

「な、ないでござる」

 

「お前も言葉遣いを正せ。混合合宿で学んだことをもう忘れたのか」

 

 ここ最近は口調は普通だったのだが、追い詰められると癖が出て来るらしい。

 

「申し訳ありません。何一つとしてありません」

 

「そうだ、何一つとしてない……お前たちの行動は幼稚そのものであり、覆しようがない犯罪行為だ」

 

 俺にお前たちを説教する権利などありはしないが、それでも誰かがやらなければならないのならば、俺がやるしかない。

 

 せめて薬になれと願いながら、説教するしかないな。

 

「幼稚であることは罪ではない、しかし社会はそれをいつまでも許すことはない。言葉と行動には責任が付きまとう。俺たち高校生は子供だからと許されることもなければ、相応に落ち着きを得て責任を背負う立場でもある……だというのにお前たちは一体いつまで中学生気分で過ごしているんだ。あぁ、過去のことで今は違う等とつまらない言い訳はするなよ」

 

「……」

 

 四人は視線を下げて黙り込んだ。少なくとも表面上は反省しているようには見える。

 

「クラスに迷惑がかけられないからと、胸の内に閉まって墓まで持って行こうとしていたが、事が大きくなった以上はしっかりと追及して反省を促す必要があるだろう」

 

 そうでなければ女性陣がおそらく納得しないからな。

 

「どんな言葉がいい? 罵詈雑言か? それとも罵倒か? 或いは鉄拳制裁か? この期に及んで謝罪一つしないお前たちに相応しいのはなんだ」

 

 そう言えばそうだと女子の何人かが山内たちを睨む……本当に申し訳ないと思う。

 

「はぁ……お前たち、まずは謝罪だ」

 

 最初に動いたのは須藤である。椅子から立ち上がるとそのまま額を机に叩きつけるかのような勢いで頭を下げた。

 

「すまない」

 

 短くシンプルなそれは言葉足らずであるが、今は何も言うまい。そんな須藤に続くように池と博士と山内も大慌てで頭を下げて謝罪の言葉を口にした。

 

「謝罪は大切だ、少なくともそれは最初の一歩になるだろう……頭を上げてもう一度座れ」

 

 改めて教室を見渡すと、男子は四人に呆れていて、女子は怒りや苛立ちを抱いているのがわかる。この辺は性別の差が出る場面なのかと内心では思いながら、俺は次の行程に進むことにした。

 

「お前たちに最も必要なのは何かを考えた、どうすれば反省をしてもらえるのか、二度とつまらない過ちを繰り返さないのか……だが、これといった案は思い浮かばないのが現状だ」

 

「笹凪くん、いいかな?」

 

「どうした、平田」

 

 沈黙が広がる中で挙手して声を上げたのは平田である。彼は不安そうな顔をしながらこんなことを訊ねて来た。

 

「もしかして……退学させるべきだと考えているのかい?」

 

 不安に思ったのはそこか、クラスの平穏を願う彼らしい言葉と思いと言えるのかもしれない。

 

「教育とは教え導くことだ。切り捨てることじゃないからな……だからそこは安心しろ」

 

「そうか、良かった……えっと、彼らも反省しているようだし、あまり追い詰めるのは」

 

「そうだな、しかし良い機会であるとも思っている……これはこの四人に限った話ではないからな」

 

「どういうことかな?」

 

 教室を見渡すと男女三十九名の集団がいる。彼ら彼女らが構成する社会がある。

 

「この四人が悪いのは大前提として、皆に問いたい。日々の日常の中で、各々が正しく誇れる生き方を出来ているのだろうかと」

 

 少しだけ教室がザワついた。まさか話が四人から全体に広がっていくとは思っていなかったらしい。

 

「他者と接する時、最低限の配慮を忘れていないか……言動に責任が伴うことを実感しているのか、普段は意識していなくとも、ふとした言葉で誰かを傷つけていないか。良い機会だから、この場にいる全員がこれまでの生活を振り返って欲しい。きっと、誰にでも思い当たる何かがある筈だ」

 

 幾人かはギクリとした顔をしているな。男女を問わずにだ。

 

「俺もまた同様だ。幾つか憂慮すべき点が出て来る……きっと皆もそうだろう。せっかくの機会だ、今それぞれの胸にある憂慮と後悔を薬にして欲しい。今後もこのような試験が行われるかもしれないが、日々の行動や言葉が回り回って自分に返って来るかもしれないと危機感を持ってくれ」

 

「……」

 

 クラスメイトたちは思いつめた顔をしているな。当たり前のことだけど過ちのない人間など存在しないのだから自然な反応である。

 

「それこそがこの試験の本質であり、俺たちが目指さなくてはならないゴールでもあるんだろう……最低限の配慮というものを、忘れてくれるな」

 

 そして視線と話題が問題の四人に返っていく。

 

「山内……お前の行動は著しく配慮に欠けて短慮な上に、擁護の余地がない」

 

「そ、それは……う、ごめん」

 

「謝るのは俺か?」

 

 彼の体は教室窓際の最後方で黙って事の成り行きを見守っていた清隆に向けられる。流石にここで誰に謝るべきかすらもわからないなんてことは無かったか。

 

「綾小路……俺が悪かった、すまない」

 

「あまり気にするな、だがしっかり反省はしてくれ」

 

 清隆は静かにそう返すだけだ、怒っている訳でもなければ、苛立っている様子でもない。ある意味いつも通りであった。

 

 或いは、山内にあまり興味が無いのかもしれない。入学当初はそれなりに絡んでいたようだが、体育祭以降は殆ど関わることも無かったからな。

 

「それぞれの謝罪の言葉と意思は共有できたと思う……だが、それで許しますと女子たちは言えないだろう」

 

「それは当然だし、だって私たち何にも悪くないから」

 

「その通りだ軽井沢。その言葉に一切の反論が出来ない……だが、俺はここで彼らとの間に決定的な確執を残したくはないと考えている」

 

「じゃあ何、天武くんは許せっていうの?」

 

「違う、そんな上辺だけの言葉に意味はない……ただ、チャンスが欲しい」

 

「チャンス?」

 

「そうだ。四人の行動は愚かの極みとしか言えず、山内に至っては擁護できる余地すらもない……だがさっきも言ったが、教育とは教え導くことであり、切り捨てることではない。だから彼らに反省を促し、信頼を回復する為のチャンスが欲しい」

 

 ある意味では、四人に最も必要な制裁と罰はこれなのかもしれないな。

 

 罵詈雑言でも鉄拳制裁でもなく、全く無関係な人間の姿と行動だ。

 

 俺は静かに、先ほどの須藤と同じく、教壇に額がくっ付くほどに腰を折り曲げて真摯に頭を下げた。

 

 これで譲歩が貰えないなら土下座しても良い。機会を得る為ならばそれくらいが必要だろう。

 

「え、ちょ、天武くんが頭を下げる必要ないでしょ!?」

 

「許せとは口が裂けても言えない。それは逆にお前たちを侮辱して軽く扱うことになるからだ……俺に出来るのはただ頭を下げることだけだろう」

 

 ここで退学になどさせないし、女子との関係を決定的に破綻もさせない。そんなことは許されない。

 

 

「皆……譲歩が欲しい。俺たちにやり直せる時間と機会が欲しい……頼む、この通りだ」

 

 教壇に額をくっつけた状態でのそんな要求に、教室はまたも静まり返る。あの四人は今の俺をどんな気持ちで見ているんだろうな? ある意味では殴られるよりもキツイのかもしれない。

 

 自分の過ちで、自分ではない誰かが頭を下げるのを見るのは、思っているよりも堪えるだろうからな。

 

「誰にでも過ちはあるからなんて言葉は使わない、許してくれ等と言える訳もない……だが、たった一度だけで良い、俺たちに信頼を取り戻す機会を与えて欲しい」

 

 俺の謝罪に女子たちは困惑しているのだろう。いや、それは男子も同じか。

 

 さてどうなるだろうか、これで譲歩が引き出せないなら師匠直伝の土下座をするとしよう。

 

 そんなことを考えていると、まず最初に桔梗の声が耳に届くことになる。

 

「私は、天武くんの考えに賛成かな」

 

「え、でも良いの?」

 

「良くはないけれど……でもね軽井沢さん、天武くんはこれまでクラスのことで沢山頑張ってくれたから、ダメだなんて言えないよ。山内くんたちも天武くんにここまでさせたことを色々考えて、しっかり反省して欲しいな」

 

「僕も同じ気持ちだ……それに笹凪くんにだけこんなことをさせる訳にもいかない」

 

 次は平田の声が頭を下げている俺の耳に届く、少しクラスメイトたちがザワついたので、どうやら彼も深く頭を下げたらしい。

 

「皆、彼ら四人にやり直せる機会が欲しい……この通りだ」

 

「よ、洋介くんまで……」

 

 困惑した雰囲気は徐々に教室に広がっていく。これはこれでズルいと言えるのかもしれないな、責め辛い雰囲気を前面に押し出した上でずっと頭を下げているのだから。

 

 けれどそれでも譲歩が欲しい。こんな形でクラスが空中分解するなど最悪でしかない。

 

「もうッ、わかったよ!! そこまでされたらあたしが悪いみたいになるじゃんッ!!」

 

 よしよし、軽井沢がようやく折れてくれたようだな。後、問題になりそうなのは鈴音くらいだろうか。

 

「堀北さんは、君はどう思うかな?」

 

 平田も同じことを思ったのか、これまで黙っていた鈴音にそう訊ねる。すると彼女は溜息を吐いてから、身を縮ませている須藤たちを睨んだ。

 

「一度失った信頼を取り戻すのは大変よ、それを自覚しているのかしら?」

 

「お、おう、勿論だ……鈴音、俺にチャンスをくれ!!」

 

「気安く名前を呼ばないで」

 

「……はい」

 

 また溜息が聞こえてくる。鈴音のものだ。

 

「これから先、弛まぬ努力を続けなさい……そして、貴方たちがいて良かったと言わせてみなさい、良いわね?」

 

「あ、あぁ、もちろんだ!!」

 

 最終的には彼女も折れてくれたか、それを確認した俺はようやく教壇から額を離して頭を上げた。

 

 少なくとも、クラスは四人にやり直しの機会を与える形で纏まったと思う。俺にできるのはこれが限界だろうな。後は四人の問題とも言えるが、こちらもフォローしておくか。

 

「池、山内、須藤、博士」

 

 師匠モードを維持したまま彼らの名を呼べば、規律を叩きこまれた軍人のように背筋が伸びるのは、見ていて少し面白い。

 

「皆は、お前たちに機会を与えるそうだ……どういう意味かわかるな?」

 

 わからないとは、当然言わせない。

 

「これがクラス全体のお前たちへの評価であり、最後の配慮だ。それを忘れずに、日々精進してくれ……さっき鈴音も言ったが、いつかお前たちがいて良かったと言わせてみろ」

 

 強い意思と乗せて師匠モードで伝えると、四人は冷や汗を流しながらコクコクと頷いた。

 

 機会を与える、それがクラスで出した答えである。これ以上は無理だろうな。

 

「よし、これで裁判は終了とする……ここから先は、クラスからではなく、俺個人の説教の時間だ」

 

「え?」

 

 四人の声が重なる。お前らもしかしてこれで終わりだなんて思ってないよな?

 

「とりあえずラーメン屋行くぞ、そこでみっちり説教だ……須藤、今日は部活を休め」

 

 クラスの判断は下された、しかしそれで終わりな筈がない。俺個人としても言いたいことはあるし、フォローもしておきたいからな。

 

 真っ青な顔をしている四人と、ついでに清隆も連れてラーメン屋に行くとしよう。

 

 大丈夫、説教した後はちゃんとフォローもするから。

 

 師匠曰く、叱った後はフォローも大切とのこと。

 

 

 

 

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