ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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九号

 

 

 

 

 

 

 

 クラスでの会議も終わり、大まかな方針と考えを共有できた段階で、クラスメイトはそれぞれ動くことになる。部活に入っている者は後輩に声をかけるだろうし、コミュ力に自信のある者は積極的に声をかけにいくだろう。

 

 そしてクラスの方針を預かることになっている俺や鈴音さんたちは、個人契約に奔走するよりもまずは学力の低い生徒の救済に奔走することになった。

 

 池や山内、そして須藤、最優先なのはこの三人だろうか。三人とも学力はDからD+という評価を学校から受けているが、安全圏とは言い切れない。

 

 去年の一年間頑張ったからなのか、E判定で無かったのは救いなのだろう。

 

 会議が終わってから教室を出て、清隆と鈴音さんと廊下でそんな考えを共有することになった。

 

「一年生の中で、学力B以上の生徒を優等生として人数を調べてみたの。Aクラスに17人、Bクラスに13人、Cクラスに13人、Dクラスに11人だったわ」

 

 やはりAクラスには実力者が多いらしい。俺たちの世代と評価や判断基準が同じなのかどうかはわからないけど、単純な学力だけならばやはりAクラスなのだろう。

 

「そして私たちのクラスで学力がDの生徒は全部で12人、一年生には十分に戦力が揃っている状態よ。もしクラス間での協力関係が結べなかったとしても、最悪この12人には優等生とパートナーを結ばせたいと考えているの」

 

 スマホでピックアップした一年生たちを見せて来る。とても仕事が早くて助かってしまう。

 

「買収戦略はしないんだろう?」

 

 清隆の言葉に緩やかに首が横に振られた。

 

「徹底してポイントは出さないという訳ではないわね。さっきも言ったけど出すべきと判断した時は出す。幸いにも資金に余裕があるもの」

 

「まぁ、Aクラスとの契約もあるからな」

 

 清隆はその契約が破綻していることを知っているのだが、それを表に出すことはないらしい。混乱させるだけだからな。

 

「理想はクラス同盟、けれど簡単なことではないとわかっている。個人契約を進めていくにしても、まずは優先リストを作ってみたわ……最優先はやはり須藤くんでしょうね」

 

「須藤はかなり伸びて来ていると思うけど、OAAでも学力はD判定だったし」

 

 去年は積極的に勉強していたのでE判定では無かった。それは池や山内も同様である。そもそも俺たちのクラスにE判定を貰っている生徒は一人もいなかったりする。

 

 やはりもうすぐでAクラスという立ち位置は、大きな影響を与えたということだろう。

 

 そんな俺の須藤への評価に、彼女は難しそうに考え込む。

 

「もし貴方が一年生だとして、須藤くんと池くん、どちらがパートナーを組みやすいかしら?」

 

「そりゃまぁ」

 

「池だろうな」

 

 こちらの言葉を清隆が繋げる。表面上の学力が同じであるのならば、やはり柔和な印象を与える池の方が接し易いだろう。

 

「私から見て須藤くんはD+からC-あたりまで来ている感覚よ」

 

「へぇ、そりゃ凄い。春休みの間に付きっ切りで面倒見てあげたのかい?」

 

 素直に感心していると、何故か鈴音さんはギクシャクと動揺した様子を見せる。

 

「そ、そんな訳ないでしょう。ただ一人で勉強する癖とコツを教えただけよ……だから、別に毎日教えていた訳ではないの、わかったかしら? 変な誤解はしないで」

 

「別に誤解している訳じゃないよ」

 

「……そう、なら良いのだけど」

 

 コホンと、ワザとらしく咳をして、彼女は次に清隆に視線をやった。

 

「綾小路くん、貴方はパートナー選びが必要かしら?」

 

「いや、不要だ。おそらくそこまで困らないだろうからな」

 

「一応、貴方はB評価を得ているから、須藤くんたちほど優先順位は高くしなくても大丈夫そうね」

 

「あぁ」

 

「……何か意見はあるのかしら」

 

「堀北の方針で問題はないと思っている。少ない報酬を求めて安易にマネーゲームに参加しないのはその通りだ。クラス同盟も視野に入れつつ個人契約も進めていく、何もケチが付けられない」

 

「天武くんはどうなの」

 

「清隆と同意見だ。きっと俺がクラスの指揮を取っても似たような感じになったと思う……前から思ってたことだけど、やっぱり俺はどんどん前に出て暴れる方が合ってると思うんだ」

 

「だから、これからは私に任せるということ?」

 

「あぁ、上手く動かしてくれよ。鈴音さんを信頼しているからこそ任せられるんだ」

 

 すると彼女は少しだけ照れた顔を見せる。可愛い。

 

「わかったわ。そこまで言われたら、期待に応えましょう」

 

 そして満更でも無い感じで僅かに微笑む。本当に頼りになるリーダーになったと思う。

 

「早速動きたいのだけど、意見をくれるかしら」

 

「一年生に接触するんだね……協力したくはあるんだけど、ちょっと一人で動いていいかな?」

 

「それは何故かしら?」

 

「声をかけたい一年生がいるんだ。後輩というか、知り合いというか、微妙な立ち位置の子なんだけど……清隆、悪いんだけど鈴音さんのサポートをお願いできるかな?」

 

「オレに出来ることは何もないぞ」

 

「パートナー探しにもし困ったら、その子を紹介するからさ」

 

 それでこちらの意図は伝わるだろう。慎重に立ち回りたい彼にとって安全圏となる一年生は絶対に欲しいだろうからな。

 

「わかった、引き受けよう」

 

 そんな会話をしていると、俺たちのスマホが震えてOAAの全体チャットでとある催しが告知されることになる。

 

 

『本日午後4時から5時まで、体育館で一年生と二年生の交流会を行う許可を貰いました。時間に余裕のある生徒は是非集まってください』

 

 

 内容はそんな感じである。一之瀬さんは全体チャットで一年生との交流を告知したらしい。

 

「帆波さんも動き出したみたいだ」

 

「自分たちだけじゃなく、全体のことを考えて行動している。彼女らしいわね……え、帆波さん? 何故名前で呼んでいるのかしら?」

 

「そりゃ友人だから」

 

「そう……いえ、そうね」

 

 こういう分野は彼女の専売特許なのかもしれない。実際に接すれば一年生たちも心奪われるだろう。

 

「様子を見に行くのかい?」

 

「……そうね、気になることもあるもの、様子見くらいはしようかしら……行くわよ、綾小路くん」

 

「あぁ」

 

 他クラスの行動が始まったことで鈴音さんも動くことになる。背中を向けて歩き出す彼女に教室から出て来た須藤が何やらアピールしているが、そんなやりとりを他所に俺と清隆はこんな会話をしていた。

 

「お前の後輩ということだが……どういう相手なんだ?」

 

「正直、俺もよくわからない」

 

「うん? 後輩なんだろう?」

 

「俺にわかるのはホワイトルーム関連の息がかかってないってことだけだ、場合によっては敵になる可能性も絶対にないとは言い切れない。それを確認する為に接触するんだ。問題なさそうなら君に紹介するよ。最終判断はそっちでしてくれ」

 

「良いだろう」

 

 清隆も鈴音さんと須藤と合流して一年生や他クラスの偵察に向かう。俺は俺で踵を返してさっそく動き出す。

 

 一年生の動向、ホワイトルーム生の考えや方針、他クラスの作戦、特別試験が始まるといつもこうして頭を悩ませることになるのは、この学校特有だろうな。

 

 清隆と鈴音さん、それに須藤が加わって偵察と勧誘に向かう三人を見送ってから、俺は目的の一年生と接触する為に行動を開始する。

 

 さっきからずっと視線を感じているからな……どうやらあちらも俺と接触したいらしい。

 

 とりあえず人気の少ない場所に行くか。殺し合いになるかもしれないから覚悟だけはしておこう。超人連中はどいつもこいつも頭がおかしいのが基本だから警戒はどうしたって必要である。

 

 マトモなのは俺と師匠だけ、それくらいに思っておく方が良いだろうから。

 

 向かう先は図書室である。特別試験が始まったばかりなので誰も彼もが慌ただしく動いている筈なので、こんな日に図書室を利用しようとする者は稀だろう。

 

 そう思って足を運ぶのだが、こんな日であると言うのに利用者はいた。龍園クラスでは珍しい文学少女、椎名ひよりさんである。

 

「やぁ、今日も読書かい?」

 

「はい、笹凪くんもですか?」

 

 彼女とは偶に図書室を利用した時に話すことがある。いつも通りどこか浮世離れした雰囲気で少しだけ笑う椎名さんは、特別試験が迫っているというのに読書らしい。

 

 まぁ焦る必要はないんだろう。彼女の学力評価はとても高いので引く手数多だ。龍園もそれがわかっているから放置なんだろう。

 

「少しだけ参考書でも漁ろうかなって思ってさ。今度の試験は難易度が高いらしいから」

 

「なるほど、確かに先生もそう仰られていましたね。ですが意外です、笹凪くんはどこか浮世離れしていて、何でも簡単にこなしてしまう印象があったので、しっかり勉強なされていたのですね」

 

「なんだいそれは、俺は別に無から結果を生み出している訳じゃないよ」

 

「えぇ、言われてみればそうですね。超人めいた貴方でもしっかりと努力なされている、当たり前のことでした」

 

 そう言えば椎名さんは清隆とも交流がある。同じ読書好きとして話すことがあるし、偶にだが三人で読書談義をすることもあるな。

 

「参考書ならこちらのエリアに揃っていますよ」

 

「ありがとう、少し調べてみるよ」

 

 この図書室の司書よりも下手すれば本に詳しい椎名さんの勧めで、特に必要としていない参考書のエリアに足を向ける。彼女はこんな日でも読書だったけれど、普通の生徒は特別試験に向けて行動しているので、やはり普段より閑散としていた。

 

 幾つかの本棚が並び、参考書が押し込められた図書室の一角、やはり人気は少ないその場所で参考書を眺めていると、本棚の向こうから声がかかる。

 

「お久しぶりで~す、七号」

 

「あぁ、久しぶりだね」

 

 超人――国家、社会、経済、法、秩序、政治、国民、それらに対して深刻な被害を齎すとされる個人を政府はそう評価して監視する。

 

 報酬を払って味方にすることを基本方針としており、師匠などを筆頭にかなりの年俸を貰って色々な仕事を引き受けることがあった。

 

 別に番号によって強さが変わる訳ではなかったりする。ただし番号が若ければ若い程に被害想定が大きくなるとされているらしい。つまりこの本棚の向こう側にいる九号は、超人の中では九番目に危険視されているということだ。

 

 姿も形も容姿も本棚に隠れていてよくわからない、同時にそれだけの距離だというのに霞のような存在しか感じ取れないので、本当にそこに存在するのか自信が持てなくなってくる相手である。

 

「君、こんな所でなにやってるのさ。ここは学校なんだけど、なんで生徒やってるの」

 

「その言葉をパイセンが言いやがりますか……人間に紛れてもゴリラはゴリラっスよ」

 

 誰がゴリラだ、俺はどこまで言っても人間だよ。そもそも君たちだって大差ないだろうに。君の師匠はウチの師匠と何とか戦いを成立させられるくらいには強いって聞いているぞ。

 

「色々と言いたいことや訊きたいこともあるけど……単刀直入に訊こうか、君と俺は敵対する要素があったりする?」

 

「いえ、ありませんって」

 

「じゃあなんでこの学校に来たんだい?」

 

「内偵でやがりますよ、忍者の仕事なんて基本はそんな感じですから」

 

「内偵?」

 

「ここは政府の影響下にある学園ですから、そこに政府の息がかかっていない人が理事長やってるんですよ。そりゃ調査しますって」

 

 あぁなるほど、月城さんのことか。

 

「ただざっくりと経歴漁ってもツッコミどころがありませんから、力づくで処理するのは難しいって話でやがります」

 

 政府が後ろ盾になっているこの学園で、政府とはなんの関係も無い上に、敵対勢力の息がかかっている人が理事長になっている状況なのだ、そりゃ黙って眺めている訳もないか……もしかしたら坂柳さんのお父さんが色々と政府に働きかけているのかもしれないな。

 

「そんな訳で内偵ですよ。生徒と教員に一人、政府の息がかかった人が入り込んでます」

 

「なるほど、だとしたら俺と君が戦う理由はなさそうだ……それどころか協力できるかもしれない」

 

「……パイセンが暴れると派手になるんでアレなんですけど、まぁその話をしたくてウチも声かけましたんで」

 

 本棚の向こう側で、少しだけ悩むような様子が伝わって来る。

 

「俺と君は協力できる、そうだよね?」

 

「そうッスね。敵対する理由は無いッスよ」

 

「了解、ならそういうことにしておこう。これからは学校の先輩後輩でいこうか」

 

「面倒見てくれるってことですよね? ウチは普通の学校ってよくわからなくてちょっと困ってたんで助かります……憧れてはいたんですけど、やっぱ想像と現実は違うと言いますか」

 

「忍者も学校に憧れるものなのかい?」

 

「そりゃまあ、こんなハイカラな服着て、まるで女子高生みたいじゃないッスか……ふへへ、可愛い、ウチの師匠に見せてやりたいです」

 

 九号は本棚の向こうで何やらニヤついている。そんな姿を想像していると、彼女も年頃の乙女なのだとよくわかる。

 

「とりあえずパイセン、色々と援助してくださいよ」

 

「良いだろう。代わりに一年生の情報を流して欲しいな」

 

「モチのロン」

 

「言っておいてなんだけど、君はクラス闘争とか興味ないのかな?」

 

「欠片もね~でやがります。まあ高校生活って奴ができれば良い位な感じなので、本命は内偵ッスから」

 

「……因みに、どういう相手に忠誠を誓う?」

 

 そんな質問をすると、本棚の向こうで顔も見えない九号はニヤリと笑ったような気がした。

 

「忍者はいつだってお金持ちと強い人の味方でやがります……毎月十万ポイントとかくれたらウチは喜んで従います」

 

 なるほど、流石は忍者だ、わかりやすくていい。

 

「それで行こうか」

 

「要求しておいてアレなんですけど、構わないんですか?」

 

「いいよ、安いものだ」

 

「おぉ~、やっぱり仕えるのなら太っ腹な人ですね」

 

「他に必要な物は?」

 

「あ~……3Dプリンターとか欲しいッス」

 

「そんなもの何に使うんだ?」

 

 俺の部屋にある美術品製作用の3Dプリンターを思い出しながらそう言うと、本棚の向こうにいる九号はさも当然とばかりにこう返してくる。

 

「何にって……武装の現地調達は忍者の基本ッスよ。この学校、持ち込める物が少なくて困ってるんですから、色々作らないと」

 

「……なるほど」

 

「でもアレって高いんですよね~、盗聴器とかは持ち込めたんですけど、それ以外を作ろうと思うとポイントが幾らあっても足らなくって。太っ腹なご主人がいてマジ助かるでやがります」

 

「盗聴器は何に使うつもりかな?」

 

「内偵するんですから、理事長室に仕込むんッスよ。小型カメラとか、パソコンにも色々と枝を仕込まないと。椅子に小型の爆薬とかも有事に備えて設置するつもりなんです。許可を貰えれば事故死にする為に」

 

 止めなさい、月城さんを殺すつもりか……可哀想に、あの人はこれから忍者に付け狙われることになるのか。そもそも爆破しておいて事故死とはどういうことだ。

 

「まあ君の仕事は一旦横に置いておいて、この学校の学生らしく特別試験に目を向けようか」

 

「特別試験?」

 

 この子は本当にその辺に興味が無いんだな。

 

「あぁ、それってあれッスよね。なんか上級生とパートナー組んでテスト受ける奴」

 

「そうそれ、とりあえず枠を空けといて欲しい」

 

「構いませんよ。パイセンが組んでくれるんッスか?」

 

「もしかしたら俺の友人と組ませることになるかもしれないから、そのつもりでいて欲しい……あ、君ってテストで何点くらい取れるかな」

 

「入学前に受けたテストは70点くらいで抑えましたけど」

 

「……満点は取れそう?」

 

「に、忍者に不可能はありませんよ……でも目立つと内偵に障りがありそうなので嫌ッス」

 

「なら平均70点前後で調整してくれ」

 

「まあご主人の方針なら従いますよ」

 

「小遣いは用意しよう」

 

「頑張ります……まぁ上手く使ってくださいよ。忍者はいつだって強い人を陰から支えるんですから。後、お金持ちの人もね」

 

 現金な忍者である。流石忍者汚い。この子の師匠もそんな感じだったなと思い出す。でもわかりやすくて良いのでありがたくもある。

 

 最悪、清隆が別の相手と組むことになっても俺が組めばいい。ホワイトルームの関係者でないどころか敵対勢力なだけで安心感が凄まじいからな。

 

「それじゃ七号、これからお世話になるッス」

 

「うん、よろしくね」

 

 本棚の向こうにあった九号の気配が遠のいていく。しかしその直前で彼女はこんなことを言った。

 

「因みに、ウチはこの学園では――と名乗ってますんで、覚え……る必要はありませんね。きっとすぐに忘れるでしょうから」

 

「忘れないよ、君の前の名前もその前の名前も、俺は覚えている」

 

「パイセンのそういう所、嫌いじゃね~です」

 

 OAAでその名前を検索して調べてみると、どうやら1年Aクラスの所属であるらしい。

 

 全ての項目がB辺りで調整されており、それを見た俺は完全に詐欺だと思うのだった。

 

 

 

 

 その日の深夜、この学園が存在する埋め立てされた人工島は一時的に停電する事態に陥る。十分ほどで人工島内にある緊急用の自家発電に切り替わったのですぐに復旧したのだが、それを知った俺は九号の仕業だろうなと何となく想像する。

 

 外部からの送電が遮断され、自家発電に切り替わるまでにおよそ十分ほど、監視カメラも停止しているので理事長室に色々な仕込みを差し込むには余裕だろうなと、そんなことを思うのだった。

 

 理事長室にある月城さんの椅子が突然爆発して吹き飛ぶのかもしれない。いや、そうなったら内偵がどうのこうのという話ではないので、きっとあれは九号の冗談なんだろうけど、盗聴器やカメラくらいは仕込んでいるかもしれないな。

 

 また月城さんが苦労するのか……少しだけ可哀想に思えてしまった。

 

 

 

 

 

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