ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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練習と不穏な気配

 

 

 

 

 

 

 

 特別試験に向かって動き出したBクラス、授業もそれようにシフトされており、作戦会議や練習などに充てることのできるコマが存在していた。

 

 だらしなく過ごすことも出来ないので、事前に申請して今日は体育館の使用許可を貰っていた。やるのは当然ながら運動系の練習や打ち合わせである。

 

「よし、それじゃあやってみるか」

 

 体育館に用意したのは綱引きで使う太く長い綱。体育祭でも使ったアレである。片方には俺が立って、もう片方にはクラスの男子たちが十九名並んでいる状態だ。

 

「マジでやるのかよ? これでもし笹凪が勝ったらいよいよ人間辞めるんじゃねえかな」

 

 山内が何やら失礼なことを言っているが、池や博士などもうんうんと頷いている辺り、皆が思う所は共通しているらしい。

 

「流石に無理だと言いたいが……天武の体は物理的な説明が出来ない何かだ、否定できないのが恐ろしいな」

 

 啓誠は認めたくはないが、否定も出来ないと言う感じらしい。彼とは体育祭の二人三脚のペアとなり、近くでこっちの動きを体験していたからな。そんな評価にもなるのだろう。

 

「とりあえずやって頂戴。もしこれで天武くんが勝つようなら、綱引きに参加するメンバーは男子に限らず女子を含めた運動に自信がない十九名でも問題がなくなるわ」

 

 そうすると二十枠が男女に拘らず処理できるので、一気に二周目作戦が現実的な物になると鈴音さんは主張する。最初は男子全員を固める方針であったようだが、須藤を筆頭に動ける面子はそれなりにいるので、上手くメンバーを調整できないかと考え、俺と男子十九名で勝負となった。何故か高円寺や清隆も変なやる気を出しているのでまさに俺対クラス男子といった構図だ。

 

 これで勝てるようならば、強引な言い方をすれば須藤を綱引きに参加させずバスケであったり他の運動系の競技に出せることになる訳だ、勝てればの話ではあるが。

 

 俺が太い綱を持つと、反対側では男子チーム十九名が同じように綱を持つ。そして鈴音さんが真ん中に立って審判役となり、競技の開始を宣言した。

 

 

「ぐッ!? うっそだろッ……なんで拮抗してんだよ!?」

 

「高円寺ッ、手を抜いてるんじゃないだろうな!?」

 

「ハッ、ハッ、ハッ!!」

 

「笑ってないで何か言えよ!?」

 

 流石に体育祭の時と違って一対十九なので、一方的な蹂躙とはいかなかった。綱は強く張って中央地点を行ったり来たりしており、その目印を鈴音さんの視線が追いかけている。

 

「そもそも拮抗してる時点でおかしいんだけどね」

 

「やっぱゴリゴリじゃん」

 

「ほんと意味不明、笹凪くんの体どうなってんの……いや、今更だけどさ」

 

 女子からも気味悪がるような声が聞こえて来るな。悲しいことに。

 

「引けお前ら!! これで負けたら恥なんてもんじゃねえぞ!!」

 

 須藤の檄が飛んで男子チームは一斉に力を込めて綱を引き出す。その牽引力は流石の一言であり、まるで重機と綱引きをしているような気分になった。

 

「負けてられないな」

 

 一対十九で、牽引力は互角……いや、ほんの僅かにだがこちらが上回っているだろうか。ミリ単位であるが綱が引き寄せられているようにも思える。

 

 だが体育祭の時のように何もかもを引きずり回すほどではない。ならばこのまま持久戦に持ち込むべきだろうな。

 

 人が最大のパフォーマンスを維持できる時間はそれほど長くはない。ずっと筋肉を強張らせるのは思っているよりも難しい。色々と師匠に改造された俺の体は疲れ知らずだけど、それにだってどこかで限界は訪れる。なら改造されていない彼らの方が早く疲労は蓄積する筈だ。

 

 それを証明するかのように拮抗状態が十秒、二十秒と過ぎて行くと、徐々にあちらの牽引が緩まっていくように思えた。体力の無い組が限界を迎えたらしい。

 

 すると拮抗は崩れてこちらに傾いていき、最終的には中間にある綱の目印を完全にこちらに引き寄せることができた。

 

「マジかよ……負けちまった」

 

 須藤はガックリと膝を突いてうなだれた。他の男子も似たようなものである。

 

「改めて滅茶苦茶ね……一体、どうしてこうなるのかしら」

 

「鍛えているからね。筋肉の質とバネの構造が違うんだよ」

 

「鍛えてどうこうという次元の話でもないと思うけれど……」

 

 そして鈴音さんを筆頭に女子チームもちょっと怖がる始末だ。こういう時は黄色い歓声だと思うんだけど、どうしてそんな反応なのだろうか?

 

「でも、これで綱引きは男子に限らず、女子を編成しても問題は無さそうね」

 

「そうだね、運動が得意じゃない人の参加枠は、男女に拘らずこの競技で一気に消費しようか」

 

 おそらくAクラスの男子二十名と綱引きをしても似たような結果になるだろう。なので俺以外のメンバーを男子に固定する必要はない。こう言っては何だけど勉強や運動があまり得意ではない面子で固めても勝つことが出来るだろう。彼ら彼女らの力が支えになれば拮抗ではなく一方的な展開になるのは間違いない。

 

「えぇ、これなら須藤くんを綱引きでは温存してバスケに出すこともできるわね」

 

 綱引きの面子がざっくりとだが決まって今度はバスケに誰を出すかと言う話になる。やはり筆頭なのは須藤で、団体競技なので他のメンバーもそれなりに動ける面子であることが好ましい。

 

「須藤くん、Aクラスにバスケ部はいるのかしら?」

 

「いるけど幽霊部員みたいな奴だぜ、素人に毛が生えてるくらいでそこまで上手くねえな」

 

 趣味でちょっと齧っているだけという感じなのだろうか? もしかして中学でそれなりにやっている生徒もいるのかもしれないな。

 

「バスケのルールはどうするつもりなんだ?」

 

 清隆のそんな質問に、鈴音さんは少し悩んでからこう返す。

 

「本命競技の一つだから安定して勝てるようにメンバーは厳選するとして、二周目作戦を意識できるように交代枠を多めに設定するつもりよ。それ以外は標準的なルールになるでしょうね」

 

「下手に須藤を温存せずに、最初から出す感じでも良さそうか……お前の言う二周目作戦は何も天武だけに限った話でもないからな」

 

「そうね、彼の身体能力なら、他の運動系競技でも良い結果を残してくれるだろうから……そもそも二周目を意識している時点で、温存という考えはそこまで重視しない方が良いかもしれないわ」

 

「なるほどな」

 

「司令塔としてはどう思うかしら?」

 

「下手に温存しないで良いという考えは、正直楽ではある」

 

 清隆もやる気が感じられる。良い傾向だと思う。

 

「須藤くん、今から何組かに分けて試合をするから、貴方の方で筋の良い人を選んでくれないかしら。その人たちを中心に本番まで練習をしてもらうわよ」

 

「おし、任せてくれ……す、鈴音」

 

「……」

 

 須藤が懲りずに名前呼びすると、鈴音さんは少しだけ眉を跳ねさせるが、僅かな溜息と共にこう言った。

 

「忘れてはいないでしょうね? 私たちが貴方たちに与えたのは許しではなく猶予だということを」

 

「も、勿論だ、簡単に許してもらおうだなんて思ってねえ!!」

 

「なら本番で必ず勝ちなさい。少なくともそれが信頼回復の第一歩よ」

 

「おうッ!! 必ず勝つぞテメエらッ!!」

 

 うん、やる気は漲ったようだ。意外にも鈴音さんは男を転がす悪女が似合うのかもしれない。

 

「バスケと綱引きは本命競技に正式決定として、後はどうしようか?」

 

 二周目作戦を意識しての編成ではあるけれど、本番の抽選次第ではその作戦が破綻することもありえるので、真っ向勝負で勝つことが出来る競技であることも重要だ。

 

「出来る事ならもう一つくらい、大人数を投入できる競技が好ましいけど……体育祭の団体競技を参考にしたようなね。もし二周目に入って最終競技がそういったものならば、ほぼ確実に勝利できるもの」

 

 体育祭では棒倒しや騎馬戦で散々暴れまわったからな。二周目に俺がそこに投入されれば高い確率で勝てる筈だ。たとえ他の面子が運動に自信が無かったとしても。

 

「悪くないかもね」

 

「それにAクラスは勉強系で固めて来るでしょうから、可能ならそちらでも勝ち星を拾いたいのよ……」

 

 俺だって坂柳さんの立場なら勉強系で固める。ゴリラと殴り合うだなんて馬鹿な真似はしない。きっと一之瀬さんや龍園だって同じことを考えるだろう。

 

「でも、参加人数を多くして平均点で挑む形にしてくるでしょうね」

 

 啓誠や鈴音さんなどの少数精鋭で挑ませない形だろうか。テストの平均点という勝敗だとどうしてもこちらが不利になってしまうだろうな。

 

「けれど、そうなったらそうなったでこちらとしては悪い展開じゃない。負けることを受け入れて参加枠の消費を優先しよう」

 

「そうね……本命はあくまで運動系競技に絞りましょう」

 

 Aクラス相手にほぼ確実に勝てる競技は何かと問われれば、やはり俺と須藤を投入しての運動系競技になるだろう。最悪、抽選の結果そうならなくて勉強系の競技になったとしても、俺と啓誠と鈴音さんなどの戦力を固めて投入することもできる。

 

 さっき清隆も言っていたが、二周目作戦は何も俺だけを二度参加させることだけを意識していないのだ。須藤たちだってその恩恵を得られるだろう。

 

 俺と鈴音さんは、須藤が監督をしているクラスメイトのバスケを眺めながら、試験本番へ向けた作戦会議と意思の共有を行うのだった。

 

 彼女も真剣な様子である。いつもそうだけど一年の締め括りということもあって、より集中できているのだろう。 

 

 

 

 

 そんな授業兼作戦会議も終わってお昼休みの時間になり、グループで食事をするか、それとも鈴音さんを誘ってお昼にするか悩んでいると、彼女は他のクラスメイトと細かな打ち合わせがあるということなので、自動的にグループに合流することになった。

 

 食堂の隅っこか、或いはちょっと歩いてカフェでもどうだという話になり、ゲン担ぎにカツ丼が食べられる場所ならどこでもと答えた時だろうか、俺たちにこんな声が届く。

 

「なあ一之瀬。絶対に抗議した方がいいって!!」

 

 荒ぶる声を出すのは柴田であった。男版一之瀬さんなんて評価も出るくらいの彼があのような激しい主張をするのは珍しいとも言えるだろう。

 

「めっずらしいよね、柴田くんってあんな風に怒ることもあるんだ」

 

「確かに意外だな」

 

 他のグループメンバーも同じことを思ったのか、珍しそうにその光景を眺めていた。

 

 一之瀬さんを筆頭に幾人かのCクラスの生徒たちがいることを確認して、どうしたのだろうと考えていると、一之瀬さんと視線が絡み合う。

 

「ねえ、これからお昼に行くところなの?」

 

「ああ、そうだよ。そちらもかな?」

 

「うん偶然だね……あ、ならこれから私たちと一緒にランチでもどうかな」

 

 意外な誘いである。そもそも一之瀬さんはこっちのグループとそこまで関わりもない。なのでそんな提案に神崎が驚いたような顔をしていた。

 

「一之瀬、どういうつもりなんだ?」

 

「どういうつもりって……Bクラスと戦う訳じゃないんだし、問題はないでしょ?」

 

「それはそうなんだが」

 

「まあいいんじゃないかな? 俺も柴田が声を荒げている理由も知りたいからさ。お昼一緒にしようよ」

 

「そうだね、時間も勿体ないし行こうよ」

 

 そんな流れでお昼休みは一之瀬さんたちと一緒に過ごすことになった。ゲン担ぎのカツ丼を頼めないカフェに行くことになったのは少し残念ではある。

 

 食堂ではなくカフェで昼食とは、とてもオシャレな感じであった。普段は食堂だったりケヤキモールのラーメン屋にはよく行くのだが、こういった場所はなかなか入り辛かったりするので良い経験になるのかもしれない。

 

「ごめんね、急に誘ったりして。今日は私が御馳走するから遠慮しないで」

 

「そういう訳にもいかないさ。他クラスの人に奢って貰うのはちょっとね……貸し借りを作るのもアレだからさ」

 

「笹凪くんがそんなこと言うのは、ダメだよ……ズルい」

 

 カフェの席に腰を下ろした一之瀬さんに、少しだけ物憂げな顔をされてしまった。

 

 俺のアレは貸し借りとかそういう話じゃなくて完全な自己満足だから問題はない。奢られるかどうかの話とは別次元だ。

 

「天武の言う通りだ。どうせオレたちも普通に食べるつもりだったんだ、自分たちの分は自分たちで出そう」

 

 清隆の言葉にグループのメンバーは納得したように頷く。

 

「私が誘ったんだし、気にしなくても良いんだよ」

 

「いいんだ。その方がオレたちも委縮せずに食べられる」

 

「これが龍園ならそんなことないんだけどね。彼の財布から出たお昼だと思うと俺は凄く美味しく食べられると思うんだ」

 

「毒が入っているかもしれないがな」

 

「なるほど、そう言われると反論できない」

 

 逆に一之瀬さんに奢って貰う場合、その手の心配はいらないだろう。ただし龍園と違って申し訳なくて委縮してしまうだろうが。

 

 そう考えると不思議なものだ。人によってここまで奢られると言う対応の印象が変わるのだから。

 

「それで、さっきの柴田の様子はどうしてなんだ?」

 

 本題を切り出したのは明人であった。すると全員の興味と視線が柴田に向いた。

 

 困惑する柴田だが、その隣にいた神崎が警戒したように表情を引き締めているので、やはり笑い話で終わるようなことでもないんだろう。

 

「いいのか、話しても」

 

「大丈夫だよ神崎くん、強く警戒する必要もないと思う」

 

「Bクラスの中に、関係者がいる可能性は否定しきれない」

 

「そうだとしても影響はないんじゃないかな」

 

 まるで一之瀬さんは俺たちに話を聞いて貰いたいかのような印象も与えた。警戒心の強い神崎は少し渋い顔をしているな。

 

 彼は冷静で警戒心の強い男である。参謀向きでこういう存在がクラスに一人は必要だと思う程であった。何があったのかは知らないが、今回も持ち前の警戒心で慎重に行動しているようだ。

 

 ただ俺たちには完全に心当たりがないことなので、その警戒心は無意味である。

 

「えっとね、簡単に言うと、ちょっとDクラスから強い嫌がらせを受けてるみたいなんだよね」

 

 そんな一之瀬さんの説明にこちらのグループは顔を見合わせた。そんな俺たちに柴田は食い入るようにこう言う。

 

「なんか俺や中西、あと別府も似たような被害にあってるんだよ。なんて言うか、無意味に絡んで来るって言うか、後を付けられてたりするって言うか。別府の奴はアルベルトに無言で壁際まで追い込まれてかなり怖かったらしいぜ」

 

 あの男は何だかんだで紳士なのだが、龍園を何故か慕っているからな。だとしたらこれは彼の指示ということなんだろう。

 

「もうすぐ特別試験があるんだ。龍園お得意の盤外戦術なんだろうね。そっちのクラスの集中と言うか、余裕を崩したいんじゃないかな」

 

 どうしてこんなことをするんだという疑問は、龍園だからで説明できる辺り、彼への全校生徒の信頼は地を這うように低いのだろう。

 

「だろうな。俺たちのクラスも過去に龍園たちに付きまとわれたりした。そう考えるとそこまでおかしなことじゃないだろ。確かにDクラスはガラの悪いイメージがあるが、ある程度の圧力はあってもおかしくない。現に俺たちもAクラスから偵察まがいのマネを受けている」

 

 啓誠の言葉に、俺は教室の近くをウロチョロしている橋本の姿を思い出した。坂柳さんの命令なのか、それとも自発的な行動なのかは知らないが、ここ最近は頻繁に見かける男だ。

 

「今の話を聞かされて俺が思ったのは、何であれ警戒しておこうって感じかな。龍園は愚かでも馬鹿でもない、そして勝利に執着する男だ……一之瀬さん、しっかりと注意した方が良いよ」

 

「うん、結局は、そうなっちゃうよね」

 

「いっそ君たちからも前に出て圧力をかけたらどうだい? 睨みを利かしてさ」

 

 まあ一之瀬さんクラスがそれをやってもあまり怖くはないのだけれど、龍園クラスと違って温厚な人が多いからな。

 

「う~ん、それは流石にね……私たちは一つ一つ頑張って来週上がって来る十種目、その全てに対応するつもり」

 

「それでも良いと思うよ。決められたルールの中で真面目にやるのが一番だ」

 

 そして決められたルールの中でいかに活路と手段を揃えられるかが勝利に繋がる筈だ。俺たちがやろうとしている二周目作戦だってルールの中にある手札の一つであった。

 

「まあそちらの言い分はわかったよ。こちらが柴田のことを勝手に言いふらせば、それだけDクラスの作戦に参ってるってことをアピールしてしまうからね。俺たちは騒がず慌てず、下手な介入もせずに黙って見ているとしよう」

 

「そうしてくれると嬉しいな」

 

 微笑みを浮かべる一之瀬さんから、僅かにシトラスの香りが漂ってくる。どうやら以前に購入した香水は愛用しているらしい。とても良い匂いだと思う。

 

「十分に気を付けて、きっと龍園はタダで終わる男じゃないだろうからさ」

 

「うん……心配してくれてありがとう」

 

 最後に、少しだけ照れた様子でそう伝えて来た一之瀬さんは、一年の最終試験に向けて準備はしっかりと整えているらしい。

 

 そう言えば彼女のクラスと龍園クラスがこうして互いを指名して直接対決をするのは初めてのことじゃないだろうか。安定感抜群のクラスと邪道を突き進むクラス、果たして勝つのはどちらだろうか?

 

 少し興味はあるな。こちらも目の前にAクラスが迫っているのであまり余裕もないので深くは関われないだろうけど。

 

「やっぱ一之瀬さんって可愛いよね。あの最後の笑顔とか反則。そう思わない?」

 

 昼食が終わって一之瀬さんたちが去っていくと、波瑠加さんがそう話を切り出した。

 

「俺は、別に……」

 

「あ、ゆきむー思い出して顔赤くなってる」

 

「なってない」

 

「無理に否定しなくていいって。そりゃさ、女の子でも一之瀬さんは可愛いと思うんだから、男子なんて絶対イチコロよね」

 

 同意見なのか愛里さんもコクコクと頷いている。

 

「みやっちもテンテンもきよぽんも、どうせ同じ意見でしょ?」

 

「確かに彼女は魅力的な女性だと思うよ」

 

 旗色が悪いと判断したのか明人と清隆の代わりに俺がそう答えると、波瑠加さんは少しムッとした顔になってしまう。

 

「だろうね~、鼻の下伸ばしてたしさ」

 

「俺はそんな感じだったかな?」

 

 確かに一之瀬さんを見ていると微笑ましい気分にはなる。けれどそれは愛里さんや波瑠加さんを見ていても同じなのだが。もっと言えばクラスの皆だって同様だ。

 

「まあ良いけどさ、テンテンって誰にでも父親みたいな顔するからさ……それよりさ、一之瀬さんって前から香水使ってたっけ?」

 

「あ、私も気づいたよ……シトラス系の香水つけてたよね」

 

「だよね? 私、それが一番驚いたかも。何か心境の変化とかあったのかなって思ってね」

 

 やはり女性はそういった変化に敏感なのだろうか? こちらの男子たちは何のことかわからないと言いたげな顔をしているのが証拠だ。

 

「香水なんて付けてたか? 付けてたとしても、今日はそんな気分だっただけだろ?」

 

「オレも気が付かなかった」

 

「男子ってホント……ちょっとした変化に気が付かないんだから。ねぇ?」

 

 呆れたような波瑠加さんの視線はこちらに向けられる。

 

「フフフ、俺は気が付いているよ。波瑠加さんと愛里さんは普段とは異なるリンスを使っているってね」

 

「お、そこはちゃんと気が付いてるんだ。正解、この前二人で買い物行った時に、新作があったから試しに使ってみたんだ。偶にはお気に入りのヤツじゃなくて冒険してみようかなって。匂いも悪くないしさ」

 

「よ、よく気が付いたね」

 

 驚く愛里さんに俺は自信満々にこう返す。

 

「鼻が良いからね」

 

 師匠曰く、女性の変化には気を配るべしとのこと。

 

「でも女子の匂いに敏感とか、少し変態っぽいかもね~」

 

「は、波瑠加ちゃん……」

 

 確かに俺もちょっと変態っぽいとは思ったけれども……そんなにハッキリと言わなくてもいいじゃないか。

 

 前に香水やシャンプーなんて全部一緒じゃないかと、使い分けるなんて無駄な行為なのではと師匠に言った時はデコピンされて吹き飛ばされてしまったから、こういう変化にはちゃんと気が付くようにしているだけなのに。

 

 不当な評価である。俺はそんなことを思った。

 

 

 

 

 




月城「あれだけ露骨な試験でも激怒しないのなら、意外に寛容ですね……勝ったな、ガハハ」
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