ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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この章はこれで終わり、次は小話となります。


我を押し通す相手ほど面倒なことはない

 

 

 

 

 

 俺の資金をただすり減らしただけの、無駄が極まった悪質な試験はなんの捻りもない結果で終わることになった。とても予定調和というか、わかりきっていた結末でもあり、きっとこの試験を考えた人も予想通りだったのかもしれない。

 

「しかし、ちょっと中途半端な感じだよね」

 

「今回の動きがか?」

 

「ん……仮に清隆を退学させるにしても、もっとやり方があると思う」

 

「最初からその気は無くて、お前の資金を削るのが目的だったのかもしれないな」

 

 予定通り他所のクラスからの賞賛票を集めて清隆にプロテクトポイントを取らせて試験も終わり今は放課後。俺たちはとある人物からの呼び出しを受けて特別練に向かいながらそんな会話をしていた。

 

 おさらいと言うか、疑問点の話し合いだな。

 

「そもそも本当に君を退学させるつもりがあるのかな?」

 

「どういうことだ?」

 

「清隆のお父さんって、多分邪魔する人は海に沈めとけとか平気で命令するタイプの人だけどさ。そんな人の影響が強い誰かからの策略だとしても温すぎるような気がするんだ」

 

「この学校はあの男にとって敵地という話だ。干渉するにしてもそこまで自由にとはいかないのかもしれないが……」

 

「いや、それは無いと思うよ」

 

 それほど長い時間をあの人と一緒にいた訳ではないけれど、観察していてわかったのは、きっと躊躇を大昔に捨て去った人なんだということだ。

 

 暮らしていく上で様々な制約がある。誰だって窃盗したり誰かを害することに躊躇するのが普通だけど、それを踏み越えて日常にできるタイプの人だと俺は思っている。

 

「政治的に難しいって言うのも一つの理由ではあるんだろうけど……それでもあの人はやると決めたことはどんな犠牲を払ってでもやる人だ。それこそ一人と言わずに何十人も送り込んで君を攫うくらいはやるんじゃないかな」

 

「本気を感じられないと、そう言いたい訳か」

 

「あぁ、ただ何が目的なのかハッキリしないから、何となくの印象でしかないんだけどさ」

 

「何かしら別の思惑もあるか……否定はできないな」

 

 少し考え込む清隆と一緒に特別練に入る。試験が終わって今は放課後なので人気も少なく、目的の人物もすぐに見つけることができた。

 

 特別練に俺たちを呼び出したのは坂柳さんであった。あちらもこちらも認識したのか、いつもの不敵な笑みを浮かべてぺこりと頭を下げてくる。

 

「来てくださいましたか」

 

「呼ばれたからね」

 

「話はなんだ?」

 

 談笑をするつもりはないのか清隆はばっさりと会話を打ち切って本題に入ろうとするので、少しだけ坂柳さんは非難するような視線になってしまう。

 

「綾小路くん、こういう時、少しくらいは穏やかに会話するものですよ」

 

「そういうものなのか?」

 

 どうした訳か彼は坂柳さんではなく俺に確認を取って来る。

 

「そうだね。試しに待ったって訊いてみるのはどうかな?」

 

「……待ったか?」

 

「いいえ、私もつい先ほど来たばかりですので」

 

「よし清隆、次はなんだかこのやりとりデートの待ち合わせみたいだよねと言うんだ」

 

「……なんだかこのやりとり、デートの待ち合わせみたいだな」

 

 清隆は本当にこの会話が必要なのだろうかと視線で訴えかけて来るが、無駄な話も日常生活では必要なのだと力説したい。何もかもを効率的に進める必要はないのだと。

 

「えぇ、ある意味ではデートのようなものなのでは? 人気のない校舎で男女が密会するのですから」

 

「天武もいるだろう」

 

「逢瀬の邪魔なら少し離れようじゃないか」

 

「そうは言っていない、というか行くな……あまり坂柳と二人になりたくない」

 

「フフフ、なんだか避けられているようですね……身に覚えがありませんが」

 

「……え」

 

 坂柳さんの発言に清隆は珍しく表情を崩してドン引きした顔になっている。あれ、もしかして彼女を本当に避けているのか?

 

 清隆視点から見た坂柳さん……一之瀬さんを誹謗中傷した挙句、なんだかよくわからない理由で自分に執着してくる女子だろうか。なるほど、そう考えると避けたくなるのも頷けるのかもしれない。

 

 

 もしかしたら彼は、坂柳さんを苛めっ子でありストーカーのように評価しているのかもしれないな。

 

「前置きはいい。さっさと本題に入ってくれ」

 

「それもそうですね……くだらない試験も終わって、ようやく一年最後の特別試験に挑める形になったのですから、私と貴方の戦いの舞台も整ったのではと考えているんです」

 

「天才の証明がどうのこうのという奴か……正直なことを言わせて貰うなら、あまり意味がないと思うぞ。友人曰く、それを証明できるのは百年先の未来らしいからな。オレに勝った所でなんの証明にもならない」

 

「ふむ、一理はありますが……では個人的な理由といたしましょうか、綾小路くんに勝たなければ私の気が収まらない、と」

 

「……」

 

 清隆の内心が今ならわかる、こいつはストーカーだと思っているに違いない。

 

「一つ条件がある」

 

「何でしょうか?」

 

「勝っても負けても、一度きりだ。二度目はない」

 

「それで構いませんよ。勝つにしろ負けるにしろ、きっと私は満足できるでしょうから」

 

「お前にとってはどう転んでも問題ないということか」

 

「ええ、私が勝てば人工の天才を否定できて、負ければ綾小路くんはホワイトルームとは関係のない本物の天才だと証明できる、そういうことです」

 

「天武には挑まないのか?」

 

 坂柳さんの意識がこちらに向けられる。

 

「勿論、彼とも戦ってみたくはあります。ただしそれは証明の戦いではなく、もっと純粋な物になるでしょうけど……それこそ、クラスや試験などではなく、場末のカフェで行うちょっとしたチェスのように」

 

「そうか……オレにもそれくらい気安い感じで接して欲しいものだが」

 

「そうもいきません。貴方に勝ちたいと願った瞬間から、この舞台を夢見て来たのですから」

 

「難儀な性格をしているようだな」

 

「かもしれませんね」

 

 クスクスと笑う坂柳さんは真っすぐに清隆を見つめた。

 

「次の特別試験で決着を付けましょう」

 

「わかった」

 

「おそらくその後は……私も少し忙しくなるでしょうから、どうなるにせよ一度きりです」

 

「例のメールを送って来たという人物のことか?」

 

「えぇ、どのような思惑や目的があるにせよ、調べない訳にはいきませんからね。一刻も早く父が復帰して、正常な学校運営に戻ると良いのですが。綾小路くんにとってもその方が都合が良いのでは?」

 

「そうだな、否定はしない」

 

 そんな時だ、コツコツと床を叩く足音が聞こえて来たのは。

 

 わざわざ放課後に、人気のない特別練に赴くのは清掃員か職員くらいのものである。誰が来たのだろうかと確認してみると、そこには以前に清隆のお父さんと一緒に行動していた男性がいた。

 

 名前は確か月城さん。日本では違法な筈の口径の銃を当たり前のように持っていた人である。警察でも軍人でもないのに銃を携帯するタイプの人間だ。つまり捕まるリスクよりも所持する利益の方が大きい人間なのだろう。

 

 だが今日は銃の携帯をしていないらしい。体幹に僅かな乱れもない。けれどこの足音の感じは、もしかしたら靴に鉄板でも仕込んでいるかもしれないな。

 

 整備油や火薬の匂いも感じない、だとしたら懐か袖口にでも刃物を仕込んでいるのかもしれないと警戒を強めていく。

 

 最悪、腹の中に爆発物でも隠していると想定しながら、月城さんと相対したいといけないだろう。師匠曰く警戒は大切とのこと。

 

 或いは彼は囮で、実は狙撃手がどこかに控えている可能性もあるので、俺はそっと坂柳さんと清隆を窓際から遠ざける。

 

 そんな警戒を抱いていることに気が付いているのかいないのか、月城さんは俺たちに近寄ってくると、穏やかに微笑んでこう声をかけてきた。

 

「やあ、こんにちは」

 

「お久しぶりですね、月城さん……もしかしてホワイトルームからの刺客とは貴方のことでしょうか?」

 

「おやおや、随分と警戒をされているようですね。そうだと言えば今にも殴り掛かってきそうだ」

 

 その必要があるのなら実際にそうするつもりである。おそらく俺は退学になるだろうが、まあそれは別に構わないだろう。友人たちの命には代えられない。

 

「今日はただ挨拶に来ただけですよ。職員室がどこにあるかわかるかな?」

 

「職員室はここにはありませんよ、ご存知でしょう」

 

「天武くん、こちらの方とお知り合いですか?」

 

「清隆のお父さんの知り合いかな。つまりホワイトルームのことも知っている」

 

「なるほど、それはそれは」

 

 彼女も目の前の相手がどういう存在か理解したのだろう。同時に自分にメールを送ってきた相手が誰であるかもわかったと思われる。

 

「ここに来られたのは宣戦布告ですか? わざわざ監視カメラでこちらの動きを把握していたのでしょうか、困った方ですね」

 

「面白いことを言う子だね。いやいや、とても愉快な学校だと聞いているから、皆君みたいな生徒なのかな?」

 

 もし坂柳さんみたいな人が沢山いる学校なんてあったら、世も末だと思う。

 

「さっき言ったように、ちょっとした挨拶ですよ……これから色々と関わっていくことになるでしょうからね」

 

 月城さんはあくまで穏やかな笑顔を張り付けたまま、ゆるやかに進みだす。一見すると何もないように思える動きであるが、意識と重心が僅かにこちらに向けられていることはわかる。

 

 銃を取り出すのか、それとも刃物か、或いは狙撃か、もしくは爆破か、そんな警戒をしながら相手の動きを観察していると、出て来たのはとてもシンプルな暴力であった。

 

 月城さんはその鉄板入りの靴先で坂柳さんの杖を蹴り飛ばそうとしたのだ。それがわかった瞬間に俺は彼女の襟首を優しく引き寄せて抱き上げる。

 

「――ッ」

 

「失礼した坂柳さん。女性の体にみだりに触れるべきではないと思うが、緊急事態だ」

 

「い、いえ、大丈夫です」

 

 お姫様抱っこの形になると彼女が緊張で身を固くしたことが伝わって来る。見た目通り華奢で軽い体は、とても脆い印象を与えてしまい、そんな子に暴力を振るうとはどういう了見だと少しの苛立ちがあった。

 

 師匠曰く、女の子には優しくすべし、ちょっと甘いくらいでいい。それを月城さんにも教えてあげたい。

 

「おやおや」

 

 穏やかな笑顔はそのままに、しかし月城さんの凶行がそこで静まることはなく、次々と繰り出されていく。

 

 あれ、もしかして俺、恨まれてる?

 

 鋭く無駄のない殴打を躱し、容赦なく振るわれる蹴りを空振りさせて、それでも諦めなかったので、俺は抱っこしていた坂柳さんを清隆に託す。

 

「清隆、パス」

 

「おう」

 

 彼女の身柄を預けて両手が空くと同時に師匠モードに移行して、目の前に迫る月城さんを見据えてその動きを観測すれば……ざっと数十カ所の活路が見えた。つまり数十通りの方法で排除できるということだ。

 

 足を粉砕して機動力を奪うべきか、股間を蹴り上げて無力化すべきか、それとも両目か、柔らかそうな喉か、もしくは隙間だらけの脇腹だろうか。

 

 それとも手首を掴んで捩じるか……「ゆっくり」と近づいてくる拳を眺めながら色々と考えて、ここが学校であることを思い出す。

 

 ダメだな、師匠の考えに染まり過ぎている。以前にもこの人に一方的な暴力を振るったことがあるので反省しなければならないだろう。

 

 前回の失敗を踏まえしっかりと考えて行動するべきだ。冷静になれ笹凪天武。

 

 

 

 

 なので俺は、月城さんの拳を躱してその顎先に回し蹴りを叩きこんだ。

 

 

 

 

「ごはッ!?」

 

 うん、間違いなく反省できているな。これは一方的な暴力ではなく正当防衛だから問題はない。俺も成長したということだろう。

 

 師匠曰く、追い打ちは大切とのことなので、倒れ込みながらもなんとか立ち上がろうとしている月城さんの頭に踵を落とす。これで完全に意識を失った筈だ。

 

「ふぅ」

 

 突然の暴力はこうして制圧されることになった。怪我人もいないので上出来だろう。

 

「死んだか?」

 

「大丈夫、後遺症が残らないように加減したから」

 

「とてもそうは見えなかったのですが……」

 

 清隆と坂柳さんが、何故か俺ではなく月城さんを心配するかのような視線を向けている……え、なんで?

 

 ちゃんと加減したよ、だって今も月城さんの頭は繋がってるじゃないか。俺だって学校でそんな乱暴なことはしない。野生のゴリラじゃないんだから。

 

「どうしようかこの人、拘束してからどこかに攫って情報を吐かせる?」

 

「まず物騒なことを考えるのは止めろ、ここは学校だぞ。常識的な行動を心がけるんだ」

 

「それはこの人に言ってあげて欲しいな……はぁ、清隆がそこまで言うのなら、止めておくよ」

 

「何でオレが我儘言ってる感じになってるんだ、いい加減にしろ」

 

 意識を失って倒れこんでいる月城さんを見下ろしながら、これからどうしようかと悩む。

 

 とりあえず意識を取り戻させるか。倒れ伏している月城さんの体を仰向けにひっくり返してから、彼のネクタイを緩めて気道を確保してからトイレの水道まで引きずっていった。

 

 トイレの清掃具入れの中にあったバケツに水を張り、それを月城さんの顔に落とせば意識を取り戻すだろう。

 

 ごめんなさい。決して悪気がある訳じゃないんです。許してくれとはいいません。

 

 水浸しになった月城さんはようやく意識を取り戻した。まだ脳震盪の影響は残っているようだが、視線は俺たち三人に向けられているのはわかる。

 

「おはようございます月城さん……暴力は駄目ですよ」

 

「……君がそれを言うんですか」

 

 何で俺は月城さんにまでドン引きされてしまうんだよ。正当防衛をしただけだろうに。

 

 まだ脳震盪の影響が残っているのか、意識は取り戻しても立ち上がるまではいかないらしいので、月城さんはトイレの壁に背中を預けた状態で動けないようだ。

 

「ええっと、俺たちは一方的に暴力を振るわれたので問題ありませんよね、それともこのやりとりを学校側は問題にするんでしょうか?」

 

「大丈夫ですよ……監視カメラの映像はダミーに差し替えてますので」

 

「準備が良いですね」

 

「けれど、事を大きくすることは可能でしょう」

 

「なるほど、だとしたら俺は理事長代理に暴力を振るったことで退学になるんでしょうか」

 

「そうなりますね……ですが、その様子だと、やるならやってみろと言いたそうだ」

 

「まあ……それをすると困るのは俺じゃなくて貴方たちでしょうから。ホワイトルームとか、拳銃の所持とか、権力を求める人がそんなわかりやすいアキレス腱を作るものじゃありませんよ。弱点を作らないと言うのが出世の近道です」

 

 どうせ叩けば幾らでも埃が出て来るだろう人たちだ。何でもありになったら最後に立ってるのはこちらであることは間違いない。

 

 つまり俺には、この人たちを恐れる理由が欠片もないのだ。せめて戦車を持ってこい、戦車を。

 

「学生にそんな心配をされるとは、いよいよ洒落になりませんね」

 

 穏やかな笑みを浮かべた月城さんは、トイレの壁に手を付いて何とか立ち上がろうとする。まだ脳震盪の影響は残っているのかだいぶフラついている様子だ。

 

「とりあえず今回の件は、また貴方が足を滑らしたということで終わらせましょう」

 

「そうしましょうか、私は足腰が弱いようなので、仕方がないことでしょう」

 

「ありがとうございます」

 

 心からそう伝えると、月城さんは苦笑いを浮かべてなんとか立ち上がった。

 

「さて、父上からの伝言だよ。これ以上子供の遊びに付き合う気はない。すぐに帰って来いとのことです。YESなら瞬きを二回しようか?」

 

 

 凄いなこの人、まるで何も起こらなかったかのように話を切り出したぞ。

 

 

「生まれたての小鹿のように足を震わせながら言われても、なんの説得力も感じないな。せめて多少は脅威に感じるくらいの姿勢は見せてから言ってくれ……オレから見ると、いきなり殴りかかって来ながら秒殺されたよくわからないオッサンの戯言としか思えない」

 

「……」

 

 清隆はそんな月城さんを、珍しく無表情を崩して嘲笑うような口調と視線で眺めながら、一切取り合うことなく要求を付き返してしまう。

 

「自主退学の意思なし、と」

 

 だがこの人は清隆からの挑発と嘲りを何事も無かったかのように聞き流す。もしかしたら内心では苛立っているのかもしれないが、表情は取り繕えているようだ。

 

「月城さん……なんていうか、すみません。凄く強敵っぽく登場したのに、イメージを壊してしまって」

 

「変な慰めは止めなさい……もの凄くイラッとしますので」

 

 怒られてしまった。やはり俺は恨まれているようだ。

 

 月城さんはまだ傾く体幹をなんとか維持しながら、俺と清隆と男子トイレの前で待機している坂柳さんを眺めて、最後に大きな溜息を吐いてしまう。

 

「まあ今はいいでしょう。正式に私がこの学校で活動を始めるのは4月からです。どうぞお楽しみに」

 

 ようやく余裕と落ち着きを取り戻してからそんな言葉を俺たちに残してくる。つまりこれからも色々とちょっかいをかけてくるということだろう。

 

「月城さん」

 

「何かな?」

 

「俺は今、ふと思ったんですけど……俺と貴方は、こうして顔を合わす度に殴り合いが起こるんじゃないかと」

 

「……」

 

 すると月城さんは、それはもう凄まじい……苦虫を何十匹も噛み潰したかのような顔になってしまう。

 

「はぁ……何故私はこんな場所に来てしまったのやら」

 

 そして出て来たのは愚痴である。なんだか上司からの無茶ぶりに悩まされている中間管理職みたいな雰囲気が出ていた。きっとこれまでも色々な苦労をしてきたんだろう。

 

「そうならないように、色々と配慮してくださいね」

 

「私は貴方のご友人を退学させる為にいるんですよ?」

 

「ならこんな中途半端な介入なんてせず、強引に身柄を攫ったらいいじゃないですか」

 

「それが出来ないのが政治というものなのです」

 

「そういうものですか……まあ俺たちに貴方の都合や目的は完全にはわかりませんので、きっとそうなんでしょうね」

 

 本当に清隆を退学させたいのか、やる気があるのかどうかハッキリとしないが、向かってくるのなら排除するしかない。

 

「とりあえず今回みたいな試験を強引にねじ込むのは止めてください。凄くイラッとしましたので」

 

「苛立ちですか、怒りではなく」

 

「怒るようなことではありませんよ、どうにでも対処できる問題でしたから」

 

「ふむ……やはり想定以上に寛容な性格のようですね。資料から得た情報とはまた異なる」

 

 俺のこともある程度は調べているということか、当然と言えば当然だろうな。

 

 何やら納得した様子で、月城さんは震える足で覚束なく歩きながら、俺たちの前から去っていくのだった。高そうなスーツはビショビショだったけど大丈夫だろうか?

 

「これから先、色々と苦労しそうだね」

 

「ああ、まあ……それはあちらのセリフだと思うけどな」

 

「同情を禁じえませんね」

 

 坂柳さんも清隆もどうしてあっちに配慮する感じになっているんだ。解せないな。

 

 俺たち三人は、ビショビショの状態でフラフラしながら遠ざかっていく月城さんを眺めながら、これから迫るであろう脅威に備えることになるのだろう。

 

 だがあの人が来てしまった以上は避けられないことでもある。警戒を怠らずに対処するしかないな。

 

 こうしてクラス内投票は完全に終わることになり、一年最後の特別試験に挑むことになるのだった。

 

 月城さんという不確定な存在が介入してくるとわかっているので、少しの不安と強い警戒を抱きながらも、俺たちは一年の締めくくりに進むことになる。

 

 せめて楽しむとしようか、そうじゃなきゃ意味がないだろうから。

 

 

 

 

 

 




月城「おかしい……私が不遇枠になっている」
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