ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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一年生の思惑

 

 

 

 

 

 

 

 

 天沢さんの対策は料理達者な清隆に丸投げするとして俺は俺でクラス同盟の話に参加しなければならない。そんな訳でケヤキモールにあるカフェまで向かうことになった。

 

 八神の考え、七瀬さんの思惑、宝泉の狙い、総じて一年生の狙いは九号からのタレコミでおおよそは把握することができている。

 

 つまりこの時点で正攻法で清隆を追い込むことが不可能になったということだ。彼と九号は既にパートナー契約を結んでいるので、それはOAAでも簡単に確認することができるのだから。この賞金首を追い立てる裏試験とでも言うべきものは既に破綻していた。

 

 パートナー契約を結んで清隆を追い詰めることは出来なくなった。だとしたら一年生の取るべき行動は何か? 決まっている、犯罪行為のでっち上げしかない。

 

 犯罪を演出して押し付ける、つまりは冤罪だ。

 

 そこにしか活路が無いのだから当然突き進む、そして道が一つしかないのだから当然こちらもその動きを阻む。

 

 一番わかりやすい動きを見せるであろう宝泉は病院送りにしたので一先ずは横に置いておいて、これから会う二人の動きも要注意だろう。

 

 ケヤキモールに向かってそこにあるカフェで話し合いとなるのだが、その途中で二人組の一年生が俺の視界に入って来た。

 

 OAAの導入で全学年の生徒の情報がまるわかりになったので、当然ながら全ての情報を把握している。この二人は1年Cクラスの椿桜子と宇都宮陸、特に後者の方は高い身体能力を持っているのは観察すればよくわかる。

 

 この二人はどうだろうな、それらしい匂いはしないけど、ホワイトルーム側の人間であると断言はできない。何せ既に敵はホワイトルームだけでもないのだから。

 

「あの、ちょっと良いですかー?」

 

「うん、何かな?」

 

 二人組の片方、椿桜子さんから声をかけられる、彼女はこちらを観測する瞳を向けていた。

 

 この瞳と視線、どこか師匠を連想させるな。こちらの何もかもを観測して眺めようとする瞳と、こちらの瞳が真っすぐに向き合い視線が混じり合う。

 

 彼女の瞳に映った俺と、俺の瞳に映った彼女、どこか鏡合わせのようにどこまでも終わりが見えず、それこそ視線がどこまでも吸い込まれそうになる気もした。

 

 それはきっと彼女も同じことを思ったのだろう。暫く見つめ合って互いを観察した俺たちは、不意に椿さんから視線を逸らされる。

 

「2年Bクラス、笹凪先輩ですよね?」

 

 椿さんの反応を少し不審に思いながらも隣にいた宇都宮が話を進めていく。

 

「そうだよ。君たちは1年Cクラスの宇都宮と、椿さんだね」

 

「俺たちのことを知っているんですね」

 

「有望な一年生の話は二年生の間ではすぐに話題になるからね。しかもこんな試験の最中だから尚更だ」

 

「それもそうでしたね」

 

「それでどうしたのかな? 何か用があるんだろうけど、実はこの後別の一年生とも会う予定があってね、あまり時間がないんだ」

 

「……別の一年生、それはクラス同盟の件でしょうか?」

 

「あぁ、それは知っているんだ」

 

「噂程度ですけど、BクラスとDクラスはそういう方向で動いていると聞いてます」

 

「確か君たちのクラスの多くは一之瀬さんたちのクラスと契約しているんだったか」

 

 別に彼等だけの話ではなく、学力に自信がない生徒の多くが一之瀬さんの誘いに食いついた筈だ。滅茶苦茶な学校に入って右も左もわからない状況で特別試験に放り込まれたのだから、救われた気分になっただろう。

 

「OAAを確認する限り、宇都宮はもう契約を結んでいるんだな……もしかして椿さんのパートナー探しの途中かな」

 

「はい、その通りです。こちらもOAAで確認したのですが、笹凪先輩の学力評価なら何も心配はいりません……その、どうでしょうか?」

 

「うん、できることなら協力したいんだけど、俺は俺でクラスの方針や考えを無視することも出来ないからな……ただ、そうだな、こうして声をかけてくれたんだから二年を何名か紹介するくらいは協力しよう」

 

 俺がそういうと、宇都宮の表情が僅かに揺らぐ、その言葉を待ってましたとばかりに。

 

 そして、僅かに喉を鳴らしてこう言ってくる……彼はもう少し緊張を隠すことを覚えた方が良いかもしれないな。

 

「例えば、誰でしょうか? できることなら学力評価がB以上の人が良いんですけど」

 

「そうだな。俺が紹介できる人は何人かいるけど、たとえば櫛田さん、平田、王さん……後は清隆、とか」

 

 クラスメイトの名前を出しながら二人の様子を一つ一つ観察していくと、最後に出した清隆の名前に強い反応を見せて来る。

 

 わかりやすい反応ではなく、どちらも上手く隠したのは間違いないが、それでも間違いなく意識を清隆の名前に引っ張られたのは疑いようがない。

 

「いや、清隆は確かもうパートナーを組んだって言ってたかな」

 

 そしてまた彼の名前を出すと、やはりわかり辛いながらも意識を向けて来る。

 

 この二人はもしかして俺と清隆が友人関係だと把握しているのだろうか? そして俺経由で清隆と接触しようとしている可能性もあるか。

 

 既にパートナー契約を彼は結んでいるので今更どうしようもない。けれど懸賞金の話がある以上は何らかの形で距離を詰めて隙を見つけたい、そんな感じか。

 

 俺からの紹介ならば清隆にも違和感なく接近できる。そう思われているのかもしれない。

 

 そして隙を見つけて彼を刺す。目の前の二人からはそんな思惑が透けて見えた。

 

「よければそれらの先輩方を紹介して貰えませんか? パートナーを組んでいるかどうかは抜きにして」

 

「でも、パートナーを探しているんだろう?」

 

「えぇ、ですが今後のことを考えれば色々な上級生と交流していくことは損にはならないと考えています」

 

 だから、清隆も纏めて紹介しろということか、どんな形であれ彼と物理的にも精神的にも距離を縮めたいらしい。

 

「ん、わかったよ、それじゃあ――」

 

「宇都宮くん、やっぱ止めよ」

 

「……椿、どういうことだ?」

 

「色々考えたけどさ、やっぱパートナーはもっと慎重に選ぶべきかなって」

 

「だが……その、困るだろ」

 

「うん、でも止めた方が良いと思う、今はまだ……笹凪先輩、ありがとうございました。もしかしたら頼らせて貰うかもしれませんけど、もう少しだけ考えてみます。それじゃあ」

 

 早口で捲し立てるようにそう言うと、椿さんは宇都宮の腕を掴んでやや強引にこの場を去っていく。

 

 何が彼女の判断を翻させたのかはわからないが、椿さんの中ではこの場を立ち去る理由があったのだろう。だがしかし、こちらとしては足早に遠ざかっていく二人を見逃す理由はない。

 

 スッと、九号を見習って自分の気配と存在感を内に秘めて隠すと、遠ざかっていく二人にバレないように後を付けていく。

 

 椿さんと宇都宮が向かったのはケヤキモール内にある広場であった。幾つかのベンチと机が並べられて憩いの場となっているそこで、二人は腰を落ち着けて話し合っている。

 

 こちらは、そんな二人を遠く離れた位置で発見されないように観察するだけであった。言葉は届かない距離だが、唇を読めば何を言っているのかはだいたい把握できた。

 

「椿、急にどうしたんだ?」

 

「止めとこう、上手いこと距離を詰められるかなって思ってたけど、アレは無理」

 

「笹凪先輩のことか? 生意気な一年生の手足を折ったにしては物腰が柔らかに感じたが」

 

「無理、絶対無理……色んな人を見て来たし、観察してきたけど、ぶっちぎりで化け物だからあの人。綾小路先輩からプロテクトポイント剥すにしても退学させるにしても、近しい関係である以上は立ちはだかるだろうしね。正直、分が悪すぎる」

 

「……そんなにヤバいのか?」

 

「うん、何で学生やってるのって感じ……綾小路先輩もパートナーを組んじゃったから、今は様子見するべきだと思う。仮に攻めるにしても、外からじゃなくて内からかな」

 

「綾小路先輩と契約した生徒を協力者にするということか……確か、Aクラスの、えっと、うん?」

 

「……あの子、なんて名前だったかな、女子だったとは思うんだけど」

 

「OAAで確認しておくか」

 

「うん……ごめん、宇都宮くん、別に諦めた訳でもないんだけど、今はまだ様子見かな。仕掛けるにしても場と人とタイミングを見極めるべきだと思うしさ」

 

「別に構わない、そこまで乗り気でもなかったからな」

 

 二人の唇を読んでそんな内容の会話をしていることを離れた位置で確認してから、知りたいことは知ったので俺は離れていく。

 

 あの二人も清隆を排除することで得られる賞金目当てだった、それを理解できたのは収穫と言えるだろう。もしかしたら俺を介さずに清隆に接触するかもしれないが、注意しておけば問題はない。

 

 やはり気を付けるべきは正攻法での攻撃ではなく犯罪のでっちあげ、その方向性だろうな。

 

 パートナーを結んでの排除は九号という安全圏で達成できた。後は犯罪方向の対処を考えなければならない。

 

 その辺は清隆も同意見だろう。今頃天沢さんと合流しているだろうし、セクハラされたとか言われないように注意しているんだろうか。

 

 まあ対処は丸投げなので上手く動くだろう。天沢さんの目的が清隆の排除であるにせよ、今は情報を集める局面だろうからな。

 

 一年の女子生徒に料理を振る舞っているだろう清隆を想像して、少しだけほっこりとした気分になりながら、本題である一年生との協力関係を結ぶ為の話し合いに向かうことになる。

 

 ホワイトルームや月城さんの思惑を挫くことも大切だけれど、特別試験を進めていくことも同じくらいに大切だからな。

 

 椿さんと宇都宮の観察を止めて本来の目的である話し合いに向かうことになる。ケヤキモール内にあるカフェの一角で鈴音さんと一年生と合流することになった。

 

「あ、笹凪先輩」

 

「天武くん、遅いわよ」

 

「ごめんごめん、ちょっと一年生に話しかけられててさ」

 

「他の一年生ですか、やはりパートナーになって欲しいと思う人は多いようですね」

 

 どこか納得した様子で頷く七瀬さんと八神の正面の席に座る。隣には鈴音さんがいた。

 

「この二人とある程度話してはいたのだけれど、もう一度説明するわね。今回の試験では一年生との協力は不可欠だから、クラス同盟に関しては前向きに進めたいの」

 

「うん、一年生はどんな条件を出して来たのかな?」

 

 清隆とパートナーを組むのはもう不可能だ。けれどクラス単位で距離を詰めて協力関係を維持すれば、これからも似たような試験で協力することもあるかもしれない。その時に清隆と接近することだってあるだろう。

 

 そう考えると今回で諦めるのではなく、次に繋げる関係を目指しているのかもしれない。

 

「それに関しては私から……やはり相互の協力関係を結ぶのですから、対等な契約でありたいと思っています」

 

 七瀬さんは相変わらず、強く美しい瞳で俺を見つめて来る。

 

「こちらとそちらで学力不安のある生徒と学力が高い生徒を出し合って契約を結ぶ形にしたいのですが、懸念事項もあります」

 

「それは、もしかして宝泉のことかな」

 

「はい、彼は契約を結ぶ際に上級生からポイントを多く得ることを方針としていましたので……」

 

「けれど彼は入院してしまったよね、ここに来る前に司馬先生に訊ねたけど、授業はオンラインで受けることになったらしいじゃないか」

 

 特に俺を蹴り飛ばした膝が重症らしい。しっかり固定して暫くはまともに動かせないだろう。

 

「なら今はとりあえず無視して良いんじゃないかな。彼が退院するまでに君がクラスを纏めてしまえばそれで話がスムーズになる、違うかな」

 

「それは、そうですが……」

 

「八神の方も似たような条件なのかな?」

 

 七瀬さんの考えや方針はわかったので次は八神だ、こちらは完全に黒と認識しているので警戒を強めなくてはならないだろう。

 

「僕の方も同じように対等に、と考えてはいるのですが、やはりクラスメイトへの配慮も必要なので、ある程度の報酬を頂きたいと考えています」

 

 少し意外な考え方でもあった。問答無用で安売りして清隆との距離を縮めるつもりだと思っていたのだが、何かしらの考えがあってのことだろうか?

 

「彼の場合、学力の高い人も低い人も、一律で報酬を貰いたいそうよ」

 

「へぇ」

 

 鈴音さんの説明にそんな相槌を打つ。わかりやすくもあるし、受け入れやすくもある契約だ。

 

「堀北先輩が説明された通り、一律です」

 

「丁度今、そこを話し合っていたの。八神くんが提示した報酬は一律で五万ポイント。もし四十人全員と契約するのなら200万ポイントになるわね」

 

 そう聞くと高いのかもしれないが、例えば学力評価がAの生徒であっても5万で契約できると考えれば安くも感じられるな。

 

「八神くん、貴方はクラスメイトへの配慮と言っていたけれど、どちらかといえば学力評価の低い生徒への配慮なのでしょう?」

 

「そういった側面は間違いなくあります。評価の高い生徒は何もしなくても大金を得られるでしょうけど、低い生徒はそうも行きませんので」

 

「なるほど、貴方の考えはわかったわ……でも、迷うわね」

 

 それはよくわかる。総合力の高いBクラスと優先して契約するのか、それともタダ同然でDクラスと契約するのか、本当に悩みどころだ。

 

 前者は200万の出費で高い総合力が、後者はタダだけど宝泉というリスクもある。

 

「天武くんはどう思うかしら?」

 

「どちらか片方に絞る必要はないんじゃないかな。七瀬さんも八神もそれぞれの方針や考えがあるみたいだけど、行き着くところは学力不安の生徒の救済みたいだしさ。そこさえ押さえておけば後は複雑に考える必要はないと思うよ」

 

「えぇ、私たち二年生もそれは変わらない。学力評価の高い生徒を融通して互いをカバーできれば大きな問題はないわね」

 

「それこそBからA評価の生徒なんて何もしなくても問題はないんだからさ」

 

 一年も二年も、結局はクラスメイトの救済に奔走しているのが本質だ。そう考えると契約だったりポイントだったりはそこまで深く考えなくて良いのかもしれない。

 

 尤も、ホワイトルーム関連の問題を抜きにすればという前提はあるのだが。

 

 八神も、そして七瀬さんも、その内心では清隆の存在がチラついている筈なのだ。行動や方針はクラスの為という建前があるのだが、奥底には4000万とホワイトルームの都合があるのは間違いない。

 

 まぁ清隆は既に安全圏だ。今はとりあえず月城さんの作戦は無視して、学力評価の低い生徒たちの救済に回るとしよう。

 

 とりあえず八神と七瀬さんのクラスから何名か評価の高い生徒を融通してもらい。こちらからも同じように融通する。もしかしたら単独での完全契約を結びたかったのかもしれないが、こちらは色々な意味で選べる立場なので余裕があるのだ。

 

 何より、一年生よりも二年生の方がペナルティが大きい、少しくらい強気に出るくらいで良いだろう。

 

「鈴音さん、ポイントには余裕があるんだから、一律での報酬は前向きに検討しても良いんじゃないかな。今後も学年を跨いだ試験があるかもしれないんだ、ケチな先輩だと思われるのはそれはそれで問題あると思うしさ」

 

「無駄遣いは論外だけれど……一理はあるわね」

 

 その辺のことは鈴音さんと細かく相談するとして、とりあえずクラス契約や同盟はそんな着地点で良い筈だ。

 

 大きな問題は、やはりホワイトルーム関連か、本当に手を煩わしてくれる人たちだ。

 

 ふとした時に「そうだ、月城さんを海に沈めよう」とぼんやりと考えてしまうくらいには面倒になってきてしまっている辺り、俺はそれなりに疲れているのかもしれない。

 

 ただ、普通に青春を楽しみたいだけなんだけどな。

 

 将来的に、机を挟んで向かいの席に座っている八神も海に投げ捨てる日が来るのだろうか? 月城さんと一緒に手錠を付けて放り捨てる感じになるかもしれない。

 

 

 

 天沢さんはどうしようか、女の子だから流石に海に捨てるのはアレだから……悩みどころである。

 

 

 

 

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