ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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一年最後の戦い
一年最終試験の始まり


 

 

 

 

 

 

 

 

 振り返ってみるともう一年近くこの学校で暮らしているのだと、妙な実感を今更ながら得ることができた。俺にとって高校生活とはテレビの向こう側にあるもので、高校生とは言ってしまえば芸能人みたいな存在だったのかもしれない。

 

 そういった人たちがいるのは知っていても、実際に関わることはない。しかし何のつもりなのか師匠は俺を学校に通わせることに決めた。中学校も小学校も通っていなかった俺をだ。

 

 人として多くのことを学んで来いと言われて、押し込まれるようにこの学園に来た訳だが、この一年を振り返ってみると来て良かったという評価に落ち着くのだろう。

 

 どこか遠かった学生が、テレビの向こうにしかなかった青春の舞台が、思っていた以上に楽しかったのは間違いない。

 

 この学校は普通ではないけれど、それでも心の奥そこでは憧れていた普通の学生生活というものを得られる環境だ。加えて、色々と悩みや困難も押し寄せて来るので暇になる時間もない。

 

 充実していると、心からそう思う。

 

 友人もできた、相棒もいる、恋人はまだいないけれど、それはそれで青春っぽいので良しとしよう。恋人が欲しいと友人と愚痴ったりするのはとても高校生らしいからな。そういう時間は相手がいないからこそ共有できるものだ。

 

 この一年を振り返って、色々な経験と困難を乗り越えて来て、同じ数だけの縁も結ぶことができた。

 

 縁は力、その数だけの力と成長を授けてくれる。

 

 来年はどうなるだろうかと考えていると、きっと今年以上に大変な思いをするんだろうなと想像するまでもなく理解できてしまう……そう考えると本当に大変な学校だな。

 

「では、これより一年度の最終試験の発表を行う」

 

 今年と来年の狭間で、少しほくそ笑んでいたこちらの意識を引き戻すように、茶柱先生が黒板の前に立ってそう言った。

 

 まだ来年を思うには少し早いなと己を戒めて、窓の外から視線を茶柱先生へと向けると、一年の締めくくりとなる試験についての説明が始まっていく。

 

「一年間を締めくくる最後の特別試験は、これまで学んできた集大成を見せてもらうことになる。知力、体力、連携、あるいは運。ともかくお前たちの持つ様々なポテンシャルを発揮する必要があるだろう」

 

 そんな先生の説明から察するに、とても複雑で大規模な物になるのだろうか。それこそ専用の舞台を用意するかのような。

 

 俺たちのクラス、40人の生徒全てがその言葉に緊張を高めていくのがわかる。きっと他のクラスも同じような状況なのだろう。

 

「特別試験は、各クラスの総合力で競い合う「選抜種目試験」だ。ルールに従って対決クラスを決めて行われることになる。ペーパーシャッフルの時と同じようなものだ」

 

 だとしたら、坂柳さんが望む直接対決の舞台としては十分だろうか、クラス同士の総合力を競う対決なのだから

 

「まず、お前たちには説明の際にわかりやすくする為、十枚の白いカード、そしてクラスの人数に合わせた黄色のカードを用いて話をしていく」

 

 茶柱先生は黒板にトランプのようなカードを張り付けていった。

 

「まず、先に説明するのはこの白紙の十枚のカード。ここには、お前たちが話し合いをし、好きに決めた種目を全部で十個書き込んでもらうことになる。筆記、将棋、トランプ、野球。お前たちが勝てると思う種目を好きに書けばいい。そしてどのように決着を付けるのかもお前たちで考えてルールを制定する」

 

「え、何でも自由なんですか?」

 

 池がクラスメイトを代表するかのようにそう言った。

 

「そうだ自由だ……ただし、自由とは言っても種目を決める上で決まりごとは幾つか存在する。極端な話、大勢が知らないようなマイナー競技やゲームを種目にすれば、提案者以外誰にも勝ち目がないからな。それに種目のルールも公平かつ分かりやすいものでなければならない。そのため、種目提出後に学校側が適切かどうかを判断し、採用するかどうかジャッジを下す」

 

 つまり俺たちがこれなら勝てると言う種目を幾つか用意して、その種目で勝ち星を拾っていくということだ。それこそ学校側が許可さえすれば殴り合いだろうがテストだろうが構わない。

 

 何だったらダンスや料理だって同じだろう。自由度が高いと言えるのかもしれない。

 

「では実際に、わかりやすく再現してみよう。池、お前の得意なモノはなんだ。何でもいいから言ってみろ」

 

「じゃ、じゃんけんとか結構強いッスよ」

 

 流石にここでテストだったり運動は出さないか。そして誰が相手でも勝てる可能性が半分はあるじゃんけんならば、確かに競技の一つとしては面白いのかもしれない。

 

 坂柳さんと清隆がじゃんけんで決着を付けるのは、ちょっと想像できないけれど。

 

「では仮にじゃんけんを種目として選んだとしよう、ルールはどうする」

 

「えっと……じゃあ、三本先取?」

 

 まさか受け入れられるとは思ってなかったのだろう、池は困惑しながらも茶柱先生にそう返している。

 

「大勢が知る種目、かつ単純明快なルール。学校側が不採用にする理由は1つもない」

 

 茶柱先生は白いカードにじゃんけんと書き込んだ。

 

「後はこれを九回繰り返せば、十種目の完成だ」

 

 そして対決するクラスもまた十種目を作り、最終的にはその半分が本命として学校側に提出されることになり、二つのクラスを合わせて十種目競技となる。

 

 その中から更に当日に七種目が選ばれることになるようだ。

 

「どの競技が選ばれるかに関しては学校側が用意したシステムによって自動的に七種類をランダムに選びだされる。そういう流れだ」

 

「展開次第では、こちらが用意した競技で埋められる可能性もあるんでしょうか?」

 

 そんな質問をすると、先生は頷きを返してくる。ありえなくはないということか。だとしたら運も十分に絡むということだろう。

 

 だが勝敗を運任せにするのはなかなか難しい。いや、運も実力の内と言ってしまえばそれまでだが。

 

 細かなルールが書かれたガイドブックが配られていき、幾人かの生徒が目を通して最終的に鈴音さん経由で俺の所に回って来た。

 

 複雑で人数制限であったり学校側の基準であったりと色々あるが、要は当日にそれぞれのクラスが出し合った競技でそれぞれ白黒つけて、最終的に勝ち星が多いクラスが勝利となる。

 

 単純に一気に五勝とかして勝敗が決定しても、最後まで競技は続けられるとガイドブックには書かれている。勝てば勝つだけポイントは多くなるようだ。

 

 このクラスの特色、俺の得意分野、ガイドブックに書かれたルール、色々と考えていくと大まかな流れも見えて来た。

 

 要は、相手をぶん殴れば良いんだな、簡単じゃないか。

 

「難しいわね。特に人数制限と、参加条件が色々な縛りになっている」

 

 鈴音さんにガイドブックを渡すと、彼女はまずルールの確認をしてそう言った。

 

「君はどう思う?」

 

「全ての競技を少数精鋭で固められるのならば話が早いのだけれど……例えば、全ての競技を運動系で固めて須藤くんや貴方を参加させられたのならば、グッと勝率は高くなるわね」

 

「楽にとはいかないよ」

 

「ええ、けれど手はあるわよ」

 

「ん、例えば?」

 

「そうね……男子20名全員参加というルールの綱引きを競技にして、貴方も参加させる、これで一勝は確実。同じように女子も参加人数の多い競技で出場枠を完全に消費する。いえ、男女に拘らずにとにかく回転率を上げるのよ、そして二周目に入るの」

 

「なるほど、ガイドブックにも書かれていたね。生徒は二つの競技には参加できないけど、クラスメイト全員が種目に参加した場合に限り、二つ以上の参加を可能とする、だったかな」

 

 そう考えると確かに有利なのかもしれない。鈴音さんの言うように出場枠全てを消費して二周目に入り、また俺が何らかの競技に出れば勝率が高まる、運動系ならほぼ確実に勝てるだろう。綱引きと合わせてこれで二勝。

 

 当日は七つの競技が行われるので、勝つためには四勝が必要となるのだが、その内の半分はこうすることでもぎ取れる。

 

 後の二勝、欲を言えば全ての競技で勝つことが理想だが……こればかりは相手の都合や出方もあるだろうから簡単にとはいかないか。

 

「このクラス最大のアドバンテージは貴方の身体能力よ、それを活かせる場面が一つでも多くなれば、そのまま勝率に繋がると思うわ……ただ、どうかしらね、相手の出方やどの競技が選ばれるかという点もあるから、これで行けると断言はできないのよね」

 

「まだ時間はあるんだ、ゆっくり考えよう」

 

 もし鈴音さんの作戦に名付けるとするのなら「ゴリラを一つでも多くの競技に参加させよう作戦」だろうか。

 

「ん、良いと思う。案の一つとして走らせようか」

 

 資金力であれ、腕力であれ、学力であれ、自らの得意分野をぶつけて貫通させるのは勝負事の鉄則だろう。このクラスで最も大きな力と言えば、やはり俺の身体能力だった。それか資金力。

 

 ただ運も絡むからなあ、当日の流れ次第では完封される可能性すらある。

 

「それにもう一つ、考えなければならないこともあるわね」

 

「司令塔だね」

 

「えぇ、この為のプロテクトポイントだったのでしょうけど……」

 

 鈴音さんの視線が隣の席に向かう、清隆は机の上に肘を立てて顎を支えながらどこかぼーっとした様子を見せている。

 

「大丈夫なのかしら」

 

「大丈夫さ、そうだろ清隆?」

 

「あぁ、何も問題はない。調子は絶好調だからな」

 

 本当だろうか? 基本的に無表情だからその辺のことはよくわからない。だがもしかしたら内心ではやる気に満ち溢れている可能性もあるのだろう。

 

 坂柳さんと対決することも受け入れていたのだ。やる気が無いということも無いと思いたい。まあ清隆はやる時はやる男なので心配はいらないか。

 

「まあまだ時間はあるから、細かく詰めて行こうか」

 

「そうね」

 

「因みに鈴音さんはこれだって言う競技はあるのかな?」

 

 すると彼女は目を細めて考え込む。そして暫く悩んだ上でこう言った。

 

「必ず勝てると断言できるものはないわね、ましてやAクラスが相手だもの」

 

 それはそうだろう。鈴音さんは全体的に能力の高い人ではあるけれど、須藤や俺のようにこの分野なら絶対に負けないと言い切れるものは無い。そしてそれは彼女に限った話ではなく、クラスメイト全員に言えるものだ。

 

「敢えて言うのならテストだけれど、きっとそれはAクラスも同じことが言える……やっぱり貴方を主軸に動かすべきね」

 

「相手の都合や動きや運も絡む、色々と考えて行こう」

 

 俺は席から立ち上がって師匠モードになる。するとクラスメイトたちは待ってましたいった雰囲気になるのだから、この辺も一年前とは大きく変わった点だろう。怖がられるのではなく、師匠モードの俺は頼りにされているということだ。

 

「全員、傾注」

 

 お決まりのセリフを伝えると表情も引き締まる。少し前に色々とやらかした四人だってそれは変わらない。

 

「勝つぞ、文句はないよな?」

 

 するとクラスメイトたちはそれぞれが集中力を高めて見せた。目の前にある困難に戸惑うのではなく、立ち向かうことができるようになったということだろう。この一年で本当に大きく成長したと思う。

 

「まず決めなければならないのは司令塔だが……プロテクトポイントを持っている清隆に任せていいか?」

 

 坂柳との勝負もあるので彼を動かすしかない。もし負けてしまった時は退学になってしまうからな。

 

「あぁ、わかった。引き受けよう」

 

 予定通り清隆も受け入れるが、少しだけクラスに困惑が広がったのがわかる。

 

「えっとさ、そもそもどうして綾小路くんにプロテクトポイントが渡ったの? いや、他クラスからの賞賛票が集まったって言うのはわかるけどさ」

 

 素朴な疑問といった感じで篠原がそう言えば、何名かが確かにと清隆に視線を向けていく。

 

「それに関しては何となくだがわかる。要は俺や鈴音、或いは平田や桔梗のような者に持たせたくないとどこかのクラスが思ったんだろうな。逆に考えてみてくれ、俺たちにとってプロテクトポイントを持って欲しくないのは誰だって」

 

「あ、なるほど……」

 

「そういうことだ。清隆が選ばれたのは……まあ特別な理由はなくて、偶然かもしれないな」

 

「確かに笹凪くんには持って欲しくないのかもね、他のクラスからしてみれば」

 

「そう考えるとしてやられたな……だからまあ、今回は清隆に司令塔を任せたい」

 

 篠原や他の生徒たちも清隆にプロテクトポイントが渡された経緯に納得したらしい。完全に嘘八百だったけど、説得力はあったようだ。

 

「でもさ、綾小路くんで大丈夫なのかな?」

 

「清隆は何だかんだでやる奴だよ。成績だって良いだろう」

 

「え、そうだっけ……あ、そっか」

 

 篠原さんはあまり印象に残っていなかったようだが。クラスの清隆の立ち位置は何だかんだで出来る奴といった感じである。勉強でも運動でもだ。

 

「下手な男子に任せるよりは、綾小路くんの方がずっとマシか……うん、退学の可能性もない訳だしそれで良いかもね」

 

 どうやら篠原さんを筆頭に幾人かの生徒たちが納得したらしい。彼ら彼女らよりも清隆は好成績なので文句も出ないようだ。

 

「考えなければならないのは学校に提出する競技だ。各々の得意分野や技能などで、これだと言う物を選ぶ必要があるだろう。須藤、バスケなんかはどうだ?」

 

「おう、任せてくれ。それなら絶対に勝てっからよ」

 

「良い自信だ。だが標準的なルールで行うとしてお前以外の四人が完全に素人だったとしたらどうだ?」

 

「それは……確かに絶対とは言い切れねえか」

 

「そこで必ず勝てると断言しない所を評価しよう……だが大きな優位性がある競技であることは間違いないんだ。候補の一つに入れさせてくれ」

 

「相手はAクラスな訳だから、彼らの得意分野はやっぱり学力系かな?」

 

 平田の言い分も間違いではないだろう。実際にテスト関係の競技でしかも平均点を競うような形ならば、おそらくこちらは苦戦を強いられる。

 

 勉強が出来る者もこのクラスには幾人かいるのでその戦力を固めれば一つくらいは勝てるかもしれないが、やはり相手の出方次第となってしまう。

 

「その可能性は十分にあるだろう。そしてこっちがそういった分野で固めることもないと向こうもわかっている筈だ……まあ今はどうやっても相手の出方はわからないんだ、俺たちの種目の候補を色々と考えて行こう」

 

 須藤参加のバスケと、クラス男子全員が参加する綱引きはほぼ確定として、後一つか二つ、勝率が高い競技を用意するべきだ。

 

 それに、本命を悟らせないダミーも必要ではあるが、坂柳さん相手にどこまで通じるかは疑問である。まあやらないよりはマシなので用意しておくか。

 

 さっき鈴音が言っていたが、理想的な展開は、綱引きのような男子全員が参加する競技に俺が出て、その上で他の競技にも参加することだ。多少は競技の内容や出方は変わるにしても、それが基本的な戦略となるのは間違いない。

 

「他に何かないか? これならば高い勝率がある、そんな競技や特技などだ。実際にそれを学校側が許すかどうかは今は置いておいて、とりあえず言ってくれ……いや、もう時間はなさそうだな、今後のやり取りはクラスの共通チャットで行うとしようか。情報漏えい対策にもなるからな。女子の方は桔梗に纏めて貰おう、男子は平田の方に、任せるぞ」

 

「あぁ、引き受けるよ」

 

「うん、女子の方はこっちに任せて」

 

 平田と桔梗は問題無いようなので、俺と鈴音は全体のサポートに回るとしようか。

 

「綾小路、司令塔にはこの後、試験で使うシステムやルールの説明がある、付いて来い」

 

 茶柱先生のその言葉でクラスは解散することになった。清隆だけは別室で説明があるらしい。

 

 彼に後で詳しい説明を求めるとして、こちらはこちらでしっかりと動かなければならない。

 

 これは清隆と坂柳の戦いでもあるが、同時にAクラスとBクラスの戦いでもあるんだ。つまり俺の戦いでもある。

 

 以前に坂柳と結んだ約束を思い出す。矜持に恥じぬ戦いをしようという誓約を。

 

 だから全力で相手をするとしようか、誹謗中傷だったり、盤外戦術だったりの対処は凄く疲れる……戦いは、シンプルが一番だと思う。

 

 勿論警戒はするし、坂柳が勝利を目指す過程でそういった戦術に出て来ることも十分にありえる。それはそれで戦いの作法なので文句はないが……どう出てくるだろうな。

 

 

 どんな形で、どんな戦略であれ、この戦いは矜持を掲げたものであるのは間違いない。卑怯卑劣をねじ伏せて、小技を駆使しながらも、王道を行くとしよう。

 

 せめて誇りある戦いを、振り返った時に一切の恥がない在り方をここに作り出す。矜持を掲げた以上はそうであって欲しい。

 

 

 

 誇りある戦いに、そして誇りある決着としよう。

 

 

 

 俺は、この時はそうなると思っていた……。

 

 

 

 

 

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