ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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方針決定

 

 

 

 

 

 

 一年最後の特別試験が告知されて四つのクラスはそれぞれ動き出す。クラス内投票であれだけ資金をばらまいて買収したので、どこのクラスもこちらの指名を優先してくれることだろう。

 

 つまりAクラスとBクラスの戦いは最初から決定している。なので考えるべきはどう勝つかである。

 

 ただ大まかな形や流れは既に鈴音さんが示してくれていた。このクラス最大のアドバンテージを最大限に生かすという奴だ。

 

 傲慢に聞こえるかもしれないが、俺の身体能力を活かせる競技ならばかなり勝率が高くなる。それはAクラスに限らず学年全体で、もっと言えばこの学校全体で考えてもこちらの身体能力を凌駕出来る者はいないと言っても過言ではないだろう。

 

 この狭い学園に限れば笹凪天武の身体能力を上回る者は存在しない。傲慢と思われて調子に乗っていると評価されたとしても、それは揺るがない現実だ。

 

 ならばその優位性を全面に押し出す、わかりやすくも確実な戦略と言えた。これ以上ないとさえ表現できるくらいの武器でもある。

 

 鈴音さんは最大二十名が出場することをルールにした綱引きを本命の一つに推した。体育祭の様子を見る限りこれならば九割九分の確率で勝利できるだろう。そして同じように何らかの競技でもう半分を参加させることが出来れば出場枠を完全に消費することができる。そして二周目に入れば俺はまた別の競技にもまた参加できるということだ。

 

 もう一つの競技は格闘系の方針で纏まっている。空手や柔道などのメジャー競技で勝ち抜き戦のような物を想定しており、最初の一人に俺が出ることになるだろう。

 

 だが腹案として腕相撲であったり、ウエイトリフティングなども候補に挙がっているな。わかりやすいくらいの脳筋戦術であるが、それが一番俺に合っているのは間違いない。

 

 それに腕相撲などであれば須藤なども頼りにできる。勉強系の競技であったとしても啓誠や鈴音さんや王さんなどを固めれば勝機が無い訳ではない。

 

 複雑で、とても大規模な試験だ。だからこそ面白いと思う。

 

 俺たちにとって重要なのはガイドブックにも書かれていたルールの一つ「ただしクラスメイト全員が種目に参加した場合に限り、二つ以上の参加を可能とする」という項目だ。

 

 競技に参加するクラスメイトの回転率をとにかく上げて、一つでも多くの競技に俺が出るという鈴音さんの戦略は、とても強いものだと思う。

 

 実際にこんなことをされてしまえばとても難しい判断をAクラスは迫られるだろう。それこそ勉強系で固まってくれと願うしかないくらいには。

 

 ゴリラと殴り合うことはできない。当たり前のことだな。

 

 しかし相手の出方やどの競技が選ばれるのか不透明という点もあるので、あくまで走らせる戦略の一つと認識するくらいが良いだろう。

 

 平田からの報告では博士はタイピング技能が突出しているらしいし、明人などは弓道に自信を持っている。こちらが出せる手札は皆無という訳でもないのは救いだな。

 

 重要なのは囚われないこと。これしかないと視野を狭めないことだな。二周目作戦もそうだけど、普通に王道で勝つことだってありえる。複数の選択肢を用意して最終的にゴールを目指せば良い。

 

「昨日の話し合いはどこまで進んだんだ?」

 

 対決するクラスが無事Aクラスに決まり、対決する競技を出し合って精査する段階になり、Bクラスは本格的に特別試験に挑むことになった。そして司令塔となった清隆はお昼休みにグループで集まって開口一番そういった。

 

 彼は司令塔としての立場であり、説明を学校側から受けていたのでクラスでの話し合いに参加していない。気になったのだろう。

 

 食堂の隅っこに集まって昼食を楽しみながらグループ会議となった。

 

「種目のマニュアルをコピーしてクラスメイトに配って皆でルール確認して、後はそれぞれがこれだって種目を出し合った感じかな」

 

 細かい内容は全体チャットで話し合うことになっている。情報漏えい対策としてだ。

 

「でもこれなら勝てるって競技はあんまり出なかったんだよね。須藤くんのバスケとテンテンの二周目作戦とかは共有したけど、他は本決まりじゃないって感じかな。みやっちは弓道を推してたっけ?」

 

「ああ、正直、他の競技に出されても貢献できるとは思えないからな」

 

 明人は弓道部だからな、勉強関連の種目よりは動きやすいだろう。

 

「Aクラス相手にテストの平均点で競うのは難しいか……」

 

 難しい顔で悩む啓誠ではあるが、必ずしもそうと決まった訳でもない。

 

「競技人数による縛りもあるが、例えば啓誠だったり堀北のような少数の生徒で固めれば一つくらいは勝てるんじゃないか?」

 

 清隆も同じことを思ったのかそんなことを言うが、啓誠は難しそうな顔を緩めない。

 

「Aクラスもそれはわかっているだろう。仮に勉強系の種目を出して来たとしても、参加人数を多くして平均点で競う形にしそうなものだが……今回の試験はこちらの持ち味を生かすべきなのかもな。相手がAクラスであったとしても、これなら勝てるという競技を推すのが重要なんだろう」

 

「Aクラスは、学力が高いだろうしね~。そう考えるとやっぱり須藤くんのバスケとか、テンテンの二周目作戦とかがメインになるのかな」

 

「波瑠加さん、あまりそこにだけ囚われるのもどうかと思うよ。博士のタイピングとか見せて貰ったけどなかなかの物だったしね。単純な学力や運動能力だけでなく、特技なんかも選択肢に入れるべきだ」

 

「タイピングねぇ~、まあキーボードをカタカタしてるのは何となく似合ってるけどさ、博士くんって」

 

 酷い偏見であるとは思うが、完全に否定は出来ないのが苦しい。

 

 後、やはり信頼と評価が低い感じがするな。それは波瑠加さんだけでなく女子全体に言えることではあるが。

 

「清隆くん、司令塔だけど、大丈夫?」

 

「まあプレッシャーはあるが、俺以外がなるというのもな。負けたい訳じゃないが、誰も退学になる心配がないのは正直ありがたい所だ」

 

 心配そうに見つめて来る愛里さんに清隆はそんな言葉を返している。

 

「対戦相手がAクラスなんだし。もし負けても清隆くんの責任にはならないよ」

 

「司令塔で坂柳さんも出て来る訳だしね~」

 

 女子二人のフォローはありがたいことだ。緊張とは無縁の男ではあるけど、無駄になるということはないだろう。

 

「まあ、簡単に勝てる相手ではないだろうけど。鈴音さんが言っていた二周目作戦なんかもあるんだ。無策で挑む訳じゃない。やれるべきことをやろうよ。明人、もし弓道が選ばれた時は宜しく頼むよ。啓誠は勉強系だろうし、その時は頑張ってくれ」

 

「あぁ、任せてくれ」

 

「そうだな。俺に貢献できるのはテストくらいだ。その時に備えておくとしよう」

 

「みやっちとゆきむーは得意分野があるからまだいいけど、私はその辺、肩身が狭いんだよね」

 

「わ、私も、同じ……ごめんね。もしかしたら、迷惑かけちゃうかも」

 

 すると今度は清隆がフォローする番になった。

 

「クラス全体の総合力を競う試験なんだ。そんなこともあるだろう……それに、Aクラスにも似たような生徒はいる筈だ。波瑠加と愛里だけの話でもない」

 

「そう? Aクラスって頭の良い人ばかりってイメージだけど」

 

「平均で見ればそうだろうが、全員が全員という訳でもないだろう」

 

 なんだろう、清隆が他者に配慮してフォローする光景は、四月頃には見られなかったことでもあるので少し不思議だ。そろそろ一年が経つこともあって、彼の成長もよく感じられるようになった。

 

 どこか機械じみた男であったが、一年もあれば変化を起こすには十分であったということなのかもしれない。

 

「今日の放課後も会議があるんだ、そこで細かなことも決めていけばいい」

 

 後、なんだろうな。司令塔になったからなのか、リーダーシップも感じられるようになったかもしれない。

 

 普段からこんな感じなら、もっと周囲からの印象も変わると思う。自称事なかれ主義の仮面もかなり外れて来たということだろう。

 

 

 

 

 そんな清隆の成長を感じ取ったお昼休みは終わり、試験の調整や会議が開かれることになる放課後となった。教室には一部を除いてクラスメイトが揃っており、それぞれが試験に向けての情報共有を行っていく。

 

 因みに高円寺の姿はない。まあ彼には俺から内容を纏めた物を送っておくとしよう。正直、どう動くか読みにくい男でもあるので、今回の試験では最初から戦力としてはカウントしない。

 

 役に立ってくれればいいなぁ……高円寺は常にそれくらいのスタンスで良いのだろう。

 

「あのさー堀北。参加種目に関して素朴な疑問があるんだけど」

 

 黒板の前に立った俺と鈴音さんに、池がそんな質問をしてきた。

 

「何かしら池くん」

 

「合計で七種目戦うって話だけど、俺たちの出番ってあるのか?」

 

「俺たち、とは誰を指していて、どういう意味なのかしら?」

 

「えーっと、まあ簡単に言えばそんなに凄くない生徒のこと? 運動とか勉強とかあんまり得意なヤツばっかでもないしさ」

 

「その辺りのことも今回の会議で詰めていくつもりよ。昨日にも少し話たけど、一つ作戦があるわ」

 

 鈴音さんの視線が同じく黒板の前に立っている俺に向く。

 

「このクラスで最も大きなアドバンテージは天武くんがいるということよ。Aクラスが相手でも高い確率で勝利することができると私は思っている……逆に言えば、それ以外の生徒だと確実とは言えないわね。それは池くんに限った話ではなく、私や平田くん、櫛田さんや幸村くんでも変わらないわ」

 

「まあそれはわかるって、笹凪に百メートルとか走らせたら絶対に一勝は出来るってことだよな?」

 

「そういうことよ、百メートルに限らず他の運動系の競技でもそれは変わらない。そしてそれは須藤くんにも同じことが言えるわね」

 

「へ、任せてくれ鈴音、バスケだろうが何だろうが、必ず勝ってみせるからよ」

 

「気安く名前を呼ばないで頂戴」

 

「……はい」

 

 須藤が撃沈されてしまった……大丈夫、この試験で活躍すれば俺の方から機嫌と評価を直すように伝えておくから。

 

「参加条件にはこう書かれているわ。生徒は二つの競技に参加することは出来ないと……だけどクラス全員が出場した後ならば、二つ以上の競技に参加することが出来る。つまり天武くんや須藤くんといった、Aクラスが相手であっても高い勝率がある生徒を複数の競技に参加させられるのよ」

 

「二周目作戦とか言ってたっけ、そんなに簡単に行くものなの?」

 

 今度は軽井沢さんがそんな質問をした。すると鈴音さんは少し難しそうな顔をする。

 

「絶対とは言い切れないわね。参加人数の最大は20名まで、もしその競技が選ばれればその時点でクラスの半分が出場したことになるから、残りの半分の出場枠もおそらく消費が現実的になる」

 

「でも、当日にその競技が選ばれない可能性もある訳だよね」

 

「えぇ、だからこの二周目作戦に関しては、あくまで作戦の一つ程度という認識でいて欲しいわね。それだけに集中して優先することは駄目よ……とりあえず、皆、チャットを開いてくれるかしら」

 

 鈴音さんの言葉にクラスメイトたちはスマホのチャット画面を開く。そこには綱引きという書き込みがあり、参加人数が20名と書かれていた。

 

 その他にも本命ダミーを合わせて幾つかの競技がある。中には池提案のじゃんけんもあるな。

 

「さっき池くんが言ったように、もしかしたら出番がないんじゃないかと考えている人もいるかもしれないけど、二周目作戦を現実的な物とする為にも、参加人数が多い競技を昨日、平田くんや櫛田さんと一緒に幾つか考えてみたわ。ただしこれらの多くが勝つ為というよりは、参加枠を所費する為にあると思って欲しいの」

 

「負ける前提の競技ってこと?」

 

「そう言ってしまってもいいけど、軽井沢さんの懸念の通り、当日のクジ運次第では二周目作戦が破綻することだってありえるわ。そうなった場合は、選出された競技で勝ち星を挙げていかなければならない」

 

「なるほどね。だからちゃんと練習や勉強もしなきゃいけないのか」

 

 軽井沢さんを筆頭に池やその他の生徒も納得したような顔をする。

 

「その通りよ。だから自分の出番がないと決めつけるのは止めて欲しいわね。この試験は大規模で複雑なものになるのだから、いつどこで誰が動くことになるかわからないもの」

 

 それこそ相手クラスの動きや出方でもまた変わるだろう。上手いことあちらも参加人数が多い競技を出してきてくれれば、こちらの二周目作戦も決して不可能ではない。

 

 チャット欄には綱引きの他に、バレーボールやサッカーなどの競技が書き込まれているのがわかる。須藤推薦のバスケに関しても交代枠が多いルールにするなど、とにかく回転率を意識した物が多い。

 

 けれどそれだけに頼っていないのも事実だ。二周目作戦を意識しながらも、王道での勝利もしっかりと考えて意識しないといけない。

 

 例えば博士のタイピングだったりは面白いのかもしれない。明人の弓道勝負もだな。Aクラス相手にテストの平均点を挑むのは流石にアレなので、特技を生かすような物が多い印象だ。王さんなんかは英語がとても得意なので英会話なんかの競技なら期待できるだろう。

 

「鈴音さんの言う通り、二周目作戦を意識しながらも、真っ向勝負で勝つことを模索することも重要だ。クジ運の下振れをとやかく言っても仕方がないから、それぞれが得意と言える分野を出して、当日までに地力を少しでも上げていこう」

 

「こちらに天武くんや須藤くんがいる以上、おそらくAクラスは学力系の競技で固めて来るんじゃないかしら。そしてその場合であっても勝たなければならないのなら、今から勉強しておいてもいいかも知れないわね」

 

 鈴音さんの視線が啓誠に向かうと、彼は頷きを返す。勝てるかどうかはわからないが、やっておいて損はないということだ。そしてやらない場合は損しかないので、そう考えると動くしかない。

 

「綾小路くん、司令塔として何かあるかしら?」

 

「現時点では何もない。だが相手の競技が発表された段階で、もしかしたら相談することもあるかもしれない」

 

「わかったわ、その時は共有しましょう」

 

「宜しく頼む」

 

 こうしてウチのクラスは大まかに二つの方針を本番に向けて走らせることになった。

 

 

 一つは鈴音さん提案の二周目作戦、もう一つは学力系の競技ではなく運動系と特技を中心に動く作戦だ。

 

 

 

 加えて、Aクラスが出してくるであろう学力系の競技に対抗する為に、学力評価が高い者たちを中心に総合的な勉強会……いや、研究会のような物を開くことにもなった。

 

 本命競技は現在の所二十名参加の綱引きと、須藤推薦のバスケしか決まっていないが、この感じだと生徒の回転数を意識した競技が多くなるかもしれない。綱引きが学校側に受理されるなら、体育祭でやった棒倒しや騎馬戦なんかももしかしたら行ける可能性が高く、テスト問題でAクラスと戦うよりかはずっと勝率が高くなるだろう。

 

 実際に俺たちは体育祭で一位を取っているからな。過去がこれなら勝てると証明している訳である。

 

 凄く脳筋な方針だけど、俺と須藤がいる以上はこうなるのが自然なのかもしれない。

 

 まあ同じことはAクラスにも言える。あちらは学力系で固めて来る可能性が高いので、どうしてもこういう形になってしまうのだろう。

 

 強いのは学力か、それとも運動か、そんな対決になる可能性もあるだろう。

 

 後は、坂柳さんと清隆の手腕による所も大きい。その辺は実際に蓋を開けてみないとわからない。

 

 そもそも俺は清隆の全力も、坂柳さんの全力も完全に把握していない。殴り合いならばどちらにも勝てると思うけど、思考力や発想という分野ではわからない。指揮官としての技量に関しても同じことが言える。

 

 もし清隆ではなく俺が司令塔となった場合はどうなるだろうかと考えて……勝率はそこまで高くないのではと結論を出してしまう。

 

 以前から思っていたことではあるが、俺は指揮官よりも、前線で戦う戦士の方が似合っている。後方から全体を動かすことよりも、結局は前で体を動かす方が向いているということだ。

 

 そう考えると清隆が司令塔で良かったのかもしれない。俺は俺で気軽に暴れられるからな。

 

 放課後の会議も終わり、須藤と何名かの運動が得意な生徒は今からバスケの練習をすることになり、啓誠を筆頭に学力優秀組は研究会に、俺は今から体を整えておこうかと部屋にあるバーベルと背負い仁王像を思っていると、清隆が声をかけてきた。

 

「坂柳の本命はチェスだそうだ」

 

「おや、どこ情報かな?」

 

「本人からメールが来た」

 

「そこで戦いましょうってことか、まるでダンスのお誘いだね」

 

 そういえばロマンチストだとか自分で言っていたな。さながらこれは招待状のようなものか。

 

「おそらくブラフではないだろう」

 

「だろうね、そして彼女はとても強いよ」

 

「オレとどちらが強い?」

 

「さて……俺から言えるのは、今から練習しておこうかってことくらいだ」

 

「良いだろう、今日の飯当番はお前だ。以前に一之瀬に作ったと言っていたサンマのアクアパッツァ、オレも食べたい」

 

 そう言えばホワイトルームは飯がクソ不味い疑惑があるんだったな。清隆は食に関心があるらしい。これも良い傾向だと思う。

 

「おいおい、そういうのは勝ってから言って欲しいもんだね」

 

 どうやら筋トレは後回しになるようだ。今日は清隆に付き合ってチェスの練習でもするとしよう。本番では坂柳さんをボコボコにできるようにしないといけないからな。

 

 坂柳さんがチェスの誘いをわざわざしてきてくれたんだ。正面から凌駕して勝利することが大切であった。

 

 とりあえず頭の中に十個ほどのチェス盤を並べて、部屋に帰るまでの僅かな間、脳内十面指しで戦うとしよう。

 

 これは師匠と修行中にもよくやっていたことなので、とても慣れている。

 

 

 因みに、囲碁でも将棋でもチェスでも、一度も勝てたことはない。

 

 多分、師匠の頭にはスパコンでも埋め込まれているのかもしれない。何年か前に嘘か本当かも判断できないけれど、脳も改造したとか言っていたからな。

 

 

 

 

 

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