ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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一年度最終特別試験 2

 

 

 

 

 

 

 綾小路視点

 

 

 

 

 

 英語テストが終わって次は第4種目となる。そう楽々といかないのか今度もAクラス側の本命競技となってしまった。確率の下振れをとやかく言っても意味がないのでここは受け入れる。

 

 こちらは既に37名の生徒を競技に参加させていたので、この競技で完全に二周目に突入することになった。残る三名は可もなく不可もない生徒、そしてこの競技で二周目に突入したことで主力を投入できるのだが……ここは勝利を譲るとしよう。

 

 数学テストにはそこまで学力の高くない生徒を七人投入する。啓誠や堀北などの学力優秀組は一人も入れない。

 

 最終種目がどうなるにせよ、そこに主力を固める方針だった。最悪でも天武だけはそこにねじ込まなければならないだろう。

 

「おや、この競技も捨てられるようですね。見据えているのは最終種目ですか?」

 

「……」

 

「もう、ちゃんとお喋りをして欲しいものですね。寂しいではありませんか」

 

 その必要がないだけだ。舌戦なんてものは本当に必要な時にだけ行えば良い。そう考えると坂柳は随分と饒舌だ。意味もないというのに。

 

 言葉とは雄弁にまき散らすのではなく、心を折る瞬間にほんの僅かに語れば良い。

 

「司令塔は一問だけ答えることが出来るのですが、それすらも行わないのですか」

 

 捨て競技だからな。さっきの綱引きと同じで勝てる筈がない上に選出した面子も学力に秀でている訳でもない。何が起ころうと必ず敗北するので後は見ているだけだ。

 

 そしてわかりきっていた事だが、数学テストも敗北することになる。

 

「これで二勝二敗、並びましたよ……尤も、貴方が見ているのは最終戦のようですが」

 

「……」

 

「綾小路くん。私はとても悲しいです。ようやく夢の舞台だというのに、こんなにも無視されてしまうだなんて。どうすれば貴方の口が軽くなりますか?」

 

「さあな」

 

「つれない方……ふぅ、まあいいでしょう、このまま追い詰めれば多少は焦ってくれるでしょうから。みっともなく泣かせるのも悪くありませんとも」

 

 本当に饒舌だ、楽しいのかもしれないが、少し煩わしいとも感じた。

 

 坂柳からのちょっかいから逃れるようにモニターに視線をやると、そこにはフラッシュ暗算が競技に選ばれたことがわかった。

 

 Aクラスは葛城康平と田宮江美の二人。後者に関してはあまり情報は無いが、前者の葛城に関しては高い能力がある筈だ。

 

 だがこちらとして学力系は捨て競技なので大真面目に相手はしない。ここで二勝三敗になろうともだ。

 

 なので動きが読みにくい高円寺と、棒にも箸にもかからない山内を選んでお茶を濁す。最初から勝つ意思などなく。よしんば高円寺が気まぐれを発揮してくれればという理由での選出であった。

 

 本命は次の競技、そして最終競技だ。そこを間違えてはいけない。

 

 もしここで高円寺が序盤から動くのならば、オレも真面目に問題を解いて最も得点の大きい最終問題を答えるのだが、残念なことに動く気配はなかった。

 

 なので完全に捨て競技となる。次々と映し出される数字を見て狼狽える山内と、腕を組んで不敵な笑みを浮かべる高円寺、どちらも高得点を取れる筈もなく問題は進んでいく。

 

 真面目にやっているのは葛城くらいのものだ。坂柳との政争がクラス内投票で実質終結したらしいが、内心はどうなのだろうか。

 

 虎視眈々と復権を狙っているのか、それとも従順な犬と化したのか、何であれ今は真面目に問題を解いている。

 

 この競技もAクラスの勝利だろうな。そんなことを考えていると、高円寺が突然に最終問題だけを解き始めたので少し困惑してしまう。

 

 やる気が欠片も感じられなかったというのに何のつもりだと思っていると、難なく最も難易度の高い最終問題を解いていった。

 

『フッフッフッ。フラッシュ暗算とは、中々面白遊びだねぇ。初めてやったよ』

 

 事実かどうかは知らないが、高円寺は難易度の高い問題の答えがわかったらしい。

 

「綾小路くんは最終問題が解けましたか?」

 

「7619」

 

「同じ答えです。そしてどうやら彼も同じなのでしょう、あの様子だと」

 

 どこか坂柳味を感じる不敵な笑みを浮かべる高円寺は、やはり最終問題だけが正解となり、ここに敗北が決定することになった。

 

 そして山内に関しても同様、葛城に勝てる訳もなく、これで二勝三敗となってしまう。

 

「これで逆転」

 

 言葉は返さない。それを焦りと思ったのか、それとも余裕と受け取ったのかは知らないが、坂柳はクスクスと笑うだけである。

 

「しかし、泣いても笑っても後二戦で終わってしまうのですね。実に残念です」

 

 溜息と共にそんなセリフが聞こえて来るが、こちらから反応は返さない。

 

 

 こいつは理解していないのかもしれないが、オレはそれなりに苛立っている。勝負に勝った負けたの話ではなく、天武の配慮と甘さに付け込んだ行為そのものをだ。

 

 それが勝利に必要なことであると理解はしている。天武も自分が馬鹿だったとも言っていたが、オレは納得はしていない。

 

 きっと、これはオレなりの意趣返しなのだろうな。

 

 

 第六競技に選ばれたのは「1200メートルリレー」である。これはこちら側が提出した本命競技なので手堅く勝ちたいが。悩みどころでもあった。

 

 勝つことは難しくない。二周目に入ったので須藤と天武を投入すればほぼ確実に勝てるだろう。

 

 しかし最終競技がどうなるかがわからないので、ここだけは戦力を温存したい。最低でも天武だけは残しておきたいのだ。

 

「フフ、ここに来て初めての長考ですね。わかりますよ、悩みどころだと。誰を出して誰も残すのか、難しい判断でしょう」

 

 坂柳の揶揄うかのような声に、Aクラスの残された競技を思い出す。残るのはチェスと現代文テストの二つ。こちらは柔道と腕相撲だ。

 

 もし運動系競技が最後に選ばれた場合はこちらの勝ちが天武がいるので実質確定する。つまりここでは絶対に出せない。

 

 逆に現代文テストであった場合は、学力優秀組を全て送り込みたいのでこの競技には出せない。

 

 ではチェスが選ばれた場合はどうだろうか? 必要人数もそれほど多くなく、司令塔が関与できる範囲も大きい。そしてこの競技でも天武は強い。

 

 そう考えると、男子は須藤と明人と牧田、女子は松下と小野寺と櫛田になる。

 

 櫛田に関しては最終戦が現代文テストであった時に残しておきたい気持ちもあったが、女子三人が満遍なく動ける面子にしなければならない都合上、投入に踏み切る。

 

 この競技のカギとなるのも、やはりバスケと同様に須藤だろうな。

 

 モニターが映し出す場所が体育館からグラウンドに移り変わる。そこには両クラスの代表者が集まっていた。

 

 1200メートルリレー。ルールは体育祭と同様とする。男女六名のチームで勝敗を競う。とてもわかりやすい競技だった。

 

 最初のランナーは須藤。体育祭でもそうだったが、とにかく序盤でリードを作る作戦である。そしてアンカーは明人となっている。

 

 対するAクラスの面子は、どうやらバスケと似たような編成のようだ。鬼頭と神室は運動系の中核を担っているらしい。そこに運動能力順に男女がそれぞれ選出されたようだ。

 

 バスケでの対戦と同様に鬼頭と須藤が最初のランナーに選ばれて睨み合う。

 

 変なライバル意識でも芽生えたのだろうか? どちらにも強い対抗心のようなものを感じられるな。

 

「ここで天武くんを投入すれば勝利は確実、三勝三敗まで戻せる筈ですが……彼は温存しましたか」

 

 少しだけ、これまで饒舌だった坂柳の口調が落ち着く。最終種目のクジ運次第では敗北する可能性があると言われるまでも無く理解したのだろう。

 

「怖いのか?」

 

「ずっと口数が少なかったというのに、ここぞとばかりに挑発してくるなんて……意地悪なのでは?」

 

「すまないな、だが舌戦というのはそういうものだろう」

 

「かもしれませんね……ですが大丈夫ですよ。貴方と天武くん、同時に挑んでいるんですから、私は最初から絶対に勝てる等と思い上がってはいません」

 

 だろうな、慢心して挑んで来ているのならば、もっと話は早かった。

 

「重要なのはただ一つ……それでもなお勝たねばならない、ただその意思だけ」

 

 勝利に貪欲なのは良い事だと素直に思う。龍園もそうだが、この学園は面白い生徒が多い。

 

 坂柳の言う通り、それでも勝たなければならないのが、人生でもあった。

 

 モニターを眺めると須藤と鬼頭が同時に走り出しているのが確認できる。スタートダッシュこそ互角であったが、二人の間は徐々に開いていく。鬼頭が遅いのではなく、須藤が速いと評価すべきなのだろう。

 

 この競技で気を付けるのはバトンの受け渡し、そこだけはこの準備期間に徹底的に練習して精度を高めて来たので淀みなくバトンは小野寺に渡っていく。

 

 そして小野寺は体育祭でバトンを落としてしまった経験がある。苦手意識を取り払う為にもとてつもない気迫で練習を行っており、その努力が実ったのか牧田へと完璧にバトンを渡す。

 

 追いつこうとするAクラスではあるが、序盤に須藤が作ったリードを完全には埋めきれない展開が続いていく。あちらのクラスは鬼頭以外は突出しているとは言えない雰囲気だな。

 

 バトン渡しは完璧、まだリードはある。そして最終ランナーである明人にバトンが渡って、須藤が作ったリードを僅かに残した状態でゴールとなった。

 

 これにより、天武を温存して最終競技にまでもつれ込むことになる。

 

「三勝三敗……いよいよ最後ですか。いざこうなると寂しいものです」

 

 最初からこうなる可能性は高かった。計算通りと言えばそれまでであり、何よりも重要なのはこの最終競技なのだろう。

 

 既に形勢は傾いていると断言してもいい。

 

 残された運動系の競技、柔道か腕相撲がくればこちらの勝ち、逆に現代文テストとチェスが来たとしても主力は残してある。

 

 さてどうなるだろうかと、どこか祈るような気持ちで大型モニターを眺めていると、遂に最終競技が映し出されていく。

 

 

「ふぅ」

 

 

 坂柳がいる場所から安堵した溜息が届く。天武を残した状態で柔道と腕相撲に挑むという最悪の状況にならなかったからだ。

 

 三勝三敗で迎えることになる最終競技はチェス、最高ではないが、最悪でもない。こちらにとって最も嫌な展開は現代文テストだったので、これはこれで良い。

 

 勿論、最高なのは柔道と腕相撲である。この二つの競技は勝ち抜きルールなので天武を先頭に置けば必ず勝てる。選ばれた時点で勝ちが確定していたのだから坂柳の安心も自然なのかもしれない。

 

「良かった……まだ夢の時間は終わらないようですね」

 

「Aクラスにとっては誤算だったんじゃないか? ここまで追い詰められて」

 

「まさか。さっき言ったではありませんか……私は貴方たちに勝利する為に来たのだと、最初から格下に見てはいません。負けるのはこちらかもしれないと、そう思ってここに立っているのですから」

 

「そうか」

 

「綾小路くん、チェスの自信は?」

 

「生憎と、オレはチェスが得意なんだ」

 

「フフ、それは楽しみです」

 

 パソコンを操作して、この最終競技に出す生徒を選ぶ。迷うまでもなく天武一択であった。

 

「やはりここでも彼が出て来ますか」

 

「こちらの最強戦力だ、出さない理由がない。そちらは橋本か」

 

「えぇ、残念ながら彼と天武くんでは話にもならないので、序盤から介入させて貰いましょうか……綾小路くんも、どうかご一緒に」

 

 まるでダンスでも誘うかのような声色である。

 

 「チェス」の必要人数は一人、持ち時間は60分。ルール・通常のチェスのルールに準ずる。ただし41手目以降も持ち時間は増えない。司令塔・任意のタイミングから持ち時間を使い最大30分間、指示を出すことができる。

 

 この競技で司令塔が気を付けるべきなのは、どのタイミングから30分間介入するかなのだが、坂柳は初手から介入するつもりのようだ。

 

 橋本の棋力は把握していないが、この競技に選ばれたということはそれなりの技量は持っていることは想像できる。しかし天武が対戦相手なので高校生レベルでどれだけ達者であろうとまず勝てない。

 

 だからこその初手介入、これはオレと坂柳の戦いでもあるが、天武との戦いでもあるということだろう。

 

「綾小路くん」

 

「なんだ」

 

「夢のような三十分間にしましょうね」

 

「……」

 

「はぁ、ここでだんまりとされると、もの凄く寂しいものがあるのですが」

 

「いや、どう答えるべきなのか悩んでいた」

 

「どういうことでしょうか?」

 

「お前の言う夢のような三十分と言うのが、どうにも想像できなくてな」

 

 まるでこの三十分を楽しむかのような言い方に、なんて返せばいいのかオレにはわからなかった。

 

「きっとオレは、お前の期待には応えられない」

 

「おや、自信があるのでは?」

 

「あるぞ、きっと……お前が思っている以上にな」

 

 脳内にこれまで天武と繰り広げて来た棋譜の全てが思い浮かぶ。264回分の対局、102回の敗北と106回の勝利と、56回の引き分けが。

 

「まさか坂柳は、この対局を楽しめると思っているのか?」

 

 負ける度に強くなり「学習」して思考力が鋭くなったと思う。

 

 それで、坂柳、お前はどうなんだ?

 

 お前には、102回の敗北の経験があるのか?

 

 同格以上の存在と競い合う環境にどれだけ身を置けた?

 

 それが決定的な差となることを、本当に理解できているのか?

 

「すまないな……夢のような時間は共有できそうにない。夢というのは、一般的に楽しいものらしいからな」

 

「……」

 

 そこで初めて坂柳が黙る。

 

 

 

「さっさと負けてくれ、この三十分間は、ただその為だけにある」

 

 

 

 さて、ようやくオレの舌も温まって来たようだ。

 

 ここから先は、全力で行くとしよう。

 

 

 

 

 




月城「三勝三敗で最終競技ですか……ホワイトルームでの綾小路清隆の成績を見るに、チェスで追い込める可能性は低い。それなら平均点を競う現代文テストの方がAクラスが勝てそうですね。そっちに動かしましょうか」

天武「う~ん、できることなら清隆と坂柳さんが直接戦うような舞台を用意してあげたいんだけど、そんなに都合よくはいかないかなぁ」

幸運「了解」

ピピ~!! システムエラー!! 最終競技はチェス。

月城「……だから何で?(怒)」
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