ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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この話が終わると、一年生編も終わりとなります。


一年前の話 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 『少年が高校生になるまで後24時間』

 

 

 

 

 

 

「えっと、すみません師匠。俺は入学関連のあれやこれやは全く関わってないんですけど、準備とかどうなってるんですか?」

 

『安心しろ、手続きはこちらで済ましてある。荷物や制服などは指定したホテルに配送してあるので、そこに向かいなさい』

 

 色々と忙しかったここ最近の仕事を終わらせ、アメリカからすぐさま帰国して空港に降り立った瞬間に、俺は未だに海外で仕事を行っている師匠とそんな通話を行っていた。

 

 スマホの向こうでは何やらドンパチの音が広がっているが、師匠の声は落ち着き払っており、大きな心配はいらないのかもしれない。少なくともあの人が死ぬのは想像できない。

 

 俺は護衛任務を引き受けて一人の少女をアメリカまで亡命させたのだが、高校の入学が迫っていることからすぐさま帰国して、今は空港にいる。

 

 ただ入学しろと言われても不安に思って当然だと思う。準備も無ければ情報も何一つとして持っていない。日本国内なのに荒野に放り出された気分であった。

 

『以前に受験を受けさせただろう?』

 

「えぇ、覚えていますよ。ちょっと遠かったから、麓の街の市役所でやったテストですよね」

 

『うむ、問題なく合格したようだ。明日より君は高校生である。よく学び、よく食べて、よく成長するといい。以前にも言ったことがあるね、夢と憧れと恋を見つけるようにと』

 

「はい、一つ見つけて未熟者、二つ見つけて半端者、三つ見つけてようやく一人前でしたよね」

 

『そうだ。高校と言う場所ではそれらが見つけやすいだろう。青春というのは大切だからな』

 

 そんな通話をしながら空港の入口付近でタクシーを捕まえて、師匠に教えて貰ったホテルまで運んで貰う。

 

『いいかい、弟子よ。君はまだまだ未熟者だ……武人としても人としてもあらゆる物が足りていない』

 

「はい、勿論わかっています」

 

『だからこそ多くを学びなさい。きっとこの先、君は様々な縁を結んで無数の経験を積み重ねるだろう……勝利して、時に敗北して、躓くこともあれば、嘆くことも悲しむことも、調子に乗ることだってあるだろう、そして酷い矛盾や無力感を抱えることだってある筈だ……だが、それで良い』

 

 またスマホの向こうでは爆発音のような物が響く。きっと戦車でも投げつけているんだろう。

 

『完全完璧でない君に、完全完璧など求めはしない……あらゆる勝利を、敗北を、無力感や酷い矛盾も、力及ばなかった現実も、それら全てを己の力と変えなさい。未熟者にできるのはいつだってそれだけだ』

 

 スマホの向こう側で、師匠が戦車を片手に少しだけ笑ったような姿がそこで思い浮かぶ。

 

 

 

『君はその先に、未熟を越え、半端を越え、一人前も越え、妙手を凌駕して、達人に至り……更にその先で、天下無双の漢となりなさい』

 

 

 

 

「わかりました。頑張ります」

 

 俺がそこに至れるかどうかはわからない。わかっていることは、俺はこの先様々な経験をして成長していくということだけである。

 

 沢山の勝利を、敗北を、無力感を、矛盾を、力に変えていく、それだけだ。師匠も言ったように完全完璧でない俺はあらゆる経験を蓄積していくことでしか活路を見いだせないのだから。

 

 少しだけ名残惜しさを感じながら、スマホの通話は切れることになった。まだ海外でやることがある師匠とはここでお別れとなる。

 

 また三年後に、幾らでも話す機会はあるだろう。その時には、今よりはマシな男になっていたい。

 

 天下無双にはまだ遠いけど、目指さない理由はどこにもない。

 

 

「おや、事故かな? お客さん、どうやら暫く動けないみたいだ」

 

 

 まだ見ぬ学び舎と、師匠のことを思っていると。荷物が配送されているホテルまで移動する為に捕まえたタクシーの運転手が、前方の渋滞を見てそんなことを言った。

 

 俺もフロントガラスの向こう側に視線を向けてみると、確かにそこでは乗用車が横転して大規模な渋滞が出来ているのがわかる。

 

 怪我人はいるのか? 警察や消防はすぐさま駆けつけるのか? いや、この渋滞だと厳しいか。

 

「ここまでありがとうございました、俺はここで降りますよ。おつりはいらないので取っておいてください」

 

 事態は急を要するらしいので、空港で両替した一万円札を支払っておつりを受け取らずにタクシーの外に出る。

 

 そしてすぐさま事故現場に駆け付ける。何があったのかはわからないが、横転した乗用車はガソリンが漏れており深刻な事態であることがわかった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 横転した乗用車の中には老人が一人、意識はあるようだが扉が変形しているのか外に脱出できない状況のようだ。

 

 それがわかった瞬間、変形した扉の隙間に貫手を差し込んで、強引に扉をこじ開けていく。

 

 メキャメキャっといった音と共に変形した扉を開かれる。そして中にいた老人がかけていたシートベルトを引きちぎり、抱きかかえて脱出させるのだった。

 

 ついでに、貴重品なども必要だろうと思い。助手席付近で転がっていた鞄や財布なども一緒に外に持っていく。

 

 その数秒後だ。ガソリンに火が付いて乗用車が炎上したのは。

 

「危ないな、ギリギリじゃないか」

 

 一瞬で炎に包まれた車を見て、助けに入るのがもう数秒遅れていればどうなっていたのかを想像してしまう。だがこの老人は助けられたので全て良しである。

 

「すまないねお若い方、救われたよ」

 

「ご婦人、どうかお気になさらず」

 

 救助したご老人は俺の手を取ってしきりに感謝してきた。こうして感謝の思いを伝えられるのは悪い気分にはならないな。

 

「意識はしっかりしているようですし、目立つ怪我も見受けられません。ですがしっかりと病院で検査なされてください」

 

「ありがとうねぇ、何かお礼をしないと」

 

「成すべきことを成しただけですので、本当にお気になさらず」

 

「そうも行かぬのが人情だよ……ただ、年金暮らしの婆にはちょいと厳しいかもしれない」

 

「本当に必要ありませんよ」

 

 だが老婆は気が済まなかったのか、鞄の中を漁ってこんな物を差し出してくる。

 

「すまないねぇ、こんな物しかなかったよ」

 

 取り出されたのは飴の入った袋である。カラフルなそれは子供に人気のある奴だ。

 

「孫にあげようと思って取っておいた奴だ」

 

「甘い物は大好物なので、とても嬉しいです」

 

 この老人の心情としても、せめてもの感謝を表したいのだろうと汲み取って、俺はその飴が入った袋を受け取った。

 

 誰かを助けて飴を貰う。良い時間を過ごしたものである。

 

 遠くから救急車と消防車のサイレンが聞こえて来たので、後はそちらに任せて問題ないだろうと判断すると、飴をポケットにねじ込んでからその場を後にするのだった。

 

 タクシーは乗り捨ててしまったので、ここから先は徒歩で荷物があるホテルまで移動しなければならないな。

 

 

 

 

 『少年が高校生になるまで後23時間』

 

 

 

 

 新しいタクシーを捕まえるか、それとも徒歩でのんびり移動するか、そんなことを考えながら目的地のホテルまで歩いていると、今度は泣き声のような物が耳に届く。

 

 師匠に改造された耳は地獄耳なので、泣き声を見逃す筈も無く、何事だと俺はその声の発生源に向かって走り出した。

 

 しかもこの泣き声、女の子のものである。それならばより頑張らなければならない。

 

 都心の大通りを抜けて住宅街交じりの商店街付近まで移動すると、泣き声の主を発見すると同時に、泣き声の理由にも納得する。この商店街で購入したのか、それとも自宅から持ってきたのかは知らないが、小さな女の子が持っているカラフルな風船が手元を離れていたのだ。

 

 その風船は、商店街の中央通りに生えている桜並木の枝に引っかかってしまっている。あの少女では決して届かない高さである。

 

 なので俺は、勢いを付けてジャンプすると、七メートルほどの高さで桜並木の枝に引っかかっていた風船をキャッチする。

 

 

 ただ悲しいかな、枝に引っかかっていたその状況で強引に引っこ抜いたのだ。それほど頑丈でもない風船は、その場で破裂してしまうのだった。

 

 

「うぇぇええぇぇえんんんッ!?」

 

 

 当然ながら少女は号泣である……カッコよく颯爽と解決しようとしたのだが、そんな簡単にとはいかないらしい。

 

「す、すまない。漫画のヒーローは上手いこと解決していたんだけど、やっぱり漫画と現実は違うもんだね」

 

 俺が破裂させてしまった風船はもう戻らない。つまり少女が泣き止む理由もない。どうしたものかと悩んでいると、ポケットにある膨らみの存在を感じ取った。

 

「あ~……お嬢さん、良ければこちらをどうぞ」

 

 ポケットの中にあった飴が入った袋を泣きわめく少女の前に差し出すと、彼女はそれを見た瞬間に泣き止む。

 

 現金な物である。しかし子供らしく可愛いとも思えた。

 

「……くれるの?」

 

「あぁ、この飴は全て君の物だ。代わりに泣き止んではくれないかな?」

 

 少女はそんな要求に、小さくコクッと頷いて飴が入った袋を受けてってくれる。風船は破裂してしまったが、これで一件落着だな。

 

 カラフルな飴を受け取って涙は引っ込んだ。そしてその内の一つを口に含むと、花が咲いたような笑顔を見せてくれる。

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

 

「どういたしまして。ごめんね、風船を割っちゃって」

 

「ううん、いいの。頑張ってくれたのはわかるから」

 

 聡明な子供である。飴を貰ったから上機嫌なのかな。

 

 彼女は口の中に広がる甘い味に満足そうにしながら、思い出したかのように自分の小さなポケットを弄っていく。

 

「はい、これ、お兄さんにあげるね」

 

「これは、ビー玉かな?」

 

「うん、私の宝物」

 

「そんな物を貰ってもいいのかな」

 

「お母さんがね、いつも言ってるの。頑張った人にはご褒美が必要だって。だから私も沢山お母さんを手伝ってるんだ」

 

 そう言って少女は、商店街の一角を埋める精肉店を見つめる。どうやらそこの店員さんがお母上であるらしい。別に迷子と言う訳でもなかったので一安心だ。

 

「だからあげるね」

 

「ありがとう」

 

 少女を笑顔にすると、飴玉がビー玉に変わるのだった。

 

 

 

 

 『少年が高校生になるまで、後22時間』

 

 

 

 

 

 さて少女も笑顔にしたことだし、今度こそホテルに向かおうと歩き出す。

 

 飴玉からビー玉に変わったそれを指先で摘まんで、歩きながら太陽にかざして商店街を歩く。

 

 言ってしまえばただのガラス玉でしかないが、色付けされて中にある無数の気泡が独特の美しさを纏っており、太陽にかざしてみるととても美しく感じられるのだった。

 

 そんなことをしながら歩いていたからだろうか、何かに少しだけ躓いてしまって、俺は指で摘まんでいたビー玉を地面に落として転がしてしまうことになる。

 

 幸いなことに割れることは無かったようだが。小さなビー玉はそのままコロコロと商店街の中を転がっていく。

 

 慌てて追いかけると、ビー玉は商店街の中央通りに植えられている桜並木の根っこにぶつかって止まる。

 

「やれやれ、貰っていきなり無くすことにならないで良かった……うん?」

 

 桜の木の根っこにぶつかってとまったビー玉を拾い上げると、そのすぐ傍に500円玉が転がっているのを発見する。誰かが何かの拍子に落として、どうせ500円だからどうでもいいかと放置されていたらしい。

 

 儲けものである。俺はビー玉と一緒にその500円硬貨も拾い上げる。

 

 

「宝クジいかがですか~、キャリーオーバー中ですよ~!!」

 

 

 すると500円硬貨を拾い上げた瞬間にそんな声が耳に届く。そちらに視線を向けてみると、商店街の一角に宝クジを販売する売店があるのを発見した。

 

 そう言えば何年か前にも気まぐれに購入した宝クジが見事に一等に当籤したんだったか。

 

 そんなことを思い出して、丁度手元にある五百円玉に視線をやる。

 

 これも何かの縁か、せっかくなのでその500円硬貨で一口購入することにした。

 

 またあの時のような幸運が簡単に掴めるとは思えないが、こういうのは気分が乗った時に気まぐれで買う方が良いんだろう。

 

「すいません、宝クジ一口お願いします」

 

「はいどうぞ」

 

 宝クジの売店で500円硬貨を差し出して一口だけ購入する。まぁおそらくこれが大金に変わることはないんだろう。夢を買うとはよく言ったものである。

 

 実際に当たるかどうかよりも、もし当たったらどうするかを考えている時間の方が楽しいらしいからな。この宝クジを眺めながら色々と妄想するとしよう。

 

 いや、待てよ、確か俺が入学する学校は外部との接触がとても困難な場所であるらしい。もしこの宝クジが当たっていたとしても、それを換金する術がないんじゃなかろうか?

 

 そう考えるとこれはかなり無駄な行いなのかもしれない。いや、500円程度でどうのこうの言うつもりは無いけどさ。

 

 手に持った宝クジをどうすべきか迷っていると、またもや師匠に鍛えられた耳に誰かの悩まし気な声が届く。

 

 商店街に隣接する公園、子供たちが遊具で遊んでいるその近くにあるベンチでは、スーツ姿の男性が頭を抱えて座っていた。

 

 最初は子供の面倒でも見ているのだろうかと思っていたが、お葬式を数回ほど連続で経験したかのような雰囲気は見守る者の顔ではなく、頭を抱えて大きな溜息を吐く辺り、悩みは深刻らしい。

 

 このまま首でも吊りそうだな、そんなことを思ってしまったので、俺は公園に立ち寄ってそのスーツ姿の男性が頭を抱えているベンチまで近づいていく。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

 声をかけるとスーツの男性は顔を上げる。ここ二、三日ほどまともに眠れていないのか、目元に隈ができておりゲッソリとした顔をしていた。

 

「とても深刻な様子でしたよ。しかも顔色も悪い」

 

 男性が座っている公園のベンチに俺も腰かける。突然に話しかけられて困惑したようすの男性は、乾いた笑いを口から漏らす。

 

「ハハハ、そんなに深刻な顔をしていたかな……いや、まぁ、自覚はあるんだけれどね」

 

「その、言いたくはないのですが、今日にでも首を吊りそうな雰囲気だったので、お節介かとは思いましたが」

 

「そうか、すまないね。気遣わせてしまったようだ」

 

「えっと、何か悩み事が?」

 

 見ず知らずの他人に悩みなど語れないだろうけれど、このまま放置してしまうと、この人は本当に首を吊りそうなので話を聞くしかない。

 

「……あぁ、うん、悩み事と言えばそうなんだ」

 

「俺で良ければ愚痴を聞きますよ。見ず知らずの他人に話すようなことでも無いかもしれませんが、だからこそとも言えます……少しでも心が穏やかになれるかもしれませんよ」

 

「……」

 

 スーツ姿の男性は、悩みながらもポツポツと話し始める。もしかしたら誰かに話を聞いて貰いたかったのかもしれないな。

 

「実は……共に会社を立ち上げた友人に、会社の金を持って逃げられてしまった」

 

「お、おう……」

 

 深刻な話だろうとは思っていたけど、予想よりもずっと重たい話だった。そりゃ頭を抱えるだろう。

 

「笑えるだろう? 学生時代からの友人だったというのに、きっと今頃は愛人と一緒にハワイだ」

 

「なるほど……深刻過ぎてなんとも言えませんが、頭を抱える事態だということはわかりました。これからどうなされるつもりですか?」

 

「どうもこうもないさ……だから頭を抱えているんだ」

 

 そりゃそうだ。そしてこればかりは俺にはどうしようもない。一瞬、口座の中にある額が頭をチラついたが、それをこの人に渡せば解決するだろうか?

 

「ふッ、だがまぁ、やらなければならないんだろうな……すまないね、こんな愚痴を聞かせてしまって」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

「お先真っ暗だが、社員も家族も食わせていかねばならんのだ……頑張るとしよう」

 

 少なくとも首を括るつもりは無くなったらしい。前を向いて進んでいけるというのなら、俺が言うべきことはなにもない。

 

「あ、そうだ。何の慰めにもなりませんけど、この宝クジをどうぞ」

 

「うん? これはどうしたんだい?」

 

「さっきそこの売店で気まぐれに購入しました。いらなければ捨ててくださって結構ですので」

 

「……まぁ、最後くらい、運頼み神頼みも悪くはないか。煙草代くらいになれば御の字だろうしね」

 

 スーツの男性は差し出された宝クジを受け取って、何とも言えない顔になる。

 

「ありがとう。愚痴って少しだけ気が楽になったよ」

 

「多少なりとも力になれたのなら良かったです」

 

「そうだ、お礼にこれをあげよう。以前に海外に行った時に購入した土産物でね。何でも幸運を呼びよせるメダルらしい」

 

 そう言って男性は財布を取り出すと、中から女神の刻印が施されたメダルを取り出してこちらに渡してくる。実際に通貨として使える物ではなく、記念品と言うか土産物と言うか、そんな感じのメダルである。

 

「私には何の幸運も齎されなかったが、不思議と手放せなくてね。だけど宝クジのお礼に渡しておこう」

 

「わかりました。では遠慮なく」

 

 幸福を呼び寄せるというメダルを手渡すと、男性は宝クジ片手に肩を落としてトボトボと帰っていく。

 

 どうか幸がありますようにと願いながら、俺は受け取ったメダルを胸ポケットに入れた。

 

 

 

 

 

 

 『少年が高校生になるまで、後20時間』

 

 

 

 

 

 

 首を吊りそうだった男性に気まぐれで購入した宝クジをせめてもの慰めとして渡して、どこかの国で購入したという土産物のメダルを受け取った後、俺は指定されたホテルにまで徒歩で辿り着いていた。

 

 予約されていた部屋に入ると、そこには段ボール箱が一つ。中を確認してみると真新しい制服が入っていたので引っ張り出す。

 

「これが制服か……凄いな、テレビの向こうにいた人たちが着てたヤツだ。あ、でも学ランじゃないんだな」

 

 黒い学ラン姿もよく映えると思っていたが、ブレザータイプの制服も悪くはない。寧ろカッコいいとさえ思えた。学ランは学ランで良いものなんだけどね。

 

 制服を取り出して眺めていると、どうした訳か頬が緩む。明日の朝にはこれを着て高校生になっていることを想像すると、なんだか楽しい気分になっていたからだろう。

 

 友達はできるだろうか、青春的な活動があるだろうか、噂では運動会や文化祭なる催しもあるらしいので、今から楽しみである。

 

 ツンツンした女の子と何だかんだで仲良くなったり、なんだか謎の多い男の子と友情を育んだり、テストで悩んだり、運動で競い合ったり、俺の頭の中にはわかりやすいくらいに高校生らしい光景が妄想されていた。

 

「高校生か……楽しみだな」

 

 ホテルのベッドに体を沈めて、真新しい制服を掲げながら妄想に耽る。

 

 そう、俺は明日から、高校生になるのだ。

 

 さぞ楽しい時間になるだろうなと、特に根拠もないのにそう考えていると、ズボンのポケットに入れていたスマホが震えだす。

 

 俺に連絡してくるのは基本的に師匠なので、もしかしたらまた話せるかとも思って機嫌よくスマホを耳に当てると、向こうから届いたのは美しい声色ではなく、野太い男性の声であった。

 

 

 

『七号、仕事を依頼したい』

 

 

 

 

 どうやらまだ、俺が高校生になるのは少し早いらしい。

 

 

 

 

 『少年が高校生になるまで、後18時間』

 

 

 

 

 

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